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第百十九話、説明なしに現れた新スタイルの言及は果たしてあるのか




……ふむ。正面に大きなガラス窓。

ベランダもあるようですが、夜だと在中であるのはすぐに分かるようですね。


入って右側には、ベッド。

左側には洗面所。

その他クローゼットに鏡台つき勉強机。

真ん中には、丸テーブル。

キッチンや、お風呂はないようですが、別の場所に用意されているとのことで。



念のため、クローゼットを開けたり、死角となりそうな場所を確認してみましたが。

布団やバスタオルなどのアメニティがあるばかりで、特に危険は感じられません。

家具の配置は、隣の部屋も同じなのか、二人の声はくぐもっていて。

部屋と玄関の境にある扉を閉めてしまえば、完全なる密室……じゃなかった、お互いのプライベートはしっかり守られているようで。



いきなり真夜中に人が変わったりして、寝込みを襲われる、なんてこともなさそうに思えます。

敢えて言うのならば、窓の外からの侵入者ですが、これは一応わたくしの力を使って対策をしておきましょうか。


わたくしの能力は、一言で言い表すのならば自身の細分化です。

私はこの世界、特にご主人さまの、のっちゃんのお側であるのならばいくつでも存在できます。

まぁ、あまり遠くへは離れられないので、探索、偵察などはルプレに一任してはいますが。

……なんて思っていますと。



「うわぁっ、どうした主さまぁ!」

「え? 主さまなのです? 『そ~だ』さんが? のっちゃんさん、『そ~だ』さんだったのですか? すごいですっ!」



何だか想定外な、早くも仲良くなってしまっている気がしなくもない、ルプレとすぅさんの黄色い声。

どうやらのっちゃんが意を決してやってきたようですが、どこか様子が異なっているようで。

こんなところで物語を進行している場合ではないと、いつものように念動力的なものを使って、翼もなしに飛び上がって玄関の方へ戻っていきますと。




「そ~ださん? って、どっかで聞いたな。……あ、そだ。思い出した。マナが言ってたマナが好きなアニメに出てくるキャラだろ?」

「はいです。『従霊道士ダイス』に出てくる、プリティーライバル、『しゅなろん』ちゃんの心優しき相棒、『そ~だ』さんですよねっ」



後でお伺いしたところによると。

よっし~さんやすぅさんだけでなく、マナさんやヒロさんの世界でも大人気な、ファミリアなどと呼ばれる、わたくしたちのような使い魔を従えて戦ったり仲間を探し集めたりみんなで踊ってライブをしたりするアニメらしく。


当然のっちゃんもそれは知っていて。

すぅさんが口にしたように、ライバルポジションでありながら、自分からはけっして攻撃しない、完全なるカウンタータイプのタンクキャラで。

躑躅色の、つるりと光る、ずんぐりむっくりな体躯と、常に微笑みをたたえつつ、肯定の言葉しか口にしないその様は。

正しく、のっちゃんが何あろうともすぅさんを傷つけないと宣言、証明しているかのようで。

それこそが、のっちゃんが選んだ最適解なのかもしれなくて。



「そう……いや、ソーダさんではない。かのものの色違い、ソーカさんだ」

「あっ、そうですよねっ。そーださんは青色でした。色違いのそーかさんは、こんなに綺麗な色なのですねぇ」



一見すると、背中に小さな羽のついたたらこキューピーのようで。

可愛らしい着ぐるみなのに、何故かのっちゃんは声色低く渋くそう答えていて。

マナさんのような、音に敏感な方であるのならば、のっちゃんの声を違うことなどないだろうお人を除けば、まぁ、のっちゃんだとすぐには分からなそうな変わりっぷりです。



いろいろツッコミどころ満載で、その着ぐるみめいた『がわ』を、どこから持ってきたのか、聞きたそうにうずうずしているわたくしだけでなくルプレがいましたが。

まずは、すぅさんとの改めてのご挨拶なのでしょう。

改めて、着ぐるみを着たのっちゃんのが、マスターであることを示すように。

いつものふところマスコットポジション……肩はつるりとしていて座れそうになかったので。

ルプレと顔を見合わせ合って、左右の肩の付近でそれぞれ陣取ると、それを待っていたかのようにのっちゃんが再び口を開きました。




「もう二人が紹介してくれているとは思うが、ご覧の通り二人と、あともう一人いるが、皆の力で何とかここまで来ることができた。ソーカさんでものっちゃんでも、好きに呼んでもらって構わない。……後、ここへ入ってきたのだから、ある程度事情は理解してもらえるとは思うが、中の人のことはあまり詮索しないでもらえると助かるな。こちらも君……すぅさんのことを聞くつもりはないからな。……まぁ、何か話したいことがあるのならば、もちろん聴く分には大歓迎だがな」

「……はい、ですっ。あらためまして、ルームメイトになるすぅこと、スゥラ・オージーンですっ。このがっこでの、一番を目指してますですっ。なかよくしてもらえると、うれしいですっ」



のっちゃんにとってみれば、繰り返し繰り返した上での、普段はあまり見られない、長い長い言葉。

すぅさんにとってみれば、まるで事情を知った上での慮るものであったのかもしれません。

初めは一瞬、言葉につまりつつも、のっちゃんのそんな言葉を噛み締めるようにして、ほころんだ笑顔を浮かべながら、その小さなむくむくの手のひらを差し出してきます。


反射的にのっちゃんは着ぐるみの手を差し出そうとして、菱形のもこもこになっていることに気づき、

そこだけ解除するかのようににゅっと出てくる、男性にしては少しばかり細めなのっちゃんの手。

ルプレとわたくしは、それに倣うように手を伸ばして……みんなで握手をすることに。




「えへへ。今までひとりでしたけど、ルームメイトがそーかさんののっちゃんさんでよかったです」

「そうか。……まだ何もしてはいないが、すぅさんの期待に添えるよう、努力しよう」

「決めぜりふキター! ……ってか、がっこの生徒さんはみんなそうなのか? ちゃんの後のさんっていらなくね?」 

「うーん。ですが、ちゃん、までが名前のようなものですし。ここでは通り名で呼び合うのが普通のようですし、言うほど違和感は覚えませんが」

「ま、そういわれりゃそうか。違和感はない、な」

「あ、そのあの、『さん』はみなさんにつけていますです。このままでもいいですか?」

「あぁ、もちろんだ」

「主さま、そこは決め台詞を使うところでは?」

「……そうか。中々にむつかしいものだな」

「おぉ、今のはいい感じじゃん!」


偶然か、敢えて狙ったのか。

のっちゃんのことですから、偶然の方の可能性が高そうですが。

 

そんなやりとりに、わたくしやルプレだけでなくすぅさんも。

一緒になって自然と笑みを深めつつ。


何だかんだでいろいろあった、この『雨上がり』の世界での一日が終わるのでした……。



   (第百二十話につづく)








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