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第百十七話、羨ましさと、一見わがままを言いたい気持ちもわからなくはないが




「……えーと。そんなわけでして、本来ならば教壇に立っていただきたい立場ではあるのですが。社長……もとい、スクールポリス的なポジションをご所望とのことでして。此度におきましては、マナさんにはのっちゃんさんやよっし~さんと同じクラスの生徒として潜入捜査……ではなく、転入していただくことになりました」

「ちょいちょいっ、いろいろだだ漏れなんだけどっ。……おほん。いいこと、のっちゃん。わたしはのっちゃんとおんなじクラスの目立たないモブ生徒なんだけど、生徒であって先生でもあるというか、のっちゃんの護衛的立場だからっ」

「ふぅん。まぁ、いいんじゃないか?」

「ぐぅぅっ。のっちゃんがそっけない!」

「同じクラスになれたのならいいじゃないか。椅子並べて勉強するのも久しぶりだしな」

「そく、前言撤回! こまけぇことは気にしないのっちゃんさすがっ、さすのあっ!」

「……やるわね、マナさん。手馴れているというか、扱い慣れているというか」

「うーっ! そんなことはぁ、ないつもりなのよっ。くっ、この流れでよっし~さんを抱きしめられない自分がにくいっ」

「にゃむ。ここししゅ」



ここにきて、マナさんの新たな一面が色々と分かっていましたね。

やっぱりのっちゃんはある程度把握している御様子ですが。


サウザン理事長にしてみれば、上司的な存在で、よっし~さんから見れば、お兄さまを連想させるみたいで。

わたくしたちとしては、かつてのっちゃんとマナさんの二人が同じ格好、教室で学んでいたことを改めて知ることができたのが、新たな発見ではありますが。


のっちゃんはまぁともかくとして。

やはりわたくしたちの生まれる前の故郷、現実での彼女には少しばかり違和感を禁じ得ませんでした。


なんと表現すればいいのでしょうか。

幻想を認識しづらいであろう現実からすれば、存在が大きすぎると言いますか、もう少しぶっちゃけるのならば、我らがのっちゃんの近くにいるはずがない存在といいますか……先ほどの金色なシャーさんのお友達に苛烈な反応を見せたことも含めて、のっちゃんにお伺いを立てる必要があるのかもしれませんね。




「う~ん。前言撤回で、パワーバランスが崩れてしまうかもしれないなぁ」


そうして、そんなしみじみしたサウザン理事長の、言葉の割に楽しげな呟きとともに。

不意に訪れた学園生活がついには始まるようで……。






                  ※      ※      ※






ある程度予想していたことではありますが。

何だかんだでとても仲の良さそうに見えたヒロさんやギンヤさんは、現在別のクラスのようで。

(ヒロさんは『セザール組』、ギンヤさんは『ヴルック』組だそうです)


一方で寮の方は、当然男女で分かれていて。

男子の暮らす寮だけでもいくつかの棟に分かれている、とのことでしたが。




「ちょっとっ、どうしてわたし、のっちゃんとおんなじ部屋じゃないわけぇっ」

「そうだそうだーっ」


とりあえず『リヴァ』クラスへ足を運び、天使さまを探しながらの授業を受ける機会は明日、と言うことになって。

サウザン理事長にいただいたジャスポース学園マップと、入学のためのしおりをいただき。

早速とばかりに、しばらくのホーム……ねどことなるあてがわれし部屋へと向かったわけですが。


前述した通り、男女ので寮棟は分かれているようなのですが。

その分かれ道となるところで、マナさんに続いて、追随するかのようにルプレが抗議の声を上げました。

マナさんの方はお約束だから、とばかりの気勢で。

ルプレの方はとりあえずのっかっているだけのようですが。

入学のしおりに書いてあった部屋割りの中に、使い魔、従魔、ファミリアさんたち専用の寮棟別にあると、分かったからなのでしょう。


かと言って、小さいけれど確固たる意思のある一人だと主張してしまえば。

それじゃあ男女別で、ということになってしまうわけで。



「それは流石に好きにしろとは言えんな」

「なんでよっ。『青空』世界の時はしょちゅう一緒に寝てたじゃない!」

「そんな記憶は全くもって存在していないが。……と言うか、どうした? 大丈夫か? いつもは泊まることがあれば、必ずシングル二部屋だったじゃないか」

「むぅぅ~。そこは恥ずかしがるところでしょっ!」



空気読みなさいよ、とばかりにジタバタするマナさん。

いつもの冗談、からかいにしてはちょっと長すぎる気がしました。

のっちゃんがそんな風に心配しているように、何かあったのでしょうか。

まるで、のっちゃんと少しでも離れるのを嫌がっているかのようにも見えて。



「にゃむ(あー。てすてす。久しぶりの念話でごー)」

「おっ」

「……っ」


そこで、半覚醒状態なトゥェルから、初めてな気がしなくもない、そんな『念話テレパス』が届いてきました。



(どうかしましたか? オーヴェ改めトゥェル)

(トゥェルからのテレパスって初めてじゃね。どした?)

(マナ嬢がマスターと離れるのいやがってるの、わたしたちだってまだなのに、彼女がある程度マスターの『死に戻り』を察知しているからなのだと思われる。あと、『死に戻り』のタイミングで、その場におれなかったって言うのもあるかも)

(……なるほど。やはりマナさんは規格外な力を持っている、ということですか。知らなければ傷つくことも不安になることもないでしょうに)

(あたしたちのせいだけど、死に戻れるのもあたしたちがいるからだしなぁ。……あ、そっか。あたしとしたことが、失念してたぜ。使い魔専用宿舎なんか使わなくてもいいじゃんね。主さまの中に引っ込んでいればいいんだもんな)

(ん、それも言いたかったこと。わたしはよっし~のところへ行くから戻らないけど)


かと思ったら、自分たちのことに行き着くあたり、正にのっちゃんのしもべクオリティでしょうか。

まぁ、一旦別れてもこっそり戻るつもりでだんまりだったわたくしに、人のことは言えませんがね。


(仕方がないですね。それこそのっちゃんはわたくしたちがいればいくらでも蘇ることができますが、マナさんやよっし~さんはそうではないのですから)


周りの親しい人たちが傷つくのを、誰よりも恐れるのがのっちゃんです。

マナさんたちが、大切で大事であるからこそ、説得すればマナさんは折れてくれるでしょうか。

……まぁ、それ以前にいくらごねても常識的な規則ですからねぇ。

どうしようもないのですけれど。



「心配する気持ちは分からなくもないけれど~。こればっかりはねぇ。私とマナさんは後発組なこともあって同室だけれど。私との同室が嫌だったり?」

「ま、まさかぁ。何言ってるのよっし~さん! そんなわけないじゃないのっ。むしろ同室でこっちが申し訳ないくらいなんだから。ほ、ほら。いびきとかかいちゃうかもだし、寝相悪いし、うっかりよっし~さんのベッドに潜り込んだりしちゃうかもだけどそれでもいいのっ?」

「ふふ。そんなのお互いさまよ~。むしろみんなで川の字で寝たいくらい。のっちゃんがうらやましがるんじゃない?」

「……言いたいことは多々あるが、黙秘する」


のっちゃんの内心はともかくとして。

表情を変えぬまま、そんな事を言いつつ、フォローを入れてくれたよっし~さんに頭を下げていて。

 


(そう言うことならトゥェル、ルプレやマインを通じて何かあった時に連絡するからよろしく頼む)

(……承知した。任せておいて欲しい)

(うわっ。びっくりした。しゃっきりしてるおー、トゥェルもそうだけど、『念話』、主さまも参加できたんだな)

(それはまぁ、そうでしょうね。わたくしたちは元よりご主人さまから生まれたのですから) 

(ふむ。つまりは脳内会議をしているようなもの、だね)

(……頭の中の会議しているメンツが、こんな可愛い子ばかりとはな。未だに信じられん)



心の中でのものだから思わず出てしまったのか。

あるいは元よりそう思っていたのか。

頭の中、おでこの向こうにある内なる世界、操縦席めいた待機室でわちゃわちゃしているわたくしたちを想像したのか。

嬉し恥ずかしいことをおっしゃるものですから、三人揃ってわちゃわちゃ以上のお祭り騒ぎです。


そんなかしましさすら、寛大なのっちゃんは。

うちの妹たちを思い出すなぁと、しみじみ呟きつつ。

 


(まぁ、そう言うことだからトゥェルはマナやよっし~さんと同室だろう? その旨を二人に、マナに後で伝えておいて欲しい)

(いや。待って欲しいご主人。それはべつにマナさんに直接伝えても良いのでは?)

(……言われてみればそれもそうだな)



そこまでのやりとり、長いようで短い時間ではありましたが。

黙秘すると言って以降、本当にだんまり状態で、マナさんがのっちゃん怒っちゃったのかな、そりゃぁそうだよね、わたしなんてと、どんどん落っこちていってしまいそうな雰囲気を醸し出していることに気づいているのかいないのか、のっちゃんはあっさりと口を開きます。




「話は纏まった。何かがあったのならばトゥェルを通してこちらに連絡が入ることになっている。

辛抱たまらなくなって……いや、失敬。マナはよっし~さんに迷惑をかけないようにな」

「大丈夫よ~。迷惑なんてあるわけないじゃない」

「いやいや。わたしじゃなくて! ……もう、のっちゃんってばズルいんだから」



こっちはどうとでもなるから、たぶんきっと『死に戻り』の負荷による精神の摩耗を気にかけているのでしょうが。

のっちゃんはきっと、わたくしたちの想像以上に繰り返していて。

その辺りのところは、達観しているのかもしれません。

むしろ、マナさんやよっし~さんたちが傷つく事の方がよっぽどこたえると、きっとそこまでしっかり伝わったはずで。


よっし~さんは、にこにこと。

マナさんは泣き笑いの表情を浮かべつつ、仕方ないなぁと。

わがままを抑えて頷いて見せて。



「にゃむ。あそび、いく」

「そうだな。そんなに寂しいのならあたしらが遊びにいってやるよ」

「べ、べつにそーゆーわけじゃないんだけどぉ。うれしいけどっ」


確かに、わたくしたちは離れていてものっちゃんを通してつながっていますので、能力の発動に支障はありませんし、そのうち女子会を行うのもありかもしれませんね。

などと考えつつも。

わたくしたちは、ひと悶着あったものの、何とか解決して。


また明日とばかりに、それぞれの寝床へと向かうのでした……。



   (第百十八話につづく)







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