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第百十五話、十数年来の親友であると思っているからこそのドライ




「それに、おれがこんな事を言うのもあれなんですが、取り込んでみて気づいたんです。

この子だって、何が悪いわけじゃないんだって。ずっと閉じ込めておくのは可哀想だけど、今は何が起こるわけでもないから、このままでもいいかな、と」

「僕は直接会ったことはないのだけれど、音に聞くその人の拠り所となる『場所』が、のっちゃんさんのところで良かったとは思うよ。器が大きいのかな。こうして見た限り、その人の気配も全く感じられないし……うん。そう言うことならこちらとしても出来うる限りのことは手伝わせてもらうよ。表に出てくるようなことがあっても、大丈夫な機会、と場所を用意しようと思う。だからとりあえずは、12あるクラスのうち、好きなところへと所属してくれて構わないよ。それぞれ特色はあれど、優劣は付けてはいないから」



一方は、少年そのものなほど若々しい理事長。

もう一方は、わたくしたちがのっちゃんなのに、何だかおいそれとは入ってはいけないような空気感がありました。

あのルプレすらのまれて口を挟むことはしませんでしたが。

のっちゃんってば、物語の主人公みたいに理事長先生に何だか随分と目をかけられているようで、何だかかっこよかったです。

二人称な語り部としては、もっといい表現を思いつきたかったのですが、そうとしか言い表せなかったのだから仕方がありません。




「クラスって12もあるんですね。あ、でも1000人もいるマンモス校なら、それでも少ないくらいなのか」

「いやぁ、まぁね。僕もさすがに申し訳ないけど、多すぎるかなぁとは思っているんだ。最終的には十分の一……いや、百分の一かな。世界をすくい上げる英雄となるのだから、狭き門さ。最後まで残って卒業を迎えられる子たちは、かなり少ないと思うよ」



なんと、展開の早いことで、一週間後には一度目のふるい……少しばかり多い人数を減らす試験なるものがある、とのことで。



「あぁ、心配しなくても大丈夫だよ。試験を突破できなかった子たちは、元いた世界に帰るだけだからね。一応、ここで過ごしたことについては、忘れてもらうことにはなっているけど」

「……」


一瞬、元いた世界に帰れると聞いてはっとなったのっちゃんでしたが。

どちらにせよ、『今』を手放さなければならないのならば、意味はないと気を取り直したようです。

本当に故郷へと帰るということが、それと同義であることに気づかないふりをしながら。



「ふむ。そうなってくるとよくある話で、1クラスで最後まで残るのは一人ってことか。できればみんな一緒がよかったが、そうもいかないってことだな」

「最終的にはね。クラス変更も受け付けているから、そうむつかしく考える必要もないよ」

「それじゃあ……おれは最後でいいから、マナとよっし~さん、先に選んでくれ」

「えぇっ、いっしょのクラスじゃダメなの?」

「ダメじゃないが、最後の最後まで残れるとも思っていないし、最後の方まで残れればはん……いや、天使を見つけ出すのにも別クラスの方がやり易いと思ってな」


初めは、目上の方ですから敬語でしたのに、真面目なのっちゃんですら気安い気持ちにさせるのですから、それもさうざん理事長先生の人の成せる業なのでしょう。



「でも、クラスわけってだけで普段は別に一緒に行動していても構わないのでしょう?」

「あぁ、もちろんですよ、よっし~さん。寮はさすがに別ですが、食事をするところはいくつかありますし、所謂サークル、部活動も行えますしね」


よっし~さんも、そんな気安いのっちゃんに追随したと言う訳ではないのでしょうが。

やっぱり何とはなしに顔見知り以上の関係らしく、よっし~さんもつられるようにして気安い雰囲気を出していて。


「あぁ、でも何だか不思議な感覚だね。私がまがりなりにも先生で、よっし~さんが教え子だなんて」

「ふふ、そうね。何だか変なの」

「にゃむ、ちくま」

「なんだ、トゥェルも知ってるってことは、やっぱりりじちょーせんせとよっし~、知り合いなのか?」

「えぇ。一応私が仕事場での先輩ってことになるのかしらね。兄のチームの新人さんだったの。懐かしいわ~。それだけの時間が経ってしまった、と言うことでもあるのだけれど」



その醸し出す郷愁にトゥェルさん(オーヴェ)とルプレも(食べないのならばみんなのぶんあたしが食べるぞ、とばかりにお菓子を貪っていた)、二人の関係が気になるのか声を上げると、発覚する、今とは逆な、お二人の関係。

知ってはいましたが、よっし~さんのようなダイナマイトに過ぎる妹がいるか、だなんて。

あまり姉キャラには見えないマナさんがツッコミたがっていましたが。

その時のよっし~さんは、何だか過ぎ去ってしまって取り戻せない時間を憂いているようで。

そんな雰囲気でもなくて。



「その、なんだ。さっきは別々のクラスだなんて言ったが、前言撤回だ。最後まで残るのが目的じゃないし、よっし~さんの好きなクラス、選んでくれないか」

「ちょっ、何よその温度差はぁっ。言ってることは同じなのに、わたしには全然優しくないじゃないのっ」

「……?」


どうしてマナに優しくする必要が?

なんてのっちゃんが思っていたかどうかはともかくとして。

よっし~さんを気遣うのっちゃんの言葉に、よっし~さんは思わずといった風に笑みをこぼして。



「そうねぇ。この中だったら【リヴァ】クラスとかどうかしら。珍しそうだし、カッコイイんじゃない?」

「おぉ、さすがのよっし~さんだぜ。センスあるなぁ」

「確かに、何だかカッコイイよね。時の属性って」


特段、特定の誰かを褒めたたえたわけではないのでしょうが。

ルプレも、マナさんも何だか嬉しそうでした。

恐らく、みなさんでのっちゃんのイメージをしたからなのでしょう。


基本、何でもござれなのっちゃんではありますが。

やはり、幾度となく繰り返そうともいつしか正しき道を選びとり、数多の異世界を渡り歩くのっちゃんにとって、【リヴァ】属性なるものは正にのっちゃんそのもの、とも言えて。



「よっし~さんも、見つけ出すことができたんだね。実はちょっと気にはなっていたんだ」

「ふふ。そうだったの。ありがとう。おかげさまで一人ぼっちにならなくて済んだわ」


あれだけ普段から押せ押せなのに、ひとたびそんな風にからかわれたのならば余裕を失ってわたわたしそうではありますが。

よっし~さんは、随分と余裕そうで。


あえて残念な点を上げるとするのならば。

当ののっちゃんがいつもの手慰みの推理。


考えるふり、聞いてないふりをしつつ。

からかいの矢がこっちへ向く前にと逃げ出す体勢を取っている、

ある意味のっちゃんらしい姿で……。



    (第百十六話につづく)







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