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第百十四話、宿命負い続けることに疲れた、翼あるものたちのとまり木に




「あ、始業前の予鈴やな。すいませんが、僕らはここで失礼します」

「お兄さま、お姉ちゃん。よっし~センパイ。同じクラスになれるといいですね。あとはダルさんにお任せします」

「先輩? うちらのがっこにセンパイもコーハイもないんやないの?」

「でも、センパイって感じがするでしょ?」

「いや、まぁ、うん。……そうやな」


何だかんだで、お二人も仲がよろしいようで。

そんなやりとりをしつつ、授業の準備をするためにと駆け出していきます。



「やんすっ」


ダルさん(みどり色)と呼ばれるらしい、シャーさんによく似た色違いの彼は。

つるつるの頭、ヘルメットをぺちぺちしているルプレを乗っけたまま、ついてきてくださいとばかりに片手をぐるんと上げて、上階へ続く階段へと、足後ろのジェットをきかせて舞い飛んでゆきます。



「ふふ。先輩かぁ。何だかくすぐったいわね。折角の縁だし、同じクラスになれればいいのだけど」

「そうだねぇ。転校生がみんな同じクラスって、ぐりぐりなご都合主義にならないかなぁ」

「せい、しゅんみんおぼ」

「ごーごー、ぐりーん号!」

「やんすっ」

「……っ」


それは、いつでもどこでも変わらない、かしましいやりとり。

のっちゃんが繰り返しの果てにつくり出したもの。


のっちゃん自身にも、その自覚があったのでしょう。

始まりののっちゃんであるならば、苦笑ともつかないそんな笑みをこぼし、逃げ出さずに側にいるなんてことはなかったはずで。


むしろ、みんなを見守るのっちゃんには、達成感、安堵感のようなものが見え隠れしていました。

恐らくきっと、繰り返しの『死に戻り』には、越えなくてはならない山場のようなものがあって。

あの、いかにも主人公めいた、ある意味のっちゃんと同じ能力を持つギンヤさんとの邂逅こそが、その山場であったのでしょう。

もしかしたら、ぶつかりあった時に幻視したような、魔王と勇者となって。

因縁の間柄となる道筋もあったのかもしれません。


まさに、物語を始まらせないのっちゃんの面目躍如、といったところでしょう。

よくよく見受けられるようになった、のっちゃんの微笑みに。

わたくしもつられるようににこにこしていると、気づけば目的の場所にやってきたらしく。

大きな大きな、チョコレートの板のような扉が、すぐそこに見えてきました。


のっちゃんばかりを見ていて、わたくしとしたことが気づきませんでしたが。

この、理事長室のある時計棟は、結構な高さがあるのですが、その棟はダンジョンになっているらしく。7

用があり、呼ばれたものでなければ迷ってしまう仕様になっているようで。

扉の前で旋回し、やんすやんす言いながら、頭の上のルプレを降り払……下ろそうとしているダルさんといい、このジャスポースなる学園の長の方は、中々に遊び心のある少年のようなひとのようで。

のっちゃんよりも、少年のような心を持っていそうなマナさんが、はしゃいでいる風だったのが印象的で。




「……失礼します」

「どうぞ~」


のっちゃんが代表で、ノックしつつ声を上げます。

すると、イメージとはそう外れることのない若そうな声が返ってきました。

これにて失礼とばかりにルプレをうっちゃっていずこかへ去っていくダルさんを脇目に。

そのままごろごろしそうだったルプレを回収しつつ、のっちゃんが先行し入室します。




「来たね。我が第二のふるさとの同志たちよ。我らジャスポース学園一同は、君たちを歓迎するよ!」

「……っ」


誰かが、恐らくよっし~さんが息をのむ気配。

ふるさと、なんて言い方をしたから、きっとお知り合いなのかもしれませんが。

この広大に過ぎる学園の長たる方にしては、やはり随分とお若いように見えました。

その髪色は白に近い銀色でしたが、それはけっしてイメージしていたような年季の入ったものではなく。

若さに溢れたその見た目は、のっちゃんと同じくらいの年頃の青年です。


そんな彼は、見た目通りの腰の低さで、のっちゃんたちに立ち話もなんですからと。

大きな机と背の高い椅子、それに対面する三つの椅子に座るよう、にこやかに爽やかに勧めてきます。

そこにはきっちり三つ、お茶菓子の入れ物まで置いてあります。

案の定それに、真っ先に反応し飛びつこうとしたルプレをつかまえたままであったのっちゃんが、しっかりホールドして阻止したところで。

理事長先生は、より一層笑みを深めて皆々を見渡し、改めてとばかりに口を開きます。



「まずは、来てくれてありがとう。私はサウザン。このジャスポース学園の理事長をやっています。よろしくお願いしますね」


知っている人も知らない人も、たとえ目的がここへやってきた目的が何であろうとも歓迎します。

サウザン理事長の言葉には、そんな深読み以前に、会えたこと、一緒に学べることへの嬉しさのようなものが滲み出ていました。

それにみんなが反応するよりも先に、サウザン理事長は、ひとつ大きく頷いて。

何やらファイルのようなものを取り出し開きました。



「ええと、まずはここでの呼び方は『のっちゃん』さんでいいのかな。……シャーさんからお話は伺ってますよ。三人の特別なファミリアさんたちとともに在り、自らもありとあらゆる事象、見聞きした力を模倣できると。あぁ、あなたがここへ来た目的も伺っています。が、まずは腰を落ち着けてこの学園で学び、過ごしてみるのはいかがでしょう。ここで更に力をつけ、最後まで残ることができたのならば、誰に迷惑をかけることなく目的を達成できると思いますよ」

「……はい。そのつもりでここへ来ましたので」


同じくらいの年頃に見えても、目上の存在であることは一目瞭然で。

巻き込まれ、流されてここまで来たとはいえ、基本真面目なのっちゃんは、素直にそう頷きます。

目的……きっと、理事長先生はのっちゃんが背中にしょった『完なるもの』、黒い太陽の欠片の対処法と、それを昇華できる天使さんを見つけ出すことだとお思いなのでしょう。


事実、よっし~さんと同じ通称『青空』世界をふるさとする天使さんの娘さんは。

このジャスポース学園に通っているらしいのですが……。



「実は、その黒い太陽から逃れ、隠れるために彼女かここへ来ているのです。その名も、正体も偽って過ごしています。その運命の相手とも言えるのっちゃんさんが、ここへ来てしまったのは問題が……というわけでもないのですが。できるのならば、彼女を。ここにいる時はそっとしておいてあげて欲しいのです。ずっと、ずっと宿命に追われ続けていた彼女の、言わば束の間の羽休めができる場所とも言えるのでね」

「束の間の休息。確かにそれは大事ですね。誰にだって逃げ出したくなる時はあるでしょうから。……分かりました。こちらからは何も言わないようにします」


今はほとんどそんな風には見えませんが。

嫌なこと、辛いことから逃げ出したくなる、ある意味天使なんて高尚な存在なんかじゃない、人間らしい天使さんに対し、のっちゃんは共感し思うことがあるようです。


のっちゃんが本当の意味で成したいこと、やりたい事が。

すべての柵をおいて故郷に帰りたい、だなんて。

今や到底不可能なことであると理解し始めてきていて。

むしろ、黒い太陽の欠片をこのままにしておくわけにはいかないと思い始めていましたが。

まだ、のっちゃんの言葉は珍しくも終わっていなかったので、とりあえず続きを促すことにして……。



       (第百十五話につづく)







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