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第百十三話、違う世界線と、そのあり方すら変えうる特異点




「あら、かわいい。新しい娘かしら」

「んにゃ。あれはあの真っ赤っかボーイの子だな」

「……ええぇっ!? マジですかいっ!? つくもんがおるぅ!?」

「ありますっ」



煙が晴れた頃には、わたくしたちより一回り小さい、生まれたてらしき小さな子がいました。

きっちりとしたポケットのたくさんある軍服とベレー帽をかぶった、灰色ショートの髪の少女です。

まだ言葉を介すまでには至っていないようではありますが。

そんな口癖、語尾が何とはなしに新しき彼女のイメージを伝えてくれています。



「あんた、その道具……って言うのも失礼か。すごく大切にしていたんだな。良かったじゃないか。きっとそのうちちゃんと話せるようになるぞ」

「うおぉっ、すっごい! 先輩、いや、アニキ! 一生ついてくでぇぇっ!」

「もう、ギンヤさん! お兄さんはわたしのお兄さんなんですからねっ!」

「ちょっとちょっとちょっとぉ! わたしも忘れてもらっちゃぁいやだぁかんね!!」

「どわっ、何や真っ白い可愛いのおると思たらヒロさんやないか。なんでこんなとこにおんねん」

「……もう、相変わらずなんですから。そんなのどっちもわたしの勝手でしょう。そっちこそどうしていきなりお兄さんに襲いかかったんです?」

「いや、それはスパナが……羽根付きジェットがいきなり暴走して」

「りますっ」

「おわっ、そんな可愛い体で張り付くんやないって!」

「ふふ。大騒ぎねぇ。のっちゃんってば実はそっちもイケルのかしら~」

「にゅむっ」

「くっ、出遅れたっ。何だかよくわかんないけど、あたしも主さまにくっつくぜ!」


気づけば、何だかんだでたくさんの人に囲まれてしまっているのっちゃん。

それは、そう言う感じが、空気が苦手なのっちゃんであるからこそ、とも言えて。



「……何だかなぁ。勘弁してくれ」


これが幾数十回繰り返した中での最良なのか。

とはいえ、誰ひとり傷つくことがなかったから良いか。

のっちゃんは天を仰ぎつつも、そんな結論に達したことで、そこから逃げ出すことはないのでした。

まぁ、がっちり囲まれて逃げ場がないとも言えますが……。





                 ※      ※      ※





「へぇ、なるほど。アニキたちは後発の入学組ってことなんやな。入学のタイミングがズレとるのってどうなんやろって思てたんやけど、納得ですわ。ひよっ子な僕はともかく、真白のご……鬼神と早くも囁かれとるヒロさんの暴走モードをアニキが止めたんでしょう? いろんな意味で頭が下がります」

「ん? なんだか不穏な言葉を口にしませんでしたか?」

「ぐべぇっ!? ダイヤモンドクローはやべでぇっ!?」

「あらら。ペットな小動物すら抱えてられなかった病弱な子だったのにねぇ」



そうして。

そのままの流れでみんな一緒に学園内へ。

まずは入学の手続きをするために、このジャスポース学園の理事長先生に会いにいくこととなりました。


そんな中、見た目通り少年らしい、いたずらっ子なところのあるギンヤさんは。

失言をしてしまったらしく、白魚のようなヒロさんの小さな手のひらに、そのきれいな顔を掴まれ、そのまま持ち上げられていました。

当然のごとく、ドン引きしているのっちゃんは、何だか癖になってしまったらしく。

一応逃げずについていきつつも、よっし~さんの影に隠れていて。



「学校かぁ。ほんとに私、通えるのねぇ~。何だか夢を見ているみたい」

「にゃむ。たぶんゆめみたいとこ」

「ふふ。そう言う意味じゃないんだけどね」

「……っ」


そんな目前での、よっし~さんとトゥェルさんのやりとり。

のっちゃんは、それを聞いて言葉を失っていたようでした。


それは、のっちゃんが今ここにいることから始まって、よっし~さんの故郷でのあれこれも含めて、

今更ながら夢じゃなかったのか、夢だと思っていた自分自身に気づかされたからなのでしょう。


……なんて言うか、本当に今更ですが、今まさに夢の中の住人だと言われてもおかしくないでしょう、七色の鱗粉蒔く小悪魔妖精なルプレが、同じ夢の中に出てきてしまいそうな真白の髪の美少女の頭上に降り立って。

目前で繰り広げられている、目を背けたくなるほどの折檻を華麗にスルーしつつ話かけます。



「あ、そだ。あたしたちってさ、がっこ行くのにほら、よくあるじゃん? 試験っぽいやつ。そう言うのってあったりするのか?」

「ぐぺっ」

「あぁ、入学試験のようなものはありませんよ。さっきも言いましたが、まずはこの世界にやって来られることがジャスポース学園入学の条件ですから」

「来るだけでいいのか? でもそれって、さっきヒロさん自身も言ってたけど、それだけでいいなら悪いやつも入学し放題ってことにならないか?」

「えぇ、そうですね。悪『役』を背負わされた方たちならば、いらっしゃるかもしれませんね」

「なんでそこでおねぇちゃんを見るのよっ。ちょっとのっちゃん! そんな目で見ないでっ! いやや、やっぱり見ていては欲しいけど、わたしは悪さなんてしないからねっ」

「どっちだよ……と言うか、そんな事分かってるが」

「いやーん、うれしーいっ!」

「だからと言ってくっつくんじゃない」

「……お姉ちゃんって、こんなキャラでしたっけ」

「う~ん。少なくとも私が出会った時はこんな感じだったわね」



またしても、くっつき抱きついてこようとするマナさんを、回避するためによっし~さんを軸にぐるぐる回りだすのっちゃん。

心が広いのか、それはそれで満更でもないらしい。

よっし~さんと既に仲良くお話しているヒロさん……その際のヒロさんの細い手のひらから解放されたギンさん……フルネームでの本名はギンヤさん、だそうですが。

そう呼んで欲しいとのことでしたので、そう呼ぶことにします。


そんなギンさんは、生まれたてと言ってもいい長い長いスパナから生まれたらしい九十九神のモトカさんをふところ……ストレージらしきところへと仕舞いつつ。

ヒロさんのなすがままであった割には、さほどダメージを受けていない様子で、わたくしたちを先導してくれていて。



「着きましたよ。ここの最上階が理事長センセがおわす場所です」


ヒロさんギンさんが目立っているということ以上に、のっちゃんも含めて派手な三人が中途入学生であると分かるのでしょう。

そんなかしましいやりとり、その道中にて多くの生徒さん、それこそ様々な世界からの色々な種族の方たちの注目に晒されていましたが。

それに慣れずに挙動不審なのは、それこそのっちゃんくらいだったでしょう。


かっこよく、最善の道を歩き選ぶのっちゃんもいいですが。

やはり、ご主人さまはそうでなくっちゃ、と言った佇まいです。




「大丈夫ですよ。ここまでくれば良からぬ存在も入っては来られませんから。ささ、ついでです。案内しますよ」


しかし、その最善の枝葉……選択肢が見えないギンさんには、もう既にかっこいいアニキフィルターがかかってしまったらしく。

そんな良いふうに捉えられてしまいながらも、棟……時計塔のような建物へと入っていきました。



「ええと、恐らくここで待っていれば……って、きたきたっ。今日もかっちょえぇなぁ。僕もダルルロボ的なつくもんさん、つくってみたいな」

「ええ? かっこいいって言うよりかわいい系ですよね? 校舎内でも、ふわふわ飛んでいて、女の子にも人気なんですよ」

「にゃむ。しゃー」

「あらら。こっちにもいるのね~。だから行けば分かるって言っていたのかしら」


ほとんどわたくしたちと変わらない様子であったシャーさんとは少しばかり赴きが違うといいますか。

いわゆるところの、量産型的存在なのかもしれません。

シャーさんは、燃えるような赤色ヘルメットをしていましたが、お迎えにやってきてくださった彼は、ビリジアンのごとき輝きを放つ緑色をしていました。

おしゃべり大好きなシャーさんとは違い、やんすとしかおっしゃいません。



「お、ここの世界のシャーさんはグリーンか! グリーンの特徴ってなんだっけ? 自然が好き? くさタイプ?」

「や、やんすぅ~」


正しくも、お子様めいた部分を全面に出してくるルプレが、早速とばかりにまとわりついていると。

いかにも嫌そうな声がかえってきます。

それに、同じく子供のようであるのか、ノリに合わせているだけなのか。

マナさんが続こうとしたところで、何やら鐘の音が響き渡りました。



     (第百十四話につづく)








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