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第百十一話、いつものように逃げ出しても戻ってきたのは、そこに新たな厄介事があるから




「二人とも無事っ!? ……って、えっ?」

「……っ! お、お姉ちゃん? もしかして、お姉ちゃん、なの?」



その、金糸……はちみつ色の髪の組み合わせとしては珍しい、黒曜石の瞳。

マナさんの大きにすぎるその瞳が、わたくしたちを映すのは短い間で。

お互いがお互いを認識し、その瞳に映すことで、鏡合わせのように固まる二人。




「えぇ? うっそだろ? きょうだい? ……いや、でも確かに髪色以外は似てる、のか?」


どうして、すぐに気がつかなかったのでしょう。

確かにこうしてマナさんとヒロさんを見比べたのなら、少なくとも姉妹とお呼びしてもいいくらいには似ていました。



「ヒロっ!」

「マナお姉ちゃん!!」


正に、こうして出会ったことが奇跡。

それを噛み締めるかのように、二人の少女はひっしとお互いを抱きしめ合います。




「……きょうだいが、再会できてよかったわ~」

「にゃむ。いもうときゃら」


かつては妹であったらしいよっし~さんが、オーヴェならぬトゥェルを抱きつつやってきて、感じ入っている様子。



「いやぁ、世間は狭いてやつだなぁ」

「……妹、か。まぁ確かに。道理ではあるの、か」


思えばマナさんのこと、ほとんど知り得ていなかったわたくしたち。

でもそれは、わたくしたちしもべばかりで、意味深長なことを呟くのっちゃんは違うようでした。



あぁ、そうでしたね。

マナさんはわたくしたちがいない、故郷にて数十年来のお友達なんでしたっけ。

長年の付き合いがあったのならば、のっちゃんはヒロさんのことも知っているはずで。

自らの力に苦しんでいるヒロさんに対し、幾百と『死に戻り』しようとも諦めず向かっていった理由もここではっきりしたわけですが。

ならばどうして、のっちゃんは戸惑いつつも満更でもない、よっし~さんの背中に隠れているのでしょうか。


しかしその答えも、わたくした考え答えを出す前に、ヒロさんの方から与えられました。




「マナお姉ちゃん! あのとってもかっこいい『従霊道士』の殿方とお知り合いなのですかっ!?」

「じゅうれーどうし? 魔物使い的な? あぁ、それってもしかしてのっちゃんのこと? そう言えばのっちゃんの所謂『職業』ってなんなんだろ。ねぇ、のっちゃん。あれ? のっちゃーん?」

「……しからば、ごめん」



マナがきょろきょろし、見つけ出して声をかける時には。

もはやレベル無限大の逃げ足スキルを生かして、またしてものっちゃんはそこにはいませんでした。

とはいえ、のっちゃんのことですから、そのうちまた戻ってくるのでしょう(死に戻り的な意味も含めて)。



逃げたり隠れたりするのは、あんまりにも可愛くて恥ずかしいから、だけじゃなく。

ヒロさん自身マナさんと姉妹であるということが確かであるのか、マナさんに似て距離が……パーソナルスペースが近すぎるからなのでしょう。


マナさんがさんざんばら繰り返した、もふもふしたい猫好きと猫みたいなやりとり。

のっちゃんはきっと、妹だとまでは分からずとも、マナさんの関係者であると、すぐ気づいたことに違いありません。

故に、『死に戻り』を繰り返しても選択肢を変えなかった割に、対応に苦慮して逃げ腰なわけで。



久方ぶりかもしれない姉妹の再会でしたが。

妹キャラのヒロさんが発した言葉に、似た者同士な……あまりお姉さんには見えないマナさんにしてみれば。

何やら聞き捨てならぬものを覚えたらしく、大きな瞳をいっそうかっと見開いてヒロさんに詰め寄ります。



「……って、素敵な殿方? それってもしかしなくてもわたしのさいごのひとであるのっちゃんのこと言ってる?」

「あら、お姉ちゃん。あの方は『のっちゃん』とおっしゃるのですね。わたし、覚えました」

「ちょっと! だからのっちゃんはわたしの大事なすステディで、カレシで恋人だって言ってるでしょっ」

「分かってますよ。お姉ちゃん。いつもの、お姉ちゃんの勝手な妄想でしょう?」

「むぐぐぅ。これだから身内はやりずらいったらないよぉ」



マナさんの、どう足掻いても暴走としか思えない発言に、流石に黙っていられない様子のよっし~さんが引き止めかけましたが。


流石は妹さん。

お姉さんのことよく分かっていて。

惚れた腫れた恋人だなんて、嘘っぱちだと。

マナさんが思っているだけで、実際は告白のひとつもしたことないって、すぐさま看過したようで。



「ふむん。なかなかにしたたかじゃんよ。気にいった。あたしはヒロさん応援しちゃるぜ」

「本当ですか? ありがとうございますっ。それじゃあさっそく二人きりの修行のセッティングを!」

「それはそれ、これはこれ、だな。あたしは主さまが嫌がることはしないのだ」

「そ、そうですか……」



やはり、何だかんだでシンパシーを感じるらしく。

ルプレはヒロさんのことを大層気に入ったようで。



「んむ、私はもとより、よっし~派。ぎゅむ」

「トゥェル! やーさーしーい~」


そうなってくると当然、生まれた頃から相棒めいているトゥェルさんことオーヴェと。

意外とかしましな、話題にもノリノリなよっし~さんの組み合わせはてっぱんで。

大いなるものに挟まれているオーヴェさんが満更でもなさそうなのが、またしゃくでしたが。




「マインちゃん! マインちゃんはわたしの味方だよねっ!? ね!? ねぇってばぁっ」


結果、余りもの同士がパートナー契約をすることになるのは必定……なんて思ったら大間違いですよ。

まぁ、名を呼んでもらえて頼っていただけるのは悪い気分じゃないですけれど。


正しくものっちゃん的ツンデレで逃げ回りつつわいわいしていて。

結局、ひとりあぶれて? しまったのっちゃんが、いつまで経っても探しに来ないから気になってそっとこちらを伺い戻ってくるまで、

そんなかしましいやりとりは続くのでした……。





               ※      ※      ※




そんな風に、何やかやありまして。

気を取り直しましてわたくしたちは、ヒロさんに案内されて、ジャスポースなる勇者、英雄となるための、剣と魔法の学園へと向かうこととなりました。


シャーさんの導きの元に、わたくしたちが降り立ったのは、スクール裏山などと呼ばれる場所らしく。

あまりに広くてその全容も分かっていないようで、多種多様なモンスターの棲家と化しているだけでなく、いくつもの他の世界へ繋がるひずみがあったり、何やら強大な存在が封印されていたり、地上にも地下にも数多のダンジョン化しているところがあって。


歯止めの効かない力を発散する、ヒロさんのようなやんごとなき理由がなければ。

篩かけの試験時と、迷いつつ導かれやってきた時以外は、みだりに足を踏み入れてはいけない、とのことでしたが。




「しっかし、あたしたちみんな揃ってそのがっこ? 入ってもいいのか?」

「あ、はい。ええと、入口となる場所に、邪なるものを通さない結界があるんです。この世界にやってきた人は、英雄となる資格を持つ人か、そんな彼らを付け狙う悪しきものだけですから。特に問題ないと思いますよ」


先導するヒロさんの周りを飛び回りつつそんなことを聞くルプレに、ヒロさんは丁寧に教えてくれます。

それが分かっていたからこそ、シャーさんはこっちへ行けば何とかなる、などとおっしゃっていたのでしょう。


一方で、のっちゃんはそんなもはやわたくしたち一同に見事に溶け込んでいるヒロさんとの距離をはかりかねているようでした。

今も、わたくしを除く最後尾にてしんがりを勤めているふりをしつつも、三人の……のっちゃん的に面倒な圧に屈して距離を取りつつ、わたくしの目前をうろうろ、そわそわしております。




「……きょうだい、か」


その際、わたくしにだけ聞こえてきた、そんなのっちゃんの呟き。

故郷にいらっしゃるご兄弟のことを思い出したと言うよりも、のっちゃんにしか分からないような部分で何だかひどく納得したご様子。

恐らくは、のっちゃんなりにマナさんとヒロさんが姉妹であるという証拠めいたものをお持ちなのでしょう。


やはり、マナさんはのっちゃんの故郷にて深く関係のあった人物……恋人とまではのっちゃんの性格を考えますと、そこまでではないでしょうが。

片思いくらいはしていた可能性もあって。



「……頑張りましょうね、ご主人さま。こうなったのも宿命、縁です。応援いたしますわ」

「ん? あ、あぁ」


どうやら、マナさんの担当はわたくしのようですからね。

十中八九、これからこれ以上に増えるであろうことなどお構いなしに。

わたくしはのっちゃん、ご主人さまに向け、拳を握るのでした。





それからの道中は、何度かモンスターさんたちとの出会いはあったものの。

しんがりののっちゃんが、暇を持て余して現実逃避と言う名の推理(何についてかは分かりませんが、きっと暇つぶしのようなものなのでしょう)をするようになった頃には。


無事に森を抜け出て……文字通り今までいた森は、その学園の庭であったのでしょう。

大国のお城もかくやな、ここから見てもその全容を見通せないくらいには大きい赤煉瓦の建物が見えてきました。




「あれが、がっこかぁ。……そういや、とりうみさんちも相当でかかったけど、雰囲気がぜんぜん違うなぁ」

「そうね~。正にザ、魔法学園って感じね。そう言えば私学校に通えていなかったから、結構わくわくかも」

「にゅむ」


憧れのお兄さんを追って、アーティスト……『曲法』の能力者となったため、いわゆるアオハルなるもののご経験がなかった様子で。

元はといえば、故郷の危機を救うためにですが。

成り行きをもってののっちゃんについてくることとなったよっし~さん的にも。

いつか帰ってアーティスト活動をより良いものにするために、魔法学園に通うことは、きっと良い経験になることでしょう。



「でもでも、何だかどこかで見たことがあるような感じね。懐かしいって言えばいいのかしら」

「それはそうですよ。確かこのジャスポース学園はわたしたちの故郷、ユーライジアのスクールをモデルにしているそうですから」

「へ? あ、ふうん。そうなのかぁ」


それは、オフレコでしょうとでも言わんばかりに。

あるいは知らない情報だけど姉の威厳を保つために知ったかぶりでもしているかのようなマナさんの反応です。


あら? そう言えばマナさんはのっちゃんと同郷で友達以上恋人未満(きっと、マナさん側の希望)のはずですが、一体どういう事なのでしょう。

のっちゃんと同郷ならば、このような剣と魔法と冒険が詰め込まれているかのような、学校へ通っていたことなどないはずで。


でもまぁ、よくよく考えてみればマナさんもヒロさんものっちゃんの辞書……かつての日常においてはありえなくもないのでしょうか。

珍しい金髪と銀髪の姉妹。

外国ならばいてもおかしくなさそうですけれど。

少なくとものっちゃんと関わると言うか、むしろのっちゃんの方から近づこうとすることなどまずないはずで。



その辺りについて、どうなのですかと?

なんだかんだで事情を知っていそうなのっちゃんにこっそり問いかけようとして。

そもそもが、ちらちらとこっちを気にして見ていたマナさんすら見ていなかったらしいのっちゃんがそこにいました。




「あれは……やはり天使? いや、見た感じシャーさんの同類……か?」


のっちゃんは何かを見つけたらしく。

上空、はるか向こうを見つめていて。



「あら? あれは」


みんなもそれに気づき、ヒロさんが何やら知っている様子で呟き首をかしげた時。



「な、なぁ。あれ、どうみたってこっちに向かって……主さまっ!?」

「……っ、狙いはおれだっ。迎え撃つ! フォローを頼むっ!」



それは、誰に向かっておっしゃったのか。

その場にいる全員が、確認するよりも早く。


のっちゃんは、マナさんからラーニングした翼……何故か真っ黒になっていましたが。

ばばっと広げ、そのまま跳躍。


同じくラーニングした災厄の一つ、【ノーマッド・レクイエム】による羽を持ちし虫たちの力も借りて。

言葉通り、正面から迎え撃たんと。

あっという間に、それこそ虫たちをジェット噴射のごとく追随、後押しさせて。


わたくしたちを置き去りにしていく勢いで。

のっちゃんはまるでお話の主人公みたいに飛んでいってしまって……。



    (第112話につづく)







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