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第百九話、初めてのお声がけ、きっとそれも紆余曲折試行錯誤があって




「【ノーマッド・レクイエム】っ!!」


と、その時でした。

のっちゃんが、かつて邂逅した『災厄』の名を口にしたのは。


 


「こっ、今度はなんだぁ!? 突然視界が暗く?」

「あれは……大量と言うのも烏滸がましいほどの数の虫たち、ですか」



『災厄』と呼ばれる、あるいはわたくしたちのように意志があって、使い手……人に取り憑くことのできる『ギフト』たち。


【ボレロ・アンフラメ】と呼ばれる『精霊化』……溶岩魔人と化す『ギフト』をラーニングして使えるようになった時から、ひょっとして、とは思っていましたが。

タイミングを見計らったかのようにのっちゃんが突如として発現したのは。

【ノーマッド・レクイエム】と呼ばれる、世界を滅ぼすほどの『災厄』で。

瞳の向こう……スクリーンから見えるのは、正に真白と漆黒のぶつかり合い。



蝗害とも呼ばれうる黒い斑の靄は。

真白の太陽に触れた瞬間、バチッと音たてて煤け、雨となり染みとなって消えていきます。


しかし、のっちゃんにしかできない『死に戻り』レベリングにより、夥しい程の魔力を手にしたのっちゃんは、【ノーマッド・レクイエム】を維持し続けるばかりか、次々と黒き靄、虫たちを生み出し、真白の太陽に攻めかかります。

始めは、同じような球体同士でしたが、留まるところを知らない黒き靄は、うねうねと蠕動しその姿を変え、次第に真白の太陽を包み込み始めて。




「あああああぁぁぁぁっ!!」


しかし、生み出された真白の太陽は。

同等以上の『災厄』レベルに達しているのか、白銀の彼女が声を上げるとそれに呼応するかのように光る力を増し、肥大して黒い靄を押し返そうとしてきます。


恐らく、ここまでは何度か繰り返したことなのでしょう。

もはやわたくしたちは、手に汗握って見守るのみで。




「【ボレロ・アンフラメ】っ!!」


と、今度は更にのっちゃんが押し返さんと動きを見せました。

しかも、『災厄』レベル……そのものであるギフト、その発動二つ目です。

いえ、わたくしとルプレとオーヴェは常時発動なので、もういくつのギフトを同時に行使しているのかも分からないくらいで。

すぐさま、視界の端から射出されるは、マグマを纏ったいくつもの礫。



「……っ!」


それは、真白の太陽を、白銀の彼女を攻撃するものではなく。

黒き靄へ向かって違わず飛んでいきます。


そのまま、二つの『災厄』から打ち消しあって消えゆく、なんてことはなく。

まるで黒き靄が溶岩の鎧を身に纏うかのように。

黒い靄のその外側へどんどんと張り付いていくのが分かって。


それも、やはり終わることなく続くものだから。

それまで眩いほどだった真白な視界が、みるみるうちに。

最早わたくしたちにとってお馴染みな炎、溶岩による濃い緋色に埋め尽くされていきます。

初めはそれを、やはり真白な彼女が極力傷つかないようにする手段であると思っていたわけですが。




『アアアああああぁぁぁ……っ』


だんだんと、そんな彼女の叫び声が弱く、小さくなっていっているのが分かって。



「おっ。そうか。炎使いのあるあるってやつだな。炎で囲んで酸欠でのダウンを狙ったってわけだ」

「……丁寧に過ぎる解説、わざわざありがとうございます」


しかし、ええ、なるほど。

これがご主人さまが『死に戻り』を数百回とこなした果ての最適解ですか。

ご主人さまが思い望む答えだったのでしょう。

ルプレの言葉通り、酸素を失い気を失うようにして倒れこむ真白の少女。


てんとう虫のような、丸っこい虫たちが、そんな彼女を集団で優しく受け止める所までが。

意外ときっちりしていて紳士的なのっちゃんの、ご主人さまの目論見であったのでしょう。


事実彼女が、意識を失って倒れていく頃合には。

溶岩と甲虫たちでできていたらしい、彼女を包み込んでいた黒いものも、下で支えているてんとう虫さんたちを除き、綺麗さっぱり消え去っていて。

のっちゃんも、すっかり元の姿を取り戻していて。



「まっしろけおてんば姫さまと、われらが主さまの運命の対面だな。ちょっとなんだかあたし、わくてかしてきたぞ」

「うむむ。お見受けするに力に飲まれ暴走しているようでしたが、ご主人さまに助けられた実感などはあるのでしょうか……」


マナやよっし~さんを差し置いて、運命かもしれないわくどきする出会いに手に汗握るのは構わないのですが。

そもそもが、真白な彼女は魔物たちの多くに囲まれていましたが、襲われていたと言うよりも、抱えきれない力の拠り所に困っていて。


魔物さんたちにしてみれば、はた迷惑なことこの上ありませんが。

その行きどころのない力の発散のために、おびきよせられているように見えたのです。



……長々と講釈をいたしましたが。

何を言いたいかと言うと、そんな彼女が目を覚ました途端に、我らがご主人さまと対面するとなると。

わたくしが言うのもなんですが、彼女は色々な意味合いをもってびっくりしちゃって、のっちゃんが逃げ出す前におてんば姫さまらしく。

それこそ『死に戻り』をしてしまいそうな一撃を受けてしまいかねない、と言った懸念が確かにあったわけですが。




『……おい、すまないが。ルプレとマイン、二人共出てきてくれないだろうか』

「おっ、めずらしい。呼び出しがかかったぞ。あたし、出動しますっ。ゆくぞマインっ!」

「言わずもがな、ですわ。すぐに準備致します」



しかし、のっちゃんの方が一枚上手だったと言うか。

のっちゃんフリークなわたくしたちとしてはまだまだだったと言いますか。

恐らくはきっと、たった今わたくしが思い立ったような結果は、すぐにのっちゃんは経験済み(もちろん死に戻りとセットで)だったのかもしれません。


オーケー。

ここからが大事だと言わんばかりに。

近づくどころかのっちゃんは一歩二歩と下がっていって。

わたくしたちにそんな声がかかります。


確かにこうやって、のっちゃんからのお声がけは初めてだったように思えます。

何とはなしに、そのような考えに至るまでにも何度か繰り返したのでしょうと、笑みをこぼしつつ。

ルプレと手をつないで、のっちゃんの内なる世界から外へと出ることにしました。




「……ぷはぁっ。なんだか随分と久しぶりな気がするしゃばだぜー」

「ご主人さま、お呼び出しに応じ、ルプレとマイン、参上いたしましたわ」

「ああ、すまないな」


のっちゃんから生まれるように飛び出して。

ルプレは七色の羽をもって。

わたくしはもはや忘れかけていた設定ではありますが、動く人形リビングドールにありがちな念動力的なものでふわりと浮き上がり、のっちゃんの周りをしばらく周回した後、今やそれぞれの立ち位置ならぬ座り位置と化したのっちゃんの肩上へと舞い降ります。

(ちなみに、オーヴェのポジションはポケットの中だったりします)



「ほんで? あたしたちは主さまのかわりにおてんば姫の相手をすればいいのか?」

「姫?……あぁ、うん。そうだな。二人ならいきなり攻撃されることもないだろうが、念のため離れた所から見守っていてくれ。おれはちょっと、席を外しているからさ」

「わふっ」

「えぇ、もう、もうちょっ」


ちゃっかり、普段はなかなか乗せてもらえない終の棲み家に居座るつもりが。

最もな理由であっさりとかわされ、だけどその手で触れてもらって。

(実際は恐る恐る、摘まれているだけですが、細かいことはいいのです)


ゆる~く放られるがごとくの動きで解き放たれ、放されるわたくしたち。

それに文句を言うひまもなく、宣言通りのっちゃんは素早い動きでその場から離脱してゆくではありませんか。


それは、正しくもお姫様の寝室、プライベートな場所にみだりに入るものじゃないといった、紳士らしいのっちゃんの振る舞いであると同時に。

お姫様のめざめを邪魔して、きっと間違いなく痛い目にあったからこその、のっちゃんらしい行動でもあって。



「起きてすぐいきなり攻撃されるのかよ。こんなかわいい見た目なのにおっかねぇ」

「戦うすべのないわたくしたちが、それこそ『死に戻り』するほどのダメージを受けるとどうなってしまうのか興味がないわけではないですけどね。ここはご主人さまに従って、遠目から様子を見ることにいたしましょう」


今の今まで運の良いことに。

あるいはしっかりのっちゃんに多大な迷惑をおかけしてしまうことになるのであれですが。


いざそうなった場合、のっちゃんからギフトが失われてしまう形となるのか。

しばらくの間一回休みで、その内復活できたりするのか。

分からないからこそ、興味深いのは確かでしたが。


そんなことご主人さまが絶対に許さないだろうことは言われなくとも分かっていたので。

わたくしたちは、そんなやりとりをしつつ。

恐る恐る真白な少女へと近づいていって……。



     (第110話につづく)








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