第百四話:選択外を選択するということは、道なき道へ向かうということ
まるで、わたくしそのものであるギフトが発動したかのように。
キラキラと虹を撒いて明滅していたのっちゃん。
かと思ったら次の瞬間、のっちゃんの全身を真赤が包んでいきます。
それは、前世界であいまみえた『災厄』のひとつ。
【ボレロ・アンフラメ】の能力を覚え……ラーニングしたもので。
元はのっちゃんの肉体であったものが、溶岩の礫となって分け隔てられ、そのままの勢いをもって爆散するがごとく、モンスターたちへと向かっていって。
「うおぉ、あぶ、あぶねーって!」
「ギエエエェェっ!」
その射線上には、当然ルプレの姿もありましたが。
自分自身の一部には当たらない親切設計になっているのか、物の見事に慌てふためくルプレをすり抜け、モンスターたちにぶつかり、石の焦げるような匂いとモンスターの悲鳴が木霊して。
その一撃により、そこにいる全てが倒せたかは定かではありませんが、彼らを怯ませ、下がらせる効果は十分にあったようで。
のっちゃんは、その隙にと頭抱えて縮こまっているルプレをふところに抱えるようにして、助け出すところまではよかったのですが。
「わぶっ、ご、ご主人っ!?」
「……っ! ちっ。迂闊だった……かっ」
「のっちゃん!?」
普段はほとんどしないと言うか、まずあった試しのないのっちゃんからの接触。
のっちゃんからすれば不可抗力だから仕方ない、なんて言い訳がかえってくるのでしょうが。
そんなのっちゃんの行動力にルプレが目を白黒させている中。
不意にがくんと、捕まえたルプレごとのっちゃんの身体が地面に嵌ってしまって。
一瞬、落とし穴か何かの罠の類かと思いましたが、それでしたらルプレが予めそう指摘していたはずで。
よくよく見れば、のっちゃんの踏みしめた大地は、この世界に来たばかりの時に見たような針葉の葉が広がっていて。
そこは大地などではなく、木の枝の上だったのだと気づかされた時には。
翼を生み出し広げる暇もあらばこそ、重力に任せてすっぽり嵌まり落ち行くように、のっちゃんとルプレの姿はなくなっていて……。
「……っ。わたくしは一旦主さまの元へ還るといたしますっ! 皆さんはシャーさまの異世内で少々お待ちくださいっ!」
気づけばわたくしは、マナさんやよっし~さんにそう言い残して。
返事を伺うまでもなく具現化、顕現を解除していました。
……それは、のっちゃんが全ての中心であるからして、動向をを見逃すわけにはいかないといった、ごくごく個人的な意味合いもあったわけですが。
のっちゃんらしく、まるで『死に戻り』が切っても切り離せない、ライフワークのごとく。
運の悪いことに、枝葉のその下は奈落の崖になっていて。
手前味噌ながらわたくしが、のっちゃんの内なる世界へと舞い戻っていなければ、落下の衝撃ですぐさま『死に戻り』していただろうことを。
もしかしたら、本能的に予期していたのかもしれなくて……。
※ ※ ※
結果的に見れば、マナさんやよっし~さんと分たれてしまった時点で『死に戻る』ことは確定していたわけですが。
とりあえずはそんなわたくしの咄嗟の判断により、のっちゃんは落下の衝撃で染みとなって『死に戻り』をすることだけは回避することに成功しました。
わたくしの、細かく星くずのようになるギフトもそうですが。
自然そのもの、溶岩の身体となっていたことも幸いしていたのでしょう。
落下の衝撃で崩れはしたものの、再び顕現したわたくしマインや、九死に一生を得たルプレが見守る中。
ゆっくりゆっくりとのっちゃんは、元のあるべき姿を取り戻していって。
「……はっ。こ、ここは? 死に戻っては……いないのか? ルプレっ、ルプレは無事か?」
「お、おぉっ。あたしはへいきだぞご主人。ご主人が助けてくれたからな」
「そうか。ならよかった。……ああ、マインも付いてきてくれたのか。おかげで戻らずに済んだんだな。マナたちとははぐれてしまったが」
みるみるうちに復活を遂げたのっちゃんは、開口一番ルプレの心配をしてくれて。
嬉しさを隠しきれずに照れつつルプレが無事を伝えると、わたくしのことにも気づいてくださり、とりあえず『死に戻り』だけは回避できたことに安堵しつつも、改めて辺りを見回します。
その場は樹々の生えない谷底の岩場のようでした。
足元に、僅かばかり水が流れているのを見ても間違いないでしょう。
「水の流れは、こっちか。よっし~さんたちと合流するなら逆らって進むべきだな。ルプレ、例の赤点はどうだ?」
「あ、うん。……ええと、幸い近くにはいなそうだな。でも、上流にはうじゃうじゃしてる。ここは避けて下流に向かえば人の暮らす場所にいけるんじゃないか……ってか、こういう必要そうなときに限って、選択肢出ないんだもんなぁ。ああ、たぶんあれだな。『りきゃすと・たいむ』があるのかも」
今更になって気づかされたらしい、ルプレ自身のギフトのこと。
確かに言われてみればルプレ言うところの『選択肢』なるものは、頻繁に訪れるものではなくて。
一定の感覚があり、尚且つ出すタイミングをよんでいるようでいてそうでない場合が多かったことを思い出されます。
「気まぐれなんだな。その選択肢ってやつは。言われてみれば全くもって出てこない時もあったよな」
「それは、だって。ご主人が忘れるからじゃんかよぅ」
「ふむ。なるほどです。ルプレのそれは空気を読まずに好き勝手出てくるものかと思っていましたが、
もしかすると主さまに真に求められた時こそ提示されるものなのかもしれませんね」
意識してか、無意識なのかはとりあえず置いておくことにして。
のっちゃんが選択に迫られた時、ルプレが、あるいはのっちゃん自身が思いつく限りの選択肢を。
時に分かりやすく、時に曖昧に表示するものなのかもしれません。
「おー。そんなこと考えたこともなかったな。さっすがあたしらの頭脳担当だ。んじゃさ、主さま、ちょっとここで選択肢呼び出してみてくんね? とりあえずは上を飛んででも戻るか、このまま川沿いに下ってくかをさ」
「……分かった。ちょっとやってみる」
わたくしの考え通り、あるいはルプレの希望通りに自在に選択肢をのっちゃんが出せるようになれば。
それこそ『死に戻り』の頻度を減らすことに繋がるかもしれません。
前世界で気づくことができれば、のっちゃんの『死に戻り』をもう少し減らすこともできたのかもしれませんが。
それに気づくことができただけ、わたくしたちも成長できている、と言うことなのでしょうか。
……とは言っても、本当の意味で『死に戻る』ことを体験し繰り返しているのはのっちゃんだけなのですから、その苦しみ、辛さを共有出来ていない時点でまだまだであり、そう言った意味ではわたくしたちも未だ成長の余地があると言えますが。
(第105話につづく)