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第三十五話~関ヶ原の戦い(六)~

関ヶ原の戦い東西両軍対戦構図

・笹尾山方面

西軍

石田三成

東軍

細川忠興・田中吉政・加藤嘉明・織田有楽斎(天満山北より転戦)・古田重然(天満山北より転戦)


・小池村方面

西軍

福島正則

東軍

島津豊久・筒井定次


・天満山方面

西軍

宇喜多秀家

東軍

松平忠吉・井伊直政・黒田長政・山内一豊(南宮山方面より転戦)・本多忠勝(前線後方より転戦)


・天満山北方面

西軍

小西行長

東軍

東軍中小部隊


・藤川台地方面

西軍

大谷吉継(指揮下に戸田重政・平塚為広ら)

東軍

藤堂高虎・京極高知・寺沢広高(遊撃部隊より転戦)・有馬豊氏・則頼父子(南宮山方面より転戦)


・松尾山方面

西軍

小早川秀秋・朽木元綱・小川祐忠・赤座直保・脇坂安治(朽木・小川・赤座・脇坂は小早川指揮下)


・南宮山方面

西軍

毛利秀元・吉川広家・安国寺恵瓊・長宗我部盛親・長束正家

東軍

池田輝政・浅野幸長


・大垣城方面

西軍(大垣城守備)

垣見一直・福原直高・高橋元種・秋月種長・相良長毎

東軍

堀尾忠氏・水野勝成・津軽為信等

笹尾山から狼煙が上がる。西軍率いる石田三成からの総攻撃を諸隊に命じる合図だ。

「南宮山の毛利勢は何をしておる!やつらが家康の背後を突けば、勝利は確実だというに・・・」

戦場の東で未だ動きを見せない毛利勢に、三成はいら立ちを隠せずにいた。関ヶ原に鶴翼の陣で展開する西軍は、石田隊から小早川隊まですべての翼にあたる部隊が機能して東軍に対して優位に立ちつつあった。

後は南宮山に布陣する毛利勢が動けば、確実に家康を仕留める事が出来る。勝利を収める事が出来るはず。

(もしや毛利殿も家康に・・・)

すでに犬山城を任せていた美濃国の諸将や大津城の京極高次をはじめとして、東軍への内通者が出ている。三成が疑心暗鬼に陥るのも無理はなかった。

「殿の真の御味方は大谷殿・宇喜多殿・小早川殿です」

大垣城を出立して関ヶ原に向かう直前、近寄ってきた島左近がそっと耳打ちをした。

「毛利勢はこの雨の中でも南宮山から降りず、初手から逃げ腰の様子。明確にこちらが優位になるまで動きますまい。安国寺殿が説得に動きましょうが、そこまで期待せずにおきましょう。吉川殿に関しては内通の疑いもありますが、今となっては考えても仕方ありませぬ」

実際に吉川広家は東軍に内通し、毛利勢を釘付けにする役目を果たしているのだが、そこまで気が付かせなかった広家が一枚上手であった。

「小早川も不甲斐ない。数に劣る京極と藤堂を相手に何を手間取っておる」

部隊の運用能力に関しては、家康の方が何枚も上手であった。家康は小早川秀秋隊に対して数に劣る京極高知隊・藤堂高虎隊に対し、寺沢広高隊など遊撃部隊を差し向け、小早川隊の側面を突かせることでその勢いを削がせていた。一万五千もの大軍の小早川隊に対して、正面から挑まずにその勢いをいなす事を心がけさせ、損害を大きくさせないようにした。

(わしと家康、次に有効な一手を打った方が勝つ)

三成が押し切るのか。家康が粘り勝つのか。

轟音鳴り響く前線を睨み、三成は次の策を練り始めた。






桃配山から現在は床几場と呼ばれる地に本陣を移した家康は、地図を睨みながら次々と西軍の攻勢を凌ぐ手を打った。彼女の手元では、各隊に見立てた駒がせわしなく動かされている。

「生駒勢も藤川台地へ。中村勢も右に同じく!」

難敵は小早川秀秋だ。一万五千もの軍勢の勢いを止めるのにすでに四部隊も使い、さらに加勢しようとする大谷隊とその旗下の部隊を防ぐのに家康は一番神経を使っていた。

家康としては、この戦を長引かせるつもりは毛頭なかった。ぐずぐずしていると、今頃大津城を攻略したであろう毛利輝元率いる西軍本隊がここにやってくる。秀忠率いる徳川軍主力部隊の到着がいつになるか分からない以上、敵軍の増援は防ぎたいところであった。

しかし、打てる手はほぼ打ち尽くした。家康本隊を除く前線部隊はすべて動かし、西軍を相手によく戦ってくれている。夫の言う小早川秀秋の寝返りがどれだけ彼の世界の自分(徳川家康)を助けているか身を以て教えてくれている。

(他に打つ手は・・・)

手が全くないわけではない。戦場を描いた地図の東に置かれた二つの駒に目が行く。総勢一万余の浅野幸長隊・池田輝政隊である。

しかしこの部隊は、自分の後方に置かれた最後の守り。これを動かせば自分の背後は無防備となり、また東軍に内応している吉川広家も、東軍劣勢と見て動いて来るのは明白だった。

(私の三万がこの状況で動けば、最終的には西軍に負ける)

今日の戦に勝ったとしても、近日来るであろう輝元率いる西軍と戦わなければならなくなる。家康の本隊三万が無傷であれば、輝元は戦わずして敗北を認める可能性は高い。そもそも輝元は家臣や周りに流されて大津城攻略に乗り出したが、そこまで積極的に家康に対抗する意思はそこまでないのだ。

しかし、家康の本隊まで疲弊した東軍が相手ならばどうだろう。輝元とて戦国大名だ、祖父・毛利元就の遺言に従わんとする保守派の一門や家臣たちの反対を押し切って決戦に及ぶ可能性もある。

しかし、このままではジリ貧であるのも事実。どこかで賭けに出なければならない。






少し時間を遡る。

秀忠率いる徳川軍は、中山道を西に急ぐ。信濃国の山道は、信長や秀吉が使用したこともある東海道に比べると整備がされておらず、悪路が徒歩で進む兵士たちの体力を奪う。そんななかで指揮官たちは、馬で隊列を巡回しながら兵士たちを叱咤していく。

「式部殿、御役目御苦労様にございます」

「新十郎か。君の御苦労様だね」

額に流れる汗をぬぐいながら康政に馬を寄せてきたのは大久保忠隣。康政は部隊に休息を命じ、馬から降りて近くの切り株に腰かけた。竹筒から水分を補給し、一息つく。

「ふぅ・・・」

忠隣も同じように水分を補給する。ちなみに彼女を含め、兵士たちが飲んでいるのはただの水ではない。

「それにしてもこの『すぽぉつどりんく』なる飲み物は、不思議な味がしますね」

「砂糖がいるから大量生産できないのが難点だけどね。お兄ちゃんの指示で兵士たちも塩分も欠かさないように命じているし、落伍者が少ないのは助かるね」

あらかじめ秀忠軍の物資には、当時貴重だった砂糖が用意されていた。長時間の徒歩の移動が強いられる行軍中、秋になり涼しくなってきたとはいえ、兵士たちの中で体力の低下などによる落伍者が出ないとも限らない。焼け石に水かもしれないが、水と塩、砂糖に果物などの果汁で作った『スポーツドリンク』を作る事で兵士たちの体力回復を図ったのである。無論、四万人に近い人間全員に配る事は不可能なので、歩兵と康政ら指揮官格を中心に配られる事になったが。

「天気にも恵まれた(・・・・・・・・)ね。これが雨だったらもう少し遅くなっていただろうね」

「川の水量が少なくて、橋を架けずとも渡る事が出来てよかったです」

二人は竹筒に蓋をして立ち上がった。その時、忠隣が思い出したように口を開いた。

「ああ、そうそう。五郎太様の軍勢が松本城を囲んだ(・・・・・・・)との由にございます」

「五郎太様は張り切っていたものね。真田が油断ならないけど、安藤や青山がお守りしているし、たぶん大丈夫でしょ」

小者に曳かせていた馬に跨ると、兵士たちに出立を命じた。

「さぁ急ぐよ、関ヶ原へ!」







時として天候は、歴史を左右する。

人の心もまた、歴史も左右する。

史実で起きなかったことが別の世界で起こり、歴史を塗り替えようとしている。

「急げ急げ!千年の後に残る大遅参で未来永劫の恥辱を受けたくなかったら、足が取れても走れ!」

「いい加減くたばりやがれ!お前らは俺の前に負ける運命なんだよ!!」

二人の迷い人は叫ぶ。己の勝利を掴むために。

己の未来を掴むために。


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