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現代にて~その②~

江戸城大奥。かつて将軍に仕える多くの女性たちが居住し、将軍のハーレムが築かれていたこの空間。二十一世紀になったこの時代は、将軍の家族のプライベート空間となっていた。その最奥、『裏書院』と呼ばれる特別な一室に徳川幕府第二十代将軍・徳川家盛(とくがわいえもり)と部屋の主にして徳川家の祖の一人である鷹村聖一は談笑をしていた。

「ところで裏書院様―――」

この国の元首である将軍家盛であるが、徳川家の生き字引である聖一には敬意をもって接していた。

「お愛の連れ合いの事でございますが―――」

家盛の長子にして将軍家相続人である徳川家愛(とくがわいえちか)は今年の春で十六歳、高校生になる。活発な言動でお付きの西の丸老中たちを振り回している彼女だが、婚約の話が持ち上がってきていた。

「どれどれ・・・大名諸侯に旧摂関家、外国の王族からも来ていますね」

「我が子ながら、容姿だけはようございますからな」

現代の征夷大将軍は親バカでもあった。

「二十一世紀となった今、親の意向でお見合いなんていうのは古いのかもしれません。あまり遅くなるのも困りますが、本人の好きにさせてはどうでしょうか?クラスメートの豊臣家の若君と仲がいいようですが」

「・・・豊臣家にございますか」

家盛の顔が複雑にゆがむ。

江戸開府以降、徳川家と豊臣家は幾度となく開戦寸前の緊張状態に陥ったことがあった。家康による秀忠への将軍職譲渡、家康の死後、幼くして四代将軍に就任した家綱の就任直後・・・幾度となく豊臣家と緊張状態に陥っては、その都度回避されてきた。

摂家豊臣家の嫡子である豊臣秀恭(とよとみひでたか)は将軍家嫡子である家愛とはクラスメート。徳川の姫君は学内で豊臣の若君をも振り回して回っているともっぱらの評判のようだ。

「今更ではないですか。上様のおばあ様は、豊臣家から嫁いできた方ですよ」

「それは存じておりますが・・・」

頭で理解していても、心が納得しないという事だろう。

(秀恭殿は好青年だし、流されやすいところを除けば特に問題もないし大丈夫でしょう。上様の心も動かせるはず)

「・・・ところで上様。右の頬に大きなモミジの葉がついておりますが?」

ちなみに今の季節は夏。紅葉には少し早い。

「・・・そういえば上様?最近事務部のミキちゃんのお腹が大きくなったように思うのですが・・・彼女たしか、まだ二十歳を迎えたばかりだったと記憶しているのですが」

将軍、目が泳ぐ。

「未婚だったと記憶しているのですが・・・」

将軍、ダラダラと滝のように汗を流して落ち着かない様子。

「・・・・・・・・」

将軍の異変を察し、聖一は大きくため息をついた。

「ミキちゃんに、手を付けましたね」

現代日本において、大手を振って愛人を囲っているのは徳川幕府将軍ぐらいである。しかし愛人―――昔でいうところの側室を持つのも、将軍正室である御台所の許可を得て、しかるべき審査を経てからになる。現代の将軍であるこの家盛も無能ではないが、いささか女性に対して手が早いのが玉にキズであり、たびたび週刊誌などのネタになっている。

「裏書院様、その」

「分かりました。御台様には私が話しておきます。上様はミキちゃんを粗略に扱わず、生まれた子をちゃんと認知なさいませ」

日本の頂点に立つ将軍家当主といえどもひとりの人間。何らかの欠点はある。聖一はその欠点や不祥事を尻拭いしてきたのである。

代々の将軍は、尻拭いをしてもらった聖一には頭が上がらないのである。



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