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第七話~切り崩し~

摂津国茨木城主・片桐市正且元(かたぎりいちのかみかつもと)は『賤ヶ岳の七本槍』のひとりであり、現在は秀吉の側近として豊臣家の禄を食んでいた。しかし『側近』と言えども、仕えるべき主君が病と称して奥に退き、実権を奉行衆に握られている今、側近とは単なる閑職に過ぎなかった。

ある日の事。夜遅く、彼の大坂屋敷に来客があった。

「このような遅くに邪魔をする。事が事ゆえ、時間を選ぶのじゃ」

「お気になさらず。徳善院殿、よう参られました」

片桐邸を訪問したのは奉行のひとり・前田徳善院玄以。政務を預かる法体の男は、何やらオドオドと周りを見渡しながら、足早に且元に従って屋敷の中に入っていった。






「市正に相談したいことがあってな」

玄以は用意された膳を平らげ、一息ついた後に口を開いた。

「事は重大ゆえ、わしがそなたを見込んで相談しておると心得てほしい」

「御意」

つまりは『口外無用』というわけだ。

「加賀大納言殿の事じゃ」






玄以は且元にすべてを話した。前田利家が姦計を以て大坂城におびき出されて大谷吉継に捕らわれたこと、秀吉も恐らく吉継によって捕らわれている事。そして吉継は恐ろしいことを計画しているという事―――

「その事を、他の奉行衆は?」

「知らぬ。恐らく知っているのは大谷殿と石田殿。長束と増田も不思議に思っておったわ」

彼は顔を青ざめさせ、寒気を覚えたように震えていた。

「・・・わしはもううんざりじゃ。殿下は治部により押し込みにされるわ、前田殿も無頼の輩に捕らわれるわ・・・内府殿に何の罪があるのか。治部や刑部は狂っておるとしか言いようがないわい」

「ならば、前田殿が殿下をお救いすればよろしいのでは?」

「・・・殿下は、すでに幽閉場所から移動されておった。三成が解任されてからの話じゃから、刑部が移動させたのであろう」

心労が溜まっていたのだろう。そこまで吐き出すと玄以は大きくため息をついた。

「加賀大納言様の幽閉場所がお分かりなのなら、すぐさま内府殿に御進言仕るべきでしょう」

「やはりそうか・・・」

「御自らで解決できないのなら、大きな力を頼るべきです。また、それが前田殿を助ける事になるでしょう」

「わしを助ける、とは?」

且元はグイ、と身を乗り出し、真剣な顔つきで宣言した。

「治部少殿はいまだ内府殿の討伐を諦めてはおりますまい。しばらくせぬうちに天下を巻き込む大乱が起きましょう。内府殿と治部少殿、どちらが勝利を収めるかはわかりかねますが、貴殿はこれまで内府殿と敵対する立場にあったお方。ここでひとつ、内府殿に恩を売っておくのも悪くはありますまい」

「心証を良くしておくという事か」

首肯した且元に、玄以は思案顔を浮かべた。

「・・・相分かった。そなたの助言で、少し救われた気がする」

玄以は何やら決心した様子で、顔の血色も少しはよくなっていた。






片桐邸を訪れた数日後。玄以は大坂城西の丸の家康を訪問した。表向きは九州で勢力を広げているキリスト教徒に不穏の動きがあるという報告であった。

「内府殿に別して言上したき議がございまする」

玄以は人払いを要求し、意を決して報告した。加賀大納言前田利家がこの城の某所に監禁されている事。秀吉がすでにこの城から移送されている事―――

報告を受けた家康は、玄以に怪しまれないように普段通りに行動するよう助言して下がらせた。

「・・・・・・」

一人残った家康は、瞑目して思案を巡らせた。


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