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幕間 その頃の勇者達

「はああああああ!」

「せい!」


一人が剣を振り上げ切りかかる。そしてもう一人が横から薙ぎ払う。


「ふん!」


相手の体格のいい男が上からの攻撃を剣で受け止め、横からの攻撃を縦で受け止める。


「はあ、はあ・・・」

「くそっ!またダメだったか・・・」

「いや、中々筋がよくなってきたぞ」


「本当ですか?ありがとうございます」

「一本取れなければ意味がないですよ・・・」


異世界に召喚され一週間。


ここはイシュタール城の外にある訓練場所。


ほめられて素直に受け取った男・光輝と、一本を取れずに悔しがっている男・将明が騎士団長を相手に剣の訓練をしていた。


「お疲れ様です。どうぞタオルです」

「お疲れ様。かっこよかったよ」

「・・・お疲れ様・・・」


二人の訓練をずっと見学していたアンジェ姫と、自分たちの訓練が終わり一緒に見学していた葵と弥生が声をかけた。


「ありがと、アンジュ。いや葵、かっこよさを追求してるわけじゃないから」

「ああ、そうだな。俺たちは強くなる為に訓練してるんだよ」

「もちろん、それはわかってるよ」


かっこよかったと言われそれを苦笑しながら光輝は否定する。


わかってはいるが素直に思った事を口にした葵も笑顔で応える。


光輝がアンジェ姫をアンジェと呼んでいるのは、アンジェ自身がそう呼んでほしいと頼んだからだ。


「お世辞じゃなく太刀筋はよくなってきている。近衛兵くらいでは数人がかりでも、もう相手にならないだろう」

「そうですか?あまり実感はありませんが」


「ああ、俺もうかうかしているとすぐに抜かれてしまいそうだな」

「ははっ、そんなことはないでしょう」

「そうですよ、まだまだ全然です」


騎士団長にさらにほめられ、否定しながらも照れる光輝と将明。


「*****癒しの光 キュアー」


呪文を唱え二人に回復魔法を使う葵。


「どう?疲れがとれた?」

「ああ、すごいな。いつの間にこんな魔法を・・・」

「さっきまでの疲れが嘘みたいだ」

「そうでしょ?二人も頑張っているし、私も負けていられないからね」


葵が訓練していたのは神聖魔法。


主に回復を中心とした補助魔法の訓練である。


キュアーは回復魔法の中では中級に値し、怪我を治すことはもちろんの事、体力の回復もできる。

ヒールの上位の魔法である。


「・・・私は戦い以外では使い物にならない・・・」

「何言ってるの。弥生もすごい頑張ってるじゃない。中級の炎魔法を習得したんでしょう?」


「・・・うん」

「そうですよ。光輝様、将明様、葵様だけじゃなく弥生様もすごい速さで上達しているんですよ」


弥生が悲観的に言った事に対し、葵とアンジェがそれを否定する。


実際、弥生は攻撃魔法を中心として幻惑や障害などの魔法を訓練していて、王国魔道士のレベルにまで達している。


「そうさ、弥生だって頑張っている事は知っている。皆で魔王を倒し元の世界に戻るって決めたじゃないか」

「そうだな、弥生の力もないと俺たちだけでは厳しいさ」

「・・・ありがとう」


光輝と正明も恵を慰める。


「そういえば、頑張っているといえばあいつ、星野はどうしているんだろうな」

「・・・うん、元気にしているのかなぁ?心配だね・・」

「・・・うん、心配」

「どうしてあんなやつを心配する必要がある?」


ふと思い出したように響也を気にかける光輝の言葉に、心配を隠せない葵が答え弥生が同意する。

それに対し、少しだけ不快な口調で将明が聞き返す。


「だってクラスメイトじゃない」

「クラスメイトっていうだけでそれ以外接点はないし、自分から出て行ったんだ。心配する事はないじゃないか」


「そうだけど・・・」

「・・・・・」


クラスメイトだからという少し濁した言葉で説明した葵をさらに将明は否定する。

そのやり取りを黙って聞いていたアンジェが少し俯いた。


「アンジェが気にする事じゃないんだよ」

「ああ、ごめんねアンジェ。そうだよ、アンジェが責任感じることはないよ」


「・・・ありがとうございます。そう言っていただけるのはありがたいことですが、私が召喚した事に変わりはありませんので・・・」


光輝と葵がフォローするがアンジェは責任を感じずにはいられなかった。


「・・・そうだ、汗かいたしお風呂に行こうよ。アンジェも一緒に入ろう!」

「そうだね、お風呂に使ってリフレッシュしようか」

「・・・賛成」

「俺も汗かいたし、お風呂で汗をながそう」

「はい、ご一緒させていただきます」


葵が話を帰るためにお風呂に行く事を提案する。


光輝と弥生、将明がそれに賛同し、アンジェも一緒にお風呂に入る事にした。


もちろん風呂は男女別である。


「では参りましょう」


アンジェに連れられて騎士団長を除く4人が一緒に付いて行った。


その光景を城の窓から覗いている人物がいたのだが、ここにいた全員がその視線に気づく事はなかった。



「はあ~、癒されるね~」

「そうですねえ。体が温まりますね」

「・・・気持ちいい」


女子風呂にて葵とアンジェ、弥生が体を癒している。


「ところでアンジュ。随分光輝と仲良くなってない?」

「え?そ、そんな事ないですよ?葵様方と同じくらいですよ?」

「なんで疑問系なの?」


葵からの唐突な質問にアンジェは若干うろたえてしまった。


「・・・確かに私たちとは距離感が違う気がする」

「え?え?弥生様まで何をおっしゃるのですか?」

「そうだよねぇ。特に光輝を見る目なんて輝いているもんね」


「そ、そんな事は・・・」

「ないって言うの?」


「・・・確かにそうなのかもしれません。私は勇者様に憧れていました」


弥生と葵に詰め寄られてアンジェは自分の気持ちに向き合ってみた。


「幼い頃からお父様に勇者様のお話を聞かされ、魔王に立ち向かい人々を平和へと導く姿を夢見ておりました。その勇者様がこうして目の前に現れ、それが態度に出てしまっていたのだと思います」

「・・・そっか、勇者を心待ちにしていたんだもんね」


「はい、私も命を賭けたかいがありました」

「最初に王様も言っていたけど、勇者召喚はそんなに危険な事だったの?」


「・・・はい、それなりの魔力が必要である事、召喚に耐えられる精神力等、様々な条件がそろって初め成功させることが出来ます。それがあっても確実に召喚できるとは限らず、今まで何人の方も亡くなっております」

「そうなんだ・・・」


葵はこの世界の人達は命を賭してまで自分たちを召喚しなければならないほど、切羽詰った状況だということを理解した。


もちろんそれはアンジェ自身にとっては偽りのないことであり、縋る思いで行った召喚でもあった。

それは幾重にも交差した思いにより行われた召喚だという事は思いもよることはなく。


「じゃあ私たちはアンジェの思いに応えて、早く魔王を倒し平和にしないといけないね」

「・・・そうだね」

「ありがとうございます・・・」


葵と弥生は自分たちが元の世界に戻る為だけではなく、アンジェの為に魔王を倒す事を決意した。

アンジェも二人の気持ちが嬉しくなり目に涙を溜めて感謝をした。




その頃、男風呂では。



「はああああ、生き返る~」

「本当になぁ、異世界でもこんなに大きなお風呂があってよかったよなぁ」

「ああ、葵に体力を回復してもらったけど、お風呂で癒されるのとはまた別だしな」


かなり広い浴室なのだが、今は光輝と将明の二人だけが入っていた。

騎士団長はまだやる事があるらしく一緒には来ていない。


「そういえば、光輝はアンジェと距離が近くなってきているみたいだな」

「はぇっ?な、な、な、何言ってるんだよ!」


将明からの予期せぬ質問に変な声が出てしまう光輝。


「だって最初に比べて、お互い見る目が温かいだろう」

「何言ってるんだよ!気のせいだって・・・」


「別にいいんだよ。光輝が誰を好きになろうと、俺は応援するだけさ」

「将明・・・」


「ただ、葵はどうするつもりなんだ?葵の事好きだったんだろう?」

「・・・正直・・・よくわからないんだ」


「よくわからない?」

「ああ、確かに俺は元の世界にいた時は葵の事が好きだったと思う。・・・ただ葵は、俺に男として好意を持ってなかったように思う」


「・・・・・」

「アンジェはアンジェで俺というより、勇者としての俺に好意を抱いているんだと思う」


「そう・・・なのかもな・・・」

「それでもいいんだ。勇者としてではなく一人の男として強くなって振り向かせて見せると決めたんだ!」


「そっか・・・頑張れよ」

「ああ、サンキューな!」


それ以降は特に言葉を交わすことなく、ゆっくりと浴槽に浸かってから風呂場を後にした。


男湯と女湯の出入り口から、光輝とアンジェがほぼ同時に出てきた。


お互い目が合い、二人ともさっきの自分たちの会話を思い出し照れて目を背けてしまった。


後から出てきた3人はその様子を眺めてほほえましく見守っていたのだった。





大分時間が空いてしまいました。しかも本編ではなく、申し訳ございません。

次からまた本編を載せていこうと思います。

少し時間がかかるかもしれませんが。


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