第7話 後悔そして絶望・・・
翌日、俺は宿屋の娘さんに挨拶をすませ、キッチンの親父さんにも声をかけておいた。
この一週間食べられるときは親父さんの作った料理を食べたのだが結構おいしかった。
よかったのは、シチューのような物やパン・パスタのような物など、俺の世界になじみのある食べ物に近い物が多かった事だ。
ただ洋風がほとんどらしく、和食に近い食べ物はでることがなかった。
宿を出て向かったのは武器屋だ。
武器屋の親父さんにもかなりお世話になった。
俺は武器による戦いになれていなかった為、最初の頃は刃こぼれを作ってしまい磨いでもらっていた。
本来であれば料金も発生するのだが、俺が手に入れていた魔物の素材を分けてあげたていたりしたためタダで磨いでくれた。
親父さんには初心者用の剣やジャンク品の武器じゃなくて、もう少しいいのを買ったらどうだと言われたのだが、俺はまだ技術的に未熟だと考えそのまま使っていた。
しかも今では武器に魔力を這わせて、刃こぼれをおこさないようにする事ができているので今の武器で十分だ。
親父さんに餞別として、道中食べられる燻製肉や薬草(解毒草等も含め)を持たせてくれた。折角なので素直にもらっておく事にして、またこの街に来た時には珍しい素材等を譲る事を約束した。
次に向かったのはギルドだ。
サリナさんにはお世話になったのは当然の事、買取をしてくれていた人・ミューラさんにもかなりお世話になっていた。
というのも、素材の買取が他のハンターとは比較にならないほどだったらしいのだが、俺は大事にしたくなかったので穏便に済ませたいという願いを聞き入れてくれていた。
そのためギルド職員以外にこのことが漏れないようにしてくれていたのだ。
先にミューラさんに挨拶をしておこうと思い向かったのだがサリナさんが、今は奥の部屋にいるので呼んできますというので、俺は調度いいので自分で行く事にして部屋へ足を運んだ。
そこはミューラさんの買取の帳簿などをつける部屋らしく、ノックをして中に入ると一生懸命帳簿とにらめっこをしていた。
俺の顔を見ると笑顔で買取の事か尋ねてきたが、今日でこの街を去ることを伝えると少し残念そうにしてくれた。
ただ俺がいなくなって残念な理由は、俺とルチだけで他のハンター数人分以上の素材をもってきたので、足りなかった素材等も充実してきたからだそうだ。
ミューラさんに色々してくれた御礼として、露天で魔物除けとして売っていたペンダントを渡しておいた。俺も魔眼で見ておいた上ガブリエルにも確認してもらい、あまり強くはないがきちんと効能があるものを選んでおいた。
ハンターから何か贈り物をされる時は交際を申し込まれるとか気を引きたい時くらいらしく、俺が他意はなく面倒をかけた御礼として贈った事に素直に喜んでくれた。
部屋を出て、サリナさんにも俺が今日でこの街を出る事を伝える。
サリナさんも最初は驚いていたが、ハンターがずっと同じ街にいるということもないために納得はしていたようだ。
ただ、こんなに早く出るとは思っていなかったらしい。
サリナさんにも露天で買っておいた、魔除けのこちらはイヤリングを渡しておいた。
サリナさんには色々教えてもらったし、最初にゴタゴタがあってから常に気にかけてくれていたからだ。
特にギルマスが俺と接触しようとしたときには、かなり警戒していてくれたようだ。
ギルドのトップに警戒するってどうなのだろうか。
サリナさんも明らかに下心がある贈り物しか出されたことがないらしく、俺からの御礼の品には喜んでくれていた。
「ありがとうございます!大切にしますね。・・・あ、そうだ!キョウヤさん。ちょっと耳を貸してください」
と言ってきたので何か内緒話でもあるのかと耳を貸し、サリナさんが周りに聞こえないように手を添えて・・・
ちゅっ!
!!!!????
え?今何が起こった?why?
俺の頬に柔らかい物が・・・
「贈り物のお返しと、これからの旅の安全祈願です。・・・こういうこと誰にでもする訳ではないので、勘違いはしないでくださいね」
と、俺が目を白黒させているところに、顔を真っ赤にしながらサリナさんは笑顔で見送ってくれた。
サリナさんは気さくないい人だからお別れの挨拶をしてくれたのだろうと自分に言い聞かせる。
さすがに自分に惚れているなどと自惚れるつもりはない。
そういや、ギルマスには会っていないな。・・・まあ別にギルマスはどうでもいいか。
俺にしては珍しく少し名残惜しいなと思いながらギルドを出て、数日分の食料や野営道具の買い出しをした。
次に向かう場所はここから北東に10日くらい歩いたところにある、イシュタール国領土内の街フランブールだ。
イシュタール領を出るだけでも、歩くと20日くらいはかかってしまうらしい。
早く他の種族と会ってみたいから、そのうち移動がスムーズに出来るように何か考えないといけないが、とりあえず最初はゆっくりと行こうと思っている。
他に着替えを何点か買い、防具として金属鎧は長旅に向かないのとあまり好きではないために、見た目がよかった布の鎧と外套を買っておいた。
もう大体用意は終わりルチ達が見送りに来るといっていた時間までもう少しだったので、露天で買った串をつまみながら門の近くのベンチに腰をかけて待っていた。
・・・
・・・・・
・・・・・・・・
どれくらいたっただろう。
俺が座ったときには陽が真上にあった筈が、今はそこから大分動いている。
すでに2、3時間はたっただろう。
確かに時間は決めてはいない・・
それにしても遅すぎる。
俺に愛想を尽かしもう会いたくなくなったとか?
いや、そうだったとしてもルチの性格からして俺に会って直接言うだろう。
ドクン!
・・・何かに巻き込まれた!?
今、一瞬嫌な事が脳裏に過ぎり心臓が大きく脈を打った。
ドクン!ドクン!
何か胸騒ぎがする。
駄目だ、変な事を考えるな。
(・・・きっと二人とも大丈夫だよ~・・)
(ああ、そうだよな。悪い事を考えすぎだよな)
悪い方向に考えを持って行ってしまい顔に出ていたのだろう。
ガブリエルが俺を心配そうに声をかけてくれた。
大丈夫だ。
きっと二人とも疲れて寝坊しているだけだ。
そう自分に言い聞かせて俺は貧民街にあるルチの家へ向かった。
貧民街へ入るとやはり視線と気配を感じるがそんな事はどうでもよかった。
それでも俺は視線をかいくぐり、後をつけられないよう注意しながらルチの家に入った。
全く人の気配がない。
そのままいつもルチとロキがいた地下室へ向かい、部屋のドアを開けた。
「ルチ!」
・・・・・・
――――――――――――――――
これから住む事になるだろう新しい部屋を出て、荷物をまとめる為に貧民街の家へと向かう。
正直お金の事など不安はあるが、これからの生活を考えると心が躍る。
しかしキョウヤがいなくなると考えると胸が締め付けられる。
キョウヤは送ってくれると言っていたが、今日はこれ以上キョウヤの顔を見ると涙が出てしまいそうで、そんな顔をみせたくはない。だから明日見送りに行くから今日は大丈夫と断った。
ロキはまだキョウヤと一緒にいたそうではあったが・・・
貧民街の自宅へ向かう。
まだ会ってから一週間も経っていないのに、キョウヤは私たちのことを色々と考えてくれていた。
キョウヤには全く関係のないことなのに・・・
逆に私はどれだけキョウヤのことを考えてあげいたのだろう・・・
いや、何も考えていなかった・・・
何一つ知ろうともしていなかった・・・
どうせ他の人と同じように、いいように使われ最後には簡単に捨てられる・・・
今まではそれが当たり前であった。
生活をする為のお金が手に入るのであれば、別にそれでいいと考えていた・・・
だから自分からはあまり積極的に近づこうともしていなかった・・・
それなのにキョウヤは・・・
今考えてみるとキョウヤの行動はおかしかった。
盗みに失敗し自警団に突き出されるのかと思いきや、街を案内しろと言われ、牢屋に入らずに報酬が貰えるのであればと思い引き受けた。
街の案内をして報酬を貰ってそこで、はいさよならとなるはずだった。
なのに気づけばハンターになっていたし、一緒に魔物も狩っていた。
魔物を狩るときもキョウヤ一人で十分そうであったのに、なぜか私にも戦わせていた。
というより、最初の頃はキョウヤ自身が自分の力を試していたような節があったのだが、途中からは私がメインでキョウヤがサポートに回っていた事が多かったように思う。
それも今思えば、キョウヤは自分がこの街を出る事を考えていて、キョウヤがいない状態で私が犯罪をしなくても稼ぐ事ができるように力をつけさせてくれていたのだろう。
街に戻って換金すれば、私は大したことしてないと思っていたのに半分もくれた・・・
露天で食べ物を大量に買っていたから、随分食べるのだなと思ってみれば、ロキや私の分まで買ってくれていた・・・
そして私の知らない間に物件探しまでしてくれていて・・・
ここまでお膳立てされていたなんて・・・
-あんたの決めた事に従えとでも!?-
違う!違うの!
本当ならあんな事言うつもりも無かった。
その後の言葉も口が止まらなかった・・・
今まで自分たちにそんな事をしてくれる人がいなかった・・・
嬉しかった。
でもだからこそ、色々してくれたキョウヤにこれ以上借りを作りたくは無かった。
返す事のできないくらいの恩を貰ったのだから・・・
そしてその恩を返す事も出来ずにキョウヤはいなくなる・・・
その事を考えると苦しくなる・・・
ああ、私の中でこんなにもキョウヤの存在が大きくなっていたんだ・・・
ロキも懐いていたし、いなくなると聞いたときは寂しそうだった。
いかないで・・・
この街にずっといてほしい・・・
私たちと一緒に・・・
そんなことは口が裂けてもいえない・・・
キョウヤは最初から決めていた事なんだ。
それにキョウヤには何か目的がありそうだった。
なのに自分の感情だけでキョウヤを引き止める事なんて出来るわけがない・・・
はあ・・・
こんな気持ちになるんだったらキョウヤと出会わなければ・・・
何バカな事を考えてるの!
今までの生活から変われるきっかけをくれた人に対してなんて事を・・・
本当に自分が嫌になる・・・
ロキの為にも、そしてこれから明るい生活を生きる術を与えてくれたキョウヤの為にも、頑張らなくちゃ!
キョウヤがまたこの街に戻ってきてくれた時に、私たち二人で笑顔で迎えてあげられるように・・・
思っていた以上に私の中でキョウヤのウエイトが大きかったようで、随分考え込んでしまっていた。
貧民街に入り危険が伴う為、ずっと手を握っていたはずのロキに意識を向けたのだが、気が付けばいつの間にか手が握られておらずロキの姿も見えない。
え・・・?
ロキ・・・?
ロキどこに行ったの!?
さっきまで隣にいたはずのロキがいない。
周りを見渡してもロキの姿が見えない。
言いようのない不安に押しつぶされそうになった。
何が起こるかわからないこの貧民街で気を抜いてしまったことに後悔する。
いや、ロキは街の中に出たとき家の中にいては見る事の出来ない町並みや公園、露天なんかを楽しそうに見ていた。
もしかしたらそこにいるのかもしれない。
そう思いなおし、今来た道をそのまま走って戻り街の中まで出てくる。
「ロキ!ロキ!」
露天・公園・店の中・・・
思いつく限りを探しまくった・・・
息切れがする・・・
でも、見つかるまでは立ち止まるわけにはいかない・・・
家に帰ると、お姉ちゃんお帰り!と出迎えてくれたロキの笑顔と声・・・
怪我をして帰った時の心配そうなロキの顔・・・
キョウヤが来てくれる様になってから、兄が出来たようで楽しそうだったロキ・・・
そして、これからの生活に期待して嬉しそうだったロキの笑顔・・・
今までのロキの顔や声が頭の中で思い起こされる。
ダメだ!こんな事考えてちゃ!
ロキはきっと大丈夫!
お姉ちゃん心配しすぎだよ。とまた笑顔で言ってくれるはずだ。
もう街の中で思い当たる場所は全て見た。
後は貧民街しかない・・・
最悪の光景が頭に浮かぶ・・・
まだきっと大丈夫!
自分に言い聞かせ、体を奮い立たせる。
急いで貧民街に戻り路地裏を中心に走り回る。
路地裏には変な連中がたまっているが気にしている暇はない。
しかし一向に見当たらない・・・
途中で明らかにやばそうな輩3人が立ちふさがった。
「ぐへへっ!よう!こんな時間に嬢ちゃん一人でかけっこかい?俺たちとちょっと遊んでいかないか?」
「あんたたちに構っている暇はない!」
「おおう、気の強そうな嬢ちゃんだな。とりあえず身につけている物全部置いていったら見逃してやるよ」
「うるさい!邪魔!」
ドン!
「ぐえっ!」
一瞬で真ん中に立っている男の前に移動し腹に一撃入れる。
その男は一発で沈んだ。
「て、てめえ!何しやがる!」
これまでならこんなやつらでも恐かったのだろうけど、キョウヤと魔物を相手にしてきた今となっては全く恐くない。
「あんたたちに構っている暇はないと言ったはず!」
「うるせえ!こうなりゃ、わかってんだろうな!・・ひっ!」
それ所じゃない私には気持ちの余裕はない。
射殺すような目で睨むと男たちは怯んだ。
「こ、この女!やばい目をしてやがる!」
「あ、ああ。手を出したら危険だな・・・」
残っていた二人は後ずさる。
怒る気持ちを少し抑え、男たちに尋ねることにした。
「ちょっと、聞きたいことがある。この辺で私より年下の男の子を見なかった?」
「い、いや、見てねえよ」
「俺も見てねえ・・・ああそういえば、子供は見てねえがさっきここらでは見かけない綺麗な服なんかを持ったやつらがいたな」
私の一撃と一睨みにより、男たちは素直に応えた。
「!!そいつはどこに行った!どんなやつだ!」
「く、くるしい・・・離してくれ・・」
応えた男に襟首を締め上げ詰め寄った。
つい力が入ってしまった手を緩めて男の言葉を待つ。
「ごほっごほっ!・・・はあはあ、向こうの方だよ・・・髭面で長身の男とそれの取り巻きみたいなやつらが3人ほどだ・・」
それを聴いた瞬間に男を投げ捨て走りだした。
男が言っていた方向に全力で走る。走る。走る。
角を曲がり、さらに路地裏を抜ける。
・・・ん?
今通り過ぎた細い横道に何かが・・・
すぐに戻り横道に入っていく。
・・・・・
ドクンッ!
白い何かが横たわっている・・・
ドクンッ!ドクンッ!
心臓がコダマしているのではないかというくらい音を立てる。
震える足をごまかしながら横たわった何かに近づく。
ドクンッ!
・・・人だ・・・
何も身につけていない状態でうつ伏せに寝ている。
心臓に手をやり服をギュッと握る。
・・・まさか違うよね?
ゆっくりとうつ伏せに寝ている人を仰向けにして顔を見た。
・・・あ・・・あ・・・う、嘘だよね・・・
・・・嘘だといって・・・
・・・私を・・驚かせようと・・しているんだよね・・?
・・・また・・・お姉ちゃんと呼んでよ・・・
しかし、それは何も返事はしなかった。
それは変わり果てた姿をしたロキだった。
ロキは暴行を加えられた後があり、身包みを全てはがされて捨てられてしまっていた。
ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
もう現実が受け入れられなくなり泣き崩れてしまった。
私のせいだ!!
新しい服を着替えさせるのを忘れてしまった!
キョウヤは私が戻るときには服を戻しておけと言っていたのに!
これからの生活に舞い上がっていた事、キョウヤがいなくなってしまうということ。
未来の事に気を取られ、現在の事に気が回らなかった!
私のせいだ!私のせいだ!
ロキの笑顔を奪ってしまった!
ロキの未来を奪ってしまった!
私のせいで!私のせいで!
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
しばらくして私はロキを抱えて自宅に戻った・・・
地下室のベッドにロキを寝かせた・・・
ベッドの横のイスに座りずっとロキの顔を見ていた・・・
どれくらいそうしていたのだろう・・・
どのくらいの時間がたったのだろう・・・
もう何もする気にならなかった・・・
ロキのいないこの世界で生きていく意味はあるのだろうか・・・
このまま私も死んでしまおうか・・・
そう考えていた時・・
バンッ!
「ルチ!」
――――――――――――――
部屋に入るとそこにルチはいた。
ベッドにはロキが寝ている。
よかった、ただロキが寝ていて中々起きなかったんだな?
それで遅れてしまったんだな。
そう思いルチに声をかけようと思ったが、二人の様子が明らかにおかしかった。
ルチはこちらを見ないしロキを見ている目がうつろだ。
ロキもただ寝ているしては何か変だ。
声をかけることに躊躇してしまったが、なんとか声を出す。
「・・・ルチ?」
「・・・」
「家にいたんだな。中々来ないからどうしたのかと思った」
「・・・」
「・・なあ、どうした?何かあったのか?」
「・・・(うるさい)」
「なんだって?」
「うるさいって言ってんのよ!ロキが安心して寝れないじゃない!」
「はっ?何を言って・・・」
ロキは寝ている。ルチは何を言ってるのかわからずロキを見たら、生気が感じられなかった。
・・・え?・・・なんだ?
・・・どういうことだ?
・・・いったい何が起こっているんだ?
訳がわからない。
「・・・ロキ?・・・もう昼だぞ?・・・いつまで寝てるんだ?」
手の込んだ冗談だろうという希望を込めて、ロキに声をかけ頬に手をかけた。
その俺の行動にルチは唇を噛んでいたのだが、気づいてはいてもはっきりと気づく事ができない。
・・・目を開けない・・・
・・・息をしていない・・・
・・・心臓が動いていない・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・死んでいる?・・・
何だこれ・・・目の前の光景を受け入れられない・・・
昨日まで元気にしていたはずなのに・・・
どうしてこうなった・・・
ロキの体をよく見てみると、あざが出来ていた。
暴行を受けた事によるものだということがわかった。
・・・俺が間違っていたのか・・・?
・・・俺がルチと出会わなければよかったのか・・・?
・・・出会ったとしてもルチに関わらなければこんなことにならなかったのか・・・?
・・・ロキを紹介してもらわなければよかったのか・・・?
・・・貧民街から出そうとした事への罰なのか・・・?
頭の中で答えの出ない自問が繰り返される。
(違う!違うよ~!絶対にそんなことはないよ~!)
ガブリエルが俺の考える事を涙目になりながら否定して言ってくれているが、頭には入ってこなかった。
「・・・なあ、何があったんだ?どうしてロキは・・・」
ようやく頭の中を駆け巡っていた考えを振り払い、どうにかルチに声をかける事ができた。
―――――――――――――――――
「・・・あんたのせいよ」
「・・・」
「・・・あんたと出会わなければこんなことには!」
(違う!そうじゃない!キョウヤのせいじゃない!)
「・・・そうか・・・」
(そんな顔をしないで、キョウヤのせいじゃない!)
「あんたが余計な事をしなければロキがこんな目に合うことはなかった!」
(なんで・・なんで私はこんなことを・・・)
「・・・そう、だよな・・・」
「・・昨日あんたと別れた後、私たち二人とも気が緩んでいて貧民街で私が少し目を離した隙にロキがいなくなった・・・」
(そうよ、私が目を離したせいじゃない!)
「・・・」
「私はロキを探して街中を探し回った。ようやく探し当てた時にはロキは・・・なんで!なんで私たちに関わったの!ロキをここから連れ出さなかったらロキはこんな目には!」
(こんな事をいいたいんじゃない!キョウヤのせいじゃないんだよ!そんな悲しそうな顔をしないで!口が止まらない・・・私はきっと、誰かのせいにしないと心がはりさけそうなんだ・・・)
「もうここには来ないで!二度とあんたの顔なんて見たくない!ロキもきっとそう思ってる!」
(あああ、やめて!もう言わないで!この口を止めて!戻れなくなっちゃう!ロキもいなくなってあなたまでいなくなったら私は・・・)
―――――――――――――
ルチに言われている間、心はずっと怒りに震えていた。
魔眼を持っている俺に嘘を言っても見破れる。
ルチが言っている事は本心ではないということはわかっていた。
しかし、それを言わせてしまっている現状・・・
軽はずみな考えを行動に移してしまった俺自身・・・
そしてロキをこんな目に合わせたやつらに!
そして、挙句にはルチに何もしてやれない自分の不甲斐無さ!
今まで感じたことのない憎悪が心の奥に渦巻く。
(だめ~!だめだよ~!それ以上憎しみをもたないで~!)
ガブリエルが何か言っているが聞こえない。
俺は何も言わずにロキが寝ているベッドの横に立った。
ルチは憎しみを持った目で俺を見ている。俺はその目を受け入れる。
ロキに手をかざし、ある魔法を試す。
人を生き返らせる魔法もやろうと思えばもしかしたら出来るのかもしれないが、人の理を覆すような事をするつもりはなかった。
俺は神ではないし神になろうとも思わないからだ。
むしろ、神なんてくそくらえ!と思うほどだ。
だから今から行うのは別の魔法。
ロキの体が光に包まれる。
そこからロキの情報を読み取る。
残留思念を呼び起こし、ロキの最期の光景を焼き付けようと思った。
それは成功し、ロキが生前最期に見た光景が頭の中に浮かび上がる。
でかい髭面の男と一緒にいる3人の男。
・・・・・
こいつらか!
こいつらがあああああああああああああああ!!!!
ロキをこんな目に合わせた4人の顔を見た瞬間に、心の奥底から押さえきれないほどの憎悪が噴出してきた。
「ひっ!」
俺はよほどすごい顔をしていたのか、ルチが俺の顔を見て怯えていた。
(だめ~!それ以上は絶対にだめだよ~!堕ちちゃうよ~!)
ガブリエルが包み込むように俺を抱えると、俺の憎悪を押さえ込むようにガブリエルから激しい光が発した。
すると俺自身ではどうすることもできなかった憎悪が引いてきた。
『称号、堕ちかけた者を獲得』
頭の中に何か聞こえたが気にしなかった。
(はあ、はあ・・・よかった~)
そうとうきつかったのか、ガブリエルが肩で息をしていた。
(・・・すまなかった、ありがとな。おかげで少し冷静になれた)
(ううん、よかったよ~。あのままだと戻れなくなっちゃうから~)
何のことだかよくわからないが、とりあえず俺は先にやらなくてはならないことをやる事にする。
「・・・ルチ、ごめん、ごめんな」
そういってルチを抱きしめる。
「あ、あんたに謝られたってどうにもならないんだから!」
一瞬ビックリした顔をしていたが、すぐに気を取り戻してそう言い放った。
そしてもう一度
「ほんとにごめん」
「だ、だから・・・」
ルチが言いかけた所で俺は『吸収』を使った。
ルチから奪った物・・・
それは・・・
ルチの俺に関する記憶とロキの記憶だ。
本当なら、また勝手な事をするなと怒られるだろう。
俺の記憶だけならまだしもロキの記憶まで奪うのだから。
これもまた俺の勝手で最大級のエゴだ。
吸収のスキルはこの時の為に授かったのではないかと考えてしまう。
勝手な事ばっかりして、全く自分が嫌になりそうだ。
俺がルチの記憶を奪ったのと同時にルチが意識を失った。
そしてロキの体に手を触れロキそのものを吸収した
『称号:業を背負いし者を獲得』
うん、どうでもいい。
これでルチは悲しみから逃れる事ができるだろう。
これが良い事か悪い事かは知ったことではない。
俺がルチを悲しませたくはないというだけのことだからだ。
俺は中学時代に恐がられ友人が出来ず常に一人だった時に、人の死について考えた事がある。
死とはなんだろう・・・
生命が停止したとき?
確かに肉体はそうなのかもしれない。
でも、俺は今一人だ。
誰の眼にも止まらない。
周りの人からしてみればいないのと同じ。
ということは死んでいると言っても過言ではないのではないだろうか。
逆に肉体的に死が訪れたとしても、その人の事を忘れない人がいるということで生き続けていると言ってもいいのではないか?
これは俺の勝手な思い込みだが、それを実践したようなものだった。
ルチには悲しみを背負って生きて欲しくはない。
ルチからロキの記憶が消える事は先ほどの事から反しているのかもしれないが、その代わりに俺がロキのことを忘れずにルチの分まで背負って生きていこうと考えた。
-勝手な事ばかりして!-
そう怒られたような気がした。
ルチが目を覚まさないうちにベッドに寝かせる。
目を覚ましたときには、もう俺とロキの事は覚えていないだろう。
幸せになってくれな。
そして最後にもう一度
「・・・ごめん」
◇
「ひゃ~はっはっは!あんな服でも売ったら500Gになったぞ!」
「まじですか!あのガキいいもの着てたんですな」
「じゃあ、今日はいいものでも食おうや」
「俺は肉がくいてえな」
貧民街の路地裏で男4人が話している。
下種な野郎の笑いは聞くに堪えない。
それにこれ以上こいつらに口をきかせたくはない!
「よう!景気がよさそうじゃねえか!」
「あん?誰だてめえ・・ごふっ!」
俺が後ろから声をかけた事で振り返った髭面の男のみぞおちに一発いれた。
「てめえ!何しやがんだ!」
クソみたいなやつは皆言う事は同じだな。これ以上は耳が腐る。
ガスッ!バキッ!ゴッ!
残りの三人がこれ以上口を開く前に叩き伏せる。
髭面の男の髪をつかみ持ち上げる。
「てめえらが売ってきた服の持ち主はな、俺の大切な弟だったんだよ」
「ごほっ、・・だ、だからどうしたってんだ。ここは奪うか奪われるかの場所だ」
「ああ、その通りだな。だから俺もてめえらから全てを奪ってやる!」
「な、何をする気だ!殺す気か!?」
殺しはしない。
俺は何も言わず4人全員から『吸収』で記憶以外のあらゆる物を極限まで奪い取る。
生きる事だけであれば十分であろう。
ただ、普通に生活が送れるかどうかはわからないが。
大切な者を奪った悲しみを生きて苦しんで償えばいい。
そう考え奪い取った後の4人を奥の草むらに置いてきた。
(あの人達大丈夫かな~?)
(なんだ?お前はあいつらの心配をしてるのか?)
(そりゃ~、あの人達に何かあったら、キョウヤがまた責任感じちゃうだろうからね~)
(おいおい、何言ってんだよ。あいつらがどうなろうと知ったこっちゃない)
(ふふっ、そういうことにしておいてあげるよ~)
全くガブリエルは何をとち狂った事を言っているのか。
俺がそんなに善人なわけないだろうに。
俺はやるべきことを終えて、大分遅くはなってしまったがこの街を出るために門へと足を向けた。
俺はこの日のことを決して忘れない。
忘れるわけにはいかない。
そう心に誓った。
じゃあな、元気でなルチ。
前話から、元々考えていた話とは大分変わってしまったので変な部分もあると思います。視点が切り替わる部分も読みづらいかもしれませんがご了承ください。ようやく旅に出すことができました。色々変わったりおかしな部分があったりすると思いますがお付き合いください。