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第6話 異世界での一週間

ギルドから少し歩いて露天で買い物をしながらルチに話しかけた。


「ああそういえば、その格好戻しておけよ」

「え?どういうこと?」


「家に帰る前に最初の格好にしておけってこと。言い方悪いがお前が住んでいるのは貧民街なんだろう?その格好で帰ったら、何があるかわからないからな」

「・・・ああ、そういうことね。確かにこんな格好で帰ったら、どんな目に合うかわからないね」


「ってことで、これをやる」

「これって・・・もしかして」


「ああ、簡易アイテムバッグだ」

「ちょっと待ってよ!さすがにこれまでは受け取れないよ!」


「じゃあ、今来ている服や剣はどうするんだ?まあ俺には必要なくなったから素直に貰っておけ」

「必要なくなった?魔物を狩った後どうするのさ?」


「まあ、ちょっとな」

「・・・はあ、なんか隠し事ばっかりな気がするけど・・・」


 (こんなに色々してもらったら、恩を返しきれないじゃない・・・)


「ん?なんか言ったか?」

「ん~ん、何も言ってない。わかった、これも貰っておくよ」


「ああ、そうしてくれ。その代わりという訳じゃないが、ルチの住んでるところを見せてもらってもいいか?」

「はあ?また唐突な・・・」


「だめか?」

「・・・そりゃあ、あまり見せたい場所じゃないし・・・でも、あんたには色々してもらっているし・・・」


「じゃあオッケーだな?」

「・・・いいけど、でも何で?」


「誤解はさせたくないが、決して悪い意味ではなく貧民街を見ておきたいと思ったんだ」

「じゃあ、どういうつもりなんだか・・・」

「まあ、あまり深く考えないでくれ。この街を全て見ておこうと思っただけだ」

「わかったよ・・・」


なんとか納得してもらいルチの住んでいる貧民街を見せてもらうことになった。


一度俺が取っている宿に向かい、部屋で着替えさせる。


出てきたルチは、着替えた服と剣をアイテムバッグに入れそのバッグを持っていること以外は、最初に出会ったときと同じ格好になっていた。まだ半日しかたっていないのに、すごく懐かしい気がする。


ルチの住んでいる貧民街は宿から東側の塀へと向かった先にある。

ルチに案内されながら簡単に説明してもらった。


貧民街(町の人が呼んでいる)とは、そう呼ばれているように働かないもしくは働く事が出来ない人たちが住んでいる場所である。


貧民街に住んでいる人間の多くは身分証を持たない。

そのため普通の仕事がしたくても出来ないのだそうだ。


そこでの生計は主に犯罪によって成り立っている。

その大半の人は窃盗で生活をしており、中にはこちらで言う麻薬のような精神に作用して快感を得る事が出来る薬物の取引や殺人なんかも蔓延っている。


ルチと弟には親はいない。

弟が生まれて直ぐに両親が蒸発してしまったらしい。


身分証を持たないルチは狩りに出る前に少しだけ教えてくれたように、弟を食べさせていくには窃盗などに手を染めるしかなかったという事なのだ。


ただ、弟はルチが窃盗などをしている事はしらないらしくて秘密にして欲しいと言われた。


なんだかんだ言いながら色々と教えてくれるようになったという事は、大分俺に気を許してくれているという事だろうか。


貧民街に近づくにつれて先ほどまでの活気に溢れていた情景とは打って変わって徐々に寂しい雰囲気になってきた。

建物もぼろぼろの物が多い。


そして一番の違いは、そこらかしこに人の視線を感じるということだ。

俺らを獲物と定め、隙あらば窃盗もしくは強殺しようとしているようだ。


ルチに釘を刺された。

もし話しかけられても相手をしない、もしくは直ぐ逃げて欲しいと。


なるほど。

元々ルチの身体能力が高いのは、同じここの住民であったとしても獲物の対象として見られる為、生き延びる為には最低限逃げる為の力は必要だという事だな。


それにしても不快な視線だ。


俺は念の為、魔力感知とまだ試していなかった危険感知を張り巡らせる。

おおう、思った以上にあちこちに隠れているようだ。

そこの建物の陰や割れた窓の隙間から。


不謹慎だが、危険感知は初めて使うがどんな感じで察知してくれるのかわくわくしている。

何事も無ければそれはそれで構わないのだが。


しかしやはりそうはいかないらしい。


何かピンと来てルチを抱えて俺は全力で走り出す。

後ろの物陰から刃物を持って徐々に近づいてきているのがわかったからだ。


危険感知はどうも第6感のような感じで知らせてくれるようだ。

まあ、実際あれだけ殺気を出しながら近づかれたら危険感知を使っていなくてもわかりそうなものであるが。


ルチは急に抱えられて何か喚いているが無視である。

俺が走りだした事で狙ってきていたやつらも慌てて追ってこようとしたようだが、俺の全速力に追いつけるはずもなく追うのを諦めてくれたみたいだ。


そのままルチの家、弟がいる場所まで走りあっという間に着いた。

廃屋となっていて誰も住んでいないような平屋だった。

そこには地下室があるらしく、なるべくその地下室で過ごしているらしい。


「おい!いつまで私を抱えているんだよ!」


ルチが顔を真っ赤にしながら抗議してくる。


「おっと、忘れてた」


ルチを降ろすと何かブツブツ言っているが無視でいいだろう。


そのままルチについていく。


家の中に入り、居間の床にある木目の隙間にバールのような物を差し込み持ち上げると地下に行く階段が出てきた。


直ぐに地下室の場所がばれないように上手い事カムフラージュされている。

階段を降りるとそこには扉がありルチが鍵を使ってあけた。


「あ、お姉ちゃんお帰り~!」

「ロキ、ただいま」


弟はロキという名前らしい。

こんなところ(というのも失礼だが)に住んでいるというのに明るく元気な少年だ。


そして地下室は思っていたよりも広く綺麗にされていた。

弟の生活がしやすいように、ルチが一生懸命に頑張った様子が伺える。


「お姉ちゃん、この人は誰?お姉ちゃんの彼氏?」


ぶっ!


いきなり何を言い出すのかね、この子は。


「な、な、な、何言ってんのよ!なんでこんなバカと!」


案の定、ルチは迷惑そうに顔を真っ赤にしながら壊れるんじゃないかというくらい、両手と頭を振って否定しているじゃないか。


それにしてもそこまで言わなくても・・・


「初めましてロキ君。俺はキョウヤだ。お姉ちゃんのお友達だよ」

「うん、初めましてキョウヤお兄ちゃん」


おおう、姉とは違い素直で可愛い弟じゃないか。


(可愛い子だね~)

(ああ、そうだな。ルチとは大違いだな)


ギロリ!


「今何か失礼な事考えなかった!?」


うぉ!エスパーか?心が読めるスキルか?


(ルチにそんなスキルはないみたいだよ~)


じゃあ素で勘がいいのか。女は勘がいいと言うしな。


「お姉ちゃんがお家に誰か連れてくるのなんて初めてだね」

「ま、まあね。たまにはね」


ルチが照れながらロキに応えている。


そうなのか・・・


まあ、こういう暮らしをしていたら友達とか作れないだろうし仕方がないのか・・・


それから、俺がここに来る途中に露天などで串焼きの肉やケバブそっくりな物など、適当に買っておいたものを取り出し食べる事にした。


やはりルチは最初、遠慮していたが俺が気にするなというと諦めたように食べ始めた。


「ありがと」と小声で言ったような気がするが、聞こえなかった事にする。

弟はめったに食べられない食べ物に嬉しそうにしていた。


しばらくの間、食事や弟と話をして過ごした。

気づいたら結構時間がたっていたので、そろそろお暇しようと立ち上がる。


「ええ~、もう帰っちゃうの?」

「ああ、もう遅くなってからな。そろそろ帰るよ」

弟はルチ以外の人と話すのが久しぶりでよっぽど嬉しかったのか、まだ俺に居て欲しそうだった。


「もうちょっといいでしょ?」

「あんまりわがまま言って困らせないの。また来てもらえばいいじゃない」

「え?また来てもいいのか?」


弟が引きとめようとするのをルチが収めようとした言葉に驚いて聞き返した。


「仕方ないじゃない。ロキがあんたを気に入っちゃったみたいなんだし・・・」


ルチが少し照れたようにそっぽを向きながら言った。


「そっか、ありがとな。ということでロキ、お姉ちゃんを困らせたりしないようにいい子にしていたらまた来るからな」

「うん、わかったよ!僕いい子にしているから、絶対にまた来てよね!約束だよ!」

「ああ、約束だ!」


帰る前にルチに明日の午前中から森に向かう事を伝え、朝に宿の近くのカフェに来て欲しいと伝えておく。


ルチは未だに納得はしてないようだが、仕方ないとばかりにうなずいた。


その後、魔力感知で回りに人が居ない事を確認してからルチの家を出る。


宿に戻る途中で考えていた。



ロキは生まれてからずっとこの貧民街で暮らしている。


危ない事もあったようだが、住む場所を変えることでなんとか暮らしていたらしい。

ロキ自身は貧民街から出る事がほとんどなく、もっと外に出たそうにしていた。


ルチはロキに外には出ないように釘を刺していたが、その気持ちもわからなくはない。

今こうして貧民街を歩いているだけで視線を感じる。


ここに来るときに感じていた視線と同じように、好奇の視線や殺気が伴ったものと様々だ。

俺一人なら魔力感知もあり危険感知もあるし、襲われたところでいくらでもどうとでもなる。


だが、彼女達は勝手が違うだろう。特にロキはまだ幼い。

身を守るにしろ逃げるにしろ中々難しい。


俺一人が何かしたところで、現状を変えることは出来ないだろうな。


国王も多種族と戦争をする前に自分の街くらいどうにかしろよと思うが、今俺が言ったところで取り合うことはないだろう。


俺ができる事は目の前の人を守る事だけだ。と固く心に誓った。


貧民街を抜ける間にも時々狙われていたが、軽く交わしながら宿に着いた。


中に入ったところで看板娘さんに食事はどうするか聞かれたが、さっき食べてしまったので夕飯はいらない事を告げて部屋に戻った。


ベッドにダイブしてそのまま横になる。


いきなり異世界に飛ばされて、考えてみればまだ半日しか経ってないんだよな。

なぜか不安はない。


ただお別れも出来ずに別れてしまった流星や真鈴達はどうしているのか。

まあ、俺が居なくても特に何も問題はないだろうとも思ってしまう。


そして、一緒に飛ばされたあいつらもどうしているだろうか。

あいつらは勇者として召喚されたわけだし、俺よりもあっという間に力をつけるのだろう。

まあ、俺は俺で地道にやっていくしかないな。


明日からしばらくは魔物をハントして金と戦闘に余裕が出来たらこの街を後にするか。

魔法もまだまだ試す事もあるし、武器の扱いもまだまだ慣れてないし。

なんか一人になると色々と考えてしまう。


・・・・・


違う!


一人じゃなかった。

ずっと俺にくっついてきて、やっぱり部屋にまできてやがった。


(なあ、俺が寝てる間にもここに居るつもりなのか?)

(もちろん~!私はずっとキョウヤのそばにいるよ~)


(そんな当たり前のように言われても困るが・・・)

(え~?キョウヤは私が居るのは迷惑なの~?)


(・・・いや、別に迷惑じゃないが、一人になることができなさそうだな)

(さすがにはずして欲しい時は行ってくれたら離れるよ~)


(そうか、じゃあ予め言っておくが、トイレと風呂だけは絶対についてくるな)

(ええ~?それが一番重要じゃない~!)


(おい!)

(えへへ~、冗談だよ~。うん、わかったよ~)


(・・・なあ話は変わるが、この世界はああいう貧民街みたいな所は当たり前のようにあるのか?)

(う~ん、全部の街がそうではないけど、大きい街であればあるほど貧富の差は激しくてああいう感じの所はあるよ~)


(やっぱりそうなのか・・・奴隷とかはいないんだよな?)

(奴隷もいるよ~)


(いるのかよ・・・)

(うん、表立ってはいないけど人間の奴隷もいれば、獣人なんかの奴隷もいるみたいだよ~)

(そんな軽く言われても困るが・・・)


俺のいた世界では奴隷なんていなかったから、本当に奴隷がいるということに少なからずショックを受けた。


しかし俺がどうこうできる問題でもないし、それについてはとりあえず置いておこう。


もう少し経験を積んで慣れてきたらこの街を離れて、世界を回ってみることにしようと考える。

とりあえず今日は色々あって疲れたしこのまま寝る事にした。


(じゃあ俺は寝るわ)

(うん、おやすみ~)

(ああ、おやすみ)


こうして異世界での一日目が終了した。



それから4日間はルチを連れて魔物を狩りつつ自分の能力の研究と向上に費やした。


最初の2日間は初日と同じように森で狩りをしていた。

最初は剣を使っていたが、初心者用の剣なので刃こぼれが目立つようになってきてしまった。


安物の剣なのでしかたないとは思ったが、どうにかならないものかと考えていたところ、剣に魔力を這わせたらどうだろうかと試してみたら思いのほか上手くいき、剣の周りに薄っすらと魔力の層ができたことにより切れ味がよくなったことはもちろんの事、刃そのものも守ってくれていたようで刃こぼれもしなくなった。


他の武器にも出来るのではないかと試してみると、やはり同じように魔力を這わせる事ができ威力と耐久力を上げることができた。


弓も最初は中々難しかったのだが、魔眼と魔力感知を合わせて使用する事で照準を定め的確に当てる事ができるようになった。


魔法と併用すると外しても自動で追尾させることも出来た。ちなみに矢に魔法属性を付与する事で、爆発や雷撃等の追加効果をつけることにも成功した。


魔法も色々と試したかったのだが、ルチもいるために派手な事は出来ないと考えてあまり目だたない程度に実験するくらいで抑えておいた。


ダガーも気にはなっていたのだが、この時点ではまだ試していなかった。


この森で結構な数の魔物を狩り、その時に能力を吸収することも忘れず行う。

そしてルチにその能力を少しずつ分け与えていった。


ちなみにゴブリンを最初に相手したときは、さすがに魔物とはいえ人型に近い者を倒す事には気が引けた。


殺したときには罪悪感もあったが、数体倒す事でその感覚も薄れてくる。


よかったのやら悪かったのやら。



2日目の最後にこの森での集大成として、魔力感知で探り当てたキングベアーに挑戦することにした。


俺がというよりもルチに倒させようと考えたのだ。

ルチは嫌がっていたがそうは問屋が卸さない。


俺はなるべくサポートに徹しルチに前線で戦わせる。


ルチは最初ビビッていたのだが俺が弓矢や魔法で援護したこともあり、多少は梃子摺っていても何とか倒す事が出来た。

技術的にも大分上がってきたのもあるが、能力の譲渡による補正も功を奏していたようだ。



3日目はマンネリ防止を含めて、サリナさんから聞いておいた洞窟に行く事にした。


洞窟へは街から東に歩いて2時間ほどの山脈の麓にあり、地下に5層あるらしいのだが1,2階層くらいであれば無理をしなければ駆け出しでも大丈夫との事だった。


主な魔物はワームや白コウモリ・吸血コウモリ、レア種としてジャイアントバット。

なぜコウモリとバットと呼び方が違うのだろう?と疑問に思ったが考えても無駄な事なので気にするのをやめる。


他に大ネズミやブラックサーペントなどがいて、どんなに強い魔物でも☆3が精々で万が一遭遇しても逃げられると聞いていた。


3階層まで進んでしまうと☆3以上の魔物が当たり前のように出てくるらしい。

俺たちなら問題なさそうではあるが、特に無理はせずに1,2階層で狩る事にした。


さすがに洞窟は暗く周りが見にくく足場もごつごつしている為に、かなり気をつけながらあるかないといけなかった。


魔力感知も使っていたのだが、まだ慣れていないせいもあり洞窟内を漂う魔力と魔物の魔力を見分ける事が困難だった。


しかしコウモリやブラックサーペントと早い段階で戦い能力を奪う事ができた為、コウモリの超音波と魔力感知を融合して使う事で見えなくても地形や魔物を把握する事が出来るようになった。


ここの魔物は確かにそんなに強くは無かったが数が多かった為、双剣で倒していく事にした。


おかげで熟練度がかなり上がったと思う。最初に比べて大分綺麗に剣舞を行う事ができるようになっていた。

ただその反面、思っていた以上に疲れが出てしまった。


ルチに関しては、暗順応で見える程度でしか洞窟内を把握できなかった為に疲労も相当だったようだ。


魔力感知や危険感知のスキルアップや魔法で光を出してみたり等と俺としては結構色々と収穫はあったし、まだまだ実験をしたかったのだがルチの事を考えると洞窟ではこれ以上は無理と判断して帰ることにした。


街に戻り宿屋に帰る途中に酔っ払いに絡まれるというアクシデントがあったものの、特に何事もなくこの日は終了した。


この街の酔っ払いは、誰かしらに絡まずにはいられないのだろうか・・・



4日目は息抜き・食材探し+魔物狩りと考え、南西に1時間ほどの海岸へ向かう事にした。


ルチは海に来たことが無かったらしく浜辺に足跡をつけたり、綺麗な貝殻を見つけたりしてはしゃいでいた。

楽しそうで何よりだ。


その間に俺は、ここなら魔法を使っても自然現象でごまかす事が出来ると考え試していく事にする。


海の中で振動(波)を起しそのまま海洋生物を浜辺に打ち揚げてみたり、少し沖合の方に竜巻を起して魚を浜辺に飛ばしてみようと試みたりする。


思いのほか上手くはいったが、さすがに竜巻でピンポイントに浜辺へと魚を飛ばすのは難しかった。


そんな事をしていたら海中からイカやらタコやら魚人やらの魔物が怒って上陸してきた。


折角楽しんでいたルチがげんなりした顔をしながら戦闘準備をしている。

大分戦闘に慣れてきているようだと関心しつつ、楽しんでいたところに俺のせいで申し訳ないと心の中で謝っておいた。


ルチは意外と難なく魔物を倒していき、俺の出番ないんじゃね?と考えつつも、今まで使っていなかったダガーを試してみる事にした。


武器屋の親父さんには使うと力が抜けると言われたが、ガブリエルは魔力を感じると言っていた。

ということは魔力を変換する事で使用できるということではないかと考えていた。


ダガーを抜いてみると確かに力が抜けていく感覚がある。というよりも、魔力がダガーに吸い込まれているようだ。


なるほど、確かに持っているとずっと魔力を吸われ続けていくらしい。だから普通だと耐え切れないのだろう。


でも俺には特に不都合は感じられなかった。


ある程度魔力を吸われるとそれ以上は吸いきれないのか止まったようだ。

すると黒いダガーの周りに薄っすらと赤い膜が張っているような感じになった。


この状態で試しにイカの魔物に切りつけてみる。


スッ!


ほわあああ!

なんだこの感覚!切った感触も無くイカが簡単に切れた。

びっくりである。

切れ味良すぎだろう。


戻し切りでもできそうな勢いだ。

まあそんなことは俺の技量で出来るはずもないが。


そんな感じでビックリしながらも魔物たちを切っていく。

まだまだ謎の多いダガーだが少しずつ慣らしていくとしよう。


この日は魔物を討伐というよりも食材確保がメインとなった。


ちなみに海ということでガブリエルが水着姿で俺の周りをまとわりついていたのには、いろんな意味で大変だった。

着やせするタイプだったようなのだ。


どこから水着を出したのかと思ったら、天使は精神体なので分子レベルで分解と再構築する事で色んな服に変えることが出来るらしいとの事だ。


この4日間、魔物狩りをした後はルチの家に行きロキと話す事が日課となっていた。


今まではずっと二人きりだった上にルチが生活費を稼ぐ(窃盗をする)為にいないことが多々あったせいか、俺が来ることを楽しみにしていたようだ。


ギルドに寄って素材の換金などをした後に、露天によって食べ物をお土産として買って行ってやった。


もちろん俺がいる間だけでもいい思いをさせてやりたいというのは、ただの俺のエゴだ。

これがいい事なのか悪い事なのかはわからん。


少なくとも俺がずっと見守る事が出来ないという事を考えたとき、いい事ではないのだろう。

でも俺の目に見える者を守る為にどうするかは考えてきたつもりだ。

この二人がずっと笑顔でいることが出来るように。



この世界に来て6日目。


昨日までの5日間で中々稼いだ。

合計で約75000G。

二人で半分にしているから一人当たり37500G。


一般市民の平均月収が15000~20000Gと考えると大分いいほうではないだろうか。


レベルも上がり俺もルチも8になっていた。

☆はキングベアーが最高だったらしく、☆4まで色がついていた。


特にルチが頑張りました、という事で本日はオフだ。


俺自身まだあまりこの街を観光していなかった事もあり、今日はルチだけでなくロキも連れて一緒に観光をする事にした。


もちろんロキを連れ出すことにルチからは大激怒されたが、なんとか丸め込んで今は街中を歩いている。


ロキの格好はボロボロで目立つため先に服を買った。

俺が支払おうとしたらさすがに自分が払うとルチに止められた。


その後、露天での食べ歩きや街の中央にある噴水広場、公園など貧民街以外を回っていった。

さすがに富裕層の辺りには行かなかったが。


色々見て回った後、俺とルチがいつも待ち合わせをしていたカフェに入って休憩していた。

しばらくゆっくりと落ち着いてから・・


「さてと・・・じゃあ、行くか!」

「え?どこに行くつもり?まさか・・・」


「ああ、多分ルチが考えている事ではない。今日の最後にはどうしても連れて行きたい場所があったんだよ」

「狩りではないのね?ならいいけど・・・どこに行くの?」


「それはまあ、着いてからのお楽しみだな」

「・・・」


ルチは俺が言う事には碌な事がないとでも言いたげな目で見てきたが、おとなしくロキと一緒についてくる事にした。


街の中心部からは徒歩20分、外への門までは15分程度の場所にある3階建ての小奇麗な建物に着いた。


ルチとロキはここはなんなのだろうときょろきょろしている。

俺は気にせずに中に入る。

入った直ぐのところにいる年配のおばちゃんに声をかけた。


「今度ここに住む事になる二人を連れてきた」

「ああ、この子達があなたの言っていた子だね。良い子そうじゃないか」


「ああ、それは保障する。ちゃんと毎月の家賃もなんとかなりそうだ」

「そうかい、じゃあ大歓迎だよ」


鍵を受け取って2階の部屋へと移動する。


「え?え?な、なに?どういうこと?」

「ん?何って今日からお前ら二人、ここに住む事になるんだが?」


「ちょ、ちょっと聞いてないんだけど!」

「そりゃ、言ってなかったからな」


「なんで勝手に決めちゃってるのさ!」

「そういうなよ。お前たちの部屋は2階でワンルーム、ちゃんとキッチンもトイレもある。風呂だけは男女別共同ではあるが。おばちゃんに頼み込んで月の家賃は2000Gにしてもらったんだ。この辺りだと破格だろう?」


俺は時間のあるときに、二人の為の賃貸物件探しをしていた。


この辺りの物件だと、どんなに安くても3~4000Gが相場だという事は調べてわかっていたのだが、それでも安くて良い物件が無いものかと探し回っていた時に、酔っ払いに絡まれていた人を何気なしに助けたのがこのおばちゃんだったのだ。


お礼がしたいというおばちゃんに、お礼はいらないと断っていたのだがそれでもと食い下がってくるので、情報として安くて良い物件を知らないか聞いた所、このおばちゃんがオーナーの物件を安くしてくれるという事になったのだ。


「お兄ちゃん、僕達ここに住めるの!?」

「ああ、そうだ。今住んでいるところよりずっといいだろう?外に出ても大丈夫だぞ」


「そうなんだ!やった~!」

「ちょっと!勝手な事いわないで!」


ロキはここに住める事に喜んでいたが、ルチが怒って口を挟んできた。


「・・・何か不満があるのか?」

「今までの私たちの暮らしを捨てて、勝手にあんたが決めた事に従えと?」


「暮らしぶりが良くなるんだからいいじゃねえか。それとも今までの暮らしの方がよかったとでも言うのか?」


「違う!そうじゃない!そういうことを言っている訳じゃない!私は誰の手も借りない!借りたくない!あんたに出会うまではそうやって生きてきた。これからもそう。誰の施しも受けるつもりはない!与えられた物を、はいそうですかと受け取るつもりなんてない!この子は・・・この子は私の力で守っていくんだから!」


(それにただでさえ、あんたには色々してもらった。これ以上迷惑かけられないし借りも作りたくはない。・・・あんたの隣に立つ為には・・・)


「お姉ちゃん・・・」


ルチが涙目になりながら感情的に怒鳴り散らした。その姿にロキも少し涙目になっていた。


「・・・そっか。まあ確かに俺がルチやロキにした事は、全て勝手にやった事だ。だから受けたくなければ受けなければいいさ。ただ、今までの暮らしを変えるきっかけになればとは思っていたけどな。まあ、何を言ったところでこれは俺のエゴに過ぎないから、ルチが怒るのも無理はない。それにおばちゃんが安くしてくれたとはいえ、家賃はルチ自身に払ってもらわないといけないわけだしな。・・・・・(ただ二人にはあんな街の陰じゃなく陽の当たる場所で暮らして欲しい)」


「・・・あんたは勝手だ!勝手すぎるよ!そんなこと言われたら・・・」


最後の言葉は二人には聞こえないくらいの声でボソッとつぶやいたのだが、ルチには聞こえてしまったらしい。


「ああ、そうだ。俺は勝手でわがままなんだよ」

「知ってるよ!あんたと会ってからどれだけ振り回されたか・・・」


「・・・で、ルチはどうしたい?今までのように隠れて毎日ビクビク暮らすか、堂々と明るい場所に出てロキと毎日笑顔で暮らすか」


・・・相変わらず自分でも嫌らしい言い方だなとあきれてしまう。


「・・・そんな言い方されたら・・・断れないじゃない・・・」

「ああ、最低だと罵ってやってくれ」

「うん、最低・・・」


ルチの顔に少しだけ笑顔がこぼれた。


「でも、この部屋に住む事になるとして・・・確かに普通よりも安いのかもしれないけど・・・」

「何か気になることでもあるのか?」


「・・・家賃・・・ずっと払い続けること出来るのかなって・・・」

「だからハンター登録させたんじゃないかよ」


「・・・え?」

「ハンターとして魔物を狩る事が出来れば、窃盗なんてしなくてもそれなりに生活できるだろう?」


「まさか、私を無理矢理連れて行って戦わせていたのはそのためなの・・・?」

「ああ、俺が手を出さなくてもある程度の魔物であればルチ一人で倒せるようにもなったしな」

「・・・・・」


(ふ~ん、キョウヤがなんで魔物を倒した事ないような女の子を連れてハンターになったのかと思ったらそういうことだったのね~)

(ああ、まあな。この世界での金の稼ぎ方なんて俺にはこれくらいしかわからないし、なんとかしてやることも出来ないからな)


(キョウヤらしいよね~。やさしいし~♪)

(うっせ!)


「・・・わかった。ロキの為にこの部屋を借りる事にする」

「そうか、良かったよ俺がこの街を去る前に何とかすることが出来て」


「・・・はっ?・・・え?何を言って・・・?・・・え?この街を去る・・?」

「ああ、俺は明日この街を出ようと思っている」


「・・え?・・なんで急に・・?」

「・・・いや、急ではないんだ。ルチに言ってはいなかったが最初から考えていた事なんだ。・・・俺はさ・・何をするにしても、俺はこの世界の事を知らなさ過ぎる。・・だからこの自分の目でしっかりと見極めたい。・・でも旅をするにはそれなりの力がいる。その為にこの一週間で、旅をするのに必要な力をつけておこうと思っていたんだ」


「そう・・・なんだ・・私と会う前から決めていたことなの?」

「ああ、すまない」

「・・・だったら最初から言ってくれれば・・・(こんな気持ちには・・・)」


「お兄ちゃんともう会えなくなっちゃうの?」

「いや、いつになるかはわからないが、ちゃんとこの街に戻ってくるさ」


「ほんと?必ずだよ!」

「・・・本当に?」

「ああ、必ずだ。二人に約束する」


二人とも俺がこの街を去ることに関して納得できなかったようだが、必ず戻る事を約束した事でなんとか割り切る事ができたようだ。


俺と会ってからそんなに経ってないのに、そういう風に思っていてくれるのは正直嬉しかった。


二人がこの部屋に住むにしても、今まで住んでいた場所から荷物を準備しないといけない為、今日の所は貧民街の家に戻る事にしたようだ。


二人といられるのも残りわずかだし送っていこうと言ったのだが、そこまで甘えられないと言われたので、今日はこのまま解散する事になった。


とりあえず俺は午前中は色々と支度をすませ午後に出る予定なので、その頃に街の門まで見送りに着てくれると言っていた。


しかし、この時の俺の判断でこの後ずっと後悔し続けることになるのだが、それはもう後の祭りである・・・




執筆した後に見直ししてないので、変な所もあると思いますがそのうちに直していこうと思います。

もしくはある程度がっつり書いてから直して、この作品とは別に新しく載せるかもしれません。

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