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第47話 結末・・・そして・・・


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・



「なあキョウヤ、あいつらは何をやっているんだ?」


ルクスが目の前の異様な光景に、我が目を疑い俺に尋ねてくる。

その光景と言うのが、ヴィンとリリィが虚ろな目をしながら、直立不動でエヘエヘと変な笑いを浮かべている事だ。


「ああ、あいつらは俺の魔眼の力で幻覚でも見ているのだろう」

「え?それはどういう事ですか?」

「きょうや、ヴィンとは戦ってないよね?」


過程の説明を省き結果だけを伝えた俺に対して、全く意味がわからないリーエとタマモがそれぞれ疑問をぶつけてきた。

もちろんルクスも訝しげな目で訴えてくる。


「あ~、ここに来て魔族と戦う前、俺は掛け声と共にお前達一人一人の目を合わせたよな?お前達はそれが戦いの合図だと思って返事をしていたようだが、それは違う」

「「「??」」」


「俺はあの時、念のためにお前達を魔眼の支配下においていたんだ」

「は?」


予想も出来ない俺の言葉にタマモはキョトンとする。


「私にも魔眼を使っていたというのか!?」


ルクスはまさか自分に魔眼を使われたとは思いもよらず声を荒げる。


「ああ、フェンリルも含めて全員に使った。何も言わずにすまないな。万が一の事を考えて使っただけなんだ」

「くっ、仕方が無いとはいえ、なんという屈辱・・・」


ルクスは奴らの魅了・魅惑だけでなく、俺の魔眼にも抵抗出来なかった事が悔しいようだ。


「え?私達に何も変化はありませんが?」


リーエは尤もな質問を俺に投げかける。


「変化が無いのは当然だろう。なぜなら、俺が支配したのは器のみだからな」

「器ですか?」


「ああ、本人の意思・行動はそのままに、精神操作を防ぐ為の支配だ」

「??」


「国で考えるとすると、人ではなく土地を支配・権力下に置いたと考えてもらっていい。その土地に住んでいる人は支配下にあるが、自由に動く事は出来る。そしてその支配する土地を侵略しようとする者がいれば、当然怒り反撃するだろう」

「あ、じゃあきょうやは、あたし達は俺の(モン)なんだから、勝手に手を出すんじゃねえ!って言いたいんだね!!」


え?ちょっと待てタマモ!

何がどうなるとそう解釈されるんだ!?


「ああ、なる程ですね。私達は身も心もキョウヤさんの(モノ)にされてしまったわけですね?」


いやいや、リーエまで何を言ってやがるんだ!?


「そ、そうなのか・・・私までキョウヤの(モノ)にされていたのか・・・」


ルクスまで・・・


「むう、キョウヤよ。まさか我までお前の(モノ)など言わないよな?」


言うわけねえだろ!!


「いや、ちょっと待て!話が逸れ過ぎだ!元に戻すが、実際は反撃ではなく反射させている。幻覚作用を上乗せしてな」

「もうノリが悪いなぁ」

「そうですね、きっと私達に飽きてしまったんですよ・・・」

「そ、そんな・・・私とはまだ出会ってそんなに経っていないのに・・・」


いやそんな場合じゃないだろう・・・

しかもルクスよ、いつのまにそんなキャラになった!?


「それはもういいっての!」

「冗談ですよ。彼らはきっと、私達が魅了されている幻覚を見ているって事ですね?」


はあ、なんか戦いよりも疲れた気がする・・・


「ああ、その通りだ。まさか自分達が精神操作をされるとは夢にも思っていなかっただろう」

「精神操作のエキスパートが精神操作をされるとは滑稽だな」


ルクスもいつの間にか普段どおりに戻り、真面目な顔で呟く。


「しばらくすれば幻覚は解除されるだろうが、支配までは解けないようにしてある。何をしたかと言うと、俺達に反逆する事が出来ないように制約という(シガラミ)を付けて置いた」

「それでどうするの?まさか・・・」


俺が彼らに掛けた魔眼の効力を説明すると、タマモがそんな事をした理由を聞いてきた。

しかも続けようとした言葉は何となくわかるので・・・・


「違う!お前らの考えるような事じゃない!てか、その話はもういいから!」


と否定しておいた。


「元々、ルクス達と一緒に戦ってきたんだ。これからも、こき使ってやればいいさ」

「おお、殺さずに魔眼で支配したのはその為か!」


支配した理由も話すと、ルクスが感心するように頷いていた。


しかし今考えてみても、俺の魔眼の力が上がり使い方を知らなかったら、かなりやばかったかもしれない。

それもこれも、イブリースのおかげだろう。

彼女はこうなる事を見越していたのだろうか?


いや、あの時のイブリースはそんな感じではなかったな。

ただただ、自分達が面白ければいい程度な感じだったはず。


どちらにしても、イブリースのおかげで危機を乗り越えたのだし、直接言うと調子に乗りそうだから心の中だけで感謝しておこう。

とりあえず未だにトリップしているヴィンとリリィをフェンリルに乗せて戻る事にした。


そういえば、俺達だけならまだしもシャーターン達が参戦するのであれば、軍は必要なかったのではないかと思った。

まあでも、何かあった時後手に回るよりはいいだろう。



俺達がシャーターン達の所に戻るとガブリエルが (お帰り~!)と出迎えてくれる。


フェンリルに乗せられていたヴィンとリリィは正気に戻っていた。

元仲間達の姿を見た二人は暴れようとしていたが、それは俺の魔眼の制約によって叶わなかった。


自分達が殺されそうにならない限り、俺が攻撃対象としない者に対して攻撃・逃亡が出来ない、そして自害が出来ないという物だ。

先に俺が述べたように、反逆と取れる行為が出来ないようにしてあるのだ。

苦しむようにはしておらず、その意志を無くすというか、力に制限をかけるだけに留めているが。


どちらにしろ基本的には自由に行動出来るが、シャーターン達に背く行為をした場合、下手をすると動く事すらままならなくなってしまうのだ。

仲間割れなどと言う、下らない事を防止するためだ。

だからといって、万が一シャーターン達が無意味に彼らを殺すような事があったりすると、さすがに心苦しいので自衛の為なら反抗できるようにはしてある。

出来れば、そんな事が起こる事無く楽しくやってくれるのが一番だ。


ヴィンとリリィにその事を伝えると、ヴィンは歯をかみ締めるように悔しそうな表情をし、リリィは物憂げな表情をしながら「仕方がありませんわね・・・」とだけ呟いた。


精神操作に長けた二人が、自分達が逆に精神操作を受けるはめになってしまった事にショックを受け、さらには一度裏切った者達と再び共にしないといけないという状況に、苛立ちや戸惑い、気まずさ等が入り混じっているのだろう。

シャーターン達は、一度裏切った彼らが戻ってくるという事には特に気にする様子もなく、俺の話を聞いて素直に受け入れている。

その事が、かえって二人を困惑させる原因の一つなのかもしれないが。


まあ、シャーターン達を見ていれば、多少何かあったところで対処出来ないわけがなさそうだしな。

それ以上に、楽しければなんでもいいという感じにも見えるが。


話はまた後にする事にして、一先ずは王宮へと戻る事にした。

その間、ヴィンとリリィには特に手枷をつけたり縛り付けたりなどはしていない。

俺の魔眼の支配下にある彼らは、反抗も逃走もするおそれが無いためだ。


王宮内、王の魔にて二人から事情を聞いた。

先程、俺達と対峙していたときは恨みがあるような事を言っていたが、実際はそうではないらしい。


確かに多少は恨みと言うか、目に物を見せてやりたいという気持ちもなくはなかったようだが、それ以上に自分達の力で混乱が起こる様子を見たいという事だった。

その際に、シャーターン達を討つ事が出来ればそれはそれでよかったのだが、彼らは流石に無理である事は理解している。

ただ、この襲撃による混乱に乗じて、操っていた魔物の一部でも表の世界に行かせる事が出来れば御の字だと思っていたようだ。


しかし思っていた以上に簡単に、魔物達が殲滅させられてしまった事で落胆していた所、人間である俺や魔王の娘であるルクスを見つけ操る事が出来れば、計画は成功と言えると考えたそうだ。

彼らが本気で魅了を使えば、シャーターン達ならまだしもルクスであれば自分達の意のままに操れると思っていた。

そして俺に関しては、人間ごとき警戒する必要もないと断定していたようだ。


結果として、たかが人間であると侮っていた俺に計画を台無しにされたどころか、精神操作に長けた自分達がまさか逆に縛られる事になってしまった事に悔しさを隠せずにいる。

別に悔しさと反抗は別物なので、それは魔眼の影響下からは外れているので、大いに悔しがってもらって結構。

また戦闘などが起こった時、見下した相手に足元を掬われないようにする為の教訓にでもしてもらおう。


話が終り一度静まり返ると、シャーターンは二人の顔を交互に見やり、改めて処遇を言い渡す。


「今回は、特にこちらの被害があるわけでもないし、既にお前達の行動には制限がかけられている。よって、私がお前達を咎める事はない。そして万魔殿(パンデモニウム)内にて、自由な行動を許可する」

「・・・はっ?」

「・・・え?」


少なからず、何かしらの罰が与えられると考えていたのだろう。

シャーターンから言い渡された内容が、あまりにも自分達の考えていた事とは違いすぎて、二人は驚きの声以外を発する事が出来なかった。


「そ、それだけですか?」


なんとか声を出す事が出来たリリィがシャーターンに尋ねた。


「ああ、そうだ。魔族は元々自由な思想を持ち、自由に行動するべきなのだ。従って私は別に、お前達を追放した時からして怒ってなどいない。追放したのも、私達と考えが違うのであれば一緒に居るべきではないと考えた為だ。もちろん自由ではあるが故に、私達に敵対するのであれば私達がそれを迎え撃つのも道理という物だ。まあ、今回はお前達もキョウヤに枷をはめられてしまったわけだし、それ以上の咎めは酷だろう」


シャーターンが話している間、二人は目を見開き黙って聞いていた。


どうやら二人が追放された理由も、二人が考えていたものと違っていたようだ。

シャーターン達が守ろうとしていたものに二人が手を出そうとしていた結果、シャーターンの怒りを買ったのだと思っていたようだ。

だがシャーターンは、自分達の好きなようにさせるために追放したのだと言う。

ただその結果、自分達と対立する事になれば容赦はしないとも釘を刺しているが。

それを聞いた俺は、二人を魔眼の支配下に置いたという事に申し訳なさを感じていた。


まあ、やってしまった事は仕方がないので、気にしないようにしよう。


その後、二人は何も言う事はなくその場は解散となった。

二人は昔使っていた部屋をそのまま使うように言われた為、自分達の部屋へと戻っていった。


俺達も自分達の部屋へ戻り、ゆっくり休む事にした。

例によって、なぜかルクスが俺達の部屋に来て一騒動あったので、ゆっくり休む事が出来なかったのは言うまでもない。



翌日、再び俺達は王の間に来て、シャーターンと向き合っていた。

それは今後の俺達の動きについて伝える為だ。


「俺達は明日ここを出ようと思う」


俺はシャーターンにそう告げた。

ルクスには魔力操作を教わる事が出来、さらには魔族との戦いも経験できた事だし、そもそも俺はこの世界を見て周りたい。

なので、そろそろここを離れようと考えたのだ。

俺の仲間には、昨日の内にその事を伝えてある。

ルクスはただ一言「そうか・・」とだけ呟いていた。


「随分急だが、こちらには引き止める理由は無い。ここにいたのもお前が勝手に言い出したことなのだから、好きにするがいい」

「ああ、世話になったな。ありがとう」


俺が素直に礼を言うとシャーターンは、フッと笑うだけで返事はしなかった。


「ガブリエルはここに残りたかったら、残っていても構わないんだぞ?」


名残惜しそうなガブリエルに俺はそう声をかけた。

しかし・・・


(ううん、私はキョウヤに付いて行くと決めたんだから、一緒に行くよ~!)


と頭を振りながら俺の言葉を笑顔で否定し、(また、ここに会いに来ればいいだけだから)と付け加えた。

シャーターン達とちょこちょこ会って話していたようだし、ここに来た当初に比べると無理の無い笑顔に戻っている。


まあ、残ってもいいとは言ったが、この世界に来てからずっと一緒についてきていたガブリエルが居なくなるのは少し寂しい気もするし、本人がいいと言うなら俺には反対する理由はない。


俺達がここを去る事を告げても、シャーターンのみならず他の連中も特に気にする様子はない。

元々仲間でもなんでもないのだから、それも仕方がないだろう。


特にアザエル、アスタロト、クザファンなんかは目を伏せ微動だにせず、俺達と目を合わせようとすらしない。

ベリアルなんかは、ずっとニヤニヤ笑っているだけだ。


ただ、一番最初に会ったベルゼバブやシェムハザは、ほんの一瞬だけ寂しそうな顔をしていたのは気のせいだろうか?

実際、本当に寂しいと思っているとしても、それはガブリエルに対してだろうと思う。


イブリースなんかは、「私は捨てられたのね・・・」とか訳のわからない事を言いながら、どこから取り出したのかわからないハンカチを口に咥え泣きまねをしている。

それを見たタマモとリーエが殺気立っているから、マジで止めてほしい・・・


ヴィンとリリィもこの場にいるのだが、ヴィンに関しては俺に対して早く消えろとでも言うような顔を向けている。

リリィは「私達をここに縛り付けて置いて、自分はすぐにどこか行くのですわね・・・」とブツブツ言っていた。


確かにリリィの言うとおりだなと、心の中で苦笑する。

まあ、俺の自分勝手は今に始まった事ではないのだから、仕方が無いと割り切ってもらうしかない。


そして明日でルクスともお別れだなと思っていると・・・


「父様!父様に話がある!」


と言い出した。

ルクスが言おうとしている事は、まさかとは思うが・・・


「なんだ?ルクス」

「私もキョウヤと共に行く!」


そのまさかだった・・・





お読みいただきありがとうございます。


以前からお伝えしているとおり、私事で中々執筆が進んでおりません。

これからも少し更新が遅れると思います。


とりあえず魔大陸編は、終了となります。

次回、幕間もしくは閑話を挟みつつ、新章へ入る予定です。

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