第45話 敵の殲滅!?
ガブリエルをシャーターン達の所に残し、俺達は近づいてくる魔族達の所に向っている。
ある程度確認できる距離まで近づくと、すでにベリアルが暴れまわっているのが見えた。
両手に持った大剣を左右になぎ払うだけで、近くにいた魔族達は切り払われている。
さらには、鋭く振るった大剣の剣速により風の刃が発生し、遠くにいる魔族をも倒していた。
ベリアルは力任せに大剣を振るっているとはいえ、戦い方は非常に参考になる。
大剣を振るった後も、常に周りの状況を把握しながら2手、3手以上先の事を考えながら戦っているようだ。
おっと、俺達は魔族達を倒しに来たのであって、ベリアルの戦いを見に来たのではない。
ベリアルの戦いを見ながらも、俺達は残りの魔族に向って走っている。
近くまで来た俺達に気づいたベリアルは。
「よお、遅かったじゃねえかよ。お前達の分も多少は残しておいてやるが、邪魔だけはするんじゃねえぞ!」
と言いつつも、大剣を振るう手は休めない。
俺達はベリアルの近くだと巻き込まれかねないので、少し離れた場所にいる魔族達と戦う事にした。
先程の俺も含めた遠距離攻撃やベリアルによって魔族達は大分数を減らし、残りはざっと見で千くらいといった所か。
こっちにはフェンリルとルクスがいるから、本当なら二人だけでも十分な気がする。
ただ、彼らに頼りたいわけでは無いので、なるべくルクスには撃ち漏らしを倒してもらうように頼んである。
それを聞いたルクスは不満そうではあったが、渋々ながら了承してくれた。
フェンリルに下がっていろというと、たまには暴れたいフェンリルにとってはストレスになりそうだから、魔族達と遊んで来いと言ってある。
倒せというと、本気を出してあっという間に終わらせかねないからだ。
タマモとリーエも、この前の不完全燃焼をここで晴らそうと目を輝かせている。
「よし、じゃあ俺達もやるぞ!気は抜くなよ!」
「うん!わかったよ!」
「はい!任せてください!」
「我も遊んでくるぞ!」
「出来るだけ撃ちもらしてくれ!」
俺は言葉をかけながら全員の目を見ると、それぞれが目を合わせるごとに返事を返してきて、戦いに参加すべく散っていった。
いや、ルクスさん、撃ち漏らしてくれっておかしいだろう、と心の中で突っ込む事は忘れなかった。
俺は魔剣を取り出し、魔力を纏わせる。
そして実戦にはまだ早いと思いつつも、先程ルクスに教えてもらった飛行を使う。
別に優雅に空を飛びたいわけでは無いのだから、精度が甘くても問題ないと考えた為だ。
飛行の魔力制御の難しさだけでなく、気持ちが高ぶっていた事もあるのだろう。
思っていた通り放出する魔力量を間違えて、物凄いスピードで空へと飛び上がる。
そして空にいる魔族達を通り抜ける際、手に持っていた魔剣を振りぬいて数体を倒していく。
ただその勢いは止まる事無く、あっという間に魔族達を越えてしまっていた。
逆向きに魔力を放出し、なんとか停滞できる程度に魔力量を調節する。
すると思いのほか、皆が戦っている様子もよく見える。
タマモは鉄扇を開いて思いきり振る事で風を起こし、魔族達の動きを制限させている。
その後、タマモはチャクラム4つを取り出し、自在に操りながら次々と魔族達を倒していく。
大分、魔力操作が出来るようになったようで、4つとも別々の動きをさせていた。
しばらくチャクラムを自由自在にコントロールさせて魔族を倒した後はチャクラムを戻し、今度は錫杖を取り出し体の前に両手で持ち地面に付きたてる。
そして集中したと思うと、構えている錫杖の前には幾つもの狐火を出していた。
それを魔族に向けて放つ。
大きさは頭一つ分ほどしか無いのだが、威力は今までよりも格段にあるらしく、魔族に狐火が当たるとその部分が焼失しそのまま貫いていた。
それも何度かやっている内に満足したらしく、今度はタマモも空を飛び、尻尾を巨大化させてなぎ払ったりして楽しそうに暴れていた。
というか、タマモが空を飛んだ所を見た事なかったが、タマモも飛行を使えたんだな。
腐っても九尾の妖狐なんだし、使えなくても不思議はないのか・・・
まあ、タマモ自身が飛行と理解して使っているのかは別として・・・
どうやらタマモに心配は必要なさそうだ。
続いてリーエが見えた。
リーエは弓を取り出し、矢の代わりに魔法の矢を作り出し引いている。
さらにはリーエの周りにも、引いている矢と同じような魔法の矢を数十本も作り出していた。
引いていた矢を放ったのと同時に、リーエの周りの矢も同時に放たれる。
どうやら、弓を引き・射るという動作をする事で、自分の周りに作り出した魔法の矢にも同じように、魔族に向けて放つイメージがしやすいのかもしれない。
その放たれた矢は全て魔族の急所にあたり、次々と倒れていく。
見ていて面白い魔法だと思い、俺も今度真似してみようと思ったのは秘密だ。
ある程度、魔法の矢で魔族を倒すと、今度は飛行で上空へと舞い上がる。
リーエは元々、飛行は出来たようなのだが、今までは散歩をする程度にしか出来なく、戦いに使う事などは出来なかったようだ。
魔力操作をある程度物にした事によって、戦いでも使える程に空を飛べるようになったという所なのだろう。
そして、魔族達と同じ高さまで上がると、リーエが得意としている風の魔法で刃を作り出して飛ばしている。
その刃はかなり洗練されており、少ない魔力量で速さと鋭さを増しているようだ。
それにはリーエも満足しているような表情をしていた。
フェンリルは・・・
うん、確認するまでもなし!放っておこう。
見ていると魔族が可哀想に見えてくるし・・・
っと、他の連中のことばかり気にしていると、俺が何もする事無く終わってしまいそうだ。
魔族を通りすがりに倒したとはいえ、タマモ達に気を取られている魔族達は俺に向かってくる様子はない。
俺は魔力量を調節し、魔族のいる高さまで降りる。
本当なら武器で倒していきたいところだが、俺はベリアルのように飛行と剣技を合わせて戦えるほど、飛行を自由に使いこなせない。
だから俺は魔法を発動させる。
なにせ、さっき折角シャーターン達が俺に魔法を見せてくれたのだ。
使わない手はない。
俺が使おうとしている魔法は聖なる審判。
ただし、シャーターンの様に天から降り注ぐものではない。
放つイメージはイブリースの魔法だ。
俺は右手を前に突き出し、魔力の流れ、そして魔法をイメージする。
さらにリーエが使っていた魔法のイメージも上乗せする。
全身から右手に向って魔力を流し、そして魔族に向けて一気に放出する。
聖光波
突き出した右手から放たれるその聖光波は、直径30cm程で無数もの光線となって魔族達に向かって行く。
光の速度で打ち出される聖光波に、魔族達は成す統べなく喰らい消失していく。
ある程度の方向に撃っているので、かなりの数を減らす事が出来た。
聖光波から免れた魔族達も、一瞬あっけに取られ動きが止まっている。
俺はすかさず魔法で1mほどの球体を作り出し、その残った魔族達のなるべく遠くにいる敵に向って打ち出す。
その球体は狙った魔族に当たると連鎖的に爆発を引き起こし、近くにいた魔族からどんどん巻き込まれている。
シェムハザとクザファンが使った魔法をイメージし、それをアレンジしたものだ。
彼らは4大元素を用いていたが、俺が使ったのは3元素で火と風と可燃性の砂(土)。
火と風を内側に魔法で膜を造り、その外側に可燃性の砂を充満させておく。
そして魔族にぶつかった瞬間に、内側の膜が割れるようにしておくことで、可燃性の砂と火によって粉塵爆発が起こり、さらに風でどんどん外側に広がるようにする事で、連鎖で爆発を起こし大規模になるようにしたのだ。
ただ自分で思っていたよりも大規模すぎた。
空で戦っているタマモやリーエには被害が及ばないようにするつもりが、あと少しで巻き込んでしまうところだった。
二人は俺を見ながら怒りの声を上げている。
こりゃ、後で大目玉を食らうな・・・
タマモやリーエ、フェンリル、ベリアルによってある程度数を減らされていたので、俺の魔法によってほぼ全滅させる事が出来たようだ。
「ふぅ、ようやく終わりそうだな」
残存している魔族も、タマモ達によって倒されている。
ベリアルは既に終わったと見て戻ったらしい。
俺は地上に降りてルクスの居る場所に向う。
するとルクスは敵意にも似た怒りの眼差しでこちらを見てきた。
「おい!どういう事だ!?」
「??どういう事とはどういう事だ?」
「質問に質問で返すんじゃない!」
「いや、明らかに言葉が足りてないだろう?」
「ぐっ、確かにそうかもしれないが・・・」
「そうだろう?」
「私は撃ちもらしてくれと頼んだじゃないか!全て倒してしまっては、私の出番が無いではないか!どうしてくれる!?」
「はあ!?」
そんな事かよと内心思いはしたが、さすがにそれを口に出すと火に油を注ぐようなものだと考え口を噤む。
「なあ、どうしてくれる!?どうしてくれるんだ!?」
俺は何を言おうかと黙っているとルクスはどんどん近寄ってきて、さらに詰め寄ってくる。
顔が目の前まで来ると、流石にどぎまぎしてしまう。
「いいから、少し離れてくれ!」
「嫌だ!キョウヤが責任を取ってくれると言うまでは、私は引き下がらんぞ!」
「わかった!わかったから!俺に出来る範囲の事なら、1つルクスのいう事を聞くから」
「本当か!?本当だな!?」
俺が頷くと、ようやくルクスは離れてくれた。
さっきまでとは打って変わり、ニコニコと笑顔になっていた。
やれやれ、俺のせいじゃないのに変な約束をしてしまったと思いつつ、穏便に済んだ事で安心していたのだが・・・
一難さってまた一難・・・
「あ~~~!!ちょっと何やってるのさ!」
「ちょっとキョウヤさん!どういう事ですか!?」
タイミング悪く、魔族を全て倒した二人が戻ってきた。
しかも先程の場面を見られていたようだ。
「人が残りの魔族を倒している最中に、ルクスと何やってるのさ!」
「そうですよ!しかも、せ、せ、責任がどうとか!・・・はっ!さっき魔法で私達を巻き込もうとしたのは、私達を亡き者にしてルクスさんと・・・!」
二人は戻ってくるなり、矢継ぎ早に言葉を並べてくる。
「ちょ、ちょっと待て!落ち着け!」
「これが落ち着いていられますか!」
「そうだよ!落ち着いていられるわけないじゃん!」
二人もどんどん近づいてくる。
だから何で皆、そんなに顔を近づけて来るんだよ!
「ちゃんと説明するから、一度落ち着いてくれ」
そういうと少しだけ離れて、ようやく落ち着いて俺の話を聞いてくれた。
先程の顛末を聞かせると一瞬安堵した様子を見せた。
「なぁんだ、そういう事か!」
「私は最初からキョウヤさんを信じていましたよ!」
いや、リーエさんよ。
俺を信じていたという感じじゃなかったぞ?
「でも、だからといって、なんでキョウヤさんが責任を取る必要があったんですか?」
「あ、そうだよ!」
「それはだな・・・そうしないと収まりがつかなかったというか、なんというか・・・」
「へぇ~、じゃあ収まりが付かなかったら責任を取ってくれるんですね・・?」
「うっ・・・」
俺は余計な事を口走ってしまったと後悔したが、時既に遅し。
「じゃあ私も責任を取ってもらいましょうか?先程、キョウヤさんの魔法に巻き込まれそうになって危なかったんですよねぇ」
「--!!うん!そうだよね!あたしも死ぬかと思ったなぁ~」
嘘付けタマモ!
確かに巻き込みそうにはなったが、十分余裕はあっただろが!
「で?どうしてくれるんですか?」
「ねぇ~、どうしてくれるのさ?」
「・・・はぁ、わかったよ。二人にも俺が出来る範囲で1つ何かしてやるよ」
そういうと二人は手を取り合い飛び跳ねながら喜んでいた。
なんか最近、こんな事ばかりなような気が・・・
そう考えながらも、二人・・・いや、ルクスも合わせて3人の笑顔を見ていると、まあいいかと思ってしまう。
その内にフェンリルも戻ってきて「むう、もう終りなのか・・・?」とぶつくさ言っていた。
全てが終り、そろそろ俺達も戻ろうかと思った矢先。
「やれやれ・・・」
「思っていた以上に使えませんでしたわねぇ」
どこからか声が聞こえてきた。
「ああ、もう少しやってくれると思っていたのにな」
「そうですわね、期待はずれもいいところですわ」
声は聞こえるのだが姿が見えない。
魔力感知でも捕らえる事が出来ないでいる。
「誰だ!!どこにいる!?」
俺が大声で叫ぶと、さらに声が聞こえてくる。
「誰だなんて・・いやですわね下品で・・・」
「そうだな、知性のかけらも感じられない」
目の前の空間に裂け目が出来て、そこから二人の男女(?)が出てきた。
お読みいただきありがとうございます。
前話の後書きにも書きましたが、私事により更新が遅くなっております。
それでも10日以内には投稿出来るように頑張ります。




