第44話 シャーターン達の魔法
あの後すぐに、俺達はシャーターンの元を訪れていた。
それはもちろん俺達も一緒に戦う為、詳しい話を聞きに来たのだ。
敵の数はおよそ1万に対し、シャーターン軍の向える数はおよそ2先。
これが他の魔王軍の敵であるならばそれなりに脅威らしいのだが、今回はどの魔王にも属さない魔族の連合なのだそうだ。
ただ魔王クラスには届かないまでも、普通の魔族よりは強いのが半分を占めるらしい。
そのため今回はシャーターンを含めた幹部達も前線に赴き戦うとの事。
と言っても、シャーターン達幹部が最初の一撃を放った後は、部隊の魔族たちが殲滅しにいくそうだ。
敵の数に対して全く動じる事はなく対応している事からすると、今までもこのくらいの事は何回もあったのかもしれない。
実際この程度であれば、幹部3人と部隊でどうにか出来るらしい。
ただ、今回は俺達に魔力の使い方の一部を見せてくれるという意図もあるようだ。
シャーターン達の攻撃が終わったら、俺達も敵の殲滅に行く事になるが、さすがに数が多い事に若干の不安が拭えない。
この間のような不完全燃焼で終わる事はないと思うが、五体満足でいられる保障もないからな。
まあ、シャーターン達がいるから大丈夫だとは思うが。
・・・
いや、こんな事を考えている時点で駄目だな・・・
俺自身で皆を守れるようにならないといけないのに後ろ盾をあてにするなんて、どうやら少し弱気になってしまっているようだ。
あれこれと考えていると、肩をポンと叩かれた。
「キョウヤさんなら大丈夫ですよ!それに私達もキョウヤさんが心配するほど弱くはありませんよ」
「そうだよ!どうせきょうやの事だから、あたし達を守りながら戦う事を考えてるんでしょ?」
「むう、我を倒せる者などいるなら見てみたいものだ」
「私を心配するなどとは・・・誰がお前に魔力操作を教えてやったとおもってるんだ?」
(キョウヤは心配性だからね~)
リーエとタマモが俺の考えている事がわかってしまっているようだ。
フェンリルはフェンリルで楽しみにしているようだし。
それよりも、いつのまにルクスは俺達側になっているんだ?
どちらかと言うとシャーターン側だろう!?
ま、それだけ俺達に気を許してくれているという事なのだろうな。
その事が少しだけ嬉しくなった。
皆から声をかけられた事で、肩の荷が下りたような気がした。
「もういいか?そろそろ私の射程圏内に入ってくるから、迎撃に向いたいのだが」
シャーターンはどうやら遠距離魔法で敵をある程度減らそうとしているようで、俺達のやり取りを見て急かして来た。
「ああ、すまない。それで最初はシャーターン達が攻撃するのを、俺達は下がって待っていればいいんだな?」
「ああ、特別に私の力の一端をお前に見せてやろう」
そう言ってシャーターンは仲間達と目の前から消えた。
どうやら空間転移を行なったようだ。
そういえば俺は、あれからしばらく空間転移の練習をしていない事に気が付いた。
敵の魔族の位置は掴めても、シャーターン達程の手練れを遠くから把握する事は難しい。
それに空間転移には、一度行った事のある場所でないといけないし。
どうやって追いかければいいんだ?と悩んでいると、ルクスが空間転移を使えるという事なので、今回はルクスに甘える事にした。
ルクスにはシャーターン達がどこに向ったのかわかっているようで、俺達を近くに呼び寄せて空間転移を使い後を追った。
空間転移から出た先は、どうやら万魔殿から北に位置するらしく、既にシャーターン達は敵が来る方角を見定めている。
俺達も同じ方角を見ると、はるか遠くの空におびただしい数の黒い点が見える。
あれが全部的の魔族なのだそうだ。
俺が倒した魔族と同じように、地上を来る魔族もいるものだと思っていたのだが、今回は全部空を飛んできているようだ。
その時俺は重大な事に気づいた。
・・・俺、空飛べねえじゃん!
そうなると空の敵を相手にするにはジャンプして一匹一匹倒すか、もしくは魔法で迎撃するしかないのか?
俺が考えている事が顔に出ていたのか、ルクスが俺に話しかけて来た。
「なんだ?空を飛べなくてどうしようかとでも考えているのか?」
「うぐっ!」
「図星か・・・お前はもう魔力操作が出来るんだ。それの応用で空を飛ぶ事など簡単に出来るんだぞ」
「おお、マジか!?」
ルクスは「マジってなんだ?」とか言いながらも、シャーターンが攻撃するまでもう少し時間があるからと、少しだけやり方を教えてくれた。
魔力操作で体の内側に押し込むようにしていた魔力を、今度は外に放出するようなイメージでやればいいのだとか。
言われたとおりに自分の中に押し込んだ魔力を、外に向って放出させた。
すると・・・
ボフッ!
小さな爆発を起こしてしまった。
「ばかか、お前は!全方向に向って一気に放出させるんじゃない!それだと魔力爆破だ!」
怒られてしまった・・・
どうやら、溜めた魔力を全方向に一気に放出する事で、自分の周りに魔力による爆発を発生させ身近にいる者を吹っ飛ばす事が出来るらしい。
その後ルクスが、もう少し詳しく教えてくれたのだが、自分が行きたい方向と逆向きに魔力を放出すればいいのだとか。
どうせなら最初からそう言って欲しかったとも思ったが、自分の無知が原因なので素直に反省する事にした。
俺はルクスに言われた通り、空へと浮かぶ為に下に向けて魔力を少しずつ放出していく。
一気に放出すると、さっきみたいに何が起こるかわからないからな。
最初は特に変化が無かったが、放出する魔力を少しずつ増やしていくと、ゆっくりと浮かび上がってきた。
「おお!」
「やはり飲み込みは早いようだな」
空を飛ぶというほどではないが、空中に浮かんだ事で思わず声が出てしまった。
ルクスはそれを見て関心している。
「しかし、実戦で使うにはまだ早いだろう。きちんと飛行を使いこなすにはまだまだ訓練が必要だ。飛行を使うのであれば、今回は戦いの補助として使うべきだな」
まあ確かに今も少し浮かんだだけだが、その位置で留まるように魔力を調節するのは難しい。
下手に放出する魔力を増やせば一気に跳び上がりそうだし、かと言って魔力量を減らしすぎると落ちてしまいそうだ。
「あと、気をつけないといけないのが、魔力を放出しているのだから、魔力感知で発見されてしまう可能性も高いという事だ」
「ああ、わかったよ」
確かにその通りだな。
下手に調子に乗ると、何かで飛行を使ったときにすぐに見つかってしまいそうだ。
「まあ、魔力を察知されないようにする方法が無いわけではないが、それはまたの機会にしておくとして・・・来たぞ!」
ルクスが顔を向けた方を見ると、先程は点に見えていたのが体の形がわかる程度に近づいていた。
あの辺りがシャーターン達の射程圏内のようだ。
「さて、そろそろやるぞ」
シャーターンが徐々に魔力を高めてきた。
そして、シャーターンが片手を突き出しながら言葉を発した。
「聖なる審判」
すると、飛んでいる一部の魔族の上に光の円が出来たかと思うと、真下に向かい一瞬にして光の柱が伸びた。
事前に察知できた魔族は何とか逃れたようだが、光の中にいた魔族達は全て消滅してしまったようだ。
敵は広域に広がって飛んできているのでほんの一部にしか攻撃していないとはいえ、あれだけでも数百は簡単に倒してしまっただろう。
しかもあれで手加減しているというのだから、本気で放たれた時は脅威は想像もつかない。
シャーターンが本来なら必要のない工程であるはずの、魔力を高めた上にわざわざ魔法名を言ったのは、シャーターンなりに俺へ魔力の使い方のレクチャーらしい。
非常にありがたい事だ。
敵の魔族はあの攻撃を見て、もしかして引き返すんじゃないかとも考えたが、むしろいきり立ち向ってきているようだ。
「シャーターン様、私も久々に一発どでかいのをかましてもいいんだよな?」
「ああ、構わんぞ」
ベルゼバブがシャーターンに攻撃の確認をしていた。
「ギャハハハッ!俺も好きなように暴れさせてもらうぜぇ!」
「はぁ、程ほどにしておきなさい」
ベリアルはシャーターンの意見を聞くまでも無く、最初から暴れる気だったようだ。
アスタロトは今回の攻撃に参加するつもりはなくシャーターンの後ろで控え、ベリアルに対して諌めるようにしていた。
「じゃあ、お姉さんも貴方にカッコいい所を見せておこうかしらねぇ」
イブリースがいつの間にか俺の隣に来て、俺に体を摺り寄せ耳元で囁いてくる。
案の定、それをみたタマモとリーエに殺気が篭っている。
なぜかルクスからも殺気を感じられる気がするのだが、それは気のせいだろう。
イブリースは「うふふっ、じゃあまた後でね」と意味深な言葉を残して離れていった。
いや、そういう冗談は止めてくれ、と切に願うばかりだった。
他に攻撃に参加するのはシェムハザとクザファンのようだ。
アザエルは参加せず、敵がここまで抜けてきた時だけ戦うらしい。
ベルゼバブは右手を挙げると、そこには直径50cm程の炎の球体が出来上がった。
しかしその炎は赤くはなく、不気味さが漂う漆黒の炎だった。
それを魔族の群れに向って放り投げる。
まだかなり距離があるから、避けられるのではないかとも思ったのだが、意外にもその漆黒の火球は一番手前にいた魔族に当たった。
どうやら弾き返そうとしたらしい。
しかしその考えは甘く、魔族が火球を弾こうと手に当てた瞬間に爆発を引き起こした。
しかもその爆発の規模が半端ではなく、先程シャーターンが倒した魔族の倍くらいは巻き込んだだろう。
今度はイブリースが魔力を高め始めた。
そして両手を前に出し、高めた魔力を両手の前に集め始めと、それを前方に向って一気に放出する。
すると、かなりでかい光線が魔族達に向って伸びて行く。
喰らった魔族達が消滅してしまったのはもちろんの事だが、それだけで終わるのではなく、その光線を横になぎ払うように動かし、さらに多くの魔族を巻き込んで消滅させていた。
その攻撃が終わった後こちらを振り返り、ウインクと投げキスをしてくるのは止めてほしい・・・
シェムハザとクザファンは二人同時に魔法を放つようだ。
しかも面白い事に、シェムハザが左手に風と右手に水、クザファンが左手に土と右手に火の属性魔法を出し、4大元素を用いた複合魔法を使うようだ。
何をするのかと期待していると、二人は最大まで高めた各属性魔法を一つに纏め始めた。
相克もあるのではないかと思ったのだが、それは勝手な思い込みらしく、要は合わせ方が問題なのだそうだ。
その4大元素複合魔法を魔族達に向けて放つ。
そしてそれが当たった瞬間、巨大な爆発を起こしていた。
爆発と一言で済ませているが、その中身はそんなに簡単なものではなかった。
高温である火と水が合わさる事で水蒸気爆発を起こし、水と土が合わさる事で硬化した土の弾丸と化す。
さらにそれに風が加わる事で、加速度的に爆発と土の弾丸の威力・規模を大きくする。
爆発に飲み込まれた者はそのまま消滅してしまうし、逃れられたとしても土の弾丸が襲い、喰らった者は耐えられるはずもなく体に穴を空けられ倒れてしまう。
それが一瞬で起こるのだから、あれを喰らった方はたまったもんじゃないだろう。
魔法は相克だとか常識に囚われず、発想次第でいくらでもどうにでもなるという一つのいい例だな。
シェムハザとクザファンの攻撃が終わった頃には、敵の2/3以上が消し去られていた。
ベリアルを除く彼らの攻撃は完全に殲滅魔法なわけで、確かに敵との距離があるからこそ使える魔法なのだ。
もっと敵が近かったら、ここまで簡単に殲滅する事も出来なかったのだろう。
残り1/3とは言っても、まだ数千は残っている。
すると、今度はベリアルが動いた。
他のメンバーが殲滅魔法を使い終わるのを待っていたようだ。
両手に大剣を携えて、空間転移を使い魔族達の所まで飛んだようだ。
ベリアルは魔法で殲滅するよりも、ただただ暴れたいだけらしい。
すでに魔族達を蹴散らしているようだが、ここから見るよりも俺達も参戦しながら見るほうがいいだろう。
そう考え俺は向かおうとしたのだが、その前に一つだけ試しておきたい事があった。
俺はベリアルとは離れた場所にいる魔族の上空に向って魔法をイメージする。
それは以前、ミランダに使った放電球だ。
魔力操作のお陰で、あの時に使ったよりもスムーズに放電球を創り上げる事ができた。
しかも、大きさはその時の10倍ほどで、威力も格段に上がっている事がわかる。
それを魔族に向って落とした。
放電球は、魔族達を飲み込んでいく。
飲み込まれた魔族達はどんどん焼失している。
放電球の範囲の魔族を飲み込んだ後、少ししてから放電球は爆音と共に弾け飛ぶ。
その際、放電球に溜め込まれていた雷流が外に噴出し、放電球から逃れ近くにいた魔族達を巻き込んで焼失させていく。
「ほう?」
「これは、中々面白いですね」
後ろからシャーターンとアスタロトの声が聞こえる。
どうやら俺の魔法も魔族にとって珍しい魔法だったようだ。
「じゃあ、俺達も行くぞ!」
俺はその声を気にすることなく、タマモ達に声をかけ魔族のいる方向へ駆け出していた。
お読み頂きありがとうございます。
更新遅れました。
これからも私事により、少しだけペースが遅くなると思いますが
ご了承くださいませ。
あと、2話くらいで魔大陸編は終わる予定です。




