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第42話 夜中の出来事



「おかえり~」


部屋に戻ると、ガブリエルはすでに戻っていた。

シャーターンと色々と話が出来たのか、ガブリエルはニコニコと嬉しそうにしていた。


ルクスはやる事があると、自分の部屋に向かったのでここにはいない。


今日はダグレスと戦ったり魔力操作の練習に集中していたり、武器を選んだりと色々しているうちに、気づけば夜になっていた。

完全に食事をするタイミングを失っていたな。


とりあえず、魔大陸に来る前に買っておいた食べ物をストレージから出しテーブルに並べて食事をする事にした。


「そういえば、今はまだしばらくはいいですけど、ここにいる間の食事はどうするんですか?」


リーエがテーブルに並んだ食べ物をつまみながら聞いてきた。


確かに食事の事は全然考えていなかったな。

魔族は食事を取っても戯れ程度だと言っていたし、ほとんどが酒メインらしいからあまり期待は出来ないだろう。


まあでも・・・


「魔大陸に戻れば、自然の宝庫だし何とかなるだろう?」


それにフェンリルは食事の必要はないし、リーエだって多少は食べるが特別必要だと言うわけでもない。

実質、食事が必要なのは俺とタマモだけなんだし、それならどうとでもなると考えている。



食事を食べ終えて、食後のお茶を飲みながら雑談をしていた。


その中で、ガブリエルにシャーターンと話せたのかを聞いてみると嬉しそうに、昔話に花を咲かせていた事を教えてくれた。

シャーターンは他の連中も呼んでくれたようで、皆で話をしていたんだとか。


完全にとは言いがたいが、ガブリエルにとって大分わだかまりは解けたようだ。

ガブリエルにとっては、ずっと彼らと居た方が幸せなのではないだろうとかと思い、ぽろっとここに残ってもいいんだぞと口にしてしまったのだが、ガブリエルはそれを否定していた。


私には私の、彼らには彼らの役割があるから、と。

それに私個人的にキョウヤを最後まで見守りたい、とまで言ってくれた。


俺はガブリエルの言葉が嬉しくもあり、ガブリエルの事をまだちゃんとわかっていなかったのだと自分を恥じた。


それからは今後の事について少し話し合った。


とりあえず俺は、しばらくの間は魔力操作の練習をしていくと告げる。

タマモもさっきの練習では、中々うまくいかずに放り出していたりしたが、チャクラムを貰った今となっては制御するには魔力操作が必須なため、やる気満々でいる。


リーエは完璧になるまでは一緒に魔力操作の練習をして、出来るようになったらそれはその時考えると言っていた。


フェンリルは無意識に出来ている事なので、魔力操作の練習をする必要もないのだが、むしろ意識してやった事がないのだから意識してやってみるかと、俺達と一緒に魔力操作をする事にしたようだ。

ぼそっと、暇だし・・・と言っていたのは聞こえなかった事にしよう。


全員が魔力操作を出来るようになったら、実戦形式で訓練かな?と考えつつも、大分夜が更けてきたので寝る事にする。


そこで部屋に入った時に嫌な予感をしていた事を思い出した。


ダブルベッドが二つ・・・


よし!

俺はフェンリルと一緒に寝るとしよう!


そう考え、フェンリルを呼ぼうとした瞬間。


「キョウヤさん?先程の罰の件、忘れてはいないですよね?」


うっ!

すっかり忘れてた・・・


「はっ?一体なん「何の事とは言わせませんよ!?」」


ぐっ、先手を打たれた・・・


「では、その罰ですが・・・キョウヤさんが寝る場所は、私とタマモさんの間です」

「えっ?それだけか?」


それだけというか、嫌な予感が当たったというか・・・


正直今は、嫌な予感を警戒するよりも、どんな罰を与えられるかの方がビクビクしていた。

そのため、俺のベッドに潜り込んで来る事を懸念していたはずなのに、一緒に寝るだけと言われた事で安心してしまった自分がいる。


「ええ、それだけです。それとも何ですか?もっと過激な罰がよかったんですか?」

「い、いや全然、全く持ってそんな事はない・・・」


それだけか、と口にしてしまったからには、受け入れざるを得ない・・・のか?


「し、しかしだな・・・年頃の若い男と女性がだな・・・」

「年頃の若い女性だなんて・・・キョウヤさんは私を口説いてくれているんですか?」

「違うよ!きょうやはあたしの事を言ったんだよ!」

「むう、何でもいいが、我だけがのけ者か・・・?」

(キョウヤってば~!私の事を若くて綺麗でキュートな女性だなんて~!)


なんか俺の発言から、おかしな方向に行ってしまった・・・

いや、フェンリルだけは俺の言葉には関係ないが・・・


ちょっとガブリエル?

何か余計な言葉が付け足されてないか?


「何はともあれ決定事項です!いいですね!?」

「はい・・・」


もう素直に頷くしかなかった。


仕方が無く俺はベッドに仰向けになると、俺の腕を取るようにタマモとリーエが俺を挟んで横になった。

そして何故か、フェンリルまでが俺の足元で寝る事になった。


色々と柔らかいやらいい匂いがするやら暑いやらで、中々眠れそうにないなと思いつつ、いつの間にか眠ってしまった。



夜中にふと目が覚めた。


寝起きのせいか?

なんだか頭がぼぉっとする。


目もなんだか焦点が定まらないような感じの中、寝ていた部屋とは違う場所に居るようだ・・・


「うふふっ、可愛いわねぇ~」


誰かの声が聞こえるのだが、近くにいる筈のその人物の声が遠くから聞こえるような感覚がする。


「うふふっ、本当に美味しそう!食べちゃいたいくらいだわ」


馬乗りにされ体中をまさぐられているのもわかるが、自分の感覚ではないような感じがする上、体の自由が利かない。

ただ、抵抗しようとする気力はなく、むしろ受け入れたいとすら思ってしまっている。


「ん~、ちょっとあ・じ・み!」


俺の頬をペロ~っと舐めているようだ。


なんかいい気分だ・・・


「そうそう、全て私に委ねなさい。気持ちよくしてあげるから」


ああ、このまま全てを捧げるのも悪くない・・・


「そうよ、旅の事も仲間の事も大事な人の事も、何もかも忘れてしまいなさい」


そうだ、旅も仲間もどうでもいい、大事な人なんて俺には・・・


(あんたは勝手だ!)


・・・ルチ?


(約束ですよ!)


・・・ユーリ?


(あたしはきょうやに付いていくよ~)


・・・タマモ?


(貴方の負う傷を私も負いたいんです!)


・・・リーエ?


(むう、なんか楽しそうだな)


・・・フェンリル?


(キョウヤの甲斐性無し~!)


おい!ガブリエル!


って、なんだよ・・・

この世界に来てから、俺にはもう既に大事だと思える人達がいるんじゃないかよ。


彼女達の顔と言葉が脳裏を過ぎると、段々頭が冴えて来た。


それならば、こんな所でお寝んねして好きなようにされている場合じゃないな。


おそらくこれは精神操作系だろう。

だったら、普通に解除しようとしても出来ない。


そう考えた俺は、ある一点に最大限の力を出せるよう集中し始める。


そして力が高まった時、その力を解放した。


すると精神操作の呪縛から解け、体が自由になった。


その瞬間に、俺に馬乗りとなっていたその人物の腕を取り、一瞬で逆の体勢に持ち込みすかさずストレージから出したダガーを首に押し当てる。


そこでようやく、その相手の顔を認識する事が出来て、誰なのかを理解した。


「お前は確か・・・イブリースだったか?」

「ふふっ、正解~!覚えていてくれたのね、嬉しいわぁ」


俺がダガーを首に押し付けているというのに、余裕の表情をしていた。


「なぜ、こんな事を!?」

「ん~、残念。完全に解けてしまったみたいね」


俺の質問には答えず俺の状態を確認して、さも残念そうに呟く。


「そんな事より、俺の質問に答えろ!」

「もう~、大声ださないの。ちょっとした冗談よ、じょ・う・だ・ん」


イブリースの言っている事が、全然的を得なくてイライラしてくる。


「冗談だと!?」

「そ。でも、その様子なら大丈夫そうねぇ」


「何の事だ!?」

「貴方、魔眼の持ち主よね?」


やはり、このクラスの相手だとすぐにばれてしまうのか・・・?


「・・・」

「まあ、わかるわよ。と言っても、魔眼の力を使おうとしない限りは普通ならわからないでしょうけどねぇ」


「じゃあ、なぜわかった?」

「う~ん、女の勘?」


「おい!」

「あははっ、そんなに怒らないでちょうだい。全くの嘘と言うわけではないんだから」


「どういうことだ?」

「魔眼持ちは、相手の事を知る為に周りと相手の目をじっくり見るのよ。もちろん、魔眼を持っていなくてもそういう人もいるし魔眼持ち全員がそうだとは言わないけど、ただそれとは別に私は貴方の目の奥に不思議な力を感じた、と言えばいいのかしらね」


確かに俺は魔眼があろうが無かろうが、常に周りを確認し相手の目を見てきた。

それは俺の処世術の一つでもあったからだ。


その事が、かえって魔眼持ちである事を裏付ける要因の一つとなってしまうとは。


確かにシャーターン達と会った時に、全員を見渡してしまっていた。

その時にイブリースに感づかれてしまったのだろう。


「・・・それは、ある程度の力を持っている奴なら誰でもわかる事なのか?」

「うふふっ、気になるようね?まあ、そこは安心していいんじゃなぁい?魔眼の力を使おうとしない限りは、普通なら気が付かないでしょうね。私達くらいの力があっても、わかっているのはシャーターン様くらいじゃないかしら?」


なるほどな。

魔眼持ちだとばれて困るわけではないが、出来るだけ手の内を晒すような事は避けたい。


彼女がなぜここまで教えてくれるのかはわからないが、忠告としてありがたく受け取っておこう。


「それで?」

「ん~?それでって?」


「なぜこんな真似をしたのかって事だ」

「それを教えるのはいいんだけど・・・その前に、いい加減にこの体勢どうにかならないかしら?それとも、貴方が私を襲ってくれるのかしらぁ?」


「あ、ああ、すまない。襲うつもりもない」

「あら、残念ねぇ」


俺はダガーをストレージに仕舞い、ベッドから降りて椅子に座る。

イブリースも明らかにからかう様な素振りで残念と言いつつ、ベッドに腰をかけ直す。


「さっきの事だけど・・・だって、貴方って見ているともどかしいんだものぉ。私達に迫りそうなほどの力の持ち主なのに、力の使い方があまりに稚拙で粗雑。だから私が、少しだけ手ほどきしてあげるのも面白いかなってね」

「・・・あれが手ほどきだと?」


「どうやら、お気の召さないようね。でも貴方は私の魅了(チャーム)に魔眼の力で抵抗してみせた。今までならさっきの様に精神操作で操る事も容易だったけど、これからはそうはいかないはずよ」

「俺が自我を取り戻せたのは魔眼の力なのか・・・」


「そうよぉ・・・相手を支配下に置き自我を守る。そして相手とは・・・生物に限る事はなく、万物に効力を及ぼす。それが魔眼の本来の力よ」

「・・・相手を支配下に置くつもりはないんだが」


「ん~、だめよぉ。もっと頭を柔らかくしないと。支配下とは相手を意のままに操れるという精神的な意味もあるけど、肉体にも及ぼす事が出来るという事よ。まあ、わかりやすく言えば石化や麻痺なんかがいい例かしら?」

「ああ、なるほど・・・」


「貴方の魔眼がどの程度の力を持っているかはわからないけど、そういう事も出来る可能性があるって事ね。相手や物を見通すだとか遠見なんかは、それから派生したオマケに過ぎないわ。それでも十分に使える能力には間違いないけどねぇ」


それを聞いて、俺は魔眼の特性についてほんの一部しか知らず、イブリースの言うオマケしか使っていなかったのだと理解した。


しかも、頭を柔らかくしろと言われ気づいた事がある。

相手を支配下に置くという事は・・・


「なあ、もしかして、魔眼で自分以外の精神操作などからも守る事も出来るという事か?」

「うふふっ、大分理解してきたようね。その通りよ。相手を支配、すなわち自分の保護下に置き、他の干渉を寄せつかせないようにする事も出来るわ。ただ、出来るのは数人。それ以上となると、半端ない魔力とそのコントロール、そして自分の肉体への負担がかかるでしょうね」


そうか・・・

だったら、俺が最初からその特性を知っていれば、ユーリにかけられた禁呪やアリーの精神操作から守る事が出来たはずだ。


そう思い至った時、無知だったあの時の自分を少しだけ後悔した。


ただ、今更言ってもあの瞬間には戻れない・・・

だったら、前を見てこれから二度と同じ事を繰り返さないようにすればいいだけだ。


そう思いなおし前を見据える事にした。


「色々とありがとな。だけど、なんで俺にここまで詳しく教えてくれる?」

「ん~、さっきも言ったけどぉ、貴方は何も知らなさすぎなのよ。そのままでは間違いなく死ぬでしょうから、さすがにそれは色んな意味で勿体ないと思ったのよねぇ」


「・・・俺が力をつけた時、敵に回る可能性は考えないのか?」

「うふふっ、それは私達を心配してくれているのぉ?まあ、そうなったらそうなったで面白そうじゃない」


俺程度なら、いくらでもどうにか出来ると言っているようだな。

現状は確かにその通りだから否定はしないが。


「ま、俺は魔族だからどうだという事はないが、守るべきものを守るためになら、例えあんた達であっても牙を向く事は間違いないだろうな。それは人間に対しても同じ事だが」

「貴方はやっぱり可愛いわねぇ。それって貴方にとって私もそういう存在になったら守ってくれると言っているのよね?」


「・・・そうなったらな。まあ、そもそもあんたなら守る必要はなさそうだけどな」

「そ、そんな・・・こんなか弱いお姉さんを捕まえておいて・・・およよ」


「か弱くもないし、そもそも俺があんたに捕まえられたんだろが」

「そこは女を立てないとだめよぉ。それはまあいいわ、とりあえず魔眼の力を引き上げられたようだし、貴方もそう簡単に操られる事もないでしょう」


「なんか俺がこれから操られる事があるような言い方だな」

「ん~、そこは内緒!全部教えちゃったらつまらないじゃない」


つまらないかどうかは別として、親しくもない奴にこれ以上は教えられないという事か。

まあ、それでも十分に教示してもらっているから十分だが。


「ただ一つだけ。誰とは言わないけど、私の仲間には注意しておく事ね」

「・・・それは、あんたも含めてか?」


「うふふっ、そうねぇ。否定はしないでおくわぁ。この先、何かあるかもしれないし、もしかしたら何もないかもしれないし」

「何だそれ・・・」


「私にもどう動くかわからないと言うのが現状なの。まあ、警戒しておくに越した事はないでしょう?」

「まあ・・な」


確かに誰が何を考えているかなんて、わかるわけないしな。

俺達をよく思っていない奴もいるかもしれないという事だ。


「とりあえず私の今回の目的も果たせた事だし、楽しかったし満足したわぁ」

「なあ、もし俺が魔眼の力を引き出せなかったらどうするつもりだったんだ?」


「うふふっ、それはそれで、ただ美味しく頂くだけよぉ」

「それは俺を本当に食うという意味じゃないよな?」


「ん~、それはぁ・・・ひ・み・つ」

「・・・まあいいや、とにかく色々とすまないな。助かった」


俺は礼を述べながら椅子から立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとした。


「あらぁ?もう帰っちゃうの?もう少しお姉さんと遊んでいかない?」


イブリースがベッドから降り俺に近づいてきて、俺の胸元に人差し指を這わせながら呟いてくる。


「いや、さすがにもう部屋に戻るわ」

「まだ皆寝ているんだし、いいじゃない」


そう言いながら、俺の胸を弄んでた反対の腕を俺の背中に回し、体を引き寄せようとした。


その時・・・


ドタドタドタ!


部屋の外で誰かが走ってくる音が聞こえた。


バンッ!!


そして勢いよく、部屋のドアが開け放たれる。


「おい、イブリース!何をやっているんだ!?」


入ってきて第一声を上げたのはルクスだった。


「キョウヤさん!?何をやっているんですか!?」


低くどす黒い声でリーエが迫ってくる・・・


「きょうや、ずるいよ~!!」


タマモは相変わらずだった。


「むう、また我はのけ者か?」


フェンリルはとにかく混ざりたいだけのようだ。


(キョウヤの甲斐性無し~!!)


ガブリエルとは一度本気で話し合う必要がありそうだ。



彼女達は、ふと目が覚めた時に俺がいない事に気が付いたらしい。

そこでまずはルクスを疑い、彼女の部屋に駆け込んだようだ。


しかしルクスも知らないという事で、どうしようかと考えていると俺の魔力を感じたそうだ。

多分俺が魔眼の力で自我を取り戻したときだろう。


それから急いで駆けつけてきたという事だ。


これから待っている説教を考えると少し憂鬱な気分になるのだった。




お読み頂きありがとうございます。

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