第39話 響也、魔力を学ぶ
「ルクス、王宮に戻る前に武器が見たいんだが」
訓練所を後にした俺達は、王宮に向かう前に折れてしまった剣の代わりを探す為に、ルクスに頼んで武器職人の魔族の所に案内してもらった。
中に入ると様々な武器が並んでいた。
思っていたよりも普通の武器ばかりだったのだが、魔族が作っているからといって魔属性だというのは偏見のようだ。
今まで見てきた武器よりもいい武器だという事はわかる。
しかし、ふとどうでもいい事が頭に浮かんだ。
ゲームの世界で言う武器の強さの数値とは何だろうと・・・
切れ味?
ただ切れ味だけ鋭くても、もろかったら意味が無い。
じゃあ耐久力?
それも切れ味が無ければ意味が無い。
ならばどちらも兼ね備えている事?
まあ、それはそうなのだろうけど、名刀と呼ばれた刀は少し違ったはずだ。
ある刀は切りたい物を斬りたい時に斬る事が出来、ある刀は何でも斬る事が出来る。
そして前者を名刀、後者を妖刀としたという。
これはフィクションのはずだが、それでも納得は出来る。
今の話をゲームとして考えたら、強さだけなら妖刀の方が強いよなぁ・・・
と、どうでもいい事を考えつつも色々な武器を手にしている。
どの武器も手に吸い付くような感覚があり、耐久や切れ味なども優れている事は持っただけでなんとなくわかる。
それでもフェンリル以上の敵を考えた時、心元無い感じがする。
ただ剣が無いのも困るな、と考え一本買おうと思ったのだが、そこの魔族に対価となるものをよこせと言われてしまった。
ここでは通貨は必要ないため、誰かから貰うときは対価が必要になるとの事だった。
ストレージの中の物にも、どう考えても剣の対価になる物はない。
仕方が無いので何か対価になる物をどうにかしないといけないと考えつつ、その家を後にした。
「武器が見たいというのは、先程折れてしまった剣の代わりを探したいという事だったのか」
魔族の中には武器そのものが好きだという者も多いらしく、どうやらルクスは俺がそれと同じように武器が見たかっただけだと思っていたらしい。
言わなくてもわかると考えていたのは、俺の早合点だったようだな。
「他には武器がないのか?」
「いや、あるにはあるんだが・・・」
「何か問題でもあるのか?」
「どれも弱い魔物ならどうにかできる程度の物しかない。剣もさっきのでなくなってしまったし」
そう考えると、やはり武器は早急になんとかしないといけない問題だ。
「キョウヤは何の武器が使えるんだ?」
俺は今のところ剣、双剣、弓が使え、槍はまだ訓練中だが使えなくはないと伝えた。
そのうちまた面白い武器があれば使えるようになりたいとは思うが。
「そうか・・・わかった、その辺は考えておこう」
「お、本当か?ありがとな」
剣はルクスが何とかしてくれそうなので、とりあえず今は魔力の使い方を教えてもらう為に、再び王宮へと戻る事にした。
ルクスに案内され、王宮内の訓練所へと足を運ぶ。
訓練中は暇だろうから、タマモ達には暇を潰してきていいと言ったのだが、どうせ待っていても暇だからと全員ついてきていた。
ここの訓練所には先客はおらず、俺達だけなので気兼ねなくできそうだ。
「まず魔力 についてどれだけの事を知っている?」
俺はルクスの質問に、魔力の流れについてや魔法にはイメージが重要である事、漂っている魔力を吸収する事で回復する事など、話してみるとあまり知らないなと思いつつも全て話した。
「なるほどな。初歩的な事しか知らないという訳だな」
う~ん、俺も話していて感じたが、使えるか使えないかは別としても、知識としてはこのくらいは当たり前という事か。
「初歩的な知識しかないとはいえ、キョウヤは魔力の流れを読み魔力感知を習得する事は出来ているな?」
「ああ」
「では、これならばどうだ?」
ルクスがそう言うと、俺の目の前から消えた。
ダグレスの時と同じように、文字通り消えたのだ。
ルクスが消えた事で確信したのだが、魔力感知で捉えられないのではない。
魔力そのものを感じられないのだ。
だからこそダグレスに後ろを取られた時も、勘に頼るしかなかった。
そして無防備になった俺の後頭部をルクスは小突いた。
「すごい・・・これほどまで・・・」
「ダグレスは何とか見えたけど、今のはあたしの目でも捉えられなかったよ」
「むう、シャーターンの娘、中々やるな。今の我と同じくらいのスピードか」
(そりゃ~リュシフェル様の娘だもん~)
皆は口々に驚きを表していた。
いやいや、なんでガブリエルが誇らしげにしているんだ?
「どうだ?私の動きがわかったか?」
「いや・・・全くわからなかった。これはダグレスの時と・・・」
「そうだ、ダグレスがやった事と全く同じだ。あいつらは速さに驚いているようだが、私が言いたいのはそこではない。キョウヤが私を捉えられなかったのは、魔力を全く感じなかったからなのだろう?」
「・・・ああ」
「しかし今のは、身体能力強化をする魔力を使って移動している」
「・・・?」
どうやら魔力を消して移動したとか、空間から消えたとかそう言うわけではないらしい。
「それを教える前に、キョウヤの言っていた話に戻ろう。確かに魔力の流れを読み解く事と、魔法を使ったりするにはイメージが重要である事は間違いない。しかしイメージをするという事・・・それは、そいつの持つイメージしか実現しえないという事だ」
「何となくわかるような・・・」
「では逆に、予め出来上がった魔法陣は別として、お前がイメージ出来ない魔法を使用する事が出来ると思うか?」
「・・・いや、出来ないな」
「人間が使う呪文というのも、呪文をくみ上げ発する事により想像しやすくしている物だ。人間で魔力が有って魔法が使えない者は、その想像が出来ていないからだ」
「なるほどな」
「だからこそ様々な事を見聞きし、経験し、知る事が必要なのだ。それがお前には圧倒的に足りていない。本来なら、これだけ魔力の高い奴らばかりがそろっているのだから、あいつらが教えたり見せたりしてやるべきなんだがな」
ルクスがちらりとリーエ達に目線をやると、白々しく目線を外しフェンリル以外の全員が鳴らない口笛を鳴らして誤魔化していた。
「先程私の使った移動よりも、簡単な事から始めよう。何でもいいから武器を持ってくれ」
「わかった」
武器と言われ、剣も折れたし双剣か槍でも出そうかと考えていたが・・・
「ああ、武器はあそこに立てかけてある物を使っていいぞ。訓練用に刃引きしてあるが、今は戦うわけじゃないから関係ないしな」
ルクスに指差された場所を見ると、色々な武器が並べて立てかけられていた。
俺は無難に剣を持ってルクスの前に戻る。
「じゃあ、ダグレスと戦ったときの様にやってみてくれ」
そう言われた俺は、剣に魔力を纏わせる。
俺の持った剣は魔力により淡く光りだす。
「やはりな。だから簡単に剣が折られるのだ」
「どういう事だ?」
「キョウヤ、お前のは表面上に無駄に魔力を流しているに過ぎない。武器に魔力を纏わせるのなら、本来ならこうする」
ルクスは自分の持っていた大鎌に魔力を流し込む。
しかし、流し込んだはずの魔力が全く見えず、魔力を流し込む前の状態と何一つ変わらなかった。
「何も変わっていないように見えるな」
「見た目にはな。しかしこのSOVにはちゃんと魔力を纏わせている」
あの大鎌はSOVというのか。
考えてみると、普通に英語が使われているな・・・
まあ、異世界でも言葉が通じている訳だし、その辺りは深く考えないようにしよう。
ただ、なぜその名前が付いているのかだけは後で聞いておこう。
とりあえずそれは置いといて、このSOVには魔力を纏わせているにも関わらず魔力を感じられない。
見た目にも魔力感知にもだ。
「その割には・・・」
「そうだ、これがお前と私達の魔力の使い方による違いだ。キョウヤが武器に魔力を使う場合、表面的なものしか補っていない。だから武器はそれを突破されると簡単に折れる。私が使ったのは、魔力を武器の持つ結合力・切れ味に直接作用させる事により耐久力と鋭さを増す」
ああ、俺のは武器を外側から守り、切れ味がよくなっているのも魔力で斬っているという事なのか。
ルクスは逆で、武器そのものに魔力を働きかけているのだな。
「身体能力強化にしても魔力で体を強化しているようだが、それは違う・・・逆だ。元々の身体能力を向上させる為に魔力を使うのだ。魔力で身体能力を強化するのと、身体能力を強化する為に魔力を使う。ニュアンスの違いかもしれないが、実際この差はかなり大きい。お前も言っていたように魔法はイメージが重要なのだからな」
確かに言葉にしてみれば大した違いではないかもしれないが、魔力を使う上では考え方の違いは重要なのだろうな。
「そして、武器にしても体にしても魔力を流し込み馴染ませた上で、魔力を外側にではなく内側に向けて収縮するようなイメージを持つ事により、他の者に魔力を感じにくくさせる事が出来る」
「それが今見せてくれたルクスや先程のダグレスが移動に使っていたやり方か」
「そうだ。今のキョウヤの魔力の使い方だと、相手に対してお前がやろうとする事を事前に教えているようなものだ。それにいずれ限界が来るだろう。逆にこれが出来るようになればいくらでも応用が利く。例えば目・耳・鼻と部分的に上げる事も出来るし、これとキョウヤがやった事を掛け合わせて強化する事も出来る」
「なるほどな。聞いているとまだまだ知らない事だらけだな」
「話ばかりしていても仕方がない。ある程度理解したのなら私が言った事を踏まえて、もう一度武器に魔力を纏わせてみろ」
ルクスが言っている事は理解出来たが、武器や体への魔力の使い方は教えてもらっていないんだが・・・
まあ、基本は教えるが後は感覚で見に付けろというのだろう。
とりあえずはやってみてからだな。
俺は先程、剣の周りに魔力を纏わせるようなイメージをしていた。
それを剣の中に魔力を通すイメージをする。
そして剣を持った手から魔力を流し込む。
すると先程の場合は表面が魔力で覆われていくのがわかったが、今回はどちらかというと浸透していくような感じだった。
ただ、やはり少し剣から魔力が漏れているようで、薄っすらと魔力が光っているのがわかる。
「中々難しいな・・・」
「うむ、まだ甘いがさっきのよりは悪くはないぞ。あとはもっとスムーズに、そして収縮出来るようにすればいい」
「なんかコツとかないのか?」
「そんな物はないし、キョウヤのやり方は間違ってはいない。それこそ、この魔力操作だが一朝一夕に出来るものではないのだ。反復して、自分にあったやり方を見つける事が一番だな」
「そうか・・・」
「キョウヤなら魔力操作が出来るようになれば、それだけでダグレスに引けを取らないだろうな」
ってことは、俺とダグレスの力の差は魔力操作だけなんだな。
とりま頑張ってみますか!
「では私は少し外すが、ここは自由に使っていても構わないから、気が済むまで練習してもいいぞ」
「ああ、わかった。色々とありがとな」
ルクスは「気にするな」と言いながら片手を上げて訓練所を去っていった。
残された俺は続けて練習をしようとすると、タマモとリーエが自分達も少しでも強くなる為に俺と同じ練習をすると言い出した。
タマモは繊細な事が苦手そうだし納得出来るが、リーエが出来ない事が意外だったので聞いた所、出来なくはないけどルクスほど綺麗には出来ないから、だそうだ。
フェンリルも暇だからと一緒に魔力操作を試してみると言った。
考えてみればフェンリルは毛に魔力を纏わせていたな。
でもあれは無意識レベルで纏っているものであり、魔力操作を意識した事はないらしい。
そんなこんなで、なぜか全員で魔力操作の練習をする事となった。
お読み頂きありがとうございます。
前半の名刀、妖刀のくだりは正宗と村正の話です。
本当はもう少し具体的に書こうかと思ったのですが
書いている途中で
これって勝手に載せていい話ではないのでは?と思い至り
全部消そうかとも思いましたが、折角途中まで書いたので
名前を載せずニュアンスを変えてざっくり書きました。
魔大陸編はもうしばらく続く予定です。




