第3話 異世界でのこれから・・・
思っていた以上に長くなってしまいました。
都合上視点が変わったりしています。
気になるようだったら申し訳ありません。
王の間をでて王城の出口に向かっている途中のこと。
響也は異世界に来てからずっと気になっていることがあった。
気づいてはいたのだがずっと無視してきたのだ。
(ねえ・・・)
(ねえってば!)
響也の周りをずっと浮かんでまとわりついている謎の女性がいた。
セミロングくらいの髪の長さに、透き通るような肌、綺麗というよりは可愛らしい感じの少女。
見た目は15,6歳くらいに見える。背中には3対6枚の翼がある
(無視することないじゃん!)
「ああ、うるさい!なんなんだお前は!」
(あ、やっと反応してくれた。ずっと反応してくれないから気づかれてないのかと本気で焦っちゃった)
「それどころじゃなかっただろが!」
(ちなみに私の姿は他の人には見えてないはずだから、あんまり大声出すと頭おかしい人に見られるよ~?)
笑いながらその少女は言う。
「話しかけておきながら何言ってんだ。てか、やっぱり他の人には見えてなかったんだな?」
(へえ、私が他の人に見えてないことに気づいてたんだ?)
「最初は異世界だしお前のようなやつも普通に居るのかと思ったが、誰もお前の方を見たやつがいなかったからな」
(へえ、よく観察してるね~)
「癖ってか、無意識的に身についちまってるからな」
(さすが響也だね!でもやっぱり普通に私に話しかけてると変な人にみられるよ?)
「話しかけてきておいて、どうすれっていうんだよ」
(念話で話す事ができるから、考えてくれればわかるよ~)
(最初からそう言えっての。つーか羽が生えてるし、お前は何者なんだよ!)
(お前じゃないよ~!ガブリエルだよ~!)
(知らん!お前の名前なんてどうでもいい!何者なのかを聞いてんだ!)
(え~?ガブリエルって呼んでくれないと、答えてあげないの~!)
面倒くさいと思い舌打ちした。
(わかったわかった、ガブリエル。何者なのかを教えてくれ)
(やっと呼んでくれた!ん~とね、私はガブリエルだよ~)
いらっ!
(ああ~怒らないで~。私はね~天使だよ~。主に神託のお仕事かなぁ~?)
(何で疑問系なんだよ…てか、天使なんているのかよ)
(うん、普通の人にはみえないんだけどね~)
(ガブリエルってあれか?熾天使のか?)
(う~ん、よくわかんないや~)
(おい!つーか、なんで俺にはお前の姿が見えるんだ?)
(多分それは、私が響也を無理矢理こっちに引っ張ったからなのかな~?)
(あん?引っ張ったってどういうことだ?)
響也はいまいち理解できない。
(ちょうど召喚を行っていたのを感じたから、私がそれに便乗して響也を呼んだの。えへっ!)
(えへっ!じゃねえええ!じゃあ俺は本来なら呼ばれる事はなかったということか?)
(うん!この世界からしたら響也はイレギュラーな存在だよ~)
(まじかよ・・・)
(響也怒っちゃった…?)
(・・・いや、それに関しては怒ってはいない。確かに目が覚める前にイレギュラーがどうとか聞いたな。あれもガブリエルだったのか?)
(ううん~、それは私じゃないよ~。管轄外だし、他の天使かな~?)
(そっか、じゃあイレギュラーだから俺のカードが伏字になってたのか?)
(ちょっと見せて~。・・・どういう事だろう…こんなのは初めてかな~)
(何?今までにはなかったのか?)
(うん、これは私にもよくわからない~)
(まあいいか)
響也は良くも悪くもさっぱりとしていた。
(つーか、ガブリエルはこの世界の天使なのか?)
(それは正解でもあり不正解でもあるね~)
(どういうことだ?)
(私はこの世界だけじゃなくて、他の並行世界も担っているんだよ~)
(って事は他にも異世界があるのか・・・。俺のいた世界もそうなのか?)
(ううん、響也の世界は私は管轄外だよ~)
(はっ?じゃあどうやって俺を呼んだんだよ)
(え~、だって同じ世界ばっかり見ててもつまらないじゃない~?だから勝手に響也の世界を覗いていたの~)
(・・・それっていいのか?)
(う~ん、駄目だと思うよ~)
(おい!)
(まあまあ~、そしてその世界を見ていて、なぜかわからないけどすごく気になる人がいたの)
(・・・)
(心がまっすぐで自分をまげず、自分の事は二の次で周りの人を大切に思ってるのに不器用だから誤解されて衝突したり、それでも自分を押し隠して・・・)
(わかった!もうやめてくれ!)
響也は見透かされている気がして恥ずかしくなった。
(ふふっ、そんな響也に惹かれてこの人に合いたいな~って思ったの)
(俺はお前が思ってるような人間じゃねえよ・・・)
(ほらね~、響也らしい~)
(はあ、まあいいや・・・それはそうと、ガブリエルはこんなところにいていいのか?)
(うん~、多分大丈夫~!)
(多分って・・・)
(まあまあ、響也はこの世界の事わからないだろうから、私がサポートするよ~)
(サポートしてくれるのは助かる)
(うん、まかせて~!)
(ああ、よろしく)
(よろしくね~!)
城内から出たとき太陽は真上にあった。地球に居たときは夕方であったはずだが、場所が違うせいなのか時間軸がずれているせいなのかはわからない。
響也とガブリエルが話をしている内に王城の外門まで来ていたのだが、話し終えた時にその事に気づいた。
門のそばには衛兵がいて、話が伝わっていたようで響也が来ると素直に門を空けてくれた。
門を出た響也はその光景に目を奪われる。
王城は高台に建設されたらしく、この街を一望することができ爽快な光景が広がっていた。
王城に近い家は貴族達が住んでいるだろうと思われるような、レンガ造りで欧州風なつくりの大きな家が立ち並んでいる。
城から離れるにつれて少しずつ家も小さくなり、庶民的になっているようである。
かなり離れた場所の家は木で出来ているようで、貧困層が住んでいそうな感じである。
しかし、何より目を引くのは街の作りだ。
明らかに意図的に考えて家を立てたのがわかる。
道路や家がまるで何かを描いているのではないかと思うくらい、綺麗に立ち並んでいるのである。
ガブリエルによると、ここはイシュタール王国100万人都市の首都であるとのことらしい。
そのうちの7割の人がこの街に住んでいるそうだ。
国全体で100万人というと少なく感じるかもしれないが、地球と違って多種族が国家を出して暮らしている事を考えると妥当な数なのかもしれない。
【響也視点】
いつまでもここに居てもしかたがないので、まずは宿を探す事にした。
先ほど国王から貰ったお金が1万G (ゴールド)ある。
価値としては1Gが1円と同じらしいので、わかりやすくていい。
ただ日本と違うのが紙幣は無く、全て硬貨であるということ。そして、物価は約1/10位らしい。
その硬貨も1G・10G・100G・1000G・10000G・100000Gで、硬貨によって使っている金属も違うみたいだ。
貰ったのは千G硬貨10枚である。約一ヶ月分は過ごせる金額らしい。
ちなみにこちらの時間は、一日25時間・一月30日・一年10ヶ月と単純になっているようだ。
色々と違和感があるが、異世界に俺達の世界の常識を当てはめる方が無理あるか。
今は情報が欲しいところだが、まずは寝床の確保が最優先だな。
宿屋がどこにあるのかガブリエルに聞いてみる。
(え~?街のお店の場所だとか、細かい所まではわからないよ~?)
ま、そりゃそうか。
休む必要のない天使が宿屋の場所を把握しているわけないわな。
道行く人に聞いていくことにするか。
貴族街には宿屋があるわけないので眺めながら素通りしつつ、一般人民街と思われる場所まで足を運ぶ。
上から見ていたように綺麗な町並みで、結構多くの人々が行き交っていた。
近くを通り過ぎる30代位の男性に話しかける。
「すまない、宿屋を探しているんだが」
「ああ?宿屋ならこの先の右手にある黄色い看板があるところだ」
「そうか、わかった。助かったよ」
「兄ちゃん、別の街からきたのか?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ気をつけな。よそ者を狙って貧民街の連中が物取りをする事があるからな」
「そうなのか?忠告ありがとな」
「なに、いいってことよ!」
口は悪いが親切なやつだ。
-自分の口の悪さを完全に棚に上げる響也である
というか、今のは完全にフラグだよな?
まあいいや。
とりあえず宿屋に向かうか。
先ほどの男性に言われた場所に来ると黄色い看板が目に入った。
うん、ここだな?
中に入ると15歳くらいの娘さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ~!ようこそのダリルの宿へ。お一人様ですか?」
「ああ、そうだ」
「お一人様だと、素泊まり一日2百G、朝夕食付きで3百Gですよ。ちなみに前払いでお願いします」
「じゃあ、食事付きで頼む」
「ありがとうございま~す!何泊のご予定ですか?」
「そうだな・・・一週間で頼む」
「かしこまりました!」
一週間分の宿代を払い、看板娘らしき女の子に部屋を案内される。
ちなみにダリルというのはこの女の子の父親の名前で店の経営者兼コックらしい。
部屋に入ると思っていたよりも綺麗で、奥の壁には1m四方の窓がありベッドとテーブル一つ・イスが2脚あるシンプルな部屋だった。
とりあえず部屋に入り一人になったところで、ベッドに転がりこれからの事を考える。
・・・てか、ガブリエルがずっと付いて来てやがった!
(おい!なんでここにいる!)
(え~?だってサポートするって言ったじゃない~)
(いや、それは聞いたが。。。四六時中俺の近くにいるつもりか?)
(うん、もちろん!)
(はあ、当たり前のようにいいやがって・・・プライベートも何もあったもんじゃないな・・・)
(大丈夫だよ~!響也があんな事やこんな事をするときははずすよ~)
(おい!俺が何するってんだ!)
(え~?みなまで言わせる気~?)
(もういい・・・てか、マジで戻らなくて大丈夫なのか?)
(う~ん、多分大丈夫なんじゃないかな~?)
(おいおい・・・)
(だって私は、遠くからずっと見ることしか出来なかった響也の近くにいられて嬉しいし~)
(・・・はあ、まあいいや・・・)
はっきり言われて少し照れてしまった。
(とりあえず生活費を稼いだりしないといけないな。ちなみにこの世界には冒険者ギルドとかはあるのか?)
(う~ん、細かいところまではよくわからないけど、確かなかったと思うよ~?)
(まじか!?異世界と言えば冒険者ギルドがあるだろう!)
(他の異世界にはあるかもしれないけど、全部が全部あるわけじゃないみたいだよ~)
(みたいだよって・・・)
(私の役目は全体の監視と信託だからね~、政治や経済にまで関与しないから、その辺はわからないや~)
(まあ、しかたないな。地道に聞いて何か稼ぐ方法を考えるか・・・ちなみに・・・)
ガブリエルにこの世界の事を聞いてわかったことは、まずはあらゆる事において魔力が関係するという事。
特に生物 (だけではないらしいが)には大小関わらず魔力を持っているようだ。
城で王が言っていた様に人間だけじゃなく・魔族・精霊族・獣人族が争っているとの事だが、王の言っていたことで違うのは、精霊族は基本的には争いを好まず自分たちの領域に入ってきたものだけを攻撃するということなので、逆恨みされて巻き込まれる形になってしまっているそうだ。
表立ってはいないが、種族同士の抗争もあるようだが。
その争いの元になるのは、領土・産出品に目が眩んで手を伸ばそうとしている場合か、相手を蹂躙し力を見せ付けたいと考えている場合だそうだ。
そして他にも種族があり、それぞれが国を形成しているということ。
中には国を持たずに自由奔放にしている種族もあるらしい。
そのほとんどに共通しているのが、人間の街には人間、魔族の街には魔族というように他の種族が一緒に住んでいるという事が滅多にないそうだ。
街の外には単独もしくは群れを成す魔物が存在する。
普通の野生動物もいて、厳密には違うがその魔物も野生動物のくくりとして考えても差し支えないようだ。
(…そういえば、俺の称号とかが伏字になってたけど、俺にどんな能力があるのかくらいわからないのか?)
(私が直接覗いてみることは出来るけど、見てもいいの?)
(ああ、頼む)
(・・・ん~とね、なぜかプロテクトがかかってるみたいだね~。でもわかる部分もあるよ~!響也が持ってる能力はね~、吸収と魔眼みたいだね~)
(吸収と魔眼?そういやぁ、魔眼はサービスとか言われてたような・・・二つがどんな能力かわかるか?)
(魔眼はね・・・)
ガブリエルの説明では魔眼とは言っても魔族がどうとかそういう物ではなく、物事の本質を見極める目であったり、相手の精神に作用する力を使う事ができるらしい。
ただ吸収に関しては今まで見たことないスキルだという事で正確にはわからないらしい。
しかし何もわからないのであれば好都合。
色々試す事ができるという事だ。
ちなみにスキルを使用するにはイメージとか意識することで可能らしい。
さて、この世界の事と自分のスキルが多少わかったし、行動するとしよう。
まあ実際、ゲームのように勝手に家に入って勝手にタンスやらを物色なんてことはできないだろうな。
本棚を調べてムフフな本ゲット!にも心は躍るが、不法侵入した上に窃盗なんてしてしまったら只の犯罪者だ。
そうだ、地図があったらほしいよな。
とりあえず部屋を出て先ほどの看板娘に声をかける。
「なあ、地図とかもってないか?」
「え?地図ってなんですか?」
・・・ああ、こっちの常識が通用するとは限らないよな。
「・・・すまない。国とか地形とかを書き記したものは何かないのか?」
「ああ、国土絵の事ですね?それだったら、うちにはないけど道具屋さんとかに売っていると思いますよ」
「そうか、わかった。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
看板娘に道具屋の場所も聞いて宿屋を後にした。
道具屋はこの先を右に曲がって緑色の看板の家だって言っていたな。
ここら辺の建物はほぼ似たような外観で、違いといえば色を塗ってあるか屋根の形が違っていたりするくらいだろう。
他にも細かい部分では違いはあるみたいだが。
お、ここだ!家を眺めているうちに着いたようだ。
「はい、いらっしゃい」
中に入ると愛想のいいおばちゃんが出迎えてくれる。
国土絵の事を訪ねると、あるにはあるがイシュタール国全土プラス周辺国が載っていて大雑把な物しかないらしい。
確かに正確に測量とかすることは難しいか。
ついでに店内を見てみるといいものを見つけた。
簡易アイテムバッグ。
収納容量はそんなにないらしいが、色々な種類がある。
街の人たちの荷物が少ないと思ったら、おばちゃんによると皆これを持っているらしい。
街の中にいるのであれば、そんな大きな荷物を持つ事がない為これで十分だそうだ。
俺はショルダータイプにしよう。
簡易アイテムバッグと国土絵合わせて550Gを支払う。
試しに国土絵をアイテムバッグに入れてみる。
おお!消えた!
出すときは、入れた物を思い浮かべてバッグに手を入れると出せるらしい。
「おばちゃんありがとな!」
「な~に、またいつでもおいで。わからない事があったら聞きにくるといいよ」
感じのいいおばちゃんだ。
ちなみに俺がこの世界の知識に関し少ない事を核心は濁しつつ伝えている。
さてと、お次は・・・
考えつつふと自分の格好を見る。
よし、服だな。いつまでも学校のブレザーじゃおかしいしな。
おばちゃんに服屋の場所を聞いて置けばよかった。
まあ、いいか観光がてら探すとしよう。
そう考え歩き出す。
すると・・
どんっ!
「兄ちゃんごめんよ~!」
俺よりも頭一つ分位小さいフードを被った人物がぶつかっていった。
腰にぶら下げていたお金の入った袋に目をやると。
やっぱりか・・・
思ったとおり袋がなくなっていた。
さて、どうするかな。
とりあえず盗人を追いかける。
地球に居た頃よりも体が軽く速い。さっきの騎士との戦いの時にも感じていたのだが、改めて身体能力やスタミナは向上していることを実感する。
人にぶつかりそうになり、軽くジャンプしてみる。
うおっ!
軽々人を飛び越えた。
思った以上に跳べるようだ。
だったら、思いっきり跳んだら屋根の上にいけるんじゃないのか?
そう思って走りながら思いっきりジャンプしてみると、家の二階の屋根の上に登ることができた。
そのまま屋根伝いに盗人を追いかけて先回りする。
「はぁはぁ、ちょろいねぇ。ここまで来れば大丈夫」
「誰がちょろいって?」
「!?」
中道に入ったところで盗人が逃げ切ったと思い足を止めたところに、屋根の上から声をかけた。
逃げようとしたが、盗人の前に飛び降りる。
「つーかさ、ただの小石なんて盗んでどうする気だったんだ?」
「!?」
「袋の中身確かめてみろよ」
盗人があわてて袋の中身を確認すると、中には小石がたくさん入っていた。
実は、さっき親切にしてくれた男性から言われた後に、必ず盗まれるだろうと考え袋の中のお金とそこら辺の小石を入れ替えておいた。
「くっ、だったら直接奪うまでだ!」
盗人は隠し持っていたナイフを出した。ふと自分の能力の事を思い出し、ちょうどいいので試してみようと考えた。
盗人は最初、ナイフを突いてきた。その腕を払うように手を触れた瞬間に吸収を意識してみる。頭の中に『ナイフのスキルを奪取』流れたような感覚があった。
(やはり、思っていた通りスキルも吸収することができるんだな?…しかし、奪ってしまったのか?別にスキルを奪うつもりはなかったんだが…)
さらに盗人はナイフを突いてきた。同じように腕を払う時にまた吸収を意識する。別に奪わなくてもいいんだが・・・
そう考えていたせいか今度は『忍び足のスキルをコピー』と頭の中に流れるような感覚がある。
(おお、意識する事で奪うだけじゃなくコピーとして吸収することもできるんだな。しかし忍び足って・・・まあ、盗人程度だからしかたないか)
盗人はナイフを突いても払われると理解すると、今度は体ごと突っ込んできた。それを軽く避けて足をかける。
ただ、怪我をさせるつもりはなかったので、盗人が足をかけられ盛大にすっ転ぶ前に腕を体の前に回して支える。
ふよんっ!
ふよんっ?って、なんだこの効果音は?聞いた事がない音だ!というかこんな効果音が実際に鳴るのか?さすが異世界だ!
「・・・おい・・・」
「あん?なんだ?」
「いつまで人の胸さわってるんだ!いい加減はなせ!」
「!?」
フードに隠れて見えなかった盗人は、男だと思っていたが女だったのだ。
盗人の体を支えたときに偶然胸を触ってしまっていた。
さっきの思考は、理解はしていたが現状を認めたくない俺の第二の脳が働いた現実逃避だ。
盗人、いやその女は目に涙を浮かべ胸を手で隠しながらこちらを睨んでいた。
(あ~あ、響也女の子を泣かせたらいけないんだ~!)
(うるさい!不可抗力だ!つーかなんで俺が悪役なんだよ)
しかし泣かせてしまっているのも事実なわけで・・・
「あ~、まあ、いろんな意味で悪かった」
「・・・」
女はまだ涙目で睨んでいる。
「元はと言えば、お前が俺の物を盗むからだろうが」
「あたしはあんたに陵辱された・・・」
「ぶっ!陵辱って・・・不可抗力だろ」
「人の胸を揉みしだいたのは間違いない!」
「ああもう、わかった、悪かったって」
「ふん!」
このままだと埒があかないから話を変える。
「なあ、お前はこの街には詳しいのか?」
「・・・はっ?・・・まあそれなりには・・・」
「俺は訳あってこの街に来たばかりで右も左もわからない」
「・・・だから何?」
「この街をガイドとして案内してほしい」
「・・・あんた何言ってんの?」
「だから、仕事として俺のガイドになってくれと言ってるんだ。報酬はきちんと払う」
「・・・本気?」
「ああ、本気だ」
「あとで支払わないとは言わないよね?」
「ああ、大丈夫だ」
「・・・わかったよ」
彼女は渋々ながら了承してくれた。
とりあえず女の服装が薄汚れていて、街の人たちがちらちらこちら(主に女の方)を見ているようだったので、彼女に服を買ってやることにした。
しかし彼女には俺の服を買うためと服屋に案内させる。
そして、服屋に向かう途中に聞ける事を聞いておく。
最初は言いよどんでいたが、徐々に話してくれるようになった。
彼女の名前はルチ、15歳で貧民街に住んでおり弟と一緒に住んでいてその日食べていく事がやっとらしい。
そのため、すりや窃盗などで盗んだ品物を売って食べ物を買う生活をしていのだ。
フードで顔を隠し男っぽい口調をしていたのは、もちろん顔がばれないようにする為と男だと思われていたほうが何かと都合がいいからだそうだ。
俺には女だとばれているせいか素の口調になっている。
話を聞いている時に魔眼のスキルを試していたのだが、今ルチが言っていた事に嘘はなかった。
魔眼、便利なスキルだな。
ルチの話を聞いている内に服屋に着いた。ちなみにルチの服を買うことは言っていない。
「いらっしゃいませ~」
いい笑顔の女性店員が出迎えてくれる。
「すまないが、これで彼女の服一式を見繕ってくれ」
そういって500Gを店員に渡す。
「え?キョウヤどういうこと?」
ルチが驚いてこちらを凝視した。ちなみに簡単な俺の自己紹介もしてある。
「街中を案内させるのに、その格好だと浮いているだろう」
「だからってそんな・・・」
「気にすんな。俺の案内が終わって要らなかったら売ればいい」
「・・・あ、ありがと」
ルチはそっぽを向きながら小声で礼を言った。
ルチが店員に連れられていっている間に、俺も自分の服を見ておくことにする。
地球の服ほどいい素材・デザインはないが、思っていたよりは悪くはない。
自分のシャツとズボン下着を何着か選んで会計を済ませている間に、ルチが店員に選んでもらった服に着替えていた。
ボサボサだった髪も店員が整えてくれていたようで、元々顔立ちが悪くなかったルチだが可愛らしい服を着て髪を整えた姿を見るとかなりの美少女になった。
店員の後ろに隠れるようにいたルチに声をかける。
「おお、似合ってるじゃないか」
「・・・うっさい!」
照れて赤くなっていた顔が、さらに真っ赤になって言った。
俺も服を着替えて、買った服と合わせてアイテムバッグに入れ外に出る。
「なあ、外の魔物なんかを狩ったりした場合、素材とかを買い取ってくれる場所とかあるのか?」
「はあ?魔物を狩る!?あんたバカじゃないの?気軽に言ってるけど、一般市民にはそこら辺にいる魔物でも命の危険があるのよ!それこそ、騎士とか傭兵、ハンターとかじゃないと。だから私だってこんな生活を・・・」
「ん?そうなのか?まあ、なんとかなるだろう」
「・・・はぁ・・・あんたのお気楽さを見てるとどうでもよくなってくる・・・」
「お褒めに預かりありがとう」
「ほめてないわよ!・・・まあいいわ。魔物の素材を買い取ってくれる場所なら、直接道具屋とか装備屋とかでもいいけど、買取してくれるもの・買取くれないものがあるらしいから、ハンターギルドに行くといいわ。何でも買い取ってくれるはずだから」
ふ~ん、冒険者ギルドは無くてもハンターギルドはあるのか。
「そうか、わかった。ちなみにハンターギルドはどういうところなんだ?」
ルチに聞くと、ハンターギルドはハンターだけが集まる組合という事ではなく、ハントした物(魔物に限らず動物・植物含む)を買い取りや判定をしてくれるらしい。
ただ、ハンターギルドには酒場もあり互いの意見交換の場にもなっているようだが。
ちなみに魔物を狩るのであれば、先にハンターギルドでハンター登録しておいた方が良いとの事。
登録しておかないと買取金額が安くされる。
というのも、何かしらの犯罪で手に入れた物かもしれない事と、素材を求めて危険な魔物に遭遇して命を落とす危険性が高い為らしい(ちなみにルチはギルドではない場所で物を売っていたようだ)。
ルチはギルドの中に入った事はないようで、それ以上の情報はなさそうだ。
「わかったよ、ありがとな。それにしても、ギルドに行った事ない割には詳しいな」
「そりゃあ、あたしみたいな事をしてたら、情報がないと命取りになるからね」
「そっか・・・じゃあ、とりあえずギルドに行く前に武器でも買っていくか」
「本当にハンターになるつもり?」
「ああ、そうだけど?」
「・・・さっきも言ったけど、命の危険があっても?」
「なんだ?心配してくれるのか?」
「誰があんたなんかを!・・・ただ、こうして知り合った人が危険な目に合うって事が…」
「・・・ありがとな」
聞こえるか聞こえないかの声で言った。
「まあ、俺も死ぬつもりはないし、危ないと思ったら逃げるさ」
「・・・ふぅ・・・何言っても無駄みたいね」
しぶしぶながらルチは武器屋に案内してくれた。
「いらっしゃい!好きに見ていってくれ」
武器屋の店主らしいが、かなりごつい親父さんである。
「で、あんたは何の武器が使えるのさ?」
「・・・さあ?」
「さあって・・・」
ルチに呆れられた。そうは言っても武器なんか使ったことないから仕方がないんだが、それは言う必要はないだろう。
とりあえず適当に見てみる。俺も剣道をやっていたこともあるし、それに何より定番と言えば剣かな?斧とか槍も面白そうだがそれは追々だな。
双剣なんかもあるのか。
他には・・・
杖がある、そういえば俺は魔法が使えるのだろうか?
後でガブリエルに聞いてみるか。
順に見ていくと、乱雑に置いてある一角がある。
「そこにあるのはジャンク品だ。一本50Gでいいぞ」
ここに置いてある物は、ハンターから買い取った物や粗悪品とからしい。
・・・ん?そのジャンク品の中でふと目を止めた物があった。
刀身が黒く木目状の模様で見た目はちょっと格好いいダガーだ。
俺には金属の価値はわからないが、50Gで買える様なものではないことはわかる。
なんでジャンク品に?
「ああ、それか?どこかの迷宮を探索した人が手に入れたらしいんだが、模様からしてダマスカス鋼だとは思うんだが黒いのは見たことない。それを持つと力が抜けるらしく、加工もすることもできないってんで売り物にならないんだわ」
ふ~ん、試しに持ってみると確かに力が抜けるような感覚はあるが、俺には特に問題あるようには感じない。
RPGで最初に買うのもダガーだったりする事もあるし調度いいだろう。
「親父さん、これくれ!」
「ああ、それはいいが・・・お前さんなんともないのか?」
「特に何もないな」
親父さんは異常者でも見るように驚いている。
失礼な!
何の変哲もない高校生の俺に・・・
ああ、今は高校生でもないか。
(キョウヤ~そのダガー、何か魔力を感じるよ~?)
(そうなのか?何か魔力による効能があるのか?)
(わかんないけど、特別嫌な感じはしないかな~)
(じゃあ大丈夫だろう。使ってみればわかる)
「キョウヤ、魔物を狩るのにそんな武器にするの?」
ルチが不安げに聞いてきたが、試したい事もあるしもちろん他の武器も買っておく。
初心者用の剣と双剣に槍と弓、後は杖を買っておく。
おっと小剣も買っておくか。
小剣だけ500Gの物を、それ以外は300G。合計2050Gを親父さんに渡す。
ダガーだけ装備しておいて、他の武器はアイテムバッグに入れておく。
こんな買い方をするやつが今までいなかったらしく、親父さんも心配してくれている。
「無茶をして死ぬなよ?」
「ははっ、縁起でもない事を言うなよ。生きてたらまた来るわ」
俺も冗談めかして店を後にする。
前書きで書いたように、自分で思っていた以上に長くなってしまったので
街中偏は2話に分けて載せる事にしました。
外に出るまでもうしばらくお付き合いください。