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第33話 いざ魔大陸へ



「ただ今戻りました」

「お帰り~、どうやら失敗したようだね」


とある国の建物の一室にて、部屋に入り挨拶した男に対し机の椅子に腰をかけた青年が話しかけた。


「ええ、すみません。ミランダもやられてしまいましたし、思っていたよりも彼は力をつけていたもので・・・」


青年の前に立っている男・クラウンがそれに応える。


「仕方ないか。どうやら聖域の方も失敗みたいだし」

「そのようですね。聖域の件を任された奴も心中は穏やかではないでしょう」


「まあ、そっちは失敗を前提にしているからいいけど・・・ただもう少しやってくれると思っていたんだけどなぁ」

「そうですね。思っていたよりも被害が少なかった・・・どうやらそれにも彼が関わっているようですね」


「そのようだね。禁術も解除されてしまったようだし、あまり気に留めてはいなかったけど彼が一番の弊害なのかもしれないね」

「・・・そう考えると私の失態です。あそこで確実に仕留めておければ・・・」


「まあまあ、まだ挽回は出来るからそんなに気にしないで。それよりも君は大丈夫なのかい?」

「・・・大丈夫、とは言いがたいですね・・・彼にあんな力があるとは思ってもいませんでした。まさか私の力が奪われるとは・・・」


「それも僥倖(ギョウコウ)だよ。そんな力があるとわかっていれば対処のしようもあるしね。それに奪われた力も君にとっては大したことないんでしょ?」

「・・・ええ、時間をいただければ元に戻す事は可能かと」


「うん、じゃあ何も問題はないね。とりあえず君はゆっくりしておきなよ。またしばらくは下準備で、君に任せるほど大きな仕事はないから」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘え、しばらく休ませていただきます」


「オッケー!・・・しっかしそれにしても、イシュタールも本気だという事なのかねぇ」

「勇者召喚の事ですか?」


「うん、そう。確かにあの国には、勇者の力に頼らないと何も出来ないだろうしね」

「そうですね。まあ、勇者の力を頼った所で高が知れていますが」


「それもそうだね。ただ、彼の存在だけが厄介だね」

「ええ、どうやら勇者として召喚されたわけではなく、巻き込まれただけの者らしいですが」


「・・・その存在が一番邪魔になるとは皮肉だね」

「全くです・・・」


「彼の事は様子を見るしかないか・・・とりあえずあの国が何を企んでいるのかという事だけど、大よそ予想は付くからそれすらも利用させてもらおうかね」

「その時は私が動きましょう」


「うん、よろしく~!まあ向こうが動くのも、まだ先の事だとは思うけどね」

「了解しました」


互いに目を合わせると、ニヤリと笑みを浮かべていた。




◇◇◇◇




「ふう、風が気持ちいいな・・・」



俺達は今、魔大陸に向けて海の上を船で進んでいる。


魔大陸は孤島でありフランブールから南南西の方角にあるそうだ。

行った事がある者はほとんどいなくとも、魔大陸の場所を知らない者はいないとの事だった。


海上を渡るか空から行くかのどちらかしかないのだが、この世界に飛行機などはないため空から行く場合は、空を飛べる魔物をテイムする必要があるのだとか。


現状では後者は無理なので海から行くしかないのだが、船を持っていない俺にスレイン王に移動手段をどうするのか聞かれた時、今は使う事がなくなった王のプライベートクルーザーをやろうと言ってくれた。


受け取る金も大分減らしてもらい地位もいらんと言ったから、その代わりという事らしい。

と言っても、減らしてもらったはずの金も1億Gの1/10、1千万Gもよこしてきたのだから十分すぎるはずなのだが・・・


そして用意されたお金は10万G硬貨が50枚、1万Gが300枚、千Gが1500枚、百Gが5000枚を別々の袋に入れて渡された。


いやいや、多すぎだろう・・・

てか邪魔なんだけど・・・


1億G貰っていたとしたら、これの10倍かよ!

と嘆いていたのも記憶に新しい。


しかし、こんな金どこから用意したのやら・・・


フランブールから西にある港町に、スレイン王のプライベートクルーザーがあるという事で、そこから出発する事となった。

王の書状を見せると直ぐに準備をしてくれて、出向するのにもさほど時間は掛からなかった。


クルーザーは十数人用のそれなりの大きさがあり、中々快適である。


船の動力源は魔石を使い、操舵席にある魔力回路に魔力を流し込む事で、ジェット噴射のように風を後ろに飛ばし速度をつけて進む方法と、後方下部に取り付けてあるプロペラを水中で回すことでゆっくり進む方法がある。


その切り替えはスイッチ一つで簡単に行なえる。


そして魔力量を調整する事により好きな速度に出来ので、今は快適な速度で船を走らせていた。


ちなみに一度魔力を流し込むと一定時間は持つそうなので、常に流し続ける必要はない。

そしてやはり地図というものは存在しないらしく方角のみで進んでいるのだが、方角に関しては魔力感知を応用した技術を使っているらしい。


方角さえ指定しておけば自動操縦も可能という事で、俺はクルーザーの甲板で風に当たっていた。



「ユーリさんの事、本当によかったんですか?」


リーエが少し寂しそうに聞いてきた。


「・・・仕方ないだろう」

「ちょっと寂しいよね・・」


いつの間にか隣に来ていたタマモが呟いた。


「俺達の立場と目指す方向性が違うんだ、寂しいからという理由で連れ出すわけにはいかないだろう」

「そうですけど・・・」


それ以上リーエは何も言わずに、隣で遠くを寂しそうに見ていた。

この場にはいないユーリを想って・・・





―――――





王の間で俺が魔王をぶん殴りに行くと宣言した後の事。


「「「・・・・・」」」


タマモ、リーエ、フェンリル、(ガブリエル)以外の、ここにいる一同が言葉を発せずにいた。


「今・・・なんと?」


ようやく声を振り絞ったスレイン王が、聞き間違いではないかと再び聞いてきた。


「魔王領の魔物のせいで大惨事になりかけたんだ。一発ぶん殴らないと気がすまない」

「それは魔王と一戦交えるという事か?」


「場合によってはそうなるかもな」

「魔王は強大な力を誇っているのだぞ?場合によっては魔王の怒りを買い、魔王軍が人間の世界に攻め込んで来る原因となりうるかもしれぬのだぞ?」


まあ、それが一番の心配なのだろうな。


「スレイン王は、今回聖域で起こった事は魔王が画策した事だと思うか?」

「・・・それはわからん。ここ数年は魔王軍が攻めて来た事はない。だが、魔王が機を伺っていたのかもしれん」


俺が引っかかっているのがそこだった。


召喚された時にミリアム王から聞かされた、魔族の脅威に晒されているという話。


まだそんなに見て回ったわけではないが、外の世界に出ても魔族が人間を脅かしてはいなかった。

それどころか住民に関しても、魔族が攻めてくるという不安はそんなに見られなかった。


魔族の力を持ってすれば、人間などたやすいのではないか。

まあ、勇者などの活躍により過去に何度か退けているという事も考えれば、慎重にならざるを得ないという事も考えられるが。


しかし世間に知らされていないとは言え、勇者召喚が魔王の耳に入っていないとは考えにくい。

だとすればなぜ魔族にとって天敵である勇者が召喚されたこのタイミングで?と疑問が出てくる。


まあ戦う事になろうと何であろうと、魔王と会ってみないことには始まらない。


それに俺は、おそらく王が懸念している事にはならないのではないかと考えている。

もちろん警戒するに越した事はないが。


「なるほどな。もしスレイン王が言っている様に、機を待っていて攻めてきたのだとするなら、どこにいても戦いは避けられないという事だよな?」

「う、うむ、確かにそうだが・・・」


「だったら俺のやる事は変わらない」

「・・・そうか、それならもう何も言うまい」

「お父様!」


スレイン王は諦めたように肩を竦めていたが、ユーリが皆の前だということも忘れたように叫んだ。

しかし、スレイン王はユーリの方を見て何も言わずに首を横に振った。


それを見たユーリも口を(ツグ)んだ。

ユーリも俺が曲げない事を知っている為、何を言っても無駄だと悟ったようだ。


その後、魔大陸の場所やそこへ行く手段の事などを話し合った。


その間に褒賞金の用意が出来たので受け取ったのだが、金額の多さに文句を言っても聞き入れてもらえなかった。


仕方が無いのでその代わりに、サラマンダーとヘルハウンドを回収しておいたのだが、それはそのまま引き渡す事にした。


スレイン王達はそれを見た時、かなり驚いていた。

確かに魔物とは言ったが種類は言っていなかった気がする。


そして受け取れないと言っていたのだが、自分達で売りに行くと面倒な事になると考えていたので手間も省けると伝えると納得して受け取ってくれた。



そして全ての話し合いが終りに近づいた頃、ユーリ口を開いた。


「キョウヤ様、私も貴方の旅にご同行させていただけませんか?」


人前なので王女としての振る舞いをしながら願い出た。

スレイン王達はユーリがそう言う事がわかっていたのだろう、特に驚きもせずに目を伏せていた。


しかし俺は・・・


「・・・駄目だ。連れてはいけない」

「なぜですか!私に力が無いからですか!?」


確かにそれもある。

以前俺が力を分け与えた為、それなりに強くなっているとは思うが、それは人間やこの辺りの魔物には勝てる程度でしかない。


「ああ、確かにユーリを危険な場所に連れて行きたくはないというのも一つの理由だ」


しかしそれ以上の理由が・・・


「他にも理由があると?」

「そうだ。もっと根本的な事だ」


「それは・・・?」

「俺とユーリの目的が違う事だ。ユーリ・・・いやユリエス王女、貴方が成し遂げたいと考えている事は、俺について来ても成就する事は出来ない」


そう、ユーリは他種族共同国家を築きたいと言っていた。

確かにそれ自体は素晴らしい事だし、出来る事なら手伝ってやりたいとは思う。


しかし、それはユーリがやるからこそ意味があるし、俺が国を造りたいわけではない。


それに俺は、世界を見て回り何をすべきかを見つける事が目的なのだ。

やる事が定まっているユーリと、これから見つけようとする俺とでは進むベクトルが違える可能性だってある。


であれば互いに進むべき道を進み、その上で道が交わる事があれば手を取り合えばいいと考えている。



俺が敢えてユリエス王女と言い直した事で、自分の立場・役割を理解してくれたようだ。

それでも理解は出来ても納得は出来ないという、複雑そうな顔をしていた。


「・・・そうかもしれません・・・しかし!」


ユーリが続きを言おうとしたのだが、俺はそらさず真っ直ぐにユーリと目を合わせた。

その目を見たユーリは、俺が何を言っても聞き入れないと理解したようで、悲しそうな目をして顔を伏せた。


そしてその場は解散となり去り際にスレイン王から、「本当に貴族になるつもりは無いのか?」と聞かれたが、「国に縛られるつもりはない」ときっぱり断ると、「そうか」と残念そうに一言だけ漏らしていた。


その後はユーリの部屋に呼ばれた為、そこでユーリを連れて行かない理由も含めて詳しく説明し、必ずまた会いにくる事を約束するとようやく納得してくれた。


直ぐに旅立つわけではなかったので、それから3日間はユーリの仕事の手伝いをしながら、合間に出発の準備を整えていった。


食料や衣類などを大量に買い込み、ついでに折れてしまった双剣の代わりも探したのだが、さすがにクラウン程の強敵と戦えるほどの物は見つける事は叶わず、とりあえずは頑丈そうな双剣を購入しておいた。


本格的に武器の事も考えないといけないと感じたのは言うまでもない。


この3日間で、スタンリー王子が稽古をつけてくれとやってきたり、アリーが妙に擦り寄ってきたりしたのだが、スタンリーは次の機会にと断り、アリーはタマモやリーエ、ユーリに追い払われていた。



そして出立日となった日の朝。


俺は王宮の王の間に呼ばれて、盛大に見送られる事になる。

さすがに王族はこの街から出るわけにはいかないので、せめてものという事らしい。


重苦しいよりはいいが、あまり盛大過ぎても嫌なのだが・・・


港町でクルーザーを管理している者に渡せと言われた王直筆の書状と、譲渡証もその時に貰い受けた。


それを受け取った時に、ユーリを襲った者の情報を継続してジュリアンから聞きだそうとしていると言っていたが、あれから何も情報は増えていないという事だった。


ジュリアンからミランダの情報すら上がっていないようなので、相手も巧妙に尻尾をつかませないようにしているようだな。


その辺りは俺自身も旅の途中で探りを入れていこうとは思っている。


そしてユーリなのだが、3日間で一緒にいた時は寂しそうな顔をする時もあったのだが、思いのほか吹っ切れたのか笑顔で見送ってくれた。


そして一つの情報を教えてくれた。


「魔大陸に行った後、どちらに行かれるかはわかりませんが、魔大陸でもそうですが西の大陸にも行かれるのなら特に気をつけてください。ある都市で今から2年程前に勇者召喚に成功したと聞きます。それなのに、表立っての動きは何もありません」


ユーリは、俺達が魔大陸を無事に乗り切れると信じていてくれているようで、次の行き先の心配をしてくれている。


「それは俺と同じ世界から召喚されてしまった人がいるという事か?」


もしかしたら今のこの世界にも、あの時召喚された俺達以外に地球の人間がいる可能性もあるかもしれないと考えた。


「・・・わかりません。この情報は確実ではないので、もしかしたら偽の情報なのかもしれません・・・」

「そうか・・・まあ、情報ありがとな。気をつけておくよ」


さっきユーリはある都市と言っていたし、ユーリ自身はこの情報に関しては詳細がつかめずに信憑性に欠けると言いたいのだろう。

それでもこうして教えてくれたということは、何か感じる事があったのかもしれない。


「あ、あと・・・これを・・・」

「これは?」


ユーリが手渡してきた物、それは・・・


「昔、私を助けてくださった方がくれたペンダントです。お守り代わりに持って行ってください」

「そんな大切な物・・・いいのか?」


「ええ、これは貸して(・・・)おくだけです。だから必ず返してくださいね」

「ああ、なるほどな・・・わかったよ、必ず返しに来るよ」


「約束ですよ!」

「ああ、約束だ!」


俺の言葉にユーリは安心したような笑顔を見せてくれた。


その後ユーリは、タマモとリーエとも「お元気で。また会いましょう」と握手を交わしてお別れをしていた。

タマモとリーエも寂しそうに、必ず会いに来ると応えていた。


そして最後に俺に向かってもう一度・・・


「必ず・・・必ずまた来てくださいね!その時は・・・」


最後の方はゴニョゴニョ言っていて聞こえなかったが、俺も必ず来ると伝え王宮を後にした。


王宮を出る時にも総出で見送りされたのだが、特にユーリは俺達が見えなくなるまで手を振ってくれていた。


そして港町へ行きクルーザーを受け取り、簡単な説明を受けた後に出航した。




―――――




とまあ、そんな事がありユーリとは別れてきた訳だ。


「まあ、そりゃあ寂しいには寂しいけどな。でもユーリの夢の第一歩が、あの国を他種族国家にしたいということだからな。俺達と来て国を離れてしまったら、それこそ本末転倒だ」

「それはわかってはいるんですが・・・」


「それに魔大陸という危険だと言われている場所へ行くんだ。そんな所にユーリを連れていけないだろう?」

「それじゃあ、私達は危険な目にあってもいいというんですか!?」

「そうだよ!あたし達がどうなってもいいって言うの!?」


リーエとタマモが、訳のわからない事で怒り出した。


「いや、そういう訳じゃないが・・・じゃあお前達は、俺が危険だから置いて行くと言ったら素直に聞き入れるのか?」

「いいえ!無理矢理ついて行きます!」

「そんな訳ないじゃん!あたしも行くに決まってるよ~!」


どうしろというんだ・・・


「・・・じゃあ何も問題ないだろう」

「そういう問題ではないのです!」

「それとこれとは別だよ~!」

(ふふっ、心配かけたくないけど~、でも心配して欲しい~。この女心がわからないなんて、ダメダメだね~キョウヤ)


いや、そんな事言われてもなあ・・・

それに俺だけが傷ついた事を、リーエに怒られたような気がするんだが・・・


理不尽な物言いに、正直めんどくさいと思いつつもフォローを入れることにした。


「はあ、わかったよ。二人とも絶対に無理だけはするなよ?」


俺はそう言いながら二人の頭を撫でてやった。


「うふふっ、わかりました」

「へへ~、わかったよ」


二人は顔を赤くしながら、ふにゃけ顔で頷いていた。

そろそろいいだろうと頭から手を離そうとすると、二人とも俺の手をガシッと掴みまだ足りないと目で訴えかけて来る。


(私の事はキョウヤが守ってくれるんだよね~?・・・それと私にも~!)


俺達の様子を見ていたガブリエルが、自分も撫でろと訴えてくる。

いや、ガブリエルは触れないし・・・


「むっ、我への心配はないのか?そして我にもブラッシングしてくれてもいいのだぞ?」


いやいや、フェンリルの心配が一番いらないだろう・・・


そしてさりげなくブラッシングを催促してきやがった。

つーか、ブラッシングなんて言葉どこで覚えやがった!


俺達は魔大陸へと向かうにも関わらず、いつも通りの平常運転だった。



色々とあった中、気が付けば夜も更けたので一夜を明かし、翌日の午後に大陸が見え始めてきた。


「あれが魔大陸か・・・」


徐々に近づいてくる魔大陸に、気を引き締めながら呟いた。





お読み頂きありがとうございます。


新章突入です。


年末に近づき、執筆が遅れております。

最低でも週一回は更新できるように頑張ります。



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