第32話 おはよう
初めて読んでいただく方や、修正した後に読んでいただいた方は気にしなくて結構ですが、
11/19にシュタイン王→スレイン王、スタイナー王子→スタンリー王子に変更しました。
あるキャラが二人を足したような名前になってしまっていた事に気づいた為の変更です。
今後このような事が無いように気をつけます。
王の間にて。
「良くぞ無事に戻られた。此度はユリエスを救う為に、全てをキョウヤ殿達に委ねてしまった事を誠に申し訳なく思う」
スレイン 王、ユザベル王妃、スタイナー王子、アリエル王女が王座の前に並んで頭を下げている。
周りにいる騎士達も全て同じように頭を下げていた。
「止めてくれ・・・まずは頭を上げてくれ」
俺がそう言うと全員が頭を上げた。
「して、ユリエスを救う手立ては見つかったのか?」
「ああ、試してみない事にはわからないが、おそらくは大丈夫だろう」
俺の発した言葉に周りから口々に、「おお」「よかった!」「ユリエス様が助かるのか!」など、思いを口々に発していた。
それはユリエスの家族も同様のようで、目に涙を溜めて喜んでいた。
「喜ぶのはまだ早い。喜ぶのはユーリが目を覚ましてからだ」
俺のその言葉に、喜んでいた皆が顔を引き締めた。
「だからスレイン王。報告を聞きたいのだろうが、俺はユーリにかけられた魔法の解除を先に試みたい」
「ああ、そうだな。そのほうがいいだろう、早く目を覚まさせてやってくれ!」
・・・まだ目覚めると決まったわけじゃないんだがな。
かけられている魔法は禁術なのだ。
アールヴァスは解除出来るとは言っていたが、万が一ということもある。
その事も念頭に入れておいてくれないと困るが・・・
そして、王達もユーリが目覚める瞬間に立ち会いたいと言って付いてこようとしていたが、禁術の解除なのでそれは出来ないと言っておいた。
しかし、付いてこさせない本当の理由は別にあったのだが、それを言うつもりはない。
禁術という言葉が効いているのだろう、「そうか」と落胆した様子で引き下がった。
いくら禁術とは言え、俺がする事を監視しようとしないとは随分信頼されているのだなと嬉しく思った反面、王としてはそれでいいのか?とも疑問に思った。
とりあえず王に許可を得てからユーリの部屋へと赴いた。
ユーリを看病する為に部屋にいたメイドには、部屋の外へと出てもらった。
ユーリの顔を見ると、穏やかで安らかな寝息を立てている。
頬をそっと撫で、必ず成功させると心に誓った。
「この娘が禁術にかけられた者か」
隣に来ていたフェンリルが、俺に問いかけてきた。
「ああ、そうだ」
「キョウヤの思い人か?」
「いや、違う。俺の・・・俺達の大切な仲間だ」
タマモもリーエも俺の言葉を聞いて深く頷いていた。
「さて、始めるか」
「キョウヤさん!ユーリさんを助ける為に今回は特別ですからね!勘違いはしないようにしてくださいね!」
「そうだよ、きょうや!ユーリの為になんだからね!」
(ヒューヒューだよ~!)
勘違いって、何を勘違いするんだか・・・
そのネタを知っているガブリエルって・・・
しかし、どんな状況でもガブリエルはぶれないな。
リーエとタマモは何かをこらえるような、でもユーリを助けたいという複雑な思いをした顔で見守っている。
俺はアールヴァスから貰った球を取り出し、手に握り締めながら魔力を流し込む。
すると球は一瞬眩い光を放った後、何かの紋様が現れた。
これが解除の術式なのだろう。
その術式は俺の手を伝い、体中に流れ込んでくる。
この状態でユーリに吹き込めばいいんだな?
人工呼吸をするようなイメージで、ユーリのあごをくっと指で上げた後に口を開けさせる。
そして少し緊張しながらも、ゆっくりと顔を近づけていく。
俺は目を閉じ、お互いの唇が触れ合うと俺はユーリの体に送り込むように、解除の術式を俺の魔力に乗せて送り込む。
術式が俺の体からユーリの体へ流れていく事がわかる。
そして術式の全てがユーリの体へ入った事を確認すると、俺はユーリから顔を離す。
あとはどうなるか、様子見をするしかない。
正直、この解除方法をユーリ本人と家族に見られたら、王家に嫁げとか言われかねんな。
そのため、禁術を理由に王達の同席を拒否したのだ。
そう考えていると、俺の顔がガシッと両手で掴まれ、無理矢理顔の向きを変えられた。
何かと思ったら、リーエが俺の顔を覗き込んでいる。
「さあ!では口直しです!」
「ちょ、ちょっと待て!何を言っているんだ!?」
なんかリーエの目が血走っていて恐いんですけど!
顔をしっかりとホールドされていて、動かす事が出来ない。
く、喰われる!?
「リーエ、正気に戻れ!」
「失礼ですね!私は正気です!」
俺はいろんな意味で危険を感じ、リーエを正気に戻そうと試みる。
はあはあ、言いながら寄って来るリーエは明らかに正気ではない。
逃げられない!
と思った矢先に、パシーンという音が響いた。
それと同時にリーエの両手が俺の顔から離れ、脱出に成功する。
リーエは痛そうに頭を抑えていた。
どうやらタマモが、どこから出したのか、そしていつの間に作ったのかわからないハリセンでリーエを叩いたようだ。
タマモ、グッジョブ!
そしてタマモはリーエに対し、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべながら、なぜか狐の姿に戻った。
狐の姿に戻ったタマモは、俺に抱き上げてくれと催促をしてくる。
仕方なく抱き上げてあげると、タマモは俺の顔をペロペロと舐めてきた。
最初は頬から徐々に唇へと・・・
「あ~~~!!タマモさん、何やっているんですか!」
頭をさすっていたリーエが、タマモがしていることに怒り出した。
それを見たタマモは、狐の姿だからわかりにくいが、リーエをチラッと見てまたニヤリとしたように見えた。
そしてまた、俺の顔を舐め始める。
「キョウヤさんも、何されるがままになっているんですか!」
まあ、確かに動物に舐められるのは抵抗ないし・・・
「くぅ~、私だけ・・・私だけのけ者ですか!」
(キョウヤは特に動物には甘いからね~)
「むっ、では我も同じ事をしたほうがいいのか?」
動物に甘いのは確かだが・・
いや、フェンリルは動物だという自覚があるのか?
つーか、まだユーリが助かった事が確認出来たわけではないのに・・・
なんなんだ?
このカオスな状況は・・・
内心溜息をついていると、徐々にユーリの体が光りだしてきた。
その光が最高潮に達するとパリンと音を立て、ガラスが割れるように光がバラバラに弾け飛んだ。
これは成功したのか・・・?
そのままユーリを眺めていると、ゆっくりと目が開いた。
「おい、ユーリ!ユーリ!」
顔を軽くペチペチと叩きながら呼びかける。
「ん・・・キョウ・・ヤ?」
よかった、解除は成功して目が覚めたようだ・・・
タマモとリーエも側に寄ってきて、嬉しそうに目に涙を浮かべていた。
二人がさっきふざけていた(?)のは、俺が解除に成功しないわけがないと信頼していたかららしい。
「よかった、目が覚めたようだな・・・」
「タマモちゃんにリーエさん・・・なんで泣いて・・・ここは私の部屋・・?私・・・一体・・・どうなったの?」
ユーリは俺の顔を見た後、周りを見渡して自分の部屋だとわかったものの、何がどうなっているのか混乱していた。
「その前に・・・おはようユーリ」
「おはようございます、ユーリさん」
「おはよう!ユーリ!」
(お寝坊さんだね~、ユーリ~!)
「??おはようございます・・・?」
俺はようやく目覚めさせる事が出来たユーリに、目覚めの挨拶をした。
それに続いてリーエとタマモ、ガブリエルが同じように挨拶をすると、ユーリが?マークを頭に浮かべながら挨拶を返した。
それから俺はユーリが禁術を使われて眠らされた事、禁術を解除する為に聖域へと行った事を簡単に説明した。
本当なら、余計な心配事をかけたり自分の苦労など話したりする趣味もないから、伏せて置きたい部分もあったのだが、これからの事を考えると話さないわけにはいかないと考え、術者であるクラウンを取り逃がしてしまった事、聖域で魔大陸の魔物と戦闘になった事も話しておいた。
「そう・・・そうだったのですね・・・私は皆さんをそんな危険な目に合わせてしまったのですね・・・」
「違う!ユーリのせいじゃない!俺達は自ら進んで起こした行動だ!」
「そうですよ!私は嫌なら最初から動きませんよ」
「そうだよ!ユーリが気に病むことじゃないよ~!」
(仲良き事は~良きかな~良きかな~!)
ユーリは、自分のせいで皆に危険が及んでしまったと憂いて俯いたが、俺達はそれを否定する。
ガブリエルだけは、意味不明な事を言って踊っているが・・・
実際、ユーリのせいではないし、そもそも俺は自分の行動や陥った状況を誰かのせいにするつもりもない。
強いて言うのであれば、今回の事はクラウンの組織のせいだと言うだろう。
そして、ユーリには先に伝えておこうと考えてフェンリルを紹介した。
「え、ええ~!!この方がフェンリル様ですか!?あの、その、ほ、本当に・・・?」
フェンリルは人里に下りてくることはほとんど無く、今を生きる人間にはその姿・形を見た者はほとんどいないそうだ。
たまに思い上がる奴が、フェンリルを倒すと意気込んでガルヴォーネ大渓谷に行っては、帰ってこないという事も少なく無いという。
長命種族であれば、フェンリルと会った事がある者もいるそうだが。
「ああ、そうだ。我は大神族のフェンリルである」
「人前では銀狼ということにしてある」
「むっ、本当ならあんなものと一緒にしてほしくはないのだがな・・・」
「気持ちはわかるが、我慢してくれ」
「銀狼でも珍しいんですけど・・」と言いながら、ユーリは目を白黒させている。
「ああ、そうだ。あとこれをやるから、常に肌身離さずつけておくといい」
「どうしたんですか?これは」
俺が渡したのは、管理者から貰ったネックレスだ。
「これは管理者からユーリに貰ったんだが、精神異常耐性があるらしい」
「お願いします」と笑顔で催促されたので、仕方ないとばかりにつけてやった。
「ありがとうございます!大切にしますね」
俺から贈った訳ではないのだが、それでもユーリは嬉しそうにしていた。
話はこの辺りにしてユーリは目が覚めたばかりなのでゆっくりしてもらい、俺達は王の所へユーリが目覚めた事を伝えにいくか。
「とりあえず俺達は王の所へ報告に言ってくるから、少しゆっくりして待っていてくれ」
「・・・私も行きます!」
なんと、ユーリが付いてくると言い出した。
「大丈夫か?数日寝ていたんだ、無理をする事はないんだぞ?」
「ええ、大丈夫です。私が目覚めた事を自分で報告に行きます」
そう言ってユーリがベッドから出て起き上がろうとしたのだが、案の定足に力が入らずふらついてしまった。
それを俺が正面から受け止めてやる。
「ほら、立つのも辛いだろう?無理するな」
「いえ、このくらいでへこたれてなんていられません」
俺が受け止めた事に「ありがとうございます」と礼を言い、離れながら自分の足で立とうとする。
「そっか、わかった。じゃあまずは着替えないといけないな」
俺はそう言いながら部屋の外にいるメイドを呼びに行く。
そしてメイドに事情を説明し、ユーリを着替えさせて欲しいと頼んだ。
メイドは涙を流しながらユーリに抱きつき、ユーリはそれを優しく抱きしめていた。
「じゃあ頼んだぞ」と言い残し、俺とフェンリルは部屋の外に出て行く。
タマモとリーエはそのまま残り、一緒に着替えを手伝うと言っていた。
部屋の前でしばらく待っていると、ドアが開き3人が出てきた。
メイドはベッドメイキング等やる事があるから残っているようだ。
そしてユーリも連れて、再び王の間へと向かった。
その途中に、すれ違ったメイドや衛兵はユーリの姿を見て喜び声をかけていた。
王の間に入ると「おお~」という声が上がり、騎士達はお互い顔を合わせ喜び、王達は涙を流しながら喜んでいた。
「スレイン王、ご心配おかけいたしました事を深くお詫び申し上げます」
ユーリは騎士達などがいる手前、娘ではなく第二王女としての振る舞いをする。
「よい、こうしてユリエスがその姿を見せてくれた事を嬉しく思う」
スレイン王は人目もはばからず、流した涙を拭う事もせず告げる。
聖域に向かう前に俺と交わした、ユーリと普通に接するという約束は大丈夫そうだ。
まあ、約束するまでも無い事なのだろうけど。
本当なら抱き合って喜びたい所なんだろうな・・・
「喜び合っている所恐れ入る。このままユーリと話をさせてやりたいのも山々だが、報告を済ませておきたい」
「うむ、そうだな。では申し上げよ」
「と、その前に・・・毎回すまないが、人払いをお願いしたいんだが・・・出来ればスレイン王のみで頼む」
「それはユザベル達も同席出来ぬという事か?」
「ああ。全てではないが、おいそれと話す事の出来ない内容もある」
「・・・わかった。すまないが、ユザベル、スタンリー、アリエルも含め皆下がってくれ」
騎士達は前回の事もあり、特に何も言わずに素直に従っている。
ユザベル王妃達は俺が異世界人である事を知っているし、何か悟っているような感じで納得していた。
アリーは俺を一度チラッと見た後、頭を下げて笑顔で出て行く。
ここに残っているのは俺、タマモ、リーエ、フェンリル、ユーリ、シュタイナー王となっている。
ガブリエルはまあ、スレイン王には見えていないからカウントしていない。
皆が退出した後には、侵入防止結界と遮音結界を張っておく。
その間にユーリはスレイン王の隣に移動している。
「さて、じゃあ今回の経緯についてだが・・・」
スレイン王とユーリが互いに知っている部分と知らない部分が有る為、まずは今回の事件の流れから始めていった。
そして聖域での話しに差し掛かるときにシュタイナー王に注意を呼びかける。
「なぜ俺達に入る事が出来、そしてこれは知っているかと思うが、管理者・ハイエルフになぜ会う事が出来たのか。それはリーエが元々管理者だったからだ」
「--!!という事は、リューンエルス殿は・・・」
「そうだ、彼女はハイエルフ。これが他の者に席を外してもらった一つ目の理由だ」
「結果として騙す事になってしまったことをお詫び申し上げます」
さすがにガブリエルの事は伏せ、俺がリーエの正体を告げるとリーエは謝り頭を下げた。
席を外してもらった理由と告げることで、緘口令を敷いた。
スレイン王はかなり驚いていたが、とりあえず話を続ける事にした。
聖域内部の詳しい情報は話す事はしないが、その後管理者と出会い、魔大陸の魔物との戦闘、その時にフェンリルとも戦い契約を結んだ事。
「ここにいるフェンリルが二つ目の理由だ」
「まさか、伝説上の存在であるフェンリルまで現れるとは!」
フェンリルを見たスレイン王は「大丈夫なのであろうな?」とか言っていたが、俺が撫でて見せる事で安心させてやった。
フェンリルの事を何か聞かれても、銀狼だと応えるように言っておくことも忘れない。
そして管理者から解除の情報をもらい、今に至るまでを話した。
「ううむ、中々考えられない経験をしてきたのだな」
「まあ、それよりも先程上げた二つの理由に関して、絶対に他言無用だ」
万が一の事を考え、一応念を押しておく事にした。
「うむ、確かに話していい内容ではないな・・・」
「管理者に解除方法を聞いた事も、隠しておいたほうがいいだろう。普通なら会えるはずのない存在だからな」
禁術を解くために使い捨ての道具を使うなんて技術は、管理者だからこそ出来た事なので、それに関しては省いてある。
「俺がスレイン王に話したのは、国のトップが知らないという訳にはいかないだろうし、それに何よりもユーリの父親という理由からだ」
「そうか、感謝する」
「俺が話した内容で、俺が他言無用と言った情報と俺達や聖域に不利益な情報が万が一にでも流れた場合には、俺は二度とこの国には足を踏み入れる事はないし、最悪なら敵に回る可能性もある」
「「--!!」」
俺の言葉にスレイン王だけでなく、ユーリも驚いた表情を浮かべた。
「他の者に伝える内容をどうするかは、スレイン王の裁量に任せるけどな」
「駄目です!キョウヤが敵に回るなんて!」
他の者がいないせいか、ユーリは巣の口調に戻って俺とスレイン王に訴えかける。
「う、うむ・・・もちろんわかっておる。今はキョウヤ殿だけではなく、リューンエルス殿、フェンリル殿もいるのであれば、小国であれば一国と争える戦力だろう」
「ちょっと!あたしを除かないでよ!」
今まで退屈そうに話を聞いていたタマモが、自分を除け者にされたとでも言わんばかりに話に割って入った。
あ、余計な事を言いそう・・・
「今は全盛期の力は無いとは言え、あたしは金毛白面九尾なんだからね!」
「ぶはっ!」
あ~あ、言っちゃったよ・・・
タマモの事は話の流れ的に、言う必要ないから言わなかったんだけどなぁ。
スレイン王も、俺の話を聞いていて冷や汗をかいていたらしく、喉を潤そうと側に置いてあった水を口に含んだ瞬間だったから、盛大に噴出してしまったじゃないか。
まあ、ここまで話しているのだから、今更タマモの正体がばれても特に問題はないけどな。
「タマモ殿は妖狐!?それも九尾だと!?」
「そうだよ~!すごいっしょ!」
多分タマモは除け者にされた事と、褒めてもらいたいという考えで言ったのだろう。
王が褒めるわけはないので、代わりに俺が頭を撫でておいた。
タマモは嬉しそうに顔を歪めている。
「私は護衛もつけずに、とんでもない者達と対面しているのだな・・・まあ、護衛をつけた所で何かあってもどうにもなるまいが・・」
今更ながらに、自分の状況を考えているようだ。
「そこは安心してくれ。俺は俺が守りたいと思うとき以外は戦うつもりはないし、こいつらにも手出しはさせるつもりはない。こいつらが勝手に戦うのであれば、何が何でも俺が止める」
「ちょっと、きょうや!あたしが戦闘狂みたいな言い方しないでくれる?」
「そうですよ!むしろ私は平和主義者です!」
「むう、我も駄目なのか?」
「いや、フェンリルが一番駄目だろう・・・」
「なぜだ!」とフェンリルは嘆いているが俺が止めるとは言っても、さすがにフェンリルに暴れられたら今の俺では完全に止める事は難しいしな。
「・・・キョウヤ殿は強いのだな。戦いの事ではなく精神的な意味でな。自分を曲げる事はなく、誰を相手にしても物怖じせず必要と有らば敵に回ると言いきれる心の強さ・・・見習いたいものだな」
「・・・買いかぶられても困る。俺はただ我侭なだけだ」
「ふははっ!そうかもしれぬな!国もそれが出来れば、どれだけ簡単なことか・・・」
「おいおい、止めてくれよ!?我侭な王様がいる国なんて、実際は最悪だぞ?」
国のトップが我侭に好き放題する事で、問題になる事例などいくらでもある。
それが良い方向に転がれば国が発展するかもしれないが、大抵は一部だけ潤って大半が苦痛を舐める事になるだろう。
「もちろんわかっておる・・・話が脱線してしまったが、私もキョウヤ殿達の悪いようにはせんよ。むしろこれからも力を貸して欲しいくらいだしな」
「いや、それは勘弁してくれ」
一国の王の力になるとか、面度になる事この上ない・・・
「しかし、こうして見ると・・・確かに種族間の諍いなど、些細な問題なのかもしれぬと実感させられるな」
「――!!」
スレイン王が俺達を見渡した後、まさかの言葉が出たことでユーリが驚いて息を呑んだ。
「我等が相容れなかったのは何なのだろう・・・互いの見た目?性格?主張?力?確かにそれも無きにしも非ず。しかし一番は、お互いを恐れているからなのだろう。お互いがお互いを知ろうともせずに恐れ、最初から互いの意見を聞かず、理解しようとしない。それが今日まで続いてしまった結果という事か・・・」
今まで種族間でいがみ合っていた事に、それが当たり前だと思い疑問を抱いていなかったのだろう。
しかし、ユーリが種族の垣根を越えて仲良くしたいと考えている事を理解し、俺達の現状を見て痛感させられたようだ。
「ユーリよ。今すぐには無理だろうが、私も及ばずながら少しずつでも国民の意識を変えていく努力をしていこうと思う」
「――!!お父様!!」
スレイン王がユーリの考えを認め、王・・・いや父親自ら手伝うといった事で、ユーリは喜び王に抱きついて泣いていた。
「もちろん、これは人間だけの問題ではない。長い時間が掛かる事だけは覚悟しておくのだ」
「はい、わかっております」
ここまで上手くいくとは思っていなかったが、大団円になった様でよかった。
「さて、もう人払いはよかろう?いつまでも他の者を締め出していては、心配させてしまうだろう」
そういったスレイン王は泣き止んだユーリに、席を外してもらった人達を呼びに行かせた。
騎士達はドアの外で待機していたようだが、ユザベル王妃、スタンリー王子、ありえる王女は時間が掛かるだろうと考え自室に戻っていたらしく、メイドに頼んで呼んでもらったようだ。
最初に王の間へ入った時と同じ人達が揃い、それに加えてユーリが王族と一緒に並んでいる。
皆が揃い、落ち着いた所でスレイン王は口を開く。
「皆の者、聞きたい事もあるだろうが、それは別の機会に私から話をさせてもらう」
部屋から出された皆は、俺達が何を話したのか知りたそうにはしていたが、黙って王の話を聞いている。
「今回、自らの危険を顧みずユリエス王女を救い、ここにいる者達も救ってくれたキョウヤ殿達に1億Gと名誉貴族の恩賞を与える!」
はあ!?
聞いてないぞ!?
1億Gだと、日本円にして10億か!?
いやいや、おかしいだろう・・・
「・・・悪いがいらない」
「――!!なぜだ!?今回の事はそれだけ価値のある事なのだ!」
「金に関しては、その分を国民に回してやってくれ」
「なら名誉貴族は!?」
「そっちの方がもっといらない」
「――!!」
俺はNOといえる日本人。
金も高額すぎるし、貴族になんかなった日には国に縛られているようなもんだしな。
「スレイン王、先程の件でもお分かりでしょう?キョウヤ様はそういうお方ですので」
「ううむ、しかし・・・」
ユーリが笑いながらフォローをしているが、王は納得がいかないようだ。
さすがに王側からしてみれば、受けた恩に何も返さないというのは、王の立場を悪くさせてしまうかもしれない。
「わかった・・・なら、金の方をありがたく頂戴する。1億も要らないが、金額はそちらに任せる」
「おお、そうか!あい、わかった。名誉貴族の方は残念だが諦めるしかないな」
・・・・
俺に名誉貴族を与えようとした別の理由が見えたような気が・・・
「おお、そうだ。忘れる所だった、これが一番重要だ」
「なんだ?」
何か嫌な予感がする・・・
「ユリエスとアリエル、どちらを嫁にしたいのだ?」
ちょっと待てえええええい!
どうしてそうなった!
どうしてそうなる!
ええい!
ユーリもアリーも顔を赤らめて体をクネクネさせるんじゃない!
なんだか色々と疲れてきた・・・
「して、キョウヤ殿はこれからどうするのだ?」
あれから嫁にやる・いらないだの、ユーリ、アリーから「私達とは遊びだったのですね」とかふざけた事いわれ紆余曲折しながら、どうにか真面目な話に戻った。
「そんなのは決まっている」
「??」
「魔王をぶん殴りに行く!」
お読み頂きありがとうございます。
とりあえずは一段落です。
聖域編の閉めだったので、少し長くなってしまいました。
設定やキャラクターがそれなりに増えてきたので
読んでくださる方も忘れてしまっているキャラもいるでしょうし、
前書きに書いたように、間違わない様に自分自身で見直すためにも
一度、どこかに載せようと思っています。




