第31話 約束
管理者の元を去った後、待っていたカリュアやウィズリー、シュタイナーに俺達の目的が果たされた事を簡単に説明した。
カリュアとウィズリーは素直に喜んでくれて、シュタイナーは表情にこそ出す事は無かったのだが安心していたようだ。
ウィズリーの強引な提案により、今日はウィズリーの家で一泊する事になった。
しばらくの間リーエと会えず、今回もそんなに話す事が出来なかったのだろうから、ゆっくり話す機会を与えたいと考えた事も理由の一つだ。
女性同士の方が気楽だろうと思い、俺はフェンリルと一緒に別の場所で寝ると言ったのだが、それは全員に却下された。
・・・なぜだ!
考えてみると、最近は女性陣の言いなりになっているような気がする・・・
・・・気のせいだよな?
そんなこんなで、今はウィズリーの家にやっかいになっている。
一人暮らしとはいえ、思っていたよりも広さがある。
造りはログハウスで、室内は20畳ワンルームのロフト付きと言った所か。
おそらくロフトが寝室になっているのだろう。
部屋の中央には木で出来た大き目の丸テーブルと、丸太の椅子が並べてある。
部屋の端には、机や戸棚、タンスなど全て木で作った物が置かれていた。
「女性の部屋をじろじろ見るのはマナー違反ですよ!」
部屋の中を観察していたら、ウィズリーに怒られた。
いや、どこでそんな言葉を覚えた!
と思いつつも、じろじろ見ていたことを反省する。
「お好きな所でお寛ぎくださいね」というウィズリーは、俺達に振舞う食事を作るためにキッチンへと向かった。
シンクだけは水を使うためか、石を加工して造ってある。
水は火はどうするのだろうと思ったのだが、それは管理者達が造った魔法の道具により、魔力を流し込むと蛇口の様な物から水が、コンロの様な物から火が出るようになっていた。
排水された水も、その先に浄化の魔法道具を設置する事で浄水し、聖樹や周辺の森に流れるように出来ているらしい。
そして意外だったのは、エルフも少量ながらも肉を食べるという事。
確かにリーエも一緒に食事をした時に食べてはいたが、聖域を出てから食べるようになったのだと勝手に思い込んでいたのだ。
多量は取らないが、エネルギー源としては必要らしい。
食べる時は常に、森の恵に感謝を忘れる事なく祈りを捧げるのだそうだ。
そうして、ウィズリーに出された食事をご馳走になった。
味付けは調味料などは使っておらず、果実や植物などから絞りあげた甘みや酸味、辛味などをバランスよく配合されたタレもしくはドレッシングを使っている。
どちらかというとあっさりしていたが、それでも中々に美味しかった。
フェンリルは魔力をエネルギーに還元する事ができるらしく、食事の必要がないそうなのだが、「我も食事は久しい」とか言いながら美味しそうに食べていた。
食事を終えた後、リーエとウィズリーは今までに積もり積もった話に花を咲かせている。
俺は邪魔をしないように端に寄り、フェンリルの毛並みを整えてやっていると、タマモが「あたしも!」と催促してきたので、狐の姿に戻ったタマモの毛並みを整えてやっていた。
その間、チラチラとこちらを伺うリーエの目が怖かったのは言うまでもない・・・
そうしてしばらくの時間が経ち、「そろそろ寝ましょうか」とリーエが言った。
ウィズリーとリーエは一緒に寝るようだ。
「私の寝床はそんなに広くないので、皆さんはここしかありませんが・・・」
「ああ、別に俺は構わないから気にしないでくれ」
ウィズリーが申し訳なさそうに言うが、場所としては十分広い上、フェンリルに寄りかかって寝ようと考えていた俺には特に問題はない。
「あ、でもキョウヤさんなら・・・でもでも、男性を私の寝床にいれるなんて・・・」
ウィズリーが両手を顔に当て小声で何か言いながら体をクネクネさせていたが、何を言っているのかは知らない方がきっと身の為だろう。
そして、はっとした顔をしてこちらに向き直り・・・
「ふしだらは駄目です!変な事をしに来たら駄目ですよ!・・・でも、キョウヤさんなら・・・」
ウィズリーはそう言いながら、顔を赤くして俺の顔をチラチラ見ている。
いや、誰も何も言っていないし、何かするつもりもないんだが・・・
それにウィズリーはリーエと一緒に寝るのに、何をしろと言うのだ?
そのウィズリーの言葉を聞き、怒った顔をしたリーエが言葉を発した。
「キョウヤさん!ウィズリーに何をするつもりですか!」
「きょうやのえっちぃ!」
(キョウヤの甲斐性なし~!)
ちょっと待て!
俺は何もしねえよ!
しかも何でタマモとガブリエルまで乗ってくる!
てか、ガブリエルはそれしか言えないのか!?
と思いつつ、いつの間にか元の元気なガブリエルに戻っていた事に安心した。
その間もリーエに詰め寄られている俺。
「タマモさん!貴方もわかっていますよね!?」
「はっ、はひっ!」
矛先がタマモに向いてくれてよかったよかった。
顔が笑っているのに目が笑っていない異様なオーラをかもし出すリーエの迫力に、タマモはビクッとして返事をした。
何だかんだありつつも、リーエとウィズリーがロフトへ上がり、俺はフェンリルによりかかり、タマモは狐の姿で俺の腹の上で寝ることとなった。
翌朝、物音で目が覚めた。
すると目の前には怒った顔のウィズリーがいた。
「夜中どうして来てくれなかったんですか!」
え~?
俺そんなこと一言も言ってないよね?
それに行ってどうするって言うんだよ!
「どういうことですか、キョウヤさん!ウィズリーに、よ・・夜這いをかけようとしていたなんて!」
ウィズリーの声にどこから現れたのか、一瞬で目の前に出現したリーエまで詰め寄ってきた。
だから俺は何も言ってないし、何もするつもりもないって・・・
フェンリルはフェンリルで「おお、確かにキョウヤのお蔭で、少しばかりか魔力が戻っている」と、こちらのやり取りは無視して喜んでいた。
タマモは相変わらず寝ぼけている・・・
そんなゴタゴタもありながら全員が起きて朝食を取った後、すぐにでも聖域を出る事にした。
ウィズリーの家を出ると、エルフ達と樹精霊の二人の総出で見送りをしようと待っていてくれた。
エルフ達に礼やら何やらを言われ、簡単に挨拶をしながら聖樹の転移魔法陣へと向かう。
「何度も申し上げましたが、此度は誠にありがとうございました。長からの許可も出ておりますので、またいつでもいらしてください」
「ああ、こちらこそ色々とありがとな。また来るよ」
クラネイアが前に出て挨拶をしてきたので、俺も礼を返しておいた。
「リューンエルス様・・・」
「ウィズリー、そんな顔しないでください。私も長から許可を貰っていますから、また来ますよ」
「今回は時間が無かったが、今度はゆっくり時間のある時にでも寄ると約束する」
離れる事が悲しいという顔で俯いたウィズリーに、リーエと俺がフォローをしておく。
すると顔を上げ、力の篭った目で俺達を見つめながら言葉を発した。
「必ずですよ!必ずまた来てくださいね!約束ですよ!」
それから俺達はウィズリー達に見送られながら転移し、地上へと戻ってきた。
「それで、どこへ向かっているのだ?」
「ああ、フェンリルには言ってなかったか。話も聞いていたと思うが、禁術にかけられた友人を助けに行く。場所はヒューベルだ」
すでにヒューベルへと向かい、走りながらフェンリルに説明をしていた。
「なるほどな。今は急いでいるのだろう?」
「ああ」
「なら遅い!乗れ!」
俺達もそれなりのスピードで走っているのだが、それでもフェンリルからすると遅いらしく乗せていってくれるようだ。
3人とも乗れるように、フェンリルは少しだけ体を大きくしてくれた。
俺が一番前に乗ろうと思ったのだが、タマモとリーエになぜか却下され、今はタマモ、俺、リーエの順にフェンリルへと跨っている。
俺達が乗ると、フェンリルは一気にスピードを上げた。
森の木が立ち並んでいるにも関わらず、ヒョイヒョイ避けながらさっきの倍以上のスピードで走る。
危なげもなく、全くかすりもせずに進んでいくのでかなり驚いた。
確かにこれなら、俺達が足手まといになってしまうな。
そう考えている内に、あっという間に森の出口が見えてきた。
俺達だけだと2,3時間は掛かるはずが、ものの数十分程度で抜けてしまった。
このスピードだと、国境に行くにもそう時間はかからないだろう。
思っていた通り、すぐに国境の門が見えてきたので、俺達はフェンリルから降りて自分達で走っていく。
門番に驚かれないように、フェンリルには先程の大きさに戻ってもらい、銀狼の振りをしてもらう。
とは言っても、銀狼も珍しい種族らしいので驚かれる事には間違いないだろうが。
フェンリルには人前ではしゃべらない事、銀狼という事にしておく事を伝えてあるのだ。
最初は「我を銀狼と一緒にするな!」と怒っていたのだが、フェンリルだとばれる方が問題あるし、怒る気持ちはわかるが美味いものを食わせてやるからというと「むっ、仕方が無い。納得は出来ないが、今回は広い心で承ろう」と、なんとか了承してもらった。
フェンリルは昨日久しぶりに食事をしてから、また美味い物が食べたいとか言っていたので、そこに付け込んだわけだ。
国境にたどり着くと、衛兵に「随分早いお戻りですね」と言われたので「採取したい植物が直ぐに見つかったからな」と適当な事を言って、ヒューベル王から貰ったカードを見せた。
その時フェンリルを見て「ぎ、銀狼!」と驚いていたのだが、普段は見えていないが意識して魔力を込めると額に現れる契約の証を見せながら「森で保護し、俺と契約しているから大丈夫だ」と告げると、頭を上下にブンブン振りながら納得してくれたようだ。
そして国境を抜けると、国境が見えなくなった頃にまたフェンリルに跨らせてもらい、あっという間にヒューベルへと辿り着いた。
門兵にもカードを見せると、すぐに通してくれる。
ヒューベルの街の中に入ると、あちこちからの視線を浴びた。
タマモは人化で完全に人間に化けているし、リーエも変化の魔法で『歌姫』ではない人間の姿に化けているから、見られるはずはない。
ということはやはり、フェンリルか・・・
フェンリルにも変化の魔法をかけたい所だったが、回復以外の魔法はほとんどレジストしてしまうそうだ。
本人も大きさ以外は変化させる事が出来ないと言っていた。
まあ、今は周りを気にしていても仕方が無い。
周りからの視線を浴びながらも、気にせずに王宮へと目指す事にした。
途中、絡まれるという些事があったが、それ以外は何事もなく王宮へと到着した。
フェンリルを見て、ごろつきハンターの様な奴らが難癖をつけてきたのだが、そういう奴らには何も言わずに腹にワンパンで沈めて放置してきた。
王宮の前にいる騎士は、俺の顔を見てすんなり通してくれる。
ここを出る時にも会っているし、事態が事態だから王から厳命でも出ているのだろう。
王宮の門兵も、俺の顔を見るなり「す、少しお待ちください!」と言って中へと入っていった。
そして直ぐに戻ってきて「王の間にてヒューベル王がお待ちしております」と言って通してくれる。
ようやくユーリを助ける事が出来ると意気込みながら、王の間へと向かうのだった。
お読み頂きありがとうございます。
今まで長々と続いてしまっていたので、
今話はさらっと終わらさせていただきました。
そして次話が今の展開の完結予定です。
なるべく早く載せれる様に頑張ります。




