第30話 管理者の下へ再び・・・
今回の話は、ほとんど会話と説明による内容となっております。
ご了承くださいませ。
「どうやら、色んな意味で大変だったようですね」
クラネイアが笑いながら同情してくれた。
あれから何とかして全員を引き剥がした後にエルフ達と別れ、今は俺達4人とシュタイナー、ウィズリー、カリュアと共にクラネイアがいる転移の間に来ている。
「ああ、戦いの後の方が疲れた気がする・・・特に精神的に」
「ふふっ、お疲れ様です」
微笑ましいですね、というような笑顔をクラネイアは向けてくる。
「やはり、クラネイアがキョウヤさん達を受け入れたのは正解でしたね」
「カリュアも戸惑う事なく、すぐに信じていたようですね」
「貴方が信じたのであれば、間違いはないでしょうから」
「そうですか?私でも間違いはありますよ?」
カリュアが、実際に現場で見て感じた事をクラネイアに報告していた。
「それはともかく、改めてお礼申し上げます。此度は誠にありがとうございました」
「いや、そういうのはもういいから・・・顔を上げてくれ」
クラネイアに頭を下げられたのだが、エルフ達にもう散々お礼を言われたり握手を求められたりと、正直うんざりしていた。
「ふふっ、キョウヤさんは変わっていらっしゃいますね。感謝される事が苦手なのですね」
「まあ、人から嫌われた事しかないからな」
この世界に来るまでの自分を思い返すと、感謝される所か近寄ってすらこなかったしな。
「過去は別としても、今はそんな事はありませんよ。少なくともここにいる皆様は、キョウヤさんの事が好きでいらっしゃいますよ」
「はあ?」
俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
タマモやリーエは仲間としてそうなのだろうけど、シュタイナーやウィズリー、カリュア、クラネイアは、俺を好きになる理由なんて無いと思うんだが・・・
「私やカリュアは聖域を守ってくださった事で信頼して、シュタイナーは尊敬として、ウィズリーは・・・私の口から言える事ではありませんね」
「ちょっと待って下さい!私は尊敬など・・・!」
「クラネイア様!何を言っているんですか!」
俺が疑問に思った事がわかったらしく、する必要ないのにわざわざ説明してくれた内容に対して、シュタイナーとウィズリーが反論した。
「まあまあ、落ち着きなさい。彼らも時間が無いのですから、お話はこの辺りにしておきますよ」
クラネイアが一番長話をしていた気がするのだが、そこは突っ込まない方がいいのだろう。
「さて、参りましょうか」
「聖樹に来る時も聞いたが、管理者の所にまでフェンリルを連れて行っても大丈夫なのか?」
「・・・本来で有れば、あまりよろしくは無いでしょう。ですが、今はキョウヤさんと契約で繋がっておりますので、容認してもいいとの事です」
「そっか、ありがとな」
俺が礼を言う事でもないのだろうけど、自然と口から出てきた。
フェンリルも当然だと言わんばかりの満足げな顔をしている。
実際こうして見ると、あれだけ脅威だったフェンリルが本当に同じ奴なのかと疑いたくなるようだった。
「それではシュタイナーとウィズリーは、先程と同じようにここまでとさせていただきます。カリュアは後の事頼みましたよ」
「ええ、承知しております」
「はい、わかりました」
「お任せください」
シュタイナーもウィズリーも先程の時とは違い、特に何も心配はしてなさそうだ。
特にウィズリーは笑顔で見送ってくれ、最後に「また後ほど」と言っていた。
今度はクラネイアも報告の為に赴くとの事で、ガブリエル・タマモ・リーエ・フェンリル・クラネイアと一緒に管理者の元に来た。
「・・・以上が今回の顛末でございます」
「そうか、報告ご苦労」
管理者も見ていたのだろうが、クラネイアはきちんと成り行きを全て説明していた。
「しかし今回の事はどういうことなのだ?」
「魔王がとち狂ったんじゃないか?」
「まさか、魔王だってここが破壊されたらどうなるかわからないわけじゃあるまい」
「じゃあ、誰かの差し金ということかのう」
「そこにいるフェンリル殿の力を奪ったというのも気になるが・・」
副長であるカーディスが疑問の声を上げ、それに対して他の管理者デックヴァール、リョースア、ゲイルストン、ヴェルドが次々に言葉を告げる。
アールヴァスはただ黙って何かを考えているようだったが、ふと顔を上げ徐に口を開いた。
「その話よりも、まずはキョウヤ殿に礼を申し上げなければなるまい。聖域を守ってくれただけではなく、森に緑を戻してくれた事に深く感謝する」
「いや、それは散々聞かされたから、もういいよ・・・」
戦いの前までは童と呼ばれていたが、戻ってきたらキョウヤと呼ばれていた。
まあ、俺はどちらでも構わないんだけどな・・・
「長が礼を述べているのに、何たる言い草!」
「カーディスよいのだ。彼がいなければ、我等の誰か数人が出向かなければならなかったのだぞ?それに彼は、結果としては我々の為になったとは言え、根本では我々の為にしたことではないから、礼を言われる筋合いはないと言いたいのだろう」
「・・・」
確かにサラマンダーやヘルハウンドを撃退したのは、少なからず知り合った人達を守りたいという気持ちもあったが、森を治したのは焼け野原と化した光景を自分が見たくなかっただけだ。
リーエ達には冗談に聞こえたのかもしれないが、あの時に言った治した理由は本心だった。
なんだかアールヴァスには、全てを見透かされているような気がした。
「それにしても、相当魔力が空になるまで頑張ってくれるとは思いもしなかったがな。しかし、ここに来てから大分魔力も戻ってきたのではないか?」
そう言われて自分の魔力に意識を向けてみた。
すると、森を治した時点ではほぼ無くなっていた魔力が、ある程度まで回復をしていた。
「確かに魔力が戻ってきているが・・・なぜなんだ?」
「ふむ、キョウヤ殿が持っている魔力は、純粋な魔力なのだ。言ってみれば、この虚空にある魔力と同種だという事だ」
「どういうことだ?」
「その説明の前に地上で暮らす者の魔力というのは、聖樹にこの虚空から純粋な魔力が流れ込み、その後大気中に放出された魔力を体に取り込んでいるのだ。しかし大気中には様々な不純物が混じっている。それは様々な物質を構成する元素と言えばわかりやすいか?」
「要はその元素と魔力が混ざり合ってしまうという事か?」
「そうだ。その混ざり有った魔力、属性を含む魔力を取り込むことで、その者に相性の良い属性魔力を取り込み、相性の悪い属性魔力をはじき出してしまうのが一般的な者が持つ魔力だ。しかし、キョウヤ殿にはその属性が全くないのだ」
なるほど。
それによって、その人の属性が決まるわけか。
「その相性とやらは、どういう風に決まるんだ?それと属性が無いとどうなるんだ?」
「相性はおそらく生まれ持った資質と言った所だろうな。そして属性が無いということは、無属性魔法を使う事も出来るし、全ての属性に変換する事が出来る。キョウヤ殿に属性がないのは、おそらく異世界人だと言う事も要因の一つであろう」
「――!!やはり知っていたのか・・」
「そりゃそうだろう。召喚魔法は普通の魔法以上に魔力を使うからな。嫌でもわかる」
異世界人という言葉に、俺は一瞬眉毛を吊り上げたのだが、アールヴァスはニヤリと笑うだけだった。
まあ、彼らに知られた所で別に不都合は無いのだから問題はないけどな。
「そして無属性という事は、基本的に純粋な魔力を使う。ここなら純粋な魔力しかないから回復が早いという事だな。地上でも魔力を取り込むことが出来るが、不純物だけを弾いて取り込むのだから多少時間がかかる。とは言っても、どの属性の魔力でも取り込めるのだから、普通よりは回復は早いはずだが」
あまり気にしていなかったが、言われてみれば魔法を使った後しばらくすれば大分回復していた気がする。
「さらに言うと、キョウヤ殿と長時間触れる事によって、魔力を供給する事も出来るだろう。タマモ殿も思い当たる事があるのではないか?」
「・・・うん、きょうやと一緒に寝ていたお蔭で、ありえないくらいの速さで本来の魔力を取り戻しつつあるよ」
ああ、そういえばタマモの尻尾も3本から4本に増えていたな・・・
「フェンリル殿も魔力を奪われたという事だが、それもキョウヤ殿と一緒にいることで戻るのも早かろう」
「ほう、ならばキョウヤと共にしようと考えた我は、結果的にも正解だったわけだ」
『吸収』のスキルによって能力を譲渡するだけでなく、俺自身が媒体となって魔力を供給させる事も出来るのか・・
「まあ、色々とわかってありがたいし聞きたい所ではあるが、今はそれよりもユーリの件についてだ」
「ああ、もちろんわかっている。その者にかかっている禁術・静かな眠りの解除方法は、すでに用意しておいた」
アールヴァスはそう言いながら俺の方へと歩み寄ってきて、丸い球を渡してきた。
俺は驚いた。
あれほど多種族をよせつけず、禁術を直隠してきた彼らが、こんなにも簡単に解除方法を用意してくれる事に。
「これは聖域を守ってくれただけでなく、森に緑をもたらせてくれた礼だ。まあ一度使えば壊れるようにしてある、使い捨てではあるがな」
ああ、なるほどな。
一回で壊れるようにしておけば、そこから情報が漏れる事はないという事か。
「それと、これをその者に渡しておくが良い。精神攻撃に対しては、禁術ほど強力だったとしてもほぼ防いでくれる。攻撃魔法に関してもそれなりには耐性を持つものだ。ローブはもちろんそのまま持っていくが良い」
「こんなものまで・・・何から何までありがとう」
解除の球以外に渡してくれたのは、真ん中に宝石のような物が入った丸いネックレスだった。
真ん中の宝石は魔石らしく、これが装備者を守ってくれるようだ。
ローブも正直ありがたい。
ある程度以上の攻撃は防げないとはいえ、かなり防御力は上がるし。
「ところで、この球の使い方はどうすればいいんだ?」
「それは静かな眠りを解除する時に、魔力を流し込むとその球が反応し解除の術式が魔力を注いだ者に流れ始める。それを対象者の内側に吹き込めばいいのだ」
さすがに一回だけの使いきりのアイテムなだけあって、簡単に使用できるらしい。
「簡単なんだな。しかし、内側に吹き込むってどうするんだ?」
「それは口移しに決まっているだろう」
「!!」
「ええええええええええええ!!!」
「ちょっと、アールヴァス様!!」
「確か人型の種族同士の口付けには、添い遂げるという意味があったような・・・」
(キョウヤの甲斐性なし~!!)
俺も驚いたのだが、なぜかタマモとリーエが俺以上に驚いていた。
ちょっと、クラネイアさん!
間違った知識を持っていますよ!
ガブリエルは毎度毎度・・・
あとでお仕置きだな。
「外から術式を浴びせても、禁術が内側に少しでも残ってしまう可能性がある。禁術となっているものは言わば呪いのようなものだ。完全に消し去らないと、二度と元には戻らない。その為、口から術式を内側に送り込む事で、内から外へ向けて禁術を完全に吹き飛ばす必要があるのだ」
「でも・・・それなら私がやります!」
リーエは食い下がろうとしたが、ユーリが目覚めさせるにはそれしか無いと考え直し、自分がやる事を志願した。
「それはダメだ」
「なぜですか!?」
「理由はさっきの話が関係する。キョウヤ殿のような純粋な魔力を使わないと、うまく作用しないように出来ている。というのも、余計な属性が混じると静かな眠りに耐性があった場合、抵抗され失敗する恐れがあるからだ」
「・・・・・」
リーエは押し黙ってしまった。
「禁術は調べてみない事には作った者・使った者にしかわからん。であれば、それらを跡形もなく吹き飛ばすしかないだろう。それが出来るのが純粋な魔力のみという事だ」
「わかった。それしか方法はないんだろう?だったらやるしかないな」
そう言った俺に、リーエとタマモが恨みがましい目で見てきた。
ガブリエルまで死んだ魚の様な目で見ていた。
いや、ユーリを助ける為なんだから仕方ないだろう!?
なんで俺がそんな目で見られなきゃならん!
「しかし、なんで禁術なんて物を造り出す奴がいるんだ?」
俺は居たたまれない気持ちをそらすように話題を変えた。
「禁術は禁術として造られたものではなく、新しい魔法を開発し使用した時点で危険だと判断されたものが禁術として扱われてきたのだ」
「そうなのか・・・」
まあ確かに、俺は禁術を造るんだと言って造る奴はいるわけ無いわな。
「禁術となった魔法は全て、何かしらの自分の欲望を満たそうとして造り出された。リッチなんかはそれの典型だ」
「へえ、やはりリッチもいるのか」
「知っているのか?あれは永遠の命が欲しいと願った者の成れの果てだ。魂と体の結びつける魔法を生み出したまではいいが、体が朽ち果てる事までは止められなかった」
ああ、なるほど・・・
命を何と捉えるかという問題で、しかも失敗したという事か。
体が無くても魂という命さえ残れば生きている、魂が無くても体という命さえあれば生きている、肉体が朽ちてもその体と魂が結びついていれば生きている・・・
もちろん永遠の命が欲しいと考えた奴は、不老不死の事なのだろうけど、魔法にそれを理解し組み込むとなると難しいだろうしな。
「我々も禁忌とされる術に片足を突っ込んだ事もある。しかしそれは、純粋に魔法の可能性を知る研究の為。自分に使用したり、誰かにしようしたりはせんよ。試すとしたら、我等のクローン・・・と言っても、細胞で器だけを作った意志も無ければ臓器も何も無い人形にだけだ」
「そんなものまであるのか・・・万が一悪用されるような事があったら惨事になりそうだな・・」
「そんな事はありえないと思うが、だからこそこの場所は厳重に守らなければならない」
「そっか、じゃあ俺達もあまり長いするべきではないな」
「まあ、ここに早々来られても困るが、キョウヤ殿が見極めた者であればたまに来ることは許可しよう」
「――!!」
その言葉に俺達はかなり驚いた。
まさかの発言である。
「アールヴァス様!?」
「まあ、聖域を救ってくれたという事も無きにしも非ずだが、キョウヤ殿の魔眼を誤魔化せる事が出来る者はそうはいないだろう。それほど彼の魔眼は強力なのだ」
確かにユーリが、魔眼にも強弱があると言っていたが、まさか俺の魔眼はそれほど力が強いのか。
「ところで話は変わるのだが・・・フェンリル殿、其方の力は半分ほど奪われたという事だが、その力が悪用されるという事はないのか?」
「うーむ・・・おそらくあれは、人間程度に扱いきれる物ではないから大丈夫だろう。」
「そうか、それならばいいのだが・・・」
「まあ何かあったにせよ、我の魔力なのだから我がすぐに感じ取れるだろう」
何かあってからでは遅いのではないかと思うが、どちらにしても今の段階で出来る事はないよな・・
俺も警戒をするようにしておこう。
「さて、其方らも聞きたいことはないか?」
「まあ、そりゃあ色々と聞きたいことだらけだが、今はユーリを早く治してやらないといけないからな」
「そうか、しかし静かな眠りがかかりきるまで、あと10日ほどはある。今日はエルフの所でゆっくり休んでから行くがよいだろう」
「ああ、わかった。お言葉に甘えさせてもらおう」
「最後に、キョウヤ殿!彼女を治した後はどうするつもりなのだ?」
「・・・どうするとは?」
「いやなに、どこかへ行こうとしているのだろう?ただの興味本位だ」
ちっ!
多分、俺がしようとしている事をわかってて言ってやがるな。
「・・・アールヴァスさんが思っている通りだ。俺は魔王を殴りに行くつもりだ」
「「--!!」」
「やはりそうであったか」
「はーはっはっは、それは面白い。奴が殴られる所なぞ、そうそう見れるもんではないわ」
(・・・・・)
俺の発言に、タマモとリーエはビックリして俺の顔を覗いていた。
アールヴァスはわかっていたようだな。
フェンリルは楽しければ何でもいいようだ。
しかし・・・
ガブリエルの様子がおかしい。
俺の発言を聞いて、苦虫を噛み潰したような顔をして俯いている。
何かあったのだろうか・・・
「まあ、本当に魔王が黒幕かどうかはしらんが、奴の配下が仕出かした事の落とし前をつけさせてやる!」
俺の言葉を聞き、アールヴァスは否定も肯定もせずに一言「そうか」と言うだけだった。
きっと彼は彼なりに何かを思う所があるのだろう。
それからタマモとリーエに詰め寄られ、フェンリルには笑われ、クラネイアには「さすがキョウヤさんです」とか訳のわからない事を言われながら、管理者の元をあとにした。
いつもならふざけているガブリエルが、大人しかった事に少しだけ気になった。
お読み頂きありがとうございます。
前書きにも書きましたが、色々な事柄の説明を書かせて頂きました。
それは、聖樹の管理者でしか知りえない事もあった為です。
アールヴァスの信頼の証としてキョウヤの知りたいことを教えてあげています。
あと少しで今の展開が終わる予定です。
もう少しだけお付き合い宜しくお願い致します。




