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第28話 そこに現れた者は・・・

「やれやれ、情けない奴らだな」


!!


やばい!


こいつはかなりやばい!


俺の背後から、今まで感じなかったはずの強大な魔力を感じた。

声の主を確かめるように、恐る恐る後ろを振り返る。


5m位の大きな銀色の狼が、そこに立って俺達を見下ろしていた。


「銀狼族!?それにしては大きすぎます!」


リーエが驚きながら声を上げた。


すると・・


ウォオオオオッ!!


目の前の狼が途轍もない声で吠え出した。


その声に体中がビリビリするほどの振動が伝わり、エルフ達は尻込みをして若干後退りする。

カリュアは目の前の狼を敵と認識し睨みながら、いつでも魔法を発動出来るように構えている。


タマモは尻尾を立ててリーエも構えながら、最大限の警戒をしている。


「否!我をあんなのと一緒にするな!我はオオカミにして狼に有らず。我は大神(オオカミ)族のフェンリルである」

「「「--!!」」」


目の前の銀色の狼はフェンリルだった。

この場にいた誰もが驚いて、声をあげる事すら出来なかった。


神話級の化け物か!?


俺の世界でフェンリルは主神を食い殺したとされているが、もし目の前のやつが同じ存在だったとすると・・・

フェンリルから感じる魔力からすると、あながち間違いではない気がする。


俺がフェンリルを目の前に考え込んでいると、さらにフェンリルは言葉を続ける。


「銀狼や他の狼など、我が一族から派生した劣化者にすぎん!神にも等しき存在である我と一緒にされるのは不快だ!」

「・・・じゃあなぜ、それほどのやつがこの場にいる!?」


俺はなんとか声を絞りだし、フェンリルに質問をぶつける。


「そ、それはだな・・・お前達に言う程の事ではない!」

「お前が俺達を殺すというのなら、その訳も知らずに殺されたら死んでも死にきれないだろう?」


俺が殺されるという言葉を使った事に、タマモとリーエは驚いた表情をしてこちらを見たのだが、俺の意図を察しすぐにフェンリルへと顔を向ける。


「む、確かにそれもそうだな・・・」


強大な魔力と存在感とは裏腹に、意外と話を聞いてくれるようだ。


「・・・あまり話したい事ではないのだが・・・仕方あるまい」


そして、ちゃんと訳を話してくれるみたいだな。


「我はここから遥か遠く、今は誰も近づかぬガルヴォーネ大渓谷 に住んでおる。我には食事の必要はないのだが、戯れとして食事を取る事もあるのだ」


・・・語り始めてしまった。


「その我が百数年食事をしていなかったのだが、いきなり目の前に美味そうな肉が現れてな、恥ずかしながら堪えきれずにそれを食してしまった・・・うむ、今思い出しても中々に美味かった」

「・・・・」


「おっと、話が反れてしまった。その肉には魔力封印の呪言玉が仕込まれていて、あまりに他の者と接してこなかったせいか、我とした事が警戒する事を忘れそれに気づかなんだ。そのせいで本来の半分も力が出せん」

「それと、ここを襲うのと、どう関係するんだ?」


「そう急くではない。その後に、呪言玉を仕込んだ奴が現れて、解呪して欲しいのなら力を貸せと言ってきおった。その場で奴を食い殺してもよかったのだが、そのままだと元の力に戻るまで数百年かかってしまうのでな、仕方なく付き合ってやっているのだ」

「その奴ってのは誰なんだ?」


「それは人間だという事しかわからん。だが、奴は人間にしては中々の強さを持っておったな。まあ、力を半分以上失ってしまっている我に満たぬ程度ではあるが」

「そうか・・・」


「奴は、我は保険だと言っていた。サラマンダーとヘルハウンドで十分だろうと。万が一の時は、ここにいる者共を皆殺しにしろとな」

「・・・なあ、サラマンダーとヘルハウンドは魔大陸に住んでいて、魔王の命令で動いていると聞いたが、魔王が関わっているのか?」


フェンリルは、奴とは人間だと言っていた。

であれば、その奴とは魔王本人ではないのだろうと考えていた。


「おお確かにそやつらは、あやつの言う事しか聞かぬはず。我もあやつが関わっておるのかと思っていたが、一向に姿を見せん。まあ、あやつがこんな事をしでかすとも思えんが」

「魔王とは顔見知りなのか?」


「あやつとは何度か喧嘩をした事がある間柄だ。互いに決着はついておらなんだ。まあ、どちらも殺す気でやっていたら、どうなったかはわからんが」


魔王とフェンリルの戦いなんて、その周りがどんな大惨事になるか予想もつかないし見たくもないな。

個人的には、戦いそのものには興味があるが。


意外とフェンリルは話好きなようで、長々と話をしてくれている。

誰も近づかない大渓谷に住んでいると言っていたから、もしかしたら話し相手が欲しかったのかもしれないな。


このまま戦わずに済まないかな、と考えていたのだが。


「さて、お喋りはこの辺りにしておこう。覚悟は出来ているか?」

「・・・見逃してくれるなんてことは出来ないのか?」


「それは出来ぬ相談だ。我も力を取り戻したいのでな」

「そっか・・・お前はいい奴そうだし、違う形で会っていれば仲良くなれたかもしれないのにな」


「ぬう、確かにそうかも知れぬな。しかしこれも定めだ」

「・・・」


やはり戦わないという選択肢はないようだな。


「タマモ、リーエ!」

「うん、やるよ!」

「ええ、私も微力ながら力になります」


俺とフェンリルが話している間、フェンリルの威圧に気おされていた二人が、俺の呼びかけに少し尻込みながら返事をした。


しかし、やる気になっている所悪いが・・・


「いや、お前達は結界内まで下がれ!そしてシュタイナー達を守ってやれ」

「え?どういうこと!?」

「キョウヤさん、貴方まさか・・・」


「ああ、フェンリルとは俺一人で戦う!」

「ちょっと、何バカな事いってんの!?」

「そうですよ!それにキョウヤさんは怪我しているじゃないですか!」


「俺があいつと戦いたくて仕方ないんだ。怪我も影響はないし、必ず倒して見せる!」


半分は本当で半分は嘘だ。


戦ってみたいのは確かだが、戦わなくて済むのならそれが一番だ。

フェンリルから放たれる気配からすると、正直倒せるとも言い切れない。

怪我の影響も完全にないわけではない。


しかし、それでも俺が一人でやるという本当の理由は・・・



「・・・わかりました」

「ちょっと、リーエ!いいの!?」


「ええ、その代わり・・・必ず倒して戻ってきてください!負けて死んだりなんかしたら、絶対に許しませんからね!」

「ああ、わかったよ!」


リーエは何かを察してくれたのか、俺が一人で戦う事を仕方が無く了承した。

タマモはまだ納得がいかなかった様だが、リーエに諭されて引き下がってくれた。


ホビット達も結界内に下がらせるように伝えたのだが、サラマンダーとの戦いが終わると結界内に戻ったようだ。

戦いが始まる前に、シュタイナー達に言われていたのだそうだ。


「クククッ。中々殊勝ではあるが、無謀が過ぎるのではないか?我は別に全員でかかって来てもよいのだぞ?」

「ああ、いいんだよ。せっかくだから戦いを楽しもうぜ!」


楽しい戦いにはならないだろうなと思いつつ、強がりを言ってのける。

そして、リーエ達に手で下がるように指示を出す。


「・・・どうか無茶だけはしないようお願いします。ご武運を・・」

「きょうや!絶対に負けたらダメだからね!」


リーエとタマモは、シュタイナー達と一緒に結界内へと戻っていった。


「キョウヤさん、私も力及ばず申し訳ございません・・・どうか御武運を」

「ああ、気にすんな。カリュアも結界内で皆を守ってやってくれ」


まだ残っていたカリュアも、俺に一言残し結界内へと戻っていった。


「さて始めようか!」

「どこからでもかかってくるがよい!」


俺は双剣を抜き、出来る限り最大の身体能力強化の魔法をかけた。

そして考える時間が命取りになると考え、魔法による思考加速を試みる。


すると、考えている間は世界が止まっているような感覚がある。

どうやら成功したようだ。


イメージとしては精神感応魔法で自分の脳に直接作用させる事で、意識だけを別にしたという感じだ。


これで1秒あれば、十分考える時間があることになる。



そして手始めに縮地を使い、一歩でフェンリルの頭の真下へと移動すると、さらに足に力を込め跳躍する。


狙うは首元。

フェンリルの首の横を目がけて跳躍した俺は、通り過ぎる瞬間に逆手に持った右手で一太刀入れる。


キイィン!


剣が弾かれた音が鳴り響く。


ちっ!


剣に魔力を這わせた所で、フェンリルの防御を突破するのは難しいか・・・


ヘルハウンド4体全てから、力を奪いつくしておくべきだった・・・

そうすれば、少しは違っていたかもしれない。


まあ、ない物ねだりをしていても無駄な事だ。


「ふははははっ!我の毛一本一本に魔力が(コモ)っておる。その魔力を超えない限りは、我にダメージを与えられないぞ!」


フェンリルはそう言いながら、空中にいる俺に向かって尻尾で攻撃をしてくる。


俺は双剣をクロスに構え尻尾をうけとめるが、押さえきれるわけもなく吹き飛ばされた。


「ぐはっ!」


そのまま背中から地面に叩きつけられた俺は、ダメージそのものはそんなになかったのだが衝撃により息が漏れる。


俺はすぐさま起き上がる。

そして剣を見ると、2本ともへし折られていた。


くそっ、また双剣をダメにしちまった!

武器も本格的に考えないとダメだな・・・


俺はストレージからダガーを出し腰に付ける。

俺が持っている武器の中だと、これが一番壊れない可能性が高い武器だ。


それでも、フェンリルの防御を突破できるかどうかはわからない。


そう考えた俺は、今度は魔法をぶつける事にした。

魔法の威力が少しでも高まればと、ストレージから杖も出しておく。


言い方は悪いが、ヘルハウンドのせいでこれだけ広くなったんだ。

遠慮無しにぶっ放させてもらおう。


俺は全力で火炎竜巻(フレイムトルネード)を放つ。

フェンリルは火炎竜巻に巻き込まれていく。


「ううむ、心地よい風ぞ!」


くそっ、大して効いてねえ!


俺は杖を向けると、さらに魔力を注いでいく。


魔力を注げば注ぐほど、竜巻のスピードと火炎の温度が上がる。


「むっ!ちょっと熱くなってきたぞ」


そう言ったフェンリルは思いっきり真上に飛び上がり、着地した瞬間に魔力を踏み潰して弾けさせたように魔力の波動を生み出し、火炎竜巻を弾き飛ばした。


その影響は、ものすごい魔力風となって飛んでくる。

俺は飛ばされないように杖を立て、なんとか踏みとどまった。


風が収まりフェンリルの姿を見ると、ほんとにちょこっとだけ焼けたような感じはあるが、ダメージはなさそうだ。


ったく、どんな魔力をしてやがる!


この感じなら放電球(ライトニングスフィア)は、何とかいけそうな気もするが、それでもまだ弱いだろう・・・



俺は杖を持ちながら集中し魔力を高め始める。


「むっ!」


フェンリルも俺の魔力が高まった事で少し警戒しているが、動く気配はない。


その間に俺は、半透明の黒い球体をフェンリルの周りを囲むように作り出す。

そしてコントロールするように杖を上に向けると、その球体はフェンリルを中に入れたまま空中へと浮かんでいく。


「喰らいやがれ!超重力結界グラビティ・フィールド!」


その名の通り、重力の発生する結界を作り出してフェンリルを閉じ込めた。

属性魔法のように、外側から攻撃する分は奴の毛に弾かれる可能性がある。


しかし重力となると、外側だけに作用するものではなく、中身に至るまで全てに作用してくる。

いくら外側からの攻撃に鉄壁でも、内側にまで作用する攻撃を防ぐ事は出来ないと考えたのだ。


俺はさらに魔力を注ぐと、結界内の重力がどんどん増していく。


「むう、これはいかん!」


俺の魔法に少し焦りを見せたフェンリルだった。


しかし・・・


ウォオオオオオオオ!!


バリン!


「なにっ!!」


フェンリルが途轍もない咆哮を放つと、超重力結界が弾ける様に破られた。


まさかそんな方法で破られると思っていなかった俺は、驚きを隠せないでいた。



「ふう、今のは中々危なかったぞ!驚いているようだが、我等が放つ咆哮には魔力が込められているのだ。それは遠くの者に自分の存在を知らせる事にも使え、攻撃として使用する場合もあり、今回の様に打ち破る為に使用する事も出来るのだ」

「わざわざご高説ありがとよ」


ありがたく思ってもいないが、皮肉を込めて言葉を告げた。


「さて、そろそろお主の攻撃は終わりか?では、そろそろ我も攻撃を始めようか」


フェンリルが様子見をしていた内に仕留められなかったのは痛い。

超重力結界で仕留めておきたかったというのが本音だ。


フェンリルが足に力を込めたのがわかった。


来るっ!


と思った瞬間には、フェンリルは俺の目の前から消えていた。


魔力感知や危険感知、さらには第6感まで最大限に高めて警戒をしていた為、後ろに回られた事がわかったまではよかったのだが・・・


「遅い!」


防御をしなければと後ろを振り返ろうとした瞬間、背中ものすごい衝撃が襲った。

フェンリルの前足で思いっきり吹っ飛ばされたようだ。


感覚が反応できても、体が奴の動きに追いつかない。

それほどフェンリルのスピードは段違いだった。


俺は吹っ飛ばされた勢いを殺す事も出来ずに、そのまま森の木に突っ込む。

その木はへし折られ、それでも勢いが落ちずさらに数本の木を折った所でようやく止まった。


「ぐふっ!ごほっ、ごほっ」


なんつー威力だ!

多重結界も多少しか役にたってねえ!


胸に感じるかなりの痛みを感じる上に、クヒュー、クヒューと変な息が漏れる。


くそっ!

まずいな、肋骨がいっちまった。


「どうした?よもや、これで終りとは言わないだろうな?」

「・・ぐふっ!勝手に・・終わらすんじゃ・・ねえよ!」


いつの間にか近くまで来ていたフェンリルに、俺は声を振り絞り強がる。


「くはははっ、その意気だ。このまま終わってしまっては興ざめだ」


俺は立ち上がり、とりあえず折れた肋骨に治癒魔法をかけて治す。

さすがに体全部を治す時間まではくれないだろう。


そしてダガーを引き抜き、魔力を纏わせ刀身を伸ばす。


「むっ、それは・・・」

「はあ、はあ・・・これを・・知っているのか?」


「いや、どこかで見たことがあるような気がしただけだ」

「・・・そうかい」


別に今はダガーの事などはどうでもよかったから、話を続ける気はなかった。


まだ、身体能力効果は切れていないな?


俺はそれを確認すると足に力を込め、フェンリルとの距離を一気に詰める。

跳躍する時間も惜しいため、足を目がけてダガーを振りぬく。


少しでもフェンリルのスピードを殺せればと思ったからだ。


しかし、当たる直前にフェンリルは消えた。

ただ、消えた後にはフェンリルの毛が数本、パラパラと落ちてきた。


「むっ、かわしきれなかったか」


どうやら、このダガーならフェンリルの防御を超えられるようだ。


フェンリルがどこにいるかなど、見なくてもわかる。

俺は反転して、真後ろにいるフェンリルに向かってさらに距離を詰める。


同じく足を狙うのだが、今度はダガーを振りぬく瞬間に魔力を流し込む。


フェンリルの姿は先程と同じように消えたのだが、先程と少し違うのはその場に血を残していった事だ。


しかし・・・


「おお、面白い手を使うな。多少斬られてしまったようだ」


くそっ!

この程度か!


先程俺はダガーに魔力を流し込んだ事で、伸ばした刀身をさらに伸ばしたのだ。

さすがにフェンリルに同じ手は通用しないだろうから、今のでもっと深手を負わせたかったのだが・・・


フェンリルにつける事が出来た傷は、多少の切り傷程度だった。


「お主と戦うのも面白いが、そろそろ終りにしようぞ」


そう言ってフェンリルは、俺に向かってくる。


そして前足で普通に蹴られた。

来る事がわかっていても、避けられない程のスピードで・・・


俺はまた吹っ飛ばされ、木々をなぎ倒しながら打ちつけられる。


「ぐはっ!」


威力が落ち木にぶつかって仰向けに落ちた俺に、フェンリルが前足で押さえつけてきた。


「本当ならもう少し戦いたかったのだがな」

「ごほっ・・・なあ・・・俺を殺した後・・・あいつらを・・・見逃してやっては・・・くれないか?」


「それは出来ぬ相談だ!」

「・・・だよな」


俺は無理を承知で聞いてみたのだが、思っていた通りの答えを返してきた。

そして深く目を閉じ、深呼吸をする。



だったら・・・


だったら俺は・・・


お前 は、こんな所で寝ている場合じゃねえだろうが!!


おねんねしていて誰かを守れるのか!?


否!


お前が途中で放棄した事を、あいつらに背負わせるのか!?


否!


他の誰でもない!


お前がやれ!お前がやるんだ!!



俺は一瞬でも弱気になった事を恥じ、自分自身を奮い立たせた。


すると、痛みを全く感じなくなり、力が溢れ出してくる。


どうやら『揺ぎ無い意志』と『修羅』の効果が出たようだ。

もちろん意識したつもりはない。


ただ、今の状況には都合がいい!


しかしそれでも心元無い。


俺は意識して、修羅の効果である一時的な力の解放を、一時的ではなく1分にする事で力を収束させようとした。


集中していると、段々と体からフワッと力があふれ出ているような感じがしていたものが、ギュッとしまってくるような感覚に変わった。


すると、収束する前よりも遥かに力が沸いて来ることがわかった。



俺は押さえつけられていたフェンリルの足を手で押し返し、そのまま立ち上がる。


「お?まだそんな力が残っておったのだな?」


そして俺はその足を掴んだまま、思いっきり一本背負いの容量で投げ飛ばす。


「うおっ!」


フェンリルも耐え切れずに空中へと投げ出される。

俺はそれの後を追い、空中へと跳躍する。


そして・・・


「おらああああ!!」


渾身の力を込めて、思いっきり殴りつけた。

それをまともに喰らったフェンリルは、殴られた勢いで吹っ飛んでいった。


「はあ、はあ・・・」


これでダメなら・・・


さすがにこれ以上はきついな・・・


着地した俺はフェンリルが吹っ飛んでいった方へ走っていき、倒れているフェンリルを見ていた。


するとフェンリルは、何事も無かったように起き上がった。



くっ、やはり無理なのか・・・


時間は残り少しだけある・・・


そう考え、拳を力強く握った時。


「くっ、くくくっ・・・あーはっはっは!」


フェンリルがいきなり大声で笑い出した。


「まさか、我を殴り飛ばした奴など、我の記憶にはない!それがどうだ!たかが人間に素手で殴り飛ばされるとは思わなかったぞ!」

「・・・」


「お主は中々面白い!我はお主を気に入ったぞ!」

「そりゃどうも・・・」


「ふむ・・・奴のいう事を聞いて力を取り戻すよりも、お主と一緒にいた方が楽しめそうだな」

「・・・はあっ?」


「お主は、契約の儀というものを使えるか?」


なんかフェンリルは、一人で勝手に話を進めていってるぞ?


「いや、使えないが・・・」

「そうか、なら我が我流でやるとするか」


「ちょ、ちょっと待てよ!何がどうなってる?」

「いや、今説明したではないか。我はお主と一緒に行くと」


「いや、それは聞いたが、その意味もわからない上、俺と契約ってなんだ!?」

「むっ、理解力が足りないようだな」


いやいや、理解力とかそういう問題じゃないだろ!


「さっき言った通り、一緒に行くのは楽しそうだというのが一番の理由だな。長い年月生きておるが故、退屈していたのも事実なのだ」

「・・・そっか」


「それにお主を見ていると、遥か昔に使えていた(アルジ)を思い出してな。ああ、その主は人間ではないがな」


・・・その主って、まさかオーディンとか言わない・・・よな?


「まあ、そんな事はいいが・・さて、そこの木がちょうどいいな。そこに昇ってくれ」


俺は言われるがまま、ちょうどフェンリルの頭くらいの高さの木の上に立った。


「では我の額に、お主の額を合わせるがよい」

「ああ」


「おお、そうだ。お主の名前を聞いておらなんだ」

「俺はキョウヤだ」


「うぬ、キョウヤだな。では始めるぞ」


そう言ってフェンリルは目をつぶった。


「我フェンリルと汝キョウヤの盟約に従い、我フェンリルと汝キョウヤの契約をここに交わす」


フェンリルが言葉を告げると、お互いに合わせている額の部分が暖かくなった。

そしてその暖かさがなくなると、フェンリルは「もういいぞ」と言った。


「これで契約が終わったのか?つーか盟約ってなんだ!?契約を交わす意味もあったのか!?」

「ぬっ、質問が多すぎるぞ」


「当たり前だ!お前は自分の中で完結しているのかもしれないが、こちとら何も説明されてないんだからな!」

「それもそうか・・・盟約とは約束事の事だな」


「・・・そういう事を聞いているわけではないんだが・・・その約束事は何かあるのか?」

「特別大したことはない」


「そうか・・・それはよか・・」

「お互いを殺す事は出来ないとか、魔力の供給が出来るとか、片方が死ねばもう片方が死ぬとか、その程度だ」


「ちょっと待て!最後のは何だ!大したことじゃねえか!」

「ぬっ、そうか?我は死なないし、キョウヤもそれだけの力があれば早々死ぬ事はないだろう?」


「そうかもしれないが・・寿命は確実に俺のほうが先なんだぞ?」

「病気や寿命の時には魔力が弱くなる為、自然に契約解除されるからその心配はない」


「・・・まあ、いいか」

「それと契約した事についてだが、お主と契約する事で魔力回廊が繋がり、先程言ったように魔力の供給が出来るし、いつでも互いのいる場所へと転移出来るようになる。基本的に我はお主についていくが、面白そうな事があった時、いつでも呼んでもらえるからな」


「・・・はあ、わかったよ」


なんかフェンリルの中では、全てが完結し決定事項らしいので、これ以上何か言っても無駄だろうと諦めて受け入れる事にした。




読んで頂きありがとうございます。


前からフェンリルは考えていたのですが

どこで登場させるかははっきりとはしてませんでした。

今回入れることに決めた為に、説明を入れないといけず

少し長めになってしまいました。


フェンリルとの戦いの場面はもっと長く書きたかったのですが

大分簡略化させております。


説明不足や変な所があったらごめんなさい。



※フェンリル生息地のカルヴォーネ大渓谷

参考:ガヴァルニー圏谷

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