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第2話 こんにちは異世界

響也は深い深い闇の漂っているような感覚の中、徐々に意識を取り戻していた。


何も見えない…

何も聞こえない…

どうなってしまったんだ、俺は…


響也とっては永遠とも一瞬とも言える様な時間であった。


するとそこに


-あなたは何を望みますか?-


あ?何かきこえたか?


-あなたは何の能力を望んで世界を渡りますか?-


響也の頭の中に響く声

あ?能力?世界を渡る?何の事だ?

急に言われてもなぁ…

まあそうだな…


響也は今までの事、特に仲の良かった4人の事を思い出しながら


俺は今まであいつらに助けられてきた…

今度は俺が…

助ける為の力を…

守る為の力を俺に!


-確認しました。***の称号と***の能力を付与しました-


 …

…あ?ノイズみたいになって聞こえなかったぞ?


-世界を渡るにあたって魔眼をさずけました。これはイレギュラーな存在であるあなたへのサービスです-


 サービスって…販売じゃあるまいし…

 …

…イレギュラー?


-以上で能力付与終了いたします-


 おいおい、なんだったんだ…?


と思った瞬間に、また目の前が光で真っ白になった。




意識がはっきりしてきてゆっくりと目を開けた。


天上が見えた…

コンクリートをペンキで白く塗ってあるような感じだ。


そのまま周りを見渡す。

響也と同じように横たわり、響也と同じく目を覚ました4人がいる。


「う・・・ここは・・?」

最初に声を上げたのは、上杉光輝である。


「私達・・確か教室にいたよね・・・?」

沢渡葵がそう漏らす。


「今からどこに行こうかって話をしていて・・・」

宮元将明が続いて声をだす。


「・・・・」

状況が理解できず何も言葉にできない今西弥生。


4人とも響也のクラスメイトである。

しかし、響也とはあまり話をした事がなかった。



そんな4人を尻目に響也は特に何も言わず冷静に観察をする。


部屋は窓がなく白を基調とした部屋であり、様々な道具が置かれ何かの儀式を行う為に使う部屋のようだ。

響也を含む5人は濃紺の絨毯に白で描かれた魔法人らしきものの中心にいた。


それを囲むようにフードをかぶった5人の怪しげな人物が感極まった表情でいた。


他に4人ほど、こちらも喜びにあふれた表情でこちらを見ている。


見るからに高級そうな衣装に身を包んだ髭を生やした貫禄のある男性、純白のドレスをきてディアラをつけた少女、その横には騎士のような格好をした二人が守るように立っている。


見たこともない部屋、見たこともないような格好の人間、そして魔方陣の中心にいる・・・


 ここは・・・もしかして異世界なのか?


明らかに今までの現実とかけ離れた様相であり、異世界かも知れないという現状に対して顔にこそ出さないが響也の心は躍った。


響也は熱烈なゲーマーやオタクと呼ばれるほど漫画や小説にはまっていたわけではないが、一人の時間を潰す為に様々なジャンルに手を出していて、異世界に行けたらと少なからず考えていた事もあった。


響也以外の4人は未だに現状が理解できずにうろたえていたが茜が響也に気づき


「・・あれ?星野くん・・?」


と声をかけたところに、貫禄のある男性が声をかけてきた。


「異世界の者達よ、我らが呼びかけに応えここブリューエンガルドのイシュタール王国へようこそおいでいただいた。まずは場所を移して話すとしよう」


そう言われ部屋を後にしようとする。


 やはりここは異世界なのか!

 このえらそうにしている男が王様のようだな。

 突っ込んで聞きたいこともあるが、とりあえず今は我慢して現状把握することにしよう。


響也はそう考えてついていくことにする。


他の4人は何がなんだかわからずうろたえながら、言われたまま後に続く。


部屋を出ると漫画などに出てくるような欧州風のお城の廊下に出た。

廊下には明らかに高級であろう装飾品が一定感覚にいくつも置かれていた。


しばらく進み頑丈そうな大きな扉の前に着くと、扉の前の騎士二人により扉が開かれる。

中に入るとレッドカーペットが一直線に敷かれている。


その先には5段くらいの階段があり、その上に王座がある。


カーペットの両サイドにはメイド服の女性が頭を下げており、階段手前には執事のような渋めの男性が頭を下げている。


壁の近くには騎士と思われる人達、十数人がこちらを窺っていた。


先ほど響也達を促した男性は王座に座った。


王座から向かって左側には先ほどの部屋にいた女性が、右側には30代後半の女性、さらにその両サイドには先ほどの部屋にいた騎士が並ぶ。


響也たち5人は階段の少し手前で並ばされた。


「改めて挨拶をするとしよう。私がイシュタール王国国王ミリアム・イシュタールである。こちらが(国王が左を指し)我が后マールである。そしてこちらが(国王が右を指し)我が娘アンジェである」


国王の紹介により二人が頭を下げる。


「さて、いきなりの事に戸惑っている事だろうと思う。結論からいうと、そなた達は勇者として召喚された」


響也以外の4人は勇者と言われ困惑していた。響也は顔色を変えずただ黙って聞いていた。


「詳しい事を申すと、そなた達の世界の事はよくわからぬが、このブリューエンガルドは多種多様な種族が存在する。その中で人間・魔族・精霊族・獣人族の争いが絶えないのだ。他にも種族はいるが、それらは表立っては対立しておらん。そして今、魔族が人間を滅ぼそうとしているのだ。しかし人間では魔族に対抗できるのは数えるほどしかいないのだ。古来より伝わる文献に、異世界から召喚した勇者には人外な力を持って現れるとされておる。召喚には多大な危険が付きまとう。今までも何度も失敗し命を落としたものもおる。しかし今回、ようやく成功しそなた達を召喚する事ができた。その勇者の力で我ら人間に勝利を導いてほしいのだ。このままでは人間がほろんでしまう。そなた達の力が頼りなのだ」


響也は常に冷静に聞き、話を分析していた。

響也は異世界には興味はあったものの、勇者にはなりたいとは思ってなかった。


「あの・・・、いきなりすぎて戸惑っているんですが、とりあえず元の世界には戻れるんですか?」


もっともな質問をしたのは竹中光輝である。


「うむ、当然の質問よな。元の世界に戻す方法はあるのだが、今はできん。しかし、心配しないで欲しい。魔族の王を倒す事により、その強打な魔力で帰還するための魔方陣ができるとされているからだ」


「急に私達がいなくなって、家族や友人が心配なんですけど・・・連絡とかは・・・?」

続いて質問したのは沢渡茜だ。


「それも心配はいらん。そなた達が召喚されたとき、世界の強制力によりそちらの世界ではそなた達が居なかったものとされる」

「え・・?そんな・・・」


今西弥生がかすかに声を漏らした。


「じゃあ、俺達が魔王を倒せば元の世界にもどれるんですね?」


光輝が聞く。


「うむ、そうだな」

「じゃあ、俺はやります」

「うん・・そうだね。」

「やるしかないか・・」

「・・・それしかないですね」

「・・・・」


光輝に続き、茜、将明、弥生がうなずく。


響也は何も言わない。


響也は魔眼を持っているのだが、その特性にはまだ気づいてはいない。

しかし、元から観察眼にはすぐれていることがあり、今の話で本当の中に紛れ込ませた嘘に気づいていたからだ。


「ところでお父様?召喚される勇者様は4人ではなかったのですか?今5人いらっしゃいますが・・」

アンジュ姫がミリアム王に尋ねた。


「う、うむ。確かにそうだな。・・・では、先にこちらのカードを手渡そう。このカードは魔力を込めたものであり、そのものの魔力を込める為に本人以外には使用できない身分証明書となる。そこには名前や称号などが浮かび上がるようになっておる」


5人はカードを受け取った。葉書より一回り小さいくらいのサイズである。


「そのカードを持って、意識をカードに集中するようにしてみてくれ」


5人は言われたとおりにした。

するとカードにふわっと文字が浮かんできた。

日本語とは違うようだが、なぜだか読める。


「できたようだな。ではその称号欄を確認してみてくれ」

「・・・勇者になってる」

「・・聖女って・・」

「剣聖だってさ・・」

「・・・大魔道士・・・?」


光輝、茜、将明、弥生が驚きの声をあげる。


それを聞きミリアム王をはじめ、他の者も感嘆の声をあげる


「おぬしはどうなのだ?」


今まで何も口に出さなかった響也にミリアム王が尋ねる。


「俺は何もかかれてないな。しいて言えば、伏字(***)になっているな」


「なに!?ばかな・・・!そんなのは聞いた事ないぞ?」


ミリアム王やアンジュ姫、その他のこの場に居た皆が驚きを隠せないでいる。


「聞いた事があろうがなかろうが、そうなっているのが現状だ」


しかし響也は冷静に応える。


「貴様!ミリアム王に対してなんだその言い方は!」


ミリアム王のそばに居た騎士が声を荒げる。


「よい、控えよ」

「しかし・・・!」

「よいと言っておるのだ!」


王は真顔になり響也に問いかける。


「そなたは勇者として召喚されたのではないようだな・・・」

「そのようだな」


「何かの間違いで召喚に巻き込んでしまい申し訳ない…。しかし、そなたはこれからどうしたい?」

「・・・・その前に質問いいか?」


先ほどのミリアム王とクラスメイトの話を何も言わず冷静に聞いていた響也が問いただすべく聞いた。


「ああ、よかろう」

「そもそもこちらで言う、勇者とはなんなんだ?召喚されれば勇者なのか?勇者とは結果を残した事で認められる存在ではないのか?」


「あ・・・ああ・・・しかし・・・」

「あと、さっき元の世界に戻れると言っていたが、それは確かではないな?」


「いや、そんなことは・・・」

「魔王を倒したら戻れるのではなく魔王ほどの強大な魔力を持つものであれば、元の世界に帰る手段があるかもしれないということだろう?」


 そもそも元の世界に戻れたところで、同じ時代・同じ場所に戻れるかどうかも怪しいがな・・・

 座標軸を固定できるような魔法があればできなくはないのか?


「あ・・・ああ、そうだ・・・」

「元の世界の強制力というのは完全に嘘だろう。あんた達が俺達の世界に行ったことないのに、そんな事がわかるはずがない」


 それに、過去に同年代の人が神隠しにあったという話題があった・・・

 もしかしたらきっとそれも・・・


「き、貴様!さっきから王に対するその態度はなんだ!」


先ほどから響也の態度にいらだっていた騎士が怒鳴った。


「悪いが俺には王だ何だとか関係ない。それに元々こういう話し方だしな」

「貴様!」


「じゃあ聞くが、あんたはいきなりどこかに飛ばされて、目の前の人が王ですと言われて敬う事できるのか?」

「ぐっ、言わせておけば!」



「ああ、それと勘違いはしないで欲しいが、別に俺はこの世界に召喚された事・嘘つかれた事に怒っているわけではない。本当の事を話さなかった事で信用はできないということだ」


「・・・その点については、申し訳ない。しかし、召喚された人外なる力を手に入れたそなた達の力を貸して欲しいというのは本当なのだ!このままでは人類存亡すら危ぶまれるのだ!」


響也の言葉に王は素直に謝罪する。


 さっきと同じく、今言っている事も嘘が混じっているな。まあそこは俺には関係ない。


「俺はあんた達の言う勇者とやらではないが、その俺にまで戦えとはいわないよな?」

「う、うむ・・・」


そのやり取りを聞いていた光輝が響也の胸倉をつかんだ。


「星野!この国の王様がああやって頭を下げてくれているのに、助けてやろうという気持ちはないのか!?」


光輝は正義感が強かった。そのため響也の王に対する言動が気に入らなかった。

響也は胸倉をつかまれた手を払って


「さっきも言ったが、俺には王だとか関係ない。何も知らないのに彼らの言葉を鵜呑みにして肩入れする気もない」

「このっ!」

「ちょ、ちょっと光輝君!無理強いはよくないよ!」


光輝を止めたのは葵であった。葵は王の言い分も響也の言い分も理解できていた。


「しかし!」

「・・・うん、無理強いはよくない・・・と思う・・・」


弥生も賛同した。


「別にお前達が力を貸す事に何も言うつもりはない。だが、俺の事にも口を出してもらいたくはない」

「・・・わかった、好きにしろ!」


光輝は投げやりに応えた。


「俺は俺の好きなようにやる。俺は自分の目で世界を見て回り、どうするかは自分で決めるが構わないよな?」


響也は王に向かってそう言い放つ。


「あ、ああ。わかった。」


王の返事を聞き、響也は背を向け出て行こうとした。

しかし、その前を遮るものが居た。


「まて!王に対する数々の無礼をこのまま許すわけにはいかん!」


響也の言動にいらついていた騎士の一人が剣を向けていた。


「おいおい勝手によんでおいて、挙句の仕打ちがこれか?」


響也はぼそっとつぶやいた。


「よせ!」


王は言ったが騎士は聞かない。


「ミリアム王は黙っていてください!無礼は正さねばなるまい!」

「よせと言っているのだ!」

「いや、構わないさ」


そう応えたのは響也だった。


王だけじゃなく、剣を向けた騎士も驚いた表情になった。

騎士も本気で剣を向けたわけじゃなく、軽く脅すことで改めさせようと考えていたからだ。


「しかし丸腰の相手に剣を向けるのが、あんたの騎士道なんだな?」


にやりと笑い響也が言う。


「誰かこいつに武器を渡してやれ!」

「いや、武器はいらない、素手で結構」

「こ、このっ!どこまでバカにしてやがる!」


響也は騎士に対して、若干左足を前に出して相対する。


響也は負ける気がしなかった。


元々空手や剣道等の格闘技をしていた事もあることに加え、数々の喧嘩や190cmくらいの相手に喧嘩した中で一度も負けたことが無かった。


それと何か根拠のない自信があふれていて試したくなったのだ。



騎士が距離をつめ、剣を振りかぶってきた。

響也は動じる事はなく、その振りかぶった瞬間に足に力をこめ一瞬で間合いをつめた。


騎士の懐に入り体を騎士に押し付けるようにしたのと同時に、右手を騎士の腹の辺りの鎧に軽くそえ、そこから全身のばねを使い一気に右手を押し出した。


その力は鎧を伝い、体の内部に衝撃を伝える。

その衝撃を受けた騎士は反動で後ろに2mほど吹っ飛んで倒れた。


倒れた騎士は衝撃による内部のダメージと、現状を理解する事ができず動く事ができなかった。


その光景を見ていた、この場に居た全員も何がおきたかわからずに驚愕していた。



 勇者として召喚されていなくても、身体能力が向上されているようだな。



響也は感覚を確かめ、満足していた。


そして騎士を挑発し冷静さを失わせたことも、響也の思惑通りであった。


少しして自分の現状を理解した騎士が、怒りに震えながら起き上がった。


「貴様!」

「やめええい!」


それを声で制止したのは、騎士団長らしき人物であった。


「いい加減にしろ!王の御前だぞ!騎士らしく潔く負けを認めろ!これ以上無様な姿を見せるな!」


そう一喝され、冷静をとりもどした騎士は、申し訳なさそうに王に一礼をしてさがった。


「すまなかったな。我らは皆、王に忠誠を誓った身。彼も忠誠心が故にとった行動なのだ。許して欲しい」


響也に対して団長は素直に謝った。


「いや、気にしなくていい」


誰に対しても響也は響也らしく応える。


「別に俺に対してはどうでもいいが、そいつらにも同じような対応はしないだろうな?もちろん勇者として召喚したからには、ちゃんと優遇してやるんだろうな?」


響也は王に対して無礼な対応・質問を目的は、もちろん自分の疑問をぶつける事がメインだったのだが、クラスメイトである彼らに王の味方をさせる事で安全の確保と信用・信頼をさせることにあった。


響也は日本に居たときも、自分を犠牲にして周りを助ける事をしてきた。


もちろん意図してやっていることもあるが、意図せず結果として助ける事に繋がっている事もあった。

それを知っている人間は少ない。


しかし響也はそれを気にする事はなかった。


「もちろん、そうさせてもらう、そこは安心して欲しい」


そう応えたのは王である。


「そっか」


響也はそっけなく応え王間を出ようとする。


「待つのだ。身勝手ながらこちらに召喚してしまったことと、騎士の無礼の謝罪として当面の生活費としてこちらを渡しておこう」


王はそういって袋に入ったお金をメイドに持たせ響也に渡した。


「借りを作りたくはないが・・・今回はありがたくいただいておく」


そういいながら去ろうとする響也に


「すまなかったな・・・」

「すみませんでした・・・」


王と姫のボソッとつぶやいた声がきこえた。


「気にするな」


響也は振り返らずそう応えた。




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