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第22話 ニウギス大森林

遅くなりました。



「森へ入る前に、この辺で夜を明かそう」


あれから俺達はヒューベルの街で食料を買い、折れてしまった剣と双剣を新しく買い直した。

初心者用の剣よりはましな物だけど、クラウン級の敵と戦えばすぐに折れてしまうだろうとは思ったが、ないよりはましという事で手に入れておいたのだ。


その後はリーエに案内されながら、聖域の森へ向けてヒューベルより北西に向かって走り続けていた。


途中、国境を越えなければならなかったのだが、その時に活躍したのが王の渡してくれたカード。

それを見た衛兵は、これでもかというくらい背筋を伸ばして敬礼をし、すんなり通してくれた。


そして今は夜になり辺りも暗くなったので、ニウギス大森林に入る前に野宿をする事にした。

俺達3人とも夜だからと言って遅れをとるような事はないのだが、夜は魔物が活性化するのと俺はまだ本調子には程遠いので無理はしないということになった。


とりあえず野営の準備をして食事をとりながら、俺はリーエに確認の為に質問する。


「なあリーエ、王の前では聞けなかったが、禁術の事を知っているかもしれないっていうのは、リーエ以外のハーフエルフの事なのか?」

「ええ、そうですよ。他のハーフエルフというよりは、ハーフエルフ・管理者の長の事ですけどね」


「やはりそうなのか・・・リーエは禁術の事はわからないのか?」

「・・・そうですね、禁術はその名の通り禁止されている魔法であり、誰でも扱っていいものではありません。限られた者しか知ることが許されないのです。私達ハーフエルフとは言えども、長にしか知る権利はないんです」


「そうか・・・その長であれば禁術のことがわかるんだな?」

「はい、おそらくは・・・それに長は私以上に長き時を生きていますから」


リーエに長が知っているかどうかを聞いても、禁術を知ることを許されないリーエがわかるわけがないかと思いつつも聞かずにはいられなかった。


だが、現状ではユーリにかかった禁術を知っているかどうかは別として、禁術そのものを知っていて長き時を生きている長なら何かしらわかるはずだ。

それにしてもリーエより長き時って、どのくらいなんだろうな・・・


あとの問題は・・・



「あとこれが一番の問題だと思うが、俺達は聖域の森に入る事はできるのか?」

「おそらく私と一緒にいれば入る事は出来ると思います」


「しかしリーエは絶縁してまで森を離れたのだろう?」

「・・・キョウヤさんが懸念している通り、そこが一番の問題なんです・・・聖域の森に入る事そのものは問題ないと思いますが、受け入れてくれるかは別ですね・・・」


「聖域の森を守る者から、攻撃をされる可能性もあるということだな?」

「・・・そうです・・・それに人間や他の種族が聖域の森に入る事も禁忌とされていますから」


「まあ聖域の森の中に入る事が出来れば、後は何とかなるだろう」

「・・・もしかして彼らと一戦交えるつもりですか!?」


「ははっ、バカだなぁ。リーエやユーリが守ろうとしているものを、俺が壊してどうするよ」

「・・そ、そうですよね!よかった・・・では、どうするんですか?」


「まあ、そこら辺はどうにかするさ。お前らの安全も俺が必ず保障するし、一切手出しはするなよ?」


俺が確認をするとリーエはもちろん、食事を食べ終わって狐の姿に戻り俺の膝で丸くなっていたタマモも俺の顔を見ながら頷いた。


「ところで、会いに行こうとしている長は聖樹の頂上にいるのか?」

「はい。といっても正確には違いますけどね」


「どういうことだ?」

「私達ハーフエルフは聖樹の頂上付近に、この空間とは別の空間 を繋いだ場所に住んでいます」

(あ~、確かにあの人達なら空間魔法を使う事が出来るもんね~)


ガブリエルはハーフエルフを知っているようで口を挟んできた。


「ガブリエルは彼らを知っているのか?別の空間という事は、この世界には存在しないという事か?」

(うん、直接会った事はないけどね~。リーエが言っている空間は、私達が住んでいる空間に近いものかな~?キョウヤの言うところで言う虚空間、言わば宇宙空間に近いと言えばわかるかな~?)


「へえ、なるほどな。しかし、別の空間に繋ぐ事なんて出来るのか?」

(うん、空間魔法を使う事が出来る人はほとんどいない上、使えたとしても空間を繋ぐ事が出来るとは限らないけどね~)


「それだけ魔法に長けているという事か・・」

「ええ、魔力量も半端ではないですしね。ただガブリエルさんが言っていたように空間を繋ぐ事は、いくらハーフエルフと言えども一人で行なう事はできず、数人がかりでようやく繋いだようです」


「リーエはその魔法を使った所を見ていないのか?」

「はい、私がハーフエルフになった頃にはすでに繋がれていましたから。そしてこの指輪を持つ者にしか、そこを通る事が出来ません」


そういってリーエは指輪を見せてくれた。


「森を出る時に取られなかったんだな?」

「本当なら返さないといけないのでしょうけど、私は無理矢理出てきたので返す暇もありませんでした・・」



リーエがその時の事を思い出したのか、少し俯いて暗い顔をしたのだが、頭をポンポンと撫でて励ましてやった。

リーエが指輪を返さなかったおかげで、今回はなんとかなりそうだったのだから。


とりあえず直面する問題は、リーエがいるとはいえ聖域の森に入れるかどうか、そして聖樹にたどり着けるかどうか、そしてそこから頂上までいけるかどうかだな。


それさえ何とかなれば、後はたどり着いてから何とかすればいいだろう。


一通り話し終えて俺達は寝る準備を始めた。


寝るときリーエが交代で見張りを立てたほうがいいのでは?と言って来たが、俺には寝ていても探知出来るし、最悪ガブリエルが教えてくれるからと、気にせずに寝る事にした。

タマモは狐の姿のまま俺に寄り添って寝ていた。




翌朝、日の出前には目が覚めた。

俺が起きた事で、その気配を感じたリーエも起きたようだ。

タマモは相変わらず寝ている中、ガブリエルは俺達が寝ている間は特に何も無かったと教えてくれる。


とりあえず野営道具を片付けて出発の準備を終えたのだが、まだタマモは寝ていた。


「おい、タマモ。そろそろ行くから起きろ」

「・・・ほぇ~?・・・えへへ~、きょうや~」

「~~タマモさん!!」


起こしたタマモは、目が覚めて直ぐに人化したのだが、寝ぼけ眼を手で擦りながら俺に抱きついてきた。

リーエはその光景を見て、いつもの如く慌ててタマモを引き剥がしにかかる。


「寝ぼけんな!置いていくぞ!」

「!!ちょ、ちょっと待ってよ~!」

「狐の姿の時ならまだしも、本当に油断も隙もあったもんじゃないですね!」


なんかいつもの光景だな、と少しだけ嬉しくも感じたが、そんな場合ではないと気を引き締める。


俺が歩き出すと、慌てて二人が後をついてきた。

ちゃんと全員がついてきていることを確認してから走り出した。


森に入り中々スピードを上げることが出来ないが、このペースで行けば聖域の森までは2時間程で着きそうだとリーエが教えてくれた。


途中に魔物に出くわしたりもしたのだが、急いでいる事もありそれらはほとんど無視して進んだ。


それに急いでいるという理由だけではなく、森に入ってから何か違和感がありリーエに聞いた所、ニウギス大森林は管理者の監視対象であるそうだ。

そのため下手に攻撃をすると、攻撃対象と捉えられてしまう可能性があると聞かされた事も要因の一つである。


攻撃さえしなければ、結界に近づいても妨害魔法を仕掛けてくる程度との事。


しかしそれもリーエが居るおかげで無効化する事が出来るため順調に進んでいる。

無視をしても中には追いかけてくる魔物もいたのだが、俺達のスピードに追いつけるはずもなく途中で諦めたようだ。


森に入ってから1時間ほど経ち、あと半分くらいまで差し掛かった頃、今度はさらに強い違和感を受けた。


ここからは聖域の森に住む者の監視対象となるせいだとリーエは教えてくれた。

確かに近づけば近づくほど、俺達に対しての敵意が強く感じてくる。


中々厳重なんだなと思ったが、確かに聖域の森に入ってきてから警戒するのでは万が一に対応は出来ないか、と納得した。


そして聖域の森の結界まであと30分という所で、俺だけでなくリーエにとっても思いもよらない出来事が起こった。


俺達の目の前が急に光りだしたと思ったら、一人の美しい女性が目の前に現れた。

ただ普通と違うのは、浮いている上に体が半透明だったという事だ。


「!!・・・強大な魔力の中に懐かしい魔力を感じたと思いましたら、リューンエルス様だったのですか」

「クラネイア・・・」


クラネイアと呼ばれた女性は樹精霊(ドリュアス)らしく、リーエの知り合いだったようだが、なぜかリーエはショックを受けた様子だった。

どうやら、彼女がこんな場所に現れるということがありえない事だったらしい。


「聖域の森の監視者の一人である貴方がなぜこんな所にいるのですか!?」

「それはもちろん、森の秩序を守るためです」


「・・・私達を排除しに来たと・・・?」

「そうです。これほど巨大な魔力が3つも聖域の森に近づいているのです。危険を感じないわけがないでしょう」


「確かにそうかもしれませんが・・・それにしたって警告も何も無しに、しかもクラネイア、貴方が出てくるなんて!」

「警告をしても引き返すとは思えませんでした。それに彼らでは、貴女方に太刀打ちは出来ないでしょう。もっとも戦闘となれば、私でもただでは済みそうにありませんが」


クラネイアが言う彼らとは、聖域の森を守る番人の事、言わば真っ先に出て来るはずの小人族や樹人種の事だと、後にリーエから聞かされた。


「聞いてクラネイア!私達には戦闘の意志はありません。長に会わせて欲しいだけです!」

「森を捨て、出て行った貴女にその資格があるとでも?」


「――!!私は森を捨てた訳では!・・・いえ、貴女達にとっては私が何を言っても同じことなのでしょうね・・・」

「ええ、お分かりいただけたのでしたら、ここから即刻にお立ち去りください」


「それでも私達は長に合わせていただく為に、ここを立ち去るわけにはいきません!」

「それならば、力ずくで排除させていただきますよ?」


タマモがいきり立って出て行こうとするのを俺は止め、頭を撫でておとなしくさせておいた。

そして成り行きを見守る事にしていた。

すると・・・


(固い~!固いよ~、クラネイア~!)


それまで物陰に隠れていたガブリエルが、いつもの場の空気を読まない調子で声を上げた。


「――!!貴女はまさか!」

(そうです~、私がガブリエルです~!)


あまりのお調子ぶりで、少しだけ殴りたくなったが我慢してガブリエルに任せた。

ガブリエルがさっきまで隠れていたのは、聖域の森には精霊種や精神生命体に近い種族が居る為、ガブリエルの姿が見える人が多いとの理由だ。


「なぜ!なぜ貴女までいるのですか!?」

(なぜって~?それはここにいるキョウヤについてきているからだよ~)


ガブリエルはフワリと俺の側まで寄ってきて、俺を包み込むようにくっついてくる。

まあ直接触れる事はできないのだから、そうしているように見えるだけだが。

タマモは言葉で相手に勝つ事は出来ないので大人しくしており、リーエもガブリエルが口を挟んでからは黙って聞いている。


「たかが人間一人に貴女ほどの方が・・・」

(たかがとか言わないの~。それよりも~、クラネイア達は何をそんなにこだわっているのさ~?)


「こだわっているのではなく、これは掟です。他の種族や禁忌を犯した者の侵入を許すわけにはいきません」

(それが固いって言うの~!何の為にそんな掟があるか本当にわかってる~?)


「それはもちろんです。森の平和と秩序を守るためです」

(じゃあ何で、キョウヤ達を攻撃しようとするの~?)


「禅問答ですか?秩序を守るためだと言ったでしょう」

(それで本当に平和と秩序が守れると思ってるの~?)


「・・・どういうことですか?」

(この3人には貴方たちと戦う意志はないよ~。それなのに、もし貴方たちが無抵抗の彼らを攻撃して取り返しのつかない傷を負わせたり~、もしくは死なせてしまった場合、残った人が貴女達に恨みを持つとは考えないの~?)


「・・・その時は私の命を懸けてでも、彼らを排除します」

(はっきり言っておくけど、この3人は貴方たちよりも強いんだよ~?その彼らが本気を出したら、貴女が命を懸けた所で止められないよ~?)


「なおさらそんな人達を聖域へと入れるわけにはいきません!ここでなんとしてでも食い止めます!」

(・・・まあ、今のは可能性の話。私が言いたいのは~、例えば貴方達が束になっても適わない人が友好の為に訪れたとして、その人に攻撃をする事で聖域が危機に陥るかもしれないんだよ~?自分達の首を絞めてどうするの~?っていうことだよ~)


クラネイアはどうやらかなりお固く、人の意見を聞き入れないような性格らしい。

タマモにとって難しい話らしく頭を撫でていたら俺の胸に顔を埋めて寝そうになっていた。


そしてクラネイアとの話をガブリエルに任せたリーエも側によってきて、タマモだけずるいと目で訴えてくるので頭を撫でてやっていた。


「それが掟ですから・・・」

(あのね~、掟を守って聖域を潰されるのと、掟を破って皆仲良くするのとどっちがいいのさ~!)


「そ、それは・・・」

(この3人は聖域を荒らすような事は絶対にしないよ~!私が保証するから~!それに見てみてよ~。私を含めて全員種族が違うのに仲良くしているんだよ~?すばらしいと思わない~?)


「・・・わかりました。そこまでおっしゃるのであれば、問題が発生した時にガブリエル様が責任を取っていただくことを条件に、ここを通しましょう。そして結界を抜けた後、彼らが貴方達をどうするかはわかりませんが、私の所 (聖樹)までたどり着けたならその後は何とかいたしましょう」

(いいよ~!ありがとね~!)



ガブリエルが上手く言いくるめてくれたおかげで、ここは通してくれる事になったようだ。

クラネイアは「それではまた」と言い残し、現れた時と同じように光に包まれて消えていった。


クラネイアは人の話を聞かないように見えるが、それでいて意外と物分りがいいのかもしれない。

ただ自分にとっての優先順位が決まっていて、それをないがしろには出来ないという事なのだろう。


クラネイアの姿が見えなくなると、俺達は聖域へと向けてまた走り出した。





虚空間の説明を入れようかと思ったけど

あまりだらだら入れてもと考え止めてました。

作中では理解した事にしています。

作者もにわか知識ですし。


クラネイアとガブリエルのやり取りも、

ガブリエルの説得がもう少し長くなりそうだったのを

短くしたので変に感じたら申し訳ございません。


クラネイア:ハマドリュアスのハナミズキの精、クラネイアーから使っています。


次回は今週末、もしくは来週中には載せたいと思います。

現状では週一くらいになってしまいそうです。


ここまで読んでくださり有難うございます。

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