幕間 穴の空いた心
11/10第2話の能力付与の部分を少し変更しました。
現段階でも判明させていない部分なので
変更した事だけ伝えておきますが、あまり気にしないでください。
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・・・・・・
・・・・・・・・・
「・・・い!桜井!」
「・・・は、はい!」
「またか、頼むからちゃんと授業を受けてくれ」
「はい、すみませんでした・・・」
またやってしまった。
あれから私の心には、ぽっかりと穴が開いてしまったような間隔が続いている。
いや、私達といったほうがいいのだろう。
響也が私達の目の前からいなくなってしまって、もはや一ヶ月が過ぎている。
それでも私達4人は、未だに響也がいない現実を受け止められていない。
いや、必ず帰ってくるものだと信じている。
「よう、皆して何しけた顔してんだよ」
と、ひょっこりと現れるような気がしてならない。
でもそれは、希望的なものでしかない。
どこに行ったのかもわからない、助けに行きたくてもどこに行けばいいのかわからない。
そんな状態で帰ってきてくれるのだろうか。
そんな不安が脳裏を過ぎる。
いや、ダメ!
必ず帰ってくるんだから!
と自分に言い聞かせる。
毎日そんな事を考えてばかりいるせいで、授業にも身に入らずこうやって教師に注意されてしまう。
でも、今の私には授業なんてどうでもよかった。
学校にくれば、帰ってきた響也に会う事が出来ると期待していたからだ。
今はそのためだけに学校に通っている。
それは他の3人も同様のようだった。
昼休み。
いつものメンバーでいつもの場所で、いつも響也が座っている場所を空けてお昼を食べている。
食べているというより、義務的に口に運んでいるといった方が正しい。
食べていても美味しいと感じる事はないし、嫌いな物でも美味しくないと感じる事もないのだ。
4人で食事をしている間も、ほとんど話す事はない。
皆時おり、響也が座っていたはずの場所をチラチラと見たりしている。
皆、響也に帰って来てほしいと思っている。
私達にとって響也がどれほどのウエイトを占めていたのかがわかる。
私達にとって響也が中心だったのだ。
本人がそれを知ったら嫌がるだろう。
下手くそな笑みを浮かべるだろう。
響也は自分を低く見ている。
常に自分の為ではなく、人の事を見て人の事だけを考えている。
自分にスポットを浴びる事を嫌がっている。
自分は陰の存在で構わないと思っている。
私達はそれがたまらなく悲しかった。
今までの響也からしたら仕方の無い事なのだろう。
私・桜井真鈴も響也をそうしてしまった原因の一人なのだから・・・
そして隣に座っている涼風美咲も私と同じように、響也に負い目を感じている一人でもあった。
私は中学生の頃、買い物で街まで出かけていた時に運悪くナンパに捕まってしまった。
彼らは見るからに不良と呼ばれるような見た目で、少し威圧しながら迫ってきた。
相手は3人もいて、私は言葉では拒否しながらも恐くて震えて逃げる事も出来なかった。
無理矢理腕をつかまれて、強引に引っ張っていかれそうになった時に彼は現れた。
というよりも、私に絡んでいた不良にぶつかったのだ。
結構強くぶつかったらしく、ぶつかられた不良はその相手を引きとめようとした。
さっき目が合った様な気がしたので、助けてくれるのかと思っていたのだけど・・・
しかし、彼は何事も無かったようにこちらも見ずに去ろうとする。
た、助けて!
と、私は心の中で叫んでいた。
それでも彼はこちらに気を止める事はなかった。
不良達はぶつかってきた相手が無視する事に腹を立てて、私の腕を捕まえていた男も含め3人とも彼に詰め寄っていった。
私は今なら逃げられるかもしれないと思ったけど、足がすくんで動く事ができなかった。
不良に肩を掴まれた彼は、振り返り私を含めて全体を見渡した後、何も言うことなく不良3人を殴り倒していた。
本当は助けてくれたのならお礼が言いたかった。
でも不良に絡まれていた事と、彼が不良を倒した光景、そしてもう一度ちゃんと彼を見ると、彼が金髪で目つきが鋭くて恐いと感じてしまい、口から言葉が出なかった。
一瞬私も何かされるのではないかと思ってしまったのだ。
彼は私を見て、こちらに向かって一瞬動くようなそぶりを見せたけど、彼は思いなおしたような顔をして振り返りそのまま立ち去った。
後々冷静になってからあの時のことを考えると、誰か助けて欲しいと周りを見て彼が視界に入ったときには、彼は不良にぶつかる場所を歩いていなかった。
それなのに不良にぶつかったという事は・・・
それにぶつかった後も無視して歩いていく事で、不良が3人とも彼に注意を向けさせ私を逃がそうとしてくれたんじゃないだろうか?
だって振り返った彼は明らかに、動けなくなった私を見てため息を吐くような感じだったし。
そして不良を倒した後の動きは、私に手を差し伸べようとしてくれたのではないだろうか?
彼は怯える私を見て動きを止め、思いなおしたような顔をした次の瞬間、諦めにも似た笑顔を一瞬したのを私は見逃さなかった。
私は真偽はどうであれ、助けてくれた事へのお礼が言えなかった事を酷く後悔していた。
私はその後、彼を見かける事は無く高校へと進学した。
高校に入り、初めての教室で緊張しながらクラスを見渡した時、私の心臓が大きく跳ね上がった。
というのも、ずっとお礼を言いたかった彼が同じクラスにいたのだから。
同じ学校で同じ学年、同じクラスになれた偶然。
この偶然を逃すわけにはいかないと思いつつも、中々一歩を踏み出す事が出来ない。
ほどなくして星野響也は橘流星と仲良くなっていた。
というよりも流星が強引に響也と仲良くなったという方が正しいのだろうか。
響也は距離を置こうとしていたみたいだけど、流星が事あるごとに誘うようにしていたみたい。
流星と仲良くなっていく響也を見ていて、やはり見かけとは違う人なのだと実感していった。
その間に私は美咲と仲良くなり、彼女の小学校来の友人だという佐々木健太とも仲良くなっていた。
しかし私の負い目のせいか、私は中々響也に近づく事が出来なかった。
ある日の登校時、下駄箱で靴を履き替えていたとき後ろから声をかけられた。
「よう!」
私はその声にドキッとした。
それは振り返るまでもなく、響也の声だとわかったから。
そして声をかけてくれたのは、あの時の事を覚えてくれていたのかと思ってしまったから。
「・・・私の事、覚えてくれていたの?」
ずっと会いたかった彼に声をかけられて動揺してしまい、恐る恐る振り返りようやく搾り出した言葉がこれだった。
「??そりゃ、同じクラスだし覚えているだろ?」
「・・あ、そ、そうだよね」
違った・・・
あの時の事を覚えていたわけじゃなかった。
その事に少しだけショックを受けてしまった。
彼があの時の事を覚えていないなんて当たり前のことなのに。
というか、私は何を言っているんだろう。
そう考えていると、彼はあの時助けてくれた後と同じ諦めに似た笑顔を一瞬見せて、私から目を離し靴を履き替えていた。
・・・あ!
違う!違うの!
貴方が怖いわけじゃないの!
貴方じゃなくて私が悪いだけなのに・・・
そう思い私は意を決し話しかける事にした。
「ね、ねえ、今日のお昼はどうするの?」
「・・・はっ?いきなり何を言ってるんだ?」
はっ!
私はまた何を聞いているんだろう・・?
彼からしたら私は初対面に近いのに・・・
失敗した・・・
彼はその時によって購買で買って教室で食べたり、学食で食べたりしているのを見ていた。
一緒にお昼を食べたりすれば仲良くなれるだろうか?と考えていたせいだと思う。
私がバカな事をいって恥ずかしくなり俯いていると・・・
「ふっ、そうだなぁ。今日は購買でパンでも買って食うつもりだ。この前、中庭にいい場所を見つけたからそこで流星と食おうと思っていたんだが・・・一緒に食うか?」
私がその声に顔を上げるとそこには、先ほどとは違った微笑んだ彼の顔が見えた。
「う、うん!一緒に食べよう!」
私は嬉しくて、つい大きな声を出してしまった。
私は変な顔で笑っていたと思う。
でも、そんな事は気にしない。
彼に少しでも近づく事が出来るのだから・・・
お昼になり、響也は購買にパンを買いに行き、響也から話を聞いていた流星が中庭のテーブルに案内してくれた。
私はいつも一緒にお昼を食べていた美咲と健太を連れて行くことを了承してある。
響也が戻ってきて5人でお昼を食べる。
響也は、私が思っていた以上の人だった。
自分が自分がというタイプではないがよく話し、人の話を聞いていない様でもちゃんと聞いていて、周りをよく見ていてさりげなく気遣い、時には笑顔になっていた。
その日から私・・・
いや私達5人の仲は急速に縮まっていった。
でも私はあの時のお礼を言えないでいる。
そのせいでたまに落ち込む事がある。
その様子を見た美咲が心配してくれて訳を話したときに、美咲も響也に助けられていながらお礼どころか恐怖してしまったのだと語った。
美咲が語ってくれたのが、美咲は小学生の頃に男子から苛められていたらしい。
その時に助けてくれた男子がいたのだが、その男子が圧倒的に強く見た目も恐く見えた為に怯えてしまったそうだ。
そのことが切欠というわけではないが、元々その男子と他の人とあった溝がさらに深くなってしまったようだ。
美咲もその男子の事が恐いと感じながらも、助けてくれたのに何も言えない自分と、その男子と他の人の溝を深くしてしまった事に負い目を感じていたらしい。
結局そのまま何も言えずに美咲は転校してまった。
健太とはその転校後の学校で仲良くなったらしい。
そのおかげで今までその事を忘れていたようだけど響也を見て思い出し、私と同じ気持ちでいたと語ってくれた。
美咲も私と同じ様に響也にお礼を言えず、それどころか恐怖の目で見てしまい、さらには響也を突き放してしまった負い目を感じていたのだ。
これは偶然が生んでくれた奇跡だと私達は喜んだ。
いや、喜んではいけないのかもしれないが、それでも私は嬉しかった。
一刻でも早く謝りたい、お礼を言いたい。
それが二人の共通の考えだった。
しかしそれは結局、告げる事は出来なかった。
というのも、響也と一緒に過ごすようになってからわかった事は、響也は自分が褒められたり謝られたりする事を嫌うからだ。
嫌うというよりは、どうしていいのかわからなくて困惑し嫌がるというほうが正しい。
私と美咲にも、響也がそうなってしまった要因の一つなのだろうとさらに負い目を感じたが、今の響也が嫌がることをしたくはないというのが二人の思い。
だから機を見て話すべきだろうと考えていた。
まさか響也がいなくなる日が来るなんてことを夢にも思わずに・・・
そんな事をずっと考えている内に、お昼時間も残り少なくなっていた。
一緒に食事をしていた4人も一言も発する事はなかった。
あれだけ明るかった流星も、今は全然元気がない。
たまに力比べをして響也に勝てず、絶対勝ってやると意気込んでいた健太も張り合う相手がいなくて元気がない。
美咲も響也と本当に楽しそうにふざけ合っていたのに、その相手がいなくなって元気がない。
そしてもちろん私も・・・
響也はずっと自分は周りから嫌われていると思っていたでしょう?
多分それに対して、違うんだよと言ったとしても聞く耳を持たなかったでしょう?
むしろ貴方はそれで構わないと思っていたでしょう?
そのせいで、貴方は私達と少し距離を空けようと思った事があるよね?
私達4人まで、他の人から嫌われるかもしれないと思って。
貴方をずっと見てきた私には、貴方が言わなくてもわかるんだよ?
でもね、そんなの私達はゆるさない。
貴方が本気で嫌がる事はするつもりないけど、貴方が私達の為と思ってやろうとするのであれば、私達が貴方から離れることなんてありえないんだよ?
どんなに離れようとしても、絶対に追いかけるつもりだった・・・
貴方を絶対に一人になんてさせないって!
なのに・・・
貴方は私達の前からいなくなった・・・
貴方の意思ではないにしても、本当に私達の前からいなくなるなんて・・・
私は貴方を掴まえる事が出来なかった・・・
あの時にそれは不可能な事だったとしても・・・
私達は全員自分を責めている・・・
あの場にいなかった流星や健太でさえも・・・
何か手段はあったのではないかと、考えない日はない・・・
後悔しない日はない・・・
過去に起こった事を考えるだけ無駄だとわかっていても・・・
ねえ、響也・・・
わかった・・?
少なくともここにいる4人は貴方の事が本当に好きで、貴方がいなくなったことに絶望し、それでいて貴方が戻ってくる事を本気で願い待ち望んでいるんだよ?
だから早く帰ってきてよ!
響也!
「・・・そろそろ時間だし戻ろうか」
考え込んでいるうちに昼休みが終わる時間になっていた。
流星が重い口を開き、皆が頷いて椅子から立ち上がり歩き出した。
すると急に目の前が真っ白になり、4人を光が包みこんだ・・・
「こ、これって・・・!」
美咲が口を開いた。
そうだ、これはあの時と同じ!
そう考えているうちに意識が遠のいていった・・・
【幕間 勇者達の現在】
「将明は奴を引き付けてくれ!」
「わかった!」
「葵はサポートを頼む!」
「ええ、わかったわ!」
「弥生は魔法で牽制してくれ!」
「・・・うん、わかった!」
ここはイシュタール近郊の森。
光輝達4人は実践のために魔物と対峙していた。
魔物はキングベアー一体である。
側には騎士団長もいるが、彼らの戦いを見ているだけだ。
弥生が詠唱を始め、炎槍で先制攻撃をする。
キングベアーの肩に突き刺さり、キングベアーが痛みで雄たけびを上げるが致命傷には至っていない。
むしろ怒りの形相でこちらへ向かってくる。
「・・・くっ!」
弥生は仕留める事が出来なかった事を悔しがる。
「いや、弥生には牽制を頼んだんだ。よくやった!将明頼むぞ!」
「ああ、任せてくれ!」
弥生を慰めつつ、光輝は将明に指示を出す。
キングベアーが腕を大きく振り上げ、それを将明に向かって振り下ろす。
正明はそれを剣の腹で受け止める。
その間に葵が光輝に筋力増強の魔法をかける。
それを受けた光輝が背後に回り、袈裟斬りに剣を振るう。
キングベアーが背後からの攻撃の痛みで将明に襲いかかっていた腕を上げ、振り返えろうとした瞬間に将明の胴斬りがキングベアーを襲う。
「大氷柱」
胴を斬られうずくまったキングベアー目がけて、弥生が氷魔法を放った。
それに気づいたキングベアーがよけようとしたが、すでに遅く大氷柱はキングベアーの体の真ん中を貫いた。
キングベアーはそれでも少しだけ耐えていたが、その後力尽きた。
「よくやったな!連携もうまくなってきているな!」
騎士団長が4人の戦いを褒めていた。
「いえいえ、まだまだですよ」
「いや、これなら皆一人でもキングベアーを倒す事出来るだろう。葵君もサポートとしていなくてはならない存在だな」
光輝が騎士団長の言葉を否定したが、騎士団長は大丈夫だと太鼓判を押した。
光輝達は皆、その言葉に照れくさそうにしていた。
実践を追えてイシュタールの街に戻りながら、葵と弥生は言葉を交わしていた。
「弥生、お疲れ様!すごかったね」
「・・・葵こそお疲れ様。私なんて大した事してないよ」
「それを言ったら、私のほうが大した事してないじゃん」
「・・・そんなこと無い、葵がいるから皆思いっきりやれる」
二人が自分を卑下しお互いを褒め合い、照れながら歩いている。
「私達この世界に大分なじんできたよね」
「・・・うん、そうだね」
「たまに思い出すんだけど、星野君は一人でどうしているんだろう」
「・・・何も情報が入らない・・」
「星野君はあまり表に立ちたがらないから、情報が入ってこないんだとは思うんだけど、少し心配かな」
「・・・そうだね、でもきっと星野君なら大丈夫だと思う」
「お、弥生が言い切るなんて珍しいね。何か理由はあるの?」
「・・・ううん、根拠はない」
「そっか、でもそうだよね。きっと大丈夫だよね」
「・・・うん、大丈夫」
二人は小声で話していたのだが、二人の前を歩いている光輝と将明の耳にも入ってきていた。
そして正明は苦虫を潰したような表情をしている。
「正明は、なんで星野の事嫌ってるんだ?」
「・・・あんな不良で自分勝手な奴好きになれるわけがない」
「・・・確かに見た目はそうかもしれないし星野の事あまり知らないから、あの時は俺も頭にきたけど・・・でも考えてみれば星野が王様に言った事も正しかったのかもしれないと思う」
「どういうことさ?」
「いきなり知らない場所にいて俺は勇者と言われて浮き足立ち、目の前の人が困っているから俺は助けたいと思ったけど、星野が言っていたようにいきなり信じるというのも無理な話だよなって」
「・・・」
「それに星野は城を出るときに、俺達の事を心配してくれていたじゃないか。だから俺も心配しているんだ」
「・・・ふん」
光輝は笑顔で将明の疑問に答えていたが、将明は言っている事は理解できても、頭の中では納得できないという風に鼻をならした。
それを見た光輝は、やれやれと笑いながら肩をすくめた。
(それになぜか、葵と弥生は星野の事を信頼しているようだしな)
光輝は将明には言わずに心でそう呟いた。
◇
後書きに書いた幕間、最初は普通に本文で別話として載せるつもりでした。
でも、幕間ばっかりになってしまうという事と、そんなに長くはならないかなと思って
後書きに載せたのですが、かなり短くしたつもりが思っていたより長くなってしまいました。
今回の本文に続けて載せてもいいかなと思ったけど、同じ時系列ではない為に後書きに載せる事にしました。
そして本編の真鈴の回想もさらっと行くつもりが
かなり長くなってしまいました。
ここまで読んでくださり有難うございます。
次回からまた本編に戻ります。
今週末までには厳しいかもしれません。




