幕間 成すべき事
色々あり遅くなりました。
ようやく投稿いたします。
私は・・・
私達はこの森から出る事を許されない・・・
なぜなら・・・
この神聖である森を守る義務があるから・・・
さらに私は千年を生きた時に上位種へと進化し、森を守る義務を持つ彼らを統べる者として生きる事を決意しました。
そして私は彼らの頂点に立つ存在となる。
ただ頂点に立つ存在と言っても、私と同じ存在、いや私と同等でありながら私よりも上の存在が他に6人います。
その6人は私よりも遥かな時を生きて、この森を守り続けていました。
森と言っても草木などの植物だけを指すのではなく、そこの生息する生物も含まれます。
森には動物以外にも様々な種族が存在しています。
今は小人族や妖精族、樹人族や樹精霊等が暮らしています。
他にも精霊がいますが、ドリュアスと違って基本的には視覚では捉える事はできません。
私も含めた7人が主となり、叡智ある者と呼ばれ彼らの管理者として平穏の為に尽力しています。
いえ、尽力していると思っていたと言う方が正解でしょう。
管理者となってわかった事。
それは・・・
森やそこに住む者達に異変が無いかどうかを監視する事。
何かあれば、森の民にその原因を調べさせ解決策を伝え行動させる事。
万が一、森への侵入者がいた場合、森から追い出すように指示する事。
森の民で追い払う事が出来ないほどの侵入者の場合は、管理者がその場から動かずに魔法で追い払う事。
自分達の研究に没頭する事。
これが管理者の主な仕事。
管理者は自分の住む場所から動く事などほぼありません。
そして、それは本当に森だけの話であり、他の事に関しては一切関与しないのです。
他の場所でどんな大戦争が起ころうとも、森に直接被害が出ないようであれば何もしない・・・
森に暮らしている種族以外の者とは、接触する事はありません。
いや、接触しようとすらしないのです。
私は元々それについては疑問に持っていませんでした。
叡智ある者、管理者となるまでは・・・
長き時を過ごし森を守る立場になってから、それに対しての疑問が徐々に芽生えてきました。
森や民と接する事もほとんどなく、毎日変わらぬ部屋・風景・森をただ見続ける毎日。
そしてこの平和は・・・
ここだけの平和に意味はあることなのでしょうか。
この狭い世界の仮初の平和にすがるだけでいいのでしょうか。
管理者の他の6人はずっとそうして生きてきたし、それに対して何の疑問も抱いていません。
むしろそれが当たり前なのです。
私はこれから永遠の時を生きていかなければならない、それなのにこの狭い世界でしか生きていけない。
さらに他の種族が無駄な血を流しているのを、我関せずにしていなければならない。
他の種族が共存をしたいと手を伸ばしてきても、その手に触れる事さえ適わない。
私はたかが2千年ちょっとしか生きていない若輩者。
しかし他の管理者は万年を生きてきています。
その管理者が行なっている行為、それが正しい事なのかもしれない。
でも他の管理者が生きてきた長い時間と同じような生活を、これからは私も全く同じように生きていくのだと考えると苦痛に感じてしまうのです。
管理者として生きる事を望んだ私が、そんな事を考えるべきではないのはわかっているのですが・・・
それでも私は自分たちだけではなく、同じこの世界に生きている人達と手を取り合いたい。
無駄な血を流しているのを見たくはない。
だったら私に出来る事は?
森の管理は叡智ある者が6人いればいい。
今までもそれで十分だったはずですし。
それならば私はこの狭い世界から抜け出し、世界を見て、出来る事なら共存の道を作りたい。
そう考えるようになりました。
しかし管理者となってしまった私が、ここをおいそれと抜け出す事は出来ない。
それは秩序を乱す行為になり、反対されるでしょう。
それでも私はずっと、叡智ある者と交渉を続けていました。
管理者達は、私の事を気が狂ったのかとか、常軌を逸している等、散々に言われてしまいました。
何を言われようと私は曲げるつもりはありませんでした。
そしてもう何十、何百と交渉を続け、最終的には私は振り切ってでもここを出る決心をします。
そして私がこの森を出る時は揉めに揉めました。
管理者の猛反対を押し切り、強引にこの森を抜けだしました。
最後に管理者の長から言われたのが、二度とこの森に立ち入る事を許さない、です。
私はそれでも構いませんでした。
それだけの決意を胸に森を出たのだから。
そして私は始めて外に出て、世界を目の当たりにして感動しました。
海があり、山があり、草原があり・・・
世界はこんなにも美しいと知りました。
森の管理者として森に被害が出ないように外を覗く事もありましたが、それも一部しか見ていません。
それに魔法で監視するのと、実際に見るのとでは大違いです。
こんなにも美しい世界なのだから、くだらない争いなんてなくなって欲しい。
私の思いはさらに強くなっていきました。
しかし、私の思いとは裏腹に困難を極めました。
というのも、私が思っていた以上に異種族間のしこりが大きすぎるのです。
私は魔法で姿形を変え、それぞれの種族の街を訪れました。
魔法による変化は、体そのものを直接変えるのではなく、魔力の膜を体の回りに張り外からの視覚を錯覚させるもの。
だから、もしかしたら見破られる危険性もあるかもしれないと考えつつも、先に進む為に必要な事でした。
ただ私の魔力量を超える者か、特殊な能力を持っている人じゃないと見抜く事はできないので、実際には何事も無く潜入する事が出来ました。
そこで聞いてわかったのが、互いに相容れないのが当たり前という認識。
なぜ・・・?
それはお互いがお互いを襲う・攻撃するからだと主張するのです。
それはいつから始まったのかはわからないくらい、遥か昔から根付く意識。
お互いに恐怖・憎悪・侮蔑・蹂躙の対象として認識してしまっている。
この認識は相当根深く、森の管理者である私が森で例えるとすると・・・
一本の木の表面に病気を見つけてそれを取り除いたとしても、根元にまで感染してしまっていれば掘り起こしても取り除く事なんて不可能に近いのです。
根は木の真下だけに張り巡らされているわけではないからです。
それこそ縦横無尽に広がっています。
そして細かい根が少しでも残ってしまえば、そこから広がってしまうのす。
それを解決する簡単な方法もあるにはあります・・・
それは・・・
その土地をすべて無くす事・・・
そんな考えが一瞬頭を過ぎり、考えるだけでぞっとします。
争いを無くしたいからといって、ある種族を絶滅させてしまっては本末転倒です。
他にも手段が無いわけではないのですが・・・
森の例で言うと、幸いにも私達には魔法があるため、一本一本を根の先まで浄化の魔法をかけ続ければいいのです。
ただこれにも途方の無い時間がかかってしまいます。
一本の木を浄化出来たとしても、次の木をまた浄化しなければならなりません。
そして浄化したはずの木が、またさらに感染してしまう可能性もあります。
だからこれには、一人でやるにはいずれ限界がきてしまうでしょう。
私はそれでも前者ではなく、後者の道を選ぶ事を決めました。
私はこれから永遠の時を生きるのです。
時間ならいくらでもあります。
何年・何十年・何百年、いや何千年かかろうとも構いません。
ただ先ほどの木のように一人一人を説得したところで、広大な海の水を片手で救い上げるのと変わらないでしょう。
掬い上げた所で、すぐにこぼれてしまい海に戻ってしまいます。
いくら時間があると言っても、そんな事をした所でただの時間の無駄にしかなりません。
どうしたらいいのでしょう・・・
・・・
そうだ、私にはあれがある!
いつしか習慣になり、毎日欠かさずしていた事。
長き時の気を紛らわせる為に・・・
森を癒す為に・・・
森に住んでいる人を安らかな気持ちにする為に・・・
私は歌っていました。
正直、先ほどの理由は後付けです。
私は元々歌う事が好きで、管理者になる前からずっと誰に聞かせるわけでもなく歌っていました。
そして管理者となってから色々と考える事が多くなったので、それを紛らわせる為に大きな声で歌うようになりました。
歌っている時には余計な事を何も考えなくて済むから。
最初の頃は、無心で歌う事で自然に魔力が漏れその魔力に歌が乗っていることには気づいていませんでした。
それがいつしか森中に響き渡るようになっていて、聞いてくれていた者や森が癒され安らかになっていると知りました。
自分の為だけでなく他の為にもなるのであればと、そのまま皆に聞こえるように歌い続ける事にしました。
だったらそれが使えるのではないでしょうか?
そう考え行動する事にしました。
全種族に同時に歌を届けるなんて事は出来ないので、まずは数の多い人間から始める事に決めました。
そこで変化の魔法を使い人間に化け、人間の世界に溶け込む事にしました。
人間の世界では身分証が必要だという事でしたが、最初に作ったときに種族等を魔法で誤魔化す事などは朝飯前です。
私の魔力を超えられる人間はほとんどいないのですから。
そうして人間として過ごしながら、人が集まりそうな広場で歌ったりしました。
最初の頃は、人間の世界で歌うという事になじみがないのか、行き交う人がちらちら見る程度でした。
-後から知ったのですが、普通あんな場所で大声で歌う人なんていない為、頭のおかしい人だと思われていたようです・・・
森には癒しや安らぎの効果があるようでしたが、人間には効き目が薄かったようです。
何日か同じ場所で歌っている事で、足を止めて聞いてくれる人が徐々に増えだしてきました。
ただ歌の内容を理解してくれているような感じではありません。
それでも聞いてくれる人が一人でも増えて、さらに理解してくれる人がいればと歌い続けました。
しかし場所によっては、そこで歌う事が迷惑となり衛兵や騎士に追い払われる事もありました。
場所を変え、街を変え、様々な場所で歌い続けました。
すると、私の歌に目をつけた商人 らしき人物が声をかけてきました。
どうせなら人が大勢入る場所で、ちゃんと許可を取って盛大に歌わないか?と。
その提案は正直ありがたいと思いました。
でも私はこの街だけに留まるわけにはいきません。
世界中に歌を届けないといけないのです。
それを聞いた相手はこれ幸いと、じゃあ大々的に巡業をすればいい、と言ってくれました。
その商人は儲けたいという魂胆は見え見えだったのですが、私は特にお金は要らなかったし、人を呼び歌う環境を整えてくれる事自体は助かる為にお願いする事にしました。
そこから私の歌を世界各地に届ける巡業が始まりました。
私をサポートしてくれている商人の方が、盛大に宣伝してくれたおかげで最初に行なった場所から大勢の人が詰め掛けてくれました。
しばらく巡業を続けているうちにいつの間にか、歌姫なんて呼ばれるようになってしまいました。
正直嬉しいような、恥ずかしいような、よくわからない感情です。
歌っている間一時的には、その街では争いが激減していました。
しかし巡業する為にその街を離れしばらくすると、元に戻ってしまっているようです。
それは私の歌の効果によるものであったらしく、聞き入れてくれる者には癒しや安らぎの効果が強くでてくれたみたいです。
私の歌の本質を理解してくれているわけではなかったようでした。
それでも根気強く何年も巡業を繰り返し行なってきました。
さすがにこれ以上続けても意味があるのかどうかわからなくなってきたので、次の巡業でしばらく止めて何か考えようと思っていました。
最後の街はヒューベルです。
これが最後となるでしょう。
今はまだイシュタール王国領内で、あと数時間で国境を越えることができるはずです。
しばらく馬車に揺られていると、急に馬車が停止しました。
御者台に御者と一緒に座っていた護衛の人と、幌から後ろを警戒していた護衛の二人が急に外に出て行きました。
魔力感知で調べてみると、前に2人後ろに4人が敵意をむき出しにして囲んでいるようです。
恐らく盗賊だと思われます。
私が出ればすぐに終わるのでしょうけど、私は今は人間として過ごしています。
なので力を使うわけにはいきません。
申し訳ないですけど、護衛の方に頑張ってもらうしか・・・
そう思っていると、御者の方が斬られ、護衛の人も3人ともやられてしまいました。
・・・ばれてしまうけど、彼らを守るためには仕方がないか・・・
と思い動き出そうとした、まさにその時にすごい速さでこちらに動く魔力を感知した。
そして数分もかからずに盗賊を全て倒したようです。
盗賊を倒してくれた方は幌の中を覗き込むと、商人の方は盗賊と勘違いして怯えていたので、この人は悪人ではないと知りながらも私も同じような態度をとりました。
そして商人が護衛の人達が殺されてしまったのか尋ねた所、大丈夫と言っていました。
それも私は魔力感知でわかってはいましたが、「皆さん無事なんですね!よかったぁ」と少し大げさに喜んでおきました。
そして盗賊にやられた人達が目を覚まし、口々にお礼を言っていました。
彼はなぜか少し困った顔をしていましたが。
「危ない所、私たちを助けてくれたので是非お礼をさせてください!」
「いや、別にお礼が欲しくてやったわけじゃないからな」
「それでも構いません。受け取ってください」
「・・・悪いが受け取れない」
私は助けてくれた彼にお礼をしようと思ったのですが、頑なに受け取ってはくれませんでした。
「そうですか・・・あ、そうです。護衛を引き受けてはもらえませんか?もちろん報酬は払いますから」
この人が護衛をしてくれたら、安心してヒューベルにたどり着けるかもしれないと考えました。
ただそれを言ってから、今護衛してくれてる人達が信用できないと言っているのと変わらない事に気づき、申し訳ない気持ちになってしまいました。
しかし、護衛の人達も盗賊にやられてしまった手前、それがいいと同意はしてくれました。
「いや、それも申し訳ないが、俺はまだやる事があるから一緒には行けない」
と断られてしまいまいた。
これ以上言って困らせるわけにもいかないし、こちらも急いでいるので最後にお礼だけ言って分かれる事にしました。
それから特に何事もなく国境を越え、3日後には無事にヒューベルに着く事ができました。
そして会場にて歌う準備など色々と済ませた後は、今日はとくにする事はありません。
そこでこの街にクレープという物があることを思い出し、帽子で顔を隠せば大丈夫だろうと幅広帽を被り広場へ向かう事にしました。
広場に着くと沢山の人でにぎわっていました。
私はお目当てのクレープ屋に行き、ノイチゴクレープを買いました。
もう嬉しくて、ホクホク顔で人混みの中を避けて進んでいました。
ここで歩きながら食べようかどうか悩んでいると・・・
ドンッ!
クレープに気を取られ過ぎて誰かの背中にぶつかってしまい、その拍子に被っていた帽子が落ちてしまいました。
「あ、ごめんなさい!」
「いや、大丈夫だ」
私はすぐに頭を下げて謝ると、相手の方は特に気にした様子も無く、落ちた帽子を拾って渡してくれました。
受け取ってもすぐに被る気がしなく胸のあたりで抱えながら、その彼を見ようとした所・・・
「リューンエルスさんだ!」
と、どこからとも無く大きな声が聞こえました。
ばれてしまいました!どうしよう!
と考えていると、目の前の彼が私をお姫様抱っこで駆け出すではないですか!
そして抱えられながら、この魔力に覚えがあると感じました。
そう、盗賊から助けてくれた人です。
顔は違うけど、間違いない!
落ち着いた場所について、色々な事にドキドキしながら彼に問いかけると、私の本当の正体も見破られていまっていました。
少し話しただけでも、この人に悪意は全く感じられず、信用できる人なのだと思いました。
なので私の本当の種族まで教えてしまいました。
話の途中で「リーエは何歳な・・・」
と聞こえた瞬間には・・
「女性には年齢を聞くものじゃありませんよ?」
と優しく諭しておきました。
全く女性に年齢を聞くなんて、と内心はプリプリしていましたが、表面は優しく諭したはずなのに彼は少し怯えたように見えたのは気のせいです。
そして私の口についていたクレープを何気なく指で取り、そのまま自分の口に入れるのを見たときなんて、もう私の心臓が破裂するんじゃないかと思いました。
それなのに彼はすました顔をしています。
本気で自分のした事に気づいていないようです。
この鈍感!
そしてこの人は人間のはずなのに、隣に妖狐だと思われる女性と、天使だと思われる女性と一緒にいる。
この人は私が何年かけても無理だった事を、小さいながらにしてすでにやっているのだ。
私は自分のしてきた事はなんだったのだろうかと、嘆きたくなった。
それと同時に、この人と一緒に居たら私の夢の実現の近道なのではないかと考えた。
だから何とかしてこの人と繋がりを持たなければと考え、私の舞台のチケットを渡す事にしました。
決して、彼にドキドキしたからとか、そんな理由ではないですよ!?
そして本当は来てくれないのではないかと、思っていた舞台を見にきてくれたときは、胸が跳ね上がるくらいドキドキしました。
その後舞台が終り、強引にでも彼についていく事に決めた事・・・
それは間違いではなかったのでしょう。
彼は誰であっても差別はせず、誰に対しても同じ態度で接しています。
王女様まで紹介されるとは思いませんでしたが、彼女も私と同じ願いを持っています。
私も王女様も彼と出会ったことで道が開けると信じる事になりました。
むしろ彼と出会う事が無ければ、私達の道は塞がったまま進む事すらできなかったはずです。
まだ私の願いは一歩進んだばかり。
彼についていく事で、どう進みどう転がるかはわからない。
それでもずっと彼について行こうと思います。
私と王女様の共通の願いのために・・・
そして・・・
彼と出会い私の中に芽生えた・・・
私のもう一つの願いを叶える為に・・・
思った以上に長くなってしまいました。
種族の事を載せましたが中途半端だと自分では思いましたが
だらだら書き続けてもおかしくなりそうだったのと無駄に長くなりそうだったので
こちらに簡単に残しておきます。
ホビットとトレントは地上で生活をし、ドリュアスが彼らを纏めているような存在。
そしてエルフが、聖樹に住んでおり全体を守っている。
その全てを監視し守っているのがハイエルフです。
力関係としては
ホビット=トレント<ドリュアス=エルフ<ハイエルフです。
ハイエルフの住んでいる場所はそのうち本編で載せるつもりなので
今回は書いてません。
今回は書いた後に変更や修正、付け足し等をかなりしてしまったので
おかしな所もあるかもしれません。
もしあったら申し訳ございません。
次話もSSです。
SSなのでさらっと終われるようにはしたいと思いますが
今回のように予想以上に長くなってしまうかもしれません。
今週末くらいには載せれるといいのですが・・・




