幕間 望んだ思い、その先に・・・
早めに出来たので投稿します。
SSです。
あたしには前世の記憶がない・・・
ないというのには語弊がある。
確かに前世での最後の記憶では人間に追われていた。
なぜ追われていたのかは思い出せない。
でも人間に追われる前は、確かに人間と一緒に暮らしていたはずだ。
おぼろげにもそう記憶している。
転生した今世では、どこで生まれたのかもわからない。
生んだはずの親もいなかった。
転生の秘術は女性(この場合、人間でも獣人でも動物でも)が胎内に子を成し、まだ精神が宿り自我を持つ前に自分の魂を結びつける。(ただし、どの種族からでも生まれた姿は本来の獣の姿である)
そうする事で別の体にも関わらず自分しか意思を持たないようにし、常に自分を存在させる事ができる。
その代わり自分の中に培ってきた経験やスキル・妖術などはそのまま使う事が出来るが、記憶に関しては薄れてしまう部分が出てくる。
どれくらいの長い年月、そうしてきたのだろうか。
それも今となってはわからない。
ただ確かなのは、悠久の時を同じようにして生きてきたという事。
生まれて意識が覚醒した時に親が居ない事なんて、今までもあったんだろうと自分に言い聞かせる。
それに関しては全く気にしていない。
なぜなら、生きる術は覚えているのだから。
しかし、転生そのものに妖力をつぎ込んでしまうので、転生直後は全盛期の妖力の1/100もない。
それでも動物を狩り食事をする事もできるし、弱い魔物程度には負ける事はない。
だからあたしは今世でも生きていける。
生まれてすぐは妖力が少なく人化することが出来ない為、森や草原などで生きる為に動物や植物をエサにして一人で暮らしていた。
元々群れを成す種族ではないので、一人でも特別寂しいと思った事は無かった。
でも、時々前世の記憶が脳裏を過ぎり、寂しくなる事もしばしばあった。
そうしている内に3年ほど過ぎた。
その頃には少し妖力が戻り人化をする事が出来るようになっていた。
あたし達のような獣人は成長が早く、人化した姿は人間では10歳ほどの容姿になっていた。
服は魔物に襲われた人間の物を見つけて着ていたし、なぜか森の中や洞窟などに人間が住んでいた形跡があり、そこで人間のお金になるものを多少見つける事も出来た。
どうやら、人間が人間を襲い時には殺したりして物を奪っていたようだ。
同じ種族同士で物を奪う為に殺しあうなんて理解ができない。
あたし達は生きる為に、もしくは強さを誇示する為に戦う事はあっても、何かを奪う為に相手を殺すことなんてしていなかったはず。
それでも前世のおぼろげな記憶が人間と仲良くしたいと訴えかけている。
だからあたしは手に入れた服を着て人間の国へと足を踏み入れた。
多少の知識もあるし大丈夫だと考えている。
実際、国に入るときに身分証?とかいう物がなくて困る事もあったが、見た目が10歳ほどの人間が外から一人でやってくる事などありえなく、とりあえず危ないからとすぐに中へ通してくれた。
やっぱり人間にもいいやつはいるんだ。
お金も手に入れた物を売ったりしてどうにかなった。
人間の中では幼く見えるあたしに対して、街の人は親切にしてくれたし楽しかった。
だけど、あたしの事が知られすぎても困るので、同じ街にずっと居る事はなく街を転々としていった。
そんな暮らしをして、それから2年が過ぎた。
あたしは人間の世界に慣れすぎて、一番気をつけなければいけない事を忘れてしまっていた。
あたしは今は人間で言うと15歳くらいの見た目になっている。
ある町で同年代くらいの女の子と仲良くなっていた。
その子が外に果実を取りに行きたいと言い出した。
もちろん町の外は魔物も居るし、危険な動物だっているのだ。
大人に言えば反対されるに決まっている。
だから、あたしと内緒で行こうと言ってきたのだ。
あたしには何も問題は無かった。
動物も魔物もあたし一人で倒す事が出来るからだ。
その子に付き添い、果実のなる木を求めて森へと足を踏み入れた。
入り口近くには果実が見当たらなかった為に、少しずつ奥へと入っていく。
ある程度行くと、そこには美味しそうな果実のなった木が沢山生えていた。
あたしが木に登り果実を取って、その子に落としていく。
その子は大きな袋で落とした果実を受け止めていく。
沢山とればその子が喜んでくれたので、あたしは夢中になっていた。
すると、果実の匂いに誘われてきたのか、いつの間にか多くの魔物に囲まれていた。
夢中になりすぎていて、警戒を忘れてしまっていた。
その子は恐怖で体が震え、立つ事すら困難になってしまった。
すぐそこまで魔物が迫ってきている。
あたしはすぐに木から飛び降り、その子の前に立ち魔物から守ろうとした。
身体能力だけで魔物を追い払う事も出来るのだが、何せ数が多すぎる。
そのため、妖力を使って攻撃をせざるを得なかった。
魔物を全て倒した頃には、妖力を大分消耗してしまった。
あの子は大丈夫だろうか?と振り返ると、その子はあたしを微動だにせずに見ていた。
いや、見ていたというよりは、恐怖・怯え・奇異という感情をあたしにぶつけていた。
あたしの戦う姿を見て、恐くなってしまったのだろうかと思った。
それも少なからずあったのであろうが、そうではなかった。
その子が指を指していることに気づいた。
あたしはその指されている場所に手を当ててみた。
すると、隠していたはずの獣耳が出てしまっていたのだ。
迂闊だった・・・
助ける為とはいえ、妖力を使いすぎてしまったのだ。
他にも何か方法があったはずなのだ。
それなのに失念してしまっていた。
でも、あれだけ仲良かったこの子なら、きっと黙っていてくれるだろう。
そう考えその子に、この事は黙っていて欲しいと告げた。
その子は最初、震える体と恐怖の目であたしを見ていたが、次第に落ち着き頷いてくれた。
そしてその後はすぐに森出て町へと戻っていった。
その夜、借りていた部屋で寝ていた所、外から数人の気配を感じた。
気配を押し殺してはいるが、あたしには丸わかりだった。
その気配には殺気が感じられる。
あたしはすぐに身を起こし行動を取れるように身構える。
そしてドアが開けられた。
その相手はあたしが起きているとは思っていなかったのか、驚きの表情を見せていたがすぐに気を引き締めなおして言い放った。
「俺達村の人をだましていたのか、獣人!!この村をどうするつもりだ!」
この村の大人達だった。
あたしには全く意味がわからなかった。
目の前にいる人間もあたしが仲良かった子の親で、よく一緒に食事もしたし一緒に笑いあったりもした。
なのに今はあたしに殺意を向けている。
あたしは何もしていないし何もするつもりも無い、と何度言っても聞き入れてくれはしない。
それよりもさらに罵声を浴びせられる。
「だまれ!汚らわしい獣人が!仲良くなったところで、この村の人々を殺すつもりだったのだろう!」
言っている意味が全くわからない。
この人達は何を言っているのだろう。
でもあたしを殺すつもりなのはわかっている。
あたしは窓から逃げ出した。
家の外にはあの子が立ってこちらを見ていた。
憎しみのこもった目で・・・
ああ、あの子があたしの事を親に言ってしまったのだ。
あの子も、さっき部屋に来た人達も、あたしを受け入れてはくれなかったのだ。
あたしは無我夢中で逃げた。
一時でも楽しい時間を過ごした人達を手にかけたくはなかった。
だから逃げて逃げて逃げまくった。
最初は追いかけてきていた町の人達も追いつく事が出来ずに、途中で追うことをやめたようだ。
あたしはどれだけ逃げたのだろう。
どこに向かっていたのかもわからない。
ここはどこなのだろう。
森の中なのはわかる。
あたしの妖力も回復はしていない。
それどころか逃げる事に必死になり、あの時魔物を倒す為に消費した妖力をさらに減らしてしまった。
だから人化を保つ事が出来なくなってきていた。
あたしは元の姿のままで、先程の事を思い出し少し悲しくなっていた。
それでもとぼとぼと歩き続けていた。
お腹もすいてきた・・・
動物を狩って食べる気力もあまりなかった。
というより、体力と精神的に落ち込んでいたのだ。
そしてしばらく歩き続けていたところ、目の前に肉がぶら下がっていた。
正直怪しくは思ったのだが、深く考える余裕が今のあたしにはなかった。
少しでも体力と妖力を回復しなければ・・・
それしか考えていなかった・・・
目の前の食事に何も考えずに食らいついた。
バチンッ!
いたっ!
足にかなりの痛みが走った。
何事かと足を見てみると、ぎざぎざした鉄の物に足を挟まれてしまっていたのだ。
あたしは必死に逃れようともがく。
でもそれはがっちりと足に食い込み、はがす事ができない。
人化をすることも出来ないので、手ではがす事もできない。
そこから逃げ出そうとしても、それに足を引っ張られ逃げる事すら出来ない・・・
しばらくすると、妖力もなくなってきて体力的にも限界に近づいてきた。
あたしはここで終わるのかな・・・?
転生の秘術を使う妖力も気力もない・・・
今世ではどうしてこんな事になったのかな・・・?
あたしはただ楽しく過ごしたかっただけなのに・・・
あたしが他の種族とはちがうから・・・?
だから人間があたしを受け入れてくれなかった・・・?
人間は人間としか仲良くなれないの・・・?
人間はあたしを受け入れてくれない・・・
それならば・・・
あたしはそう考えているうちに力尽きて眠ってしまった。
・・・
あたしはまだ生きている・・・
あたしはどのくらい眠っていたのだろう。
まだ頭がぼんやりしている。
その時に、遠くの方で気配を感じた。
もしかしたら魔物や、あたしを殺しに来たやつらかもしれない、そう警戒をした。
しかし感じられる気配からは、殺気は感じない。
それどころか何か不思議な感じがした。
あたしは・・・
あたしはまだ生きたい・・・!
本来であれば危険な行為であるはずだが、あたしは少しでも生きる可能性があるならそれにかけたいと、力を振り絞って声を上げた。
クゥ~ン!
クゥ~ン!
あたしの声が聞こえたのか、徐々に気配が近寄ってくる。
万が一の為に、最後の力を振り絞ってでもと警戒をしておく。
そして、相手の姿が見えてきた。
・・・人間!!
あたしを追ってきた人間か?
それとも、この罠を張った人間か?
あたしはさらに警戒を強めた。
だからといってどうする事もできないのだが。
その人間はあたしに近寄ってくる。
後になって振り返ると、その人間は心配そうな顔をしていたのだが、この時のあたしには気づく余裕はない。
人間は手を伸ばしてきた。
あたしはやられてたまるか、とばかりに人間の腕に噛み付いた。
しかしその人間は、痛そうにしていてもさらに手を近づけてくる。
あたしもさらに噛んでいる力を強めた。
ガチャン!
その音がした時に、あたしの足が自由になった感覚があった。
すぐに噛んでいた口を離し、逃げようとした。
キャインッ!
が、はさまれて怪我をしてしまった足が痛くて、すぐに動けなくなった。
その様子を見ていた人間が、あたしを抱きかかえるようにして、木にもたれかかって座った。
あたしは何をされるのかともがいていたのだが、人間が手を足に翳した瞬間には足の痛みがなくなっていた。
・・・・
あたしは驚いた。
今はただの獣であるあたしを助け、治療してくれるとは思ってもみなかった。
あたしは思い出した。
前世でも今世でも、人間全てが悪かったわけではなかった事に。
逆に全ての人があたしを受け入れてくれるわけでもない。
だからあたしはあたしの直感を信じて、全ての人間ではなく直感を感じた人間を信じる事にしよう。
少なくとも、あたしを抱きかかえている人間の目には悪意を全く感じられない。
あたしを優しそうな目で見てくれている。
あたしはこの人間を信じてみようと思う。
裏切られたら・・・
その時はその時で仕方が無い。
でもそれまでは、あたしはこの人に着いていこうと思う。
少なくとも、あたしはこの人の敵に回りたくはない・・・
そのあたしの決断に間違いは無かった。
その後、あたしの正体を見せたときも驚きはしたけど、ただそれだけで・・・
あの時、本当はドキドキしていた・・・
もしかしたら、あの子のようにあたしを見る目が変わってしまうのではないかと・・・
でも、貴方は私を軽蔑しなかった・・・
侮蔑や恐怖の目で見なかった・・・
むしろ興味津々という目で見ていた・・・
あたしにはその目は嫌だというよりも、少し恥ずかしかった・・・
そして、時にはあたしを褒めてくれて・・・
頭を撫でてくれた時は、本当に嬉しくて幸せで・・・
バカをやったときは叱ってくれて・・・
貴方はいつも変わらず同じ態度であたしに接してくれる・・・
こんな日が過ごせるなんて思ってもみなかった・・・
今こうして、幸せで楽しい毎日が過ごせるようになったのは貴方のおかげ。
タマモは貴方に会えて幸せです・・・きょうや・・・
ここまで読んでくれている方には最初の部分でわかったと思いますが
タマモの過去編でした。
敢えて最後にも名乗りましたが。
本当はもっと短くして3つ分のSSを載せようと考えたのですが
思いの他長くなってしまったので
別に載せる事にします。
そしてSSは後3話程載せます。
自分の中ではどうしてもここで必要なSSだったので
増えてしまいました。
本当は別のSSもあったのですが、SSばかり載せるわけにもいかないので
本編を進ませてから、またそのうち載せることにします。




