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第18話 激動の一日 中編


俺はミランダを倒した後、急いで王宮へと戻ってきた。

真っ先にユーリの部屋を目指す。

途中にメイドや騎士達が倒れていたが、死んでいる訳ではなく魔法で眠らされているだけのようなので、それを横目に急ぐ。


ユーリの部屋の前に着き、そのままドアを開け放つ。

すると中にいたのは、床に倒れているタマモとリーエの姿だけであった。

ユーリの姿はそこには見当たらない。


ちっ!もうすでに攫われてしまった後か!


急いで側に駆け寄り二人の様子を見る。


息はちゃんとしている。

特に外傷も見当たらないし、精神異常もなさそうだ。


メイドたちと同じように二人とも眠らされているだけのようで安心した。

二人とも魔力量が多い上に精神攻撃の耐性が高いはずなのだが、その彼女らにどのような魔法を使われたのか、はたまた魔法以外の力が使われたのか、今の段階では知るすべはない。


二人ともユーリを守ろうとしてくれたのだろう。

明らかに戦った形跡がある。

物が散乱し、テーブルや椅子なんかは派手に壊れていた。


戦闘力の高い二人を相手にしながら、殺さずに何かを仕掛けたその相手を脅威に感じながら二人をベッドに寝かせ、ユーリが連れ去られた事に焦る気持ちを抑え警戒しながらさらに周りを見る。

近くに敵はいないようなので、警戒を解いて色々と調べたのだが・・


さすがに相手の情報を残していくほどバカではないか・・・


そういえば、ガブリエルの姿が見えない。

精神を乗っ取られたアリエルがガブリエルに攻撃をしていた。


まさか・・・


一瞬嫌な想像が頭を過ぎり、背筋を寒くさせた。

その時・・・


(キョウヤ~!大変だよ~)


いつもの間の抜けた声が聞こえた。


「お前、大丈夫だったのか・・・」

(うん、心配してくれたんだね~。ありがとう~。危なかったけど大丈夫だよ~)


ガブリエルのいつもの姿を見て、ほっと安心した。


(それどころじゃないの~・・・大変なんだよ~!変な奴らがきてユリエスを連れて行っちゃったの~!)

「ああ、やはりそうなのか・・・」


(ユリエスが攫われたのに随分落ち着いているね~・・・)

「そんな事はない。ただ、さっき感情で動いた事で失敗したのだと思い知らされたからな」


(ふ~ん、そうなんだね~・・・それでね・・・)


ガブリエルが話してくれた事はこうだ。

俺がアリエルを操っていた敵を追って行った後、ガブリエルはタマモやリーエと一緒にユーリの部屋へとすぐ戻った。

そしてしばらくすると、王宮に変な気配が近づいている事に気が付き、タマモとリーエは警戒し身構えていた。

やがてユーリの部屋の前までその気配が近づく。


すると部屋のドアがすごい勢いで開け放たれた。

ここにいる全員、その相手は最初から敵だと認識していた為、ドアが開いたその瞬間にタマモが爪で攻撃を仕掛け、リーエは魔法で牽制をしたのだが、そのどちらも軽くいなされ敵が中に入ってくる。


敵の侵入者は一人だったようだが、タマモにもリーエにも気を止めずユーリへ向かって一直線に進んだ。

それでもタマモもリーエも攻撃を仕掛け続ける。

それも軽くいなされ、何か魔力がこもった石の様なものを二人に向けると、二人とも眠ってしまったそうだ。


それを確認すると今度はガブリエルの方へ向き、ミランダの操っていたアリエルが放ったものと同じような波動を手から出しガブリエルが吹っ飛ばされたようだ。

ダメージそのものはなかったようだが、飛ばされた衝撃で頭がグラグラしている間にユーリが攫われてしまった。


ガブリエル自体は攻撃手段がない上、本来なら攻撃を受ける事もないはずなのだから、同じ日に二回も攻撃を受けた事に驚愕しながら、ユーリの事を気にしてくれていたらしい。


そのためユーリが攫われた後も、侵入者の索敵範囲を見極め範囲外からずっと追ってくれていたのだ。

そしてどこに攫われたのか判明した時点で、引き返して今に至るそうだ。


俺は二人が軽くいなされたことに驚いたのだが、ガブリエルが言うには場所が場所なだけに、本気で攻撃が出来なかったのではないかと言っていた。



ガブリエルの話を聞いたあと、ベッドに寝かせていた二人にリカバリーをかける。

リカバリーには修復の他に回復の意味合いを持たせている為に、状態異常を回復させる事が出来るようにしてある。


すると少し経ってから二人は目を覚ました。


何かしらの強い力でかけられたのなら効かないかもしれないとも考えたが、ちゃんと効いてくれてよかった。


タマモとリーエが目を覚ますとすぐに慌てていたが、まずは二人からも話を聞くことにした。

やはり二人とも本気は出していなかったようだが、とは言え攻撃が軽くいなされたことから相手はかなりの実力者だと嘆いていた。

よほど悔しかったのだろう。

話している間も、手から血が滲むくらい強く握り締めていたのだから。


それを治療してやりながら二人を落ち着かせる。


二人は落ち着いている俺を(イブカ)しげにしているが、焦っているからこそ落ち着かないと失敗する事を伝える。

俺はさっき、頭に血が上り焦っていた事で失敗したばかりだ。

俺のせいで皆を危険に晒したのだと。


それを聞くと、三人とも「それは違う、キョウヤ (さん)のせいではない」と言ってくれた。

その言葉は嬉しくもあったが、しかし彼女達が俺をいくら擁護してくれようと、起こってしまった事実は覆らない。

なので、それは俺の責任である事を重く受け止めている。


ユーリの捉えられている場所はガブリエルが見つけてくれている。

だから焦らず、しかし急いで彼女の救出へと向かう事にする。


その際、相手がどれだけの力を持っているのかわからない為、万が一の事があれば俺が是が非でも食いとめユーリを救い出すことを納得させた。

もちろん三人とも反対はしたのだが、俺の真剣な眼差しが有無を言わせなかった。


それを確認し即座に行動を起こす。


一刻も早く向かいたい衝動を抑え、道具屋で魔力回復薬をいくつか買ってから駆け出す。

さっき頭に血が上って、無駄に使ってしまった分を少しでも回復しないといけない。


ガブリエルの先導のもと、俺とタマモとリーエがその後に続いていく。

走りながらさっき買った魔力回復薬を飲んでいく。

俺の魔力量からすると微々たる物なのだが、気休めでも飲まないよりはましだ。


そして走っている途中、俺の魔力感知に例の監視者の反応を確認していて、そっちもどうにかしたい所なのだが、俺と全く同じ動きをして、常に一定の距離を保ちながらついて来ているようなので、追ってもすぐ逃げてしまうだろう。

それにしても、かなりの速度で走っているのだが、それについてきている監視者の実力も只者ではない。


今はそちらを気にするよりも、ユーリの救出を最優先にする。


今は街を出て西側へと向かっている。

するとそれほど高くはないが、山肌が見えてくる。


ガブリエルによると、その山を越えて反対側に洞窟らしきものがあり、そこに連れて行かれたようだ。


山には木々が生い茂っている為に、思うようにスピードを出すことが出来ない。

それでも出来る限りのスピードで駆け抜けていく。


山頂を越え裏側へ周り中腹へと差し掛かると、そこには明らかに人工的に作られた洞窟を見つけた。

ここがガブリエルの言っていた洞窟のようだ。

入り口は高さ3m、幅は2mといったところだろうか。

そんなに頻繁に使われているような感じでもなさそうだ。


意識を集中し魔力感知を最大限にして中の様子をさぐる。

かなり奥の方に二つの魔力が反応あった。

片方はユーリで間違いないだろう。


ということはもう一人がユーリを連れ去ったやつだな。

他に仲間がいる様子もない。

一瞬怒りがこみ上げてきて今にも突撃しそうになったが、冷静になるために一度深呼吸をした。


タマモとリーエも俺と同じようにいきり立っていたのだが、そんな俺の様子を見て少し気を落ちつけたようだ。

ガブリエルは俺達を心配そうに見つめていた。


もう一度、ふぅ~、っと息を吐き


「よし、行くぞ!何があるかわからないんだ、気をつけろよ」


と三人に声をかけてから進みだした。

俺の魔力感知では洞窟の構造までは把握する事が出来ない。

ただユーリの魔力の位置はわかるため、それを道標にして進んでいく。


洞窟の中には無数の侵入防止用のトラップと、明らかに中にいる奴が仕掛けたのであろう、時間稼ぎのための魔法のトラップがいくつも仕掛けられていた。

普通のトラップに関しては、探知能力に優れているタマモがすぐに見つけ解除していく。

魔法トラップは仕掛けられている魔法陣をリーエが見抜くことが出来た為に、トラップが発動する前に壊していく。


俺も危険感知があるから問題ないとは言ったのだが、俺一人に任せるわけにはいかないと二人も張り切っていた。


途中の分かれ道もユーリの魔力を頼りにしていた為、間違うこともなく進む事ができていた。


そうしてしばらく進むと、おそらくここがユーリのいる場所なのだろう。

狭かった通路が急に、かなり広い空間へと変わった。


壁や天井、床は全て、加工した石で敷き詰められており中央には石台があり、ここで何かしらの儀式でもしていた事が伺える。


その石台の上を見ると、ユーリが寝かされていた。

胸が上下に動いているのが見える。

一先ず生きているという事に安心した。

タマモやリーエと同じように眠らされているのだろうと考える。


すぐにでもユーリの側に行きたいところだが、その石台の前には一人の男が立っていた。

長い黒髪を真ん中で分け、どう見ても誘拐犯には見えない小洒落た服装をした長身の優男だった。


・・・あいつが!

あいつがユーリを攫ったやつに間違いない!


「やあ、キョウヤ君といったかな?お初にお目にかかります」


ちっ!やはりこいつも俺のことを知ってやがるか。


「どうやらミランダを倒したそうですね。素晴らしい!」


こいつ!

どのような手段を使っているのかはわからないが、監視者と連絡が取れるようだな。

そして仲間を倒されているのに喜んでいやがる。

しかしそんな事よりも・・・


「・・・お前が・・・タマモやリーエを眠らせユーリを攫った奴で間違いないな!?」


その男が陽気な感じで挨拶をしてきやがる。

俺は怒る鼓動を抑えるように、低くそれでいて通る声で相手を威嚇するように話し出す。


「ええ、ご覧の通りですよ。私がユリエス王女を攫いました」

「ユー・・ユリエスは無事なんだろうな?」

「ええ、貴方の予想通り眠らせているだけです」


こいつ!

俺の考えを読み取ったのか!?


「何の・・・何のためだ!俺が目的なら、直接俺を狙えばいいだろう!」


ミランダに聞かされたとは言え、ユーリが狙われる対象となる原因がわからなかった。

もちろん、ユーリと接して間もないのだから、知らずに恨みを買ってしまっているのかもしれない。

それよりも俺を監視している人間がいる以上、ユーリをエサに俺がおびき出されたと考えた方が納得できる。

こいつが答えるとは思っていないのだが、聞かずにはいられなかった。


「ん~、貴方は何か勘違いしていますね。これはビジネスですよ、ビ・ジ・ネ・ス。貴方の事を調べたのは、そのビジネスに一番の障害になりそうだったからです」


いちいち癪に障る言い方で、正直イライラする。

しかし、答えると思っていなかったが意外とあっさりと暴露する。


「ビジネスだと!?」

「ええ、そうです。あるお方にとって、彼女の思想はとても邪魔なのです。そして今回の依頼主と利害が一致した。ただ、それだけです」


陽気な顔をして、ペラペラとよく喋る!

そして、こいつらはどれだけの事を知ってやがる!


おそらくこの男が言っているのは、ユーリが種族間の差別をなくしたいということだろう。

しかしこの世界の種族差別は著しい。

そのせいで、大っぴらに言い回る事など出来ないのだ。

だからこそ本当に信頼の置ける人にしか打ち明ける事が出来ず、ユーリは水面下でコツコツと進めていこうとしていたはずだ。


それをこいつは知っている。

いや・・・こいつらは知っているのだ!


この男の話しぶりからすると、こいつの親玉がいる。

そして、別の誰かもユーリを何かしらの理由で排除しようとしている。

こいつから聞き出せるならそうしたいが、そこまでは難しいとは思う。


こちらの聞きたい事を簡単に話すこの男を警戒しつつ、さらに問い詰める。


「あるお方だと?それにお前らは彼女の何を知っている!」

「偉大なお方という事だけ言っておきましょう。何を知っているのかは貴方がよくご存知ではないですか?」


くそっ!

完全に見透かされているな。


俺が知らないフリをしても無駄という事を言ってやがる。

それはもう調査済みなのだと。



「・・・お前は依頼主がいると言ったが、お前らは一体何者だ!?その依頼主は誰だ!?」


こいつらはこちらの情報を知りすぎているくらい知っているのだろうが、俺達はこいつらの情報がまるでない。

予想できる部分もあるにはあるが確信ではないし、こいつらの事を聞きだせる事は聞いておかねばなるまい。

現に情報で遅れを取りすぎているのだから。


「質問が多いですね。そう・・ですねぇ、まずは自己紹介でもしておきましょうか。私の事はクラウンとでも呼んでください。お解りの通り偽名です」

「ふん、道化か。お前にピッタリだな」


いちいち偽名だとか、わかりきっている事までいいやがる。


「はい、私も気に入っております。それで先程の質問ですが、どちらもお答え出来ない、が答えです」


ちっ!

言ってもわからないだろうと思いながら、クラウン=道化と言ってやったのだが、どうやら通用するようだ。

しかも、その皮肉に対しても気にした様子はないし、答えるとは思っていなかったが何も得ることすら出来ないか・・・


「依頼主の事を明かすのはバカのすることですし、私達は信用第一ですからね。それに貴方はどうも勘が良すぎるような感じがします。ですが何もお答えしないのもかわいそうなので一つだけ・・・私達の本業は『何でも屋』ですよ」

「何でも屋!!」


それを聞いて胸糞悪くなった。

なぜならこいつの言っている何でも屋とは、条件次第ではどんな事でもやると言っているのだからだ。

それは今の状況である誘拐にしかり、強盗・殺人などあらゆる犯罪も厭わない。


それに情報収集力も生半可なものではないだろう。

監視者の事もあるし、かなりの巨大組織だと考えて差支えがない。


そして何でも屋が本業と言っている。

もちろん表立ってやっているわけがない。

ということは、表の仕事を隠れ蓑にした上で何でも屋をしていると考えるのが妥当か。



しかしそうなると解せない事が一つだけある。


「今回の事はお前一人でやっている事なのか?」

「・・ええ、私は一人のほうが動きやすいのです。伏兵を心配しているのであれば、それはいないと断言しましょう」


ああ、なるほどな。


たった一人で王女を誘拐しようなんて無謀だと思っていたが、それを聞いて納得した。

ここに来るまでに聞いていた話と、こうして実際にあった感じからすると、こいつはかなりの実力者だ。

他の人間がいた方が足手まといになるから一人がいいと。


先程からクラウンをずっと観察しているが、常に落ち着いているし動きに無駄がない、そして何よりも自信に満ち溢れている。

雰囲気も含めて考えたとき、こいつが実行者の中でもかなり上位の者なのだろう。

むしろこんな奴が下っ端だったとしたら、あっという間に国は取られるだろうな。



「・・・やはり貴方は洞察と勘がいいようですね。確かにヒントを与えているとはいえ、与えていい情報しか与えていないのです。それなのにそれ以上のことを理解しているようですね」

「・・・」


俺の思考を読み取り、徐々にクラウンの雰囲気が変わってきた。


「・・・貴方はやはり危険だ!!」






次の話で<激動の一日>を終わらせる予定です。

もし明日投稿できないようなら、次に載せれるのは土曜日になるかと思います。

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