第17話 激動の一日 前編
今回の話は前話の後書きに書いたように長くなるので
1話毎を短めに3部構成で載せます。
「キョウヤ様、貴方はこの国を乗っ取ろうとしていらっしゃいますね?」
アリエルが耳元で信じられない言葉をささやいた。
一瞬何を言っているのかがわからずに、唖然としてしまう。
「・・・何を・・言っているんだ・・?」
俺が何とか口を開くと、アリエルは少し離れ続きを話し出した。
「いえ、正確に申しますと少し違うのでしょう。貴方はユーリを王位につけようとしていらっしゃる事はわかっているのです」
ニコッと笑いながら話しているのだが、その目が明らかにおかしい。
どう見ても正気ではない目をしている。
「・・・誰に何をされた・・?」
答える訳がない事はわかっていても聞かずにはいられなかった。
なぜなら、俺の魔眼では見抜けなかったのだから。
「あははっ、何を仰っているのですか?可笑しな事を仰いますね。私がまともじゃないとでもいうのですか?」
彼女の顔は笑っていてもうつろな目を見ていると、誰かに精神操作でもされているようにしか見えない。
ただそれは誰かに何かを吹き込まれた上で、付け入る隙を与えてしまったと考えるのが妥当だろうか。
「・・・誰に何を聞かされた?」
「ん~、貴方は誤解だと仰りたいのですか?でも、もうすでにネタは上がっているのです。貴方がどんなに言い訳をしても無駄な事なのです」
「そんな事はどうでもいい、誰に何を聞いたのかだけでいい。答えろ!」
「・・・そこまでお聞きになりたいのであれば、お答えいたしましょう。貴方の事はジュリアンが調べ上げ、報告を受けたのです」
・・・
ちっ!やはり面倒な事になったか・・・
彼が俺の事を調べ、彼女に教えたというのは本当のことなのだろう。
しかし、ジュリアンがアリエルを操っているという事はないな。
彼にはそこまでの力はないはずだ。
(キョウヤ~、この人は何か強い力で操られているよ~!)
(やはりそうだよな!?)
ガブリエルが俺に教えてくれたのを、アリエルが一瞥した事に気づいた。
ガブリエルが見えている!?
「そこの天使!邪魔はおよしなさい!」
そう言ってアリエルが手をガブリエルに向かって手をかざすと、波動の様なものが手から飛び出してガブリエルが壁の向こう側に吹っ飛ばされた。
(きゃあああああ!!)
「ガブリエル!!」
こいつ、ガブリエルに攻撃できるのかよ!
ガブリエルが心配ではあったが、さすがに簡単には助けに行かせてくれなさそうだ。
「これ以上、貴方とお話をするつもりはありません」
そういったアリエルは右手を上げた。
するとドアが開き、中に騎士が十数名入ってきた。
!!
俺の魔力感知に反応しなかっただと!?
騎士が入り口を塞ぎつつ、俺の周りを取り囲むように並び剣を向ける。
「捕らえなさい!!」
アリエルがそう叫んだ瞬間、俺はここにいる誰とも違う視線をどこからから感じた。
その視線に意識を集中する。
天井だ!
すぐに俺は天井を見上げ、何もないはずの天井で目があったような感覚がした。
その瞬間・・・
パリンッ!
何かが割れる音がしたような感覚があり、アリエルを含めてこの部屋にいる俺以外の全員が倒れた。
くっ!今の視線のやつが、こいつらを操っていやがったのか!!
どういう能力かは知らんが、これだけの人数を一斉に操り、なおかつ離れた場所から見る事もできるのか!
視線の相手の気配も魔力感知で捕らえる事ができた。
くそっ!逃げてるな!
しかし、ここにいる奴らをこのまま放置しておくわけにはいかない。
(う、うう~)
ガブリエルが辛そうに壁をすり抜けてきた。
「ガブリエル大丈夫だったか!」
(大丈夫ではないけど・・・それよりもこの人達、このままじゃ精神崩壊を起こしちゃうよ~)
「なんだと!?」
(無理矢理、精神を乗っ取って操っていたみたいだから、その負荷に耐えられないみたいだよ~)
くそったれ!
奴を逃がすわけにはいかないが、先にこっちを何とかしないと。
そう考えた俺は成功するかどうかは一か八かの賭けだが、まず魔法防御結界を張ることにした。
なぜ今更ながら魔法防御結界を張ったのかというと、俺の魔法防御結界は身体・精神に害を及ぼす魔法を防御できるようにしてある。
それならば、精神に害を及ぼしている今の状態も緩和する事ができるのではと考えたのだ。
その考えは正しかったようで、精神崩壊を抑えることに成功したようだ。
ただ完全に止めたわけではないので、さらに全員を魔法で包み込み元に戻すイメージし修復を試みる。
しかし、これまでの経験から初めて使おうとする魔法は、すぐに出来るとも限らなかった。
今は出来ないかもとか言ってられない。
やらなければならない、出来なければならない!
魔法はイメージがものを言う。
出来ないならば出来るまでやるだけだ!
ただそんな悠長な事をしている時間も惜しいのだ!
そう考えながら彼らを助ける為に全力で魔力を注ぎ込む。
すると、先ほどまでは辛そうにしていた顔が、安らかな顔へと変わっていった。
どうやら成功したようだ。
しかし、その分かなりの魔力を消費してしまったようだが・・・
まだ終りじゃない!
彼らが助かったのであれば、今度はすぐに実行に移さなければならない事がある。
こいつらを操っていた奴を、捕まえなければならない!
すぐに部屋を飛び出し走り出す。
異変に気づいたタマモとリーエが俺のところに来たのだが、この様子だとユーリに危険が迫る可能性が高いと考え、ユーリを守ってやってくれと頼んだ。
二人は俺についてきたそうではったのだが、ユーリの事も心配してくれたようで素直に従った。
ガブリエルも先程攻撃された事を考え、危険だからとユーリの側にいるように言っておいた。
俺はそれを確認する間もなく、外へ飛び出す。
奴はすでに俺の魔力感知の外へと出てしまっているが、逃げた方向はわかっているために全力で追う。
身体能力強化の魔法と風の魔法を駆使し、街の屋根の上をかなりの速度で駆け抜ける。
・・・
・・・・・・
しばらく走ると、先程感じた魔力を見つける事ができた。
逃がさねえよ!
本気で俺を怒らせておいて逃げられるとでも思ってんのか!?
奴もかなりの速度で逃げているようだが、俺は奴の魔力を見つけた瞬間にさらに速度を上げている。
あれだけの力を持った相手だ、本来ならばもっと慎重に行かなければならないはずだった。
しかし、俺の怒りは沸点を超えている。
それは自分が疑われた事に対してではない。
一歩間違えばアリエル達が二度と元に戻らなかった事に対してだ。
すでに郊外へと出てしまっているようだが、俺も構わずに追いかける。
向こうも俺が追ってきていることに気づき、速度を上げ始めたが無駄だ!
逃がすつもりは毛頭ない。
奴は荒野へと逃げている。
なぜ逃げているにも関わらす、明け広げた場所に行くのかを考えている余裕は今の俺にはなかった。
・・・見つけた!
目視で確認できる距離まで近づいた。
俺は走りながら奴の足を止めるために、魔法で足元を砂状に変え、その砂に足が沈み込んだ瞬間に硬化させる。
そして奴の足が止まったのを確認すると、奴の頭上に放電球を作り出す。
直径10m程の球の中では数千万ボルトの無数の稲妻が飛び交い、中の電圧をどんどん高めている。
電圧はおそらく数億ボルトをゆうに超えているだろう。
それを食らえば普通の人間なら耐えられるはずはないだろう。
俺は最初から相手を殺すつもりでそれを作り出した。
いや、そのくらいでやらないと倒す事はできないのだろうと考えていた。
その放電球を奴に躊躇する事なく落とす。
放電球は奴を飲み込み、地面に半分くらいめり込む。
放電球の中は確認できないがそのまま少し経つと、かなりの音を発しながら放電球は弾けとんだ。
俺はすぐにその場所まで駆けて行く。
放電球の落ちた場所は、球の形に合わせて地面がえぐられクレーターのようになっていた。
物を消滅させる効果は付けていないはずなのだが、おそらく放電が地面に当たる衝撃で砕けたのだろう。
もしかしたら奴も消してしまったのではと頭をよぎる。
しかし、クレーターとなってしまっている場所の中心部分に奴はいた。
正確には、服や皮膚のあちこちが焼け爛れ、息も絶え絶えながらかろうじて生きて倒れているようだ。
魔法のダメージもあるだろうが、電撃による麻痺の効果も効いているらしく、動く事もままならない状態だ。
放電球を使ったのはそのためでもある。
俺は用心しながら奴に近づく。
被っていたフードを外すと、顔もかなりのやけどを負っていたが女性である事がわかった。
体は動かせられないようだが意識はあるらしく、こちらを睨んでいた。
今まで限りない程の数を犠牲にしてきたのだろう事が伺えるほどの殺意を持った目をしている。
「・・・ジュリアンに情報を与え、アリエル達を操っていたのはお前だな?」
「・・くっ、がはっ!・・ま、まさか・・貴様が・・・ここまで・・だったとは・・な」
今すぐ死にはしなさそうだが、このまま放っておいたら間違いなく死ぬであろう。
「いいから質問に答えろ!素直に答えれば、その怪我治してやる」
「・・・くっくくくく、あ~はっはっは!」
俺の言った言葉に一瞬目を丸く見開き、急に笑い出した。
「何がおかしい!」
「・・いやはや・・お優しいこって。・・殺そうとした相手を・・助けようなんてな・・笑えるだろう・・」
治してやるとは言ったが、本当は最初からそんな気はない。
そう言った方が言葉を割るのではないかと考えた為だ。
これだけの相手だ、治せばまた敵として現れるだろうし、何よりも危険すぎる。
ただ目の前の女は、俺の言葉を本気で受け取ったようだった。
「殺す気でやらなければ、お前は倒せなかっただろう?」
「ふっ・・・洞察眼も中々な・・ようだな」
俺は話しながらも少し動揺していた。
というのも、情報を吐き出させようと魔眼を使っているのだが効かないのだ。
「!!・・・なるほどな。・・貴様も魔眼を持っていたのか」
「・・・何の事だ?」
すでに何かを感じているのだろうが、あえて白を切る事にした。
「・・・貴様は何も知らないのだな・・教えてやる義理もないが・・少し教えてやろう・・・魔眼持ちに魔眼は通用しない・・・さらに言えば・・魔眼にも種類があるのだ・・・」
「お前が観ていたようにか?」
なるほどな。
魔眼持ち同士は、表面や言葉などは魔眼で見破る事ができても、相手に害を及ぼそうとすれば効果は出ないということか。
魔眼に種類があるって言うのも納得した。
おそらく俺がアリエルの部屋で見られていたのは、こいつの魔眼なのだろう。
そしてあれだけの人数を操っていた力もおそらく・・・
それにユーリも弱いとは言え、魔眼を持っていた。
ただ、どうにも精神操作まで出来るような感じではなかったしな。
「ふっ・・・これ以上は・・教えるつもりはない・・」
「・・・それにしてもイヤに素直じゃないか」
「くくっ・・素直ついでに・・先程の質問に・・答えてやろう・・・そうだ・・あの騎士に・・情報を与えたのは・・私だ・・」
「・・・」
「・・そして・・あの騎士には・・少し脚色して・・伝えておいたがな・・」
ジュリアンの忠誠心が強い事を逆手に利用し、裏で糸を引いていたのはやはりこいつだったか。
まんまと口車に乗せられてしまっていたようだな。
いや、おそらく彼自身に、俺を陥れたいという気持ちもあったのだろう。
そこを突かれてしまったのだな。
そして、あれほどの殺気と力をもつこいつが、これほどまでに素直に情報を話す事に少し不安を抱いた。
そんな俺を見てさらに話し出す。
「ふっ・・・どうやら・・私がなぜ話したのか・・不安を感じているようだな・・その不安は・・・当たりだ・・」
「何!?どういことだ!」
俺が不安を抱いていることに気づき、さらにそれが間違っていない事を告げられた。
「私が話すことで・・・貴様の注意をこちらに・・・向けていたのだ・・・本当の目的は・・・ユリエス王女だ・・」
「!!」
「さらに言えば・・私は・・貴様をおびき出し・・弱らせるための・・捨て駒だ・・・私の術をやぶり・・・追ってこさせ・・・そして・・私を倒すまでに・・どれだけの魔力を・・・消耗した?」
「こいつ!!」
迂闊だった・・・
こいつ以外に敵がいる可能性を考えなかったわけではない。
ただ頭に血が上り、アリエルを助ける為に必要以上に魔力を使い、こいつを倒す為にも必要以上の魔力を使ってしまった。
冷静に考えれば他にもやり方はあったはずだ。
すぐにでもユーリの所に行きたい衝動にかられたが、先にやらなければならない事がある。
俺はまんまと敵の策に乗ってしまった事を告げられ、目の前の敵の首を掴んだ。
そして可能な限りの全ての力を『吸収』する。
「き、貴様・・!こ、こんな・・・能力まで・・・持っていたとは・・・」
俺は相手が死ぬギリギリまで力を奪い取る。
目の前の敵は、これ以上何もしなくても息絶えるだろう。
しかし、俺はこいつをこのまま残しておくと危険だと判断した。
死体を残したままにしておくと、そこから俺と接触した時の情報が抜かれる可能性も考えたからだ。
俺はこいつから魔力も少しは回復できたため、今度は魔力を抑えながら右手を上げ、その上に2m程の大火球を造りだした。
灰すらも残すわけにはいかない。
俺はこの世界の事を知らなさ過ぎる。
もしかしたら俺の知らない魔法などにより、灰からでも情報を抜き取る事が出来るかもしれない。
そしてその情報が読み取られ、俺自身だけが危険になるだけならば構わない。
しかしその事によって、少しでも周りに被害を及ぼしかねないのであれば・・・
ならば俺は・・・
修羅に身を落としてでも守り抜く!!
俺の出した大火球を見た目の前の敵は、臆することなく呟いた。
本当は、最初から俺がこいつを治療する気がない事を見抜いていたのだろう。
「今も・・・お前は・・・監視されて・・・いる・・・私を殺した所で・・・お前にはもう・・・勝ち目は・・・ないのだ」
「そうか・・・もうお前からは情報は得られないのだろう?言い残す事はないな?」
「・・・最後に・・・貴様の名前・・・聞かせてくれ・・」
ふん、白々しい。
すでに俺の事は知っているだろうに。
「わかった、冥土の土産にしてやろう。だが別に覚えなくていい・・・俺は星野響也だ」
「キョウヤ・・・私は・・・ミランダだ」
「そうか、ミランダ。じゃあな」
自分でも悪役みたいだなと思いながらも、あえて聞かされた名前を呟きながら大火球を落とす。
目の前の敵が大火球に包まれ、中に吸い込まれるように浮き上がって燃えていく。
しばらくミランダの体を燃やし、全てを無に返した所で大火球は消える。
消えた後には灰すらも残ってはいなかった。
『称号:<揺ぎない意思>と<修羅>を獲得しました』
頭の中に声が聞こえる。
修羅はわかっていた通りだが、もう一つ称号を獲得したのか。
が、そんな事を考えている場合ではない。
魔力感知でかなり遠くの方にこちらを伺っている。
さっき、あいつが言っていた通り全部見られていたわけか・・・
しかし、今は監視者に構っている暇はない。
監視者を一瞥し舌打ちをしながら、俺は急いでユーリの元へと向かった。




