第1話 日常から非日常へ・・・
午前の授業が終り、昼休みに入っているのだが響也は窓の外をながめていた。
響也は退屈していた。
いや、退屈というのには御幣がある。
現状に不満はないし、それなりに充実もしていた。
ただどこか物足りなさを感じていたのだ。
響也は見た目は悪くはない。
それどころか格好いい部類に入るだろう。
しかし生来の若干目つきが悪い事と口の悪さに加え、髪は金髪で短くも長くもない髪がはねている為、不良と思われ中学時代は孤立していた。ちなみに金髪は地毛なのだが。
校外でケンカをしているという噂 (ケンカには理由があるのだが)も原因の一つである。
一人の時間が多くなり街をふらふらすることもあったが、トラブルに巻き込まれる事も多かったために、家でゲームや漫画・小説などで時間をつぶす事が増えていった。
しかし高校に入ってから、そんな彼にお構い無しに話しかけて来たクラスメイトがいて、それがきっかけに少しずつ仲のいいメンバーができてきた。
一年間彼らとバカな事をやったり、くだらない話でもりあがったりなど色々してきた。
響也にとっては今まで無かった経験であり、不満などあるはずがない。
しかし心の中では何か満たされていない自分にも気づいていた。
そんな物思いにふけっていると
「響也、また自分の世界に入ってる。それだけでお昼おわっちゃうよ」
後ろから急に声をかけられた。
振り返るとそこには、少し呆れたように笑う女の子がいた。
「真鈴か・・・」
桜井真鈴、黒髪の触ると柔らかそうなサラサラなロングヘアーで右側に花型の髪留めをつけていて、かなりの美人であり、その顔で笑顔を向けられて落ちない男は居ないと噂されるほどである。
もちろん勉強も運動もでき、校内でも1,2を争うほどの人気がある。
去年は一緒のクラスだったのだが、2年からは別のクラスになったというのに毎回お昼を誘いに来ていた。
「まあ響也だし、いつもの事でしょ」
こちらに向かいながら声をかけてきたのはクラスメイトである橘流星だ。
流星とは一年の頃から一緒で、響也に初めて声をかけてきた最初の友人である。
響也より少し背が高くかなりのイケメンで人懐っこい性格であり、勉強・運動共にトップクラスで生徒会にも所属している事もありかなり人気がある。
彼が友人となってくれたおかげで響也に少しずつ友人が増えていったこともあり、口に出すことは決してないが感謝はしている。
「とにかく二人がいつのも場所で待ってるから早く行こう」
「そうだね、昼飯抜きなんて嫌だしね」
真鈴が響也の腕をひっぱって連れて行こうとする。
それを後押しするよう流星が響也の背中を押す。
「ちょ、ちょっと待て!引っ張るなって!」
「待ちませ~ん!」
「待ってたら、響也はいつまでも動こうとしないもんね」
二人にそういわれ、強引に連行される響也であった。
響也は途中で購買に寄りパンを買い、二人と一緒に中庭に向かった。
そこにはテーブルとイスがいくつか並べられ、何人かの生徒がそこでお昼を食べていた。
その中のいつも響也たちがお昼を食べているテーブルへと足を運ぶ。
先に場所を確保していた二人が手を上げて響也たちを招いた。
「今日は意外と早かったじゃないか」
「本当だよねぇ、もう少し待つかと思ったよね」
若干の皮肉を込め、佐々木健太と涼風美咲が言った。
佐々木健太、身長180cmちょっとあり体格がよく短髪で男前な感じであり、彼も一年の頃は響也とクラスメイトである。現在は別のクラスになってしまっている。
涼風美咲、身長は150cmちょっとくらいでちょっと小さめで、長めの髪を左上の方で束ねており、可愛らしいという表現があっている女の子。
彼女も1年の頃の響也のクラスメイトである。
現在は真鈴と同じクラスであり、真鈴が響也と流星を、美咲が健太を呼びに行くというのが習慣になっている。
この5人は一年の頃に親友と呼べるほど中がよくなったメンバーで、響也以外は自分のクラスに仲いい友達が他にもいるのだが、クラスが別れてしまった今でもお昼はこのメンバーで食べるというが暗黙の了解になっていたのだ。
「そりゃあ、無理矢理ひっぱってこられたしな」としぶしぶ顔の響也。
「あまり二人をまたせられないでしょう?」と笑顔の真鈴。
「まあ待たせたら待たせたでお二人さんにはよかったのかもねぇ」とニヤリと笑う流星。
「な、何いってるのよ。健太とはそんなんじゃ・・・」とあせった様子の美咲。
「そ、そうだぞ!美咲に失礼じゃないか!」と顔を真っ赤にする健太。
「まあ、いいからさっさと飯を食おうぜ!昼休みがなくなるぞ」そのやりとりに構わず勝手な事を言う響也。
「「「「お前がいうなぁ!」」」」
全員から突っ込まれてしまった。
響也はこの4人といると楽しかったし満足もしていた。
しかし、たまに無性にいたたまれない気持ちになることもあった。
自分はこの中に居てもいいのだろうか。
4人に甘えてしまっていていいのだろうか。
もしかしたら自分が居なくなっても何も変わらないのではないだろうか
むしろ居なくなってしまったほうがいいのではないだろうか。
そう考えてしまうのは、この4人が自分と居るせいでよく思われていない事を知っているからである。
しかしそれは極一部の事で、実際には5人の仲のよさを羨ましく思ってる人が大半であり、響也自身も女子から人気があるのだが、4人(特に瑞穂と美咲)がよく近くにいる為に遠くから見て噂する事しかできない事が、皮肉にも響也の勘違いに拍車をかける事に繋がっているのだ。
放課後、流星は生徒会があるため生徒会室に向かう。
「じゃあ響也また明日な」
「おう!」
手をあげてそれに応える。
流星が行ってから、響也は教室に残っていた。
というのも、真鈴と美咲から買い物に付き合って欲しいから教室に迎えに行くといわれていたからだ。
健太は柔道部に入っているので、部活があるために今回は誘われていない。
他のクラスメイトも各々が部活や委員会に行ったり、すでに帰宅をしていてクラスにはほとんどの生徒が残っていない。
響也の他には4人だけがまだ残っていて話をしていた。
そこに
「響也お待たせ~!」
「珍しくちゃんと待っててくれたようね」
真鈴と美咲が教室の入り口から響也に向かって声をかけてきた。
「ぼぉ~っとしてないで、早くいくよ~!」
「ああ、行っていいぞ」
「またそんな事いって~。私達が先に行ったら、絶対こないつもりでしょ?」
「全く相変わらずよね、響也は」
頬を膨らませて怒る真鈴と、いつもの事と苦笑いをする真鈴。
「真鈴、これは強引にでも引きずっていかないといけないようね?」
「うん、そうだね!無理矢理にでも連れて行くよ!」
そう言いながら2人が入ってこようとしたところで響也が席を立った。
「わかったわかった、今行くから」
響也が真鈴と美咲に向かって歩き、4人のクラスメイトが居る辺りに差し掛かった瞬間に、急に目の前が光で真っ白になった。
真鈴と美咲は呆然とした。
目の前で何が起こったのか、全く理解できずにいた。
響也の近くで急に光が現れたと思ったら、4人と一緒に響也も光に包まれていき、まぶしさに目をつぶった。
次の瞬間には響也を含む5人がそこから消えていたのである。
しばらくの間、声も出せずに放心状態となっていた二人だが
「き、きょうや・・・?」
ようやく声を絞り出した真鈴、そしてもう一度声をだす。
「え・・・?響也どこにいったの・・・?」
その真鈴の声に我に帰った美咲が震える声で
「響也が消えた…?」
その美咲の声に
「そんな・・・うそ・・・うそでしょ・・・?」
「きょうや・・・いつもの・・・じょうだんよね・・?」
美咲の言ったことに信じられない真鈴。
自分で言ったことを信じたくない美咲。
二人はなんとか動き出し、教室中を探し回った。
その結果、どこにも響也は見当たらなかった。
「きょうや・・・きょうやああああ!」
「う・・・う・・・きょうや・・・」
泣き叫ぶ真鈴を抱きしめながら、美咲も静かになきだした。
二人は響也がいなくなってしまったことを実感してしまい、抱き合いながら泣くことしかできなかった。