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第16話 傭兵として数日



それからユーリに稽古をつけるべく訓練所へと向かう。


騎士団が使っている訓練所は王宮の敷地の外にあり、王宮の周りに守るように騎士団の宿舎やその訓練所があるそうだ。

普段ユーリはそこの訓練所で騎士団と訓練をしているのだそうだが、今回は俺と訓練するということで王宮敷地内の王族や側仕えが使用する訓練所を利用する。

俺が異世界人で特殊な能力があるという事をばれないように配慮してくれたのだろう。


訓練所は屋内と屋外に分かれており、今日は簡単な剣の稽古がしたいとの事だったので屋内で稽古をする事になった。

様々な訓練用の武器があり、ユーリと剣を持ち向かい合う。

その間タマモとリーエは見学をしているようだ。


タマモは元々かなりの妖力があり、リーエもハーフエルフなだけあって魔力量は半端ではなく、魔法を使うわけにはいかない。

二人とも武器を使わないわけではないようだが、ここで訓練をする必要がないと言っていた。



ユーリが剣を振りかぶって攻撃してくる。

騎士と訓練しているだけあって剣の振りはするどいのだが、イシュタールの騎士もそうだったが、いかんせん剣筋が素直すぎて避けやすい。

そして一度剣を振るとそこで一旦攻撃が終わってしまうようだ。

二手三手先のことを考えながら剣を振るように教える。

剣を振り下ろし、かわされたら切り替えして薙ぎ払う、敢えて避けられるもしくは受けられるような攻撃をして誘い込むなどだ。


あと、こういう剣だと叩き切る使い方をしないといけない為、どうしても大振りになってしまうのも仕方がないのだが、それをするのであれば振りかぶってから相手に向かうのではなく、最後の一歩を踏み込むときに一瞬振り上げるやり方なども教えていく。

ただ、このやり方にはそれなりの筋力や瞬発力とそして慣れも必要だ。


どちらにしても一朝一夕には出来ないだろうから毎日練習する事を心がけさせる。


騎士との訓練だと素振りと試合形式の事しかしておらず、こういうことまで教えてくれてないそうなので充実したと喜んでいた。


少しユーリに素振りをさせている間に、俺も外に漏れ出す魔力を抑える練習をしておく。

前にやったときにこつを掴んだがまだ甘いみたいなので、もう少しやれば完璧に出来そうだ。


それに関してはタマモとリーエがほぼ完璧にできているので、見てもらいながら練習した。

アドバイスを受けながら、前回やったように体の周りを包み込むようなイメージをしつつ、体の内側に押し込むような感覚を身につける。

かなり集中して内側に魔力を押し込んでいく。

しばらく続けていると、ガブリエルがほとんど魔力を感じなくなったと言っていたので成功したようだ。


これで相手の魔力感知を誤魔化せるし、魔力で色々とばれるような事も少なくなるだろう。

これからも日々続けていって、ほぼ0の状態まで近づけようと考えている。


ユーリの素振りも終り、汗をかいたので備え付けのシャワーに入りたいと言って来た。

シャワーは昔召喚された異世界人が広めたらしい。

まだ一般的ではないようだが、貴族以上の家には大体あるそうだ。


「俺も汗かいたし、折角だからシャワーで汗を流すかな?」

「え?え?そ、そんな、まだ早い・・です・・・」


え?何が・・・?


「え?ちょ、ちょっと、ユーリさん!ずるいです!」


ずるいって何だ?


「じゃあ、あたしも入る~!」


うん、もちろんユーリと一緒にってことだな?


(あ、キョウヤ~、私の事は気にしないでね~)


ガブリエルはお前って奴は・・・



・・・いや、つーかお前ら全員何言ってんの?

うん、全く意味がわからん。

これはスルースキル全開だな。


という事で俺は一人、スタスタと男性用へと向かって行く。


「ちょ、ちょっとキョウヤ放置プレイは酷いです!」


ユーリよ、どこで覚えたそんな言葉!


「最近キョウヤさんの私に対する態度が酷いです!」


うん、最初のイメージは丸崩れだな。


「きょうや待ってよ!置いていかないで!」


置いていくも何もお前は女性用だろう。


(ふんふん~♪)


いやガブリエル、お前はなんで俺についてくる。


その後も全員が俺についてきていたので、全員強制退場させシャワー室に入る。

侵入防止結界(エントリープリベンション)を張って安心してシャワーに入る事ができた。


ある意味、彼女達のおかげで結界を使う事ができるようになったので、そこに関しては感謝する事にしよう。


外で何やら声が聞こえる気がするのは、全くの気のせいだろう。



何だかんだで全員がシャワーに入りさっぱりしたところで、ユーリの仕事部屋へと移り護衛の仕事をする。

護衛といっても特に何もすることはなく、ユーリの仕事を近くで眺めているだけだ。


ユーリは王女とは言え、第二王女なので王位継承権の序列としては低い為、自ら進んで国政に関わっている。

本来であれば王女がすることではないのだが、国民を思うユーリの人の良さがそうさせているのだろう。


その主な仕事は税政や国民調査である。

もちろん税政と言っても、ほとんどは大臣が決める事が多い。

その大臣が決めた事に不正はないか、無駄な事はないかをチェックする事が大半を占める。

ユーリは国民調査もしている為に、直接ユーリが口を出すこともあるのだが、その都度大臣たちともめる事も多いようだ。


今ユーリはその書類のチェックをしている。

俺達はユーリが仕事をしている机の正面に配置されている、応接用のソファーに腰をかけながらユーリの仕事姿を見ていた。


こうしてみると美人だし、仕事が出来るキャリアウーマンという感じだな。

騎士としての側面もあるし、ユーリは何事にも一生懸命なのだな。


最近、俺達に慣れてきたせいか多少残念な部分も見え隠れしてきたが。


しばらく眺めていたせいか、視線に気が付いたユーリが少し顔を赤くして口を開いた。


「あの、キョウヤ?そんなに見られると恥ずかしいのですが・・・」

「ああ、すまない。ユーリに見惚(ミト)れていた」

「~~!!み、見惚れて!」


??

別に変なつもりで言ったわけではないんだが、いきなり慌てだしてどうしたんだ?


「ちょ、ちょっと!キョウヤさん!な、な、何を言っているんですか!」

「きょうや!浮気はだめだよ!」

(そうだよ~キョウヤは私のもの~!)


・・・

いや、こいつらは何を言ってんの?

タマモ、浮気ってなんだよ・・・

ガブリエルは相変わらず訳わからん。


「ユーリさんを口説いてるんですか?口説いてるんですか?」


なぜ二回言った?


「いや、なんで口説いてるなんて発想になるのか知らんが、ユーリが真面目に仕事している姿がカッコいいなと思っただけだ」

「~~~~~っ!!」


さらにユーリが顔を真っ赤にしてしまった。

俺なんか変な事いったか?

自分で言っておいてなんだが、女性にカッコいいなんて褒め言葉になってないだろう。


黙って顔を下に向けてしまったユーリから顔をそらし、俺の周りでわーわー騒いでいる三人を尻目にしばらくの時を過ごした。

この状態じゃユーリの仕事はいつ終わるのやら。


昼食もユーリの仕事の合間にとり、今は夕方になっている。

昼食はメイドが仕事部屋に運んできてくれた。

さすが王宮なだけあって、豪華な食事だった。

イメージとするとフランス利料理だろうか?フランス料理なんて食べた事ないからわからんが。

なので量は少なかったのだが、味は抜群に美味かった。


とりあえず今日やる事は終わったので宿舎に戻ってきてくつろいでいる。

夕食は意外にもユーリとリーエが料理を出来るらしく、ありあわせの物を使って作ってくれた。

あまりに美味しくてぽろっと口をこぼす。


「・・・美味いな。これなら毎日でも食べたいな」

「「「!!! (!!!)」」」


皆一斉に固まってしまった。


え?俺また何か変な事を言ったのか?

素直な感想を言っただけのつもりだったんだが・・・


「キョ、キョウヤ・・・そ、それは・・・」

「え?え?キョ、キョウヤさん?それって、遠まわしな・・ゴニョゴニョ」

「きょうやの浮気もの~~!!」

(ああ、私もキョウヤの胃袋を掴む事が出来れば~!!)


・・・なんだろう。

最近こんなことばっかり名気がする・・・


余計な事は言わないようにしようと心に決めた瞬間だった。



この部屋にはありがたいことに風呂も備え付けられている。

数人が入っても余裕がある風呂で、一人で入るには広すぎるくらいだった。


そこでまた困った事が・・・


皆に先に入る事を勧めたのだが、先に入っていいと押し切られ現在入浴中。

すると浴室の外から・・・


「キョウヤ、湯加減はどうですか?」

「ああ調度良くて気持ちいいな」


脱衣所からユーリの声が聞こえ素直に答える。


「それは良かったです」

「では、私がお背中を・・・」

「あたしも一緒に入るね!」

(もちろん私はオッケーだよね~?)


・・・はあ

ガブリエル、何がオッケーなんだよ。


とぼやきつつも特別心配はしていない。


「くっ!なんですか!?」

「う~!開きません!」

「ちょっと、きょうや入れてよ!」

(キョウヤのいけず~!!)


ガブリエルどこで覚えたそんな言葉。

俺はすでに最悪のケースを考え、覚えたての侵入防止の結界を張っていたのだ。


外から聞こえる声をBGMに、一人浴槽に浸かり優雅な時間を過ごすのだった。

ビバお風呂。



今日は順番でユーリが俺と同じ部屋のようだ。

もちろんベッドは別にするように言ってある。

さすがに侵入防止の結界はかわいそうな気がするので、ユーリも王女だし信頼することにしてそのまま寝る事にした。


そう思っていた時期が俺にもありました。


その考えは甘かったようだ。


目を覚ますと俺は柔らかい物に包まれていた。


俺を抱き枕にしてユーリが隣で寝ていたのだ。



それからは昨日と同じような目にあい、これ以降数日も風呂と夜は同じ事の繰り返しだったので早々に諦める事にした。

さすがに風呂だけは死守したが。



そして数日間は時にはユーリの実践として魔物を狩りに行き、素材をハンターギルドに売りにいき魔物から『吸収』した力を少しずつさりげなくユーリに譲渡し、時にはユーリの仕事を横目に眺め、時には稽古をつけるなどをした。


ちなみにユーリは王女である為、ハンター登録は出来ない事はもちろん、リーエは歌姫として世界各地をめぐっている為に身分証を作る必要がないためにハンター登録はしていない。

リーエ曰く、人間用の身分証を作っているから問題ないとの事。

さすがに人間の力ではハーフエルフの偽造を見破れる者は、そうはいないのだそうだ。



王宮敷地内の訓練所でユーリの稽古をつけている時、たまにユーリの姉であるアリエルが顔を出しドリンクの差し入れなどをしてくれる等、お茶を濁していった。

ユーリが心配なのであろう、俺の事を色々と聞いていた。

その時はなぜか他の面々が、特にユーリが恐い顔をしていた気がするのだが、それは多分気のせいなのだろう。



魔物との戦闘ではメインをユーリにして、俺やタマモ、リーエはなるべくサポートする役割とした。

ユーリは両手剣を使い魔物に攻撃を仕掛ける。

たまにユーリに危険がある時は、タマモが魔物に攻撃を仕掛けていた。


タマモにも近接戦闘ができ、妖力で伸ばした爪で攻撃をする。

他にも尻尾を巨大化してなぎ払う事もできるようだが、これはほとんどしないとの事だ。


リーエの武器は弓であり、それは俺が羨むほどの腕の持ち主である。

他にも様々な魔法を駆使する事ができるそうだ。


タマモもリーエも魔力量はかなり多く、ユーリからすると異常なほどらしい。

さらには精神異常への耐性や、ある程度の物理攻撃耐性があるようだ。



そして毎回ではなかったのだが魔物を狩る時に最初と他に数回、ユリエスの護衛として宮廷魔道士のイザベルと神聖協会術士のミシェルも同行していた。

ユリエスの護衛というよりは、俺の監視役といったところだろう。

さすがに王に少しは信頼されたとはいえ、得体の知れない相手である事には違いはない。

俺を用心しての事だろう。


彼女らが同行中は下手な事を出来ないので、なるべく力を隠すように戦ったりしていた。

イザベルはあの時の魔法を見せてほしいだとか、あの時の魔法を覚えた経緯は本当に覚えてないのか等しつこく質問してきた。


熱心なのは構わないのだが歩きながら話していた為、隣に並んで歩くイザベルは体をピッタリと寄せつつ顔を近づけて聞いてくるのには参った。

なぜなら、後ろからどす黒いオーラを3つ+α感じたからだ。

俺は魔法に関し話を適当に濁し、それに合わせてユーリからの助け舟もあった事でなんとか納得させた。


ミシェルはミシェルでたまに隣を歩くのだが、司祭服を着ていてもわかるほどのたわわな果実を、俺の腕を取って押し付けてくる。


くっ!そんな精神攻撃には屈し・・・屈し・・・屈しました。


そんな俺を見てニコニコと笑い、やはり後ろでどす黒いオーラを感じてはそちらをちらりと見てニコリと笑う。

ミシェルはあの時あまり俺と話せなかったので話してみたいというのが一番だったみたいだが、人をからかう事も好きなようだ。


俺には彼女がわかってて「あらどうされましたの?」とか、俺達を見てオーラを発していた3人に向かって「あら、そんな恐い顔をされていては、嫁の貰い手がありませんのよ?」などといってからかっていた。

それは悪意とかそういうものではなく、純粋にそれが楽しい、その雰囲気を楽しんでいるというだけなので怒るに怒れなかったのだ。



そして俺はイザベルやミシェルがいない時には、双剣や槍など熟練するのは難しい武器の訓練をしたり、魔法の特訓に時間を費やしたりした。

その時に一番時間を費やし覚えた魔法が転移魔法。

空間を広げそのまま別の場所に直結する事で、タイムラグがなく望んだ場所へ行ける。

魔法はイメージが重要な為、行った事のない場所には行く事は出来ない。

さらに、まだ慣れていないため、そんなに遠くまでは空間を繋ぐ事も出来ない。


空間転移を始めて成功させた時には、そこにいた全員に「ありえない!」と驚かれた。

というのも空間魔法を扱える者がほとんどいないという事、もし使えたとして空間を別の場所に繋ぐとすると、きちんと向こう側の座標を認識出来ないと繋ぐ事が出来ないという事らしい。

しかも魔法陣を使っての転移ならまだしも、目の前の空間に人一人通れる大きさの穴を開ける事は異常だそうだ。


そんなこと言われても出来てしまったものは仕方がない。


さすがにユーリに、これが使える事は絶対に秘密にする事を約束させられた。

まあ俺自身、最初から大っぴらに使う気はなかったのだから問題はないが。



他にも以前のこともあり、魔力感知の制度を上げる事を意識した。

今までの魔力感知の範囲が半径500mくらいだったものが、半径1kmくらいまで広げる事ができた。

さらに地下にも意識を向ける事により、下方向にも魔力感知を広げる。

これで地下や地中に潜んでいても探知する事ができるだろう。


広げた魔力感知に遠くの方で反応があったのだが、特に動きもなく危険性も少なかったようだったので、気にするのをやめた。

ただそれを感じた時は念の為、あまり知られたくはない魔法などに関して使うのを控えている。



ユーリが自分の仕事をしている時にはその傍らで、侵入防止結界を張ることが出来た事でさらに遮音結界(サウンドインスレイション)もなんとか出来るようになった。

認識阻害はここで発動できるようになってしまうと、万が一監視している者に感づかれてしまうと面倒な事になると考え残念ながら練習はしていない。


ちなみに物理防御膜(シールド)魔法防御膜(アンチマジックシールド)を自分に纏わせる事も出来るようにしている。

魔法防御膜は回復魔法まで効かなくなってしまうと困るので、身体・精神に害を及ぼす魔法に対して防御できるようにした。

シールドは自分用だが、その範囲を広げる事で物理防御結界(シールドバリア)魔法防御結界(アンチマジックバリア)として使う事が出来るようにしてある。



それから10日後の事。

ユーリの仕事部屋で護衛をしている時、部屋がノックされた。


コンコン!


ユーリが「どうぞ」と声をかけるとドアが開かれた。


「失礼致します。キョウヤ様、アリエル様がお呼びでございます」

「ん?俺か?」


入ってきたのはメイドで、アリエルが俺一人を呼んでいるという事だった。

タマモとリーエもついて来ると言っていたが、呼んでいるのは俺一人という事だったし、ユーリを一人だけにするわけにはいかないので、タマモとリーエはそのまま護衛をするように頼んだ。


アリエルは部屋で待っているという事なので、案内をしてくれるメイドの後について行く。

部屋のまでメイドの足が止まり部屋をノックする。

中から「どうぞ」と声がかかり、メイドはドアを開け深々と礼をする。


「キョウヤ様をお連れ致しました」

「ありがとう、ご苦労様です」


その声を聞き、メイドは部屋を後にする。

部屋の中にはアリエル以外は誰もいない。

いくら俺がユーリの護衛とは言え、無用心すぎはしないだろうか。


「キョウヤ様、ご足労恐れ入ります」


アリエルの様子が訓練所で会った時とは、少し雰囲気が違う気がする。

いや、雰囲気というよりは違和感があると言った方がいいだろうか?


「いや、それは構わないが、どんな用件なんだ?」

「あら、つれないですわね。ユーリとは仲良くして下さっているのに、私とは仲良くしてくださらないのですか?」


・・・やはり何かがおかしい。

アリエルとはそんなに会っているわけではないが、それでも分かる程に違和感が拭えない。


「・・・そんな話をする為に呼んだ訳じゃないよな?」


俺は平静を装い、違和感を拭う為に話の続きを話すように促す。


「あらあら、せっかちな殿方は嫌われますわよ?」

「・・・」


俺はいつまでも本題に入らない事に、少しだけイラっとしてしまった。


「そんな恐い顔をされては、折角のお顔が台無しですわよ」


そう言いながらアリエルは近づいてきて、俺の顔に軽く手を添える。

そして彼女が顔を近づけてきて、耳元でぼそりとつぶやいた。


「・・・・・・」




次の話からシリアスな展開がしばらく続きます。

少し長くなりそうなので

一話を今までよりは短めにして2、3話に分けようかと思っています。

出来次第によりますので、今のところはっきりとはわかりませんが。

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