第15話 王との謁見
一度宿屋に戻り、もう一日止まる予定だったがキャンセルする事を伝え、一泊分の料金はそのまま返さなくても大丈夫と言っておいた。
その後はユーリが貸してくれた部屋へと戻り、そのまま部屋で過ごす事になった。
・・・しかし、寝る時が一番大変だったのだ。
誰が俺と同じ部屋で寝るのかという事で揉めに揉めた。
いや、俺ソファーで寝るから、という意見は却下されてしまった・・・
却下というよりは、俺がソファーで寝るなら自分もソファーで寝ると全員が言い出す始末。
きりがないので、俺から提案する事にする。
「じゃあ、毎日交代にすればいいだろう?その代わり俺のベッドに入り込む事は禁止!特に誰とは言わないが、タマモ!」
「ちょ、ちょっと名指し!?誰って言わないって、言ってるじゃん!」
珍しくまともなツッコミをするタマモは放っておく。
そりゃあ、俺も男だしこんな綺麗どころばかりいるのであれば嬉しくないはずはない。
でも、だからこそきちんと線引きだけはしておかないとな。
全員渋々ながら了承した。
しかしその後、また今日は誰がこっちの部屋だの明日は誰だのと、論争が始まってしまった。
もう付き合いきれないので先に寝る事にする。
おやすみぃ~
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・事件だ!
事件です、母さん!
体が動きません!
くっ!何かに縛られているような!
しかしそれでいて何か柔らかい物に包まれているような・・・
目を開ければそこには・・・
絶世の美女が!
・・・
何の事はない、リーエであった。
ふぅ、なんだリーエかよ!
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・って、おい!
どうやら俺が寝た後、俺と同じ部屋で寝る事になったのはリーエのようだ。
だが、俺は別のベッドで寝る事を約束したはずだ!
リーエはロングTシャツの様なもの一枚しか着ていない。
そして、なぜ俺を抱き枕にして寝ていやがるのだ!
嬉しいじゃないか!
いや違う!
気持ちいいじゃないか!
いや、俺は何言ってんだ!?
寝ぼけた頭をなんとか正常にもどし、リーエを起こすために声を出そうとした瞬間。
バンッ!
部屋のドアがすごい勢いで開けられた。
「やっぱり!何やっているんですか!リーエさん!」
「ああ!ずるい!なんでリーエはいいのさ!」
ユーリとタマモが猛烈な勢いで入ってきて喚き始めた。
てかタマモさん、俺は許可はしていないんだが。
揺すられても中々起きないリーエ。
そして俺の腕ごと抱くような格好でいるため、俺も抜け出せない。
しかも意外な事に、結構力が強いのだ。
しばらく揺すられてから
「ふにゅっ・・・う~、なんですか~?」
なんだこれ?
かわいい!
あの綺麗な顔から、自然と出た声。
危なくときめく所だった。
いや、別に危なくはないはずなんだが・・・
まだ目が開かず寝ぼけているリーエをさらに起こそうとしているユーリ。
「はっ!ここはどこですか!?え?なぜキョウヤさんが私の腕の中に!」
しらじらしいにも程があるな、この確信犯め。
なぜ私の腕の中にとかいいつつ、未だ離す気はないし。
「リーエさん?いい加減にしないとここからたたき出しますよ?」
「そうだよ!きょうやも私だと怒るくせに、なんでリーエには何も言わないのさ!」
「怒りたくても、俺リーエにがっちり抑えられていて動けないんだわ」
「ふふ~ん、私をなめてもらっては困ります」
やばい、そろそろユーリが本気怒りそうだ。
タマモも段々不機嫌になってきている。
リーエ、お前は何を言ってるんだよ・・・
「リーエ、そろそろマジで離してくれ。ユーリは、あれマジで言ってるぞ?」
「え?・・・」
俺がリーエに離す様に訴えた後、恐る恐るユーリの方に顔を向ける。
すると、般若の顔がそこにはあった。
いや、錯覚なのだがそうにしか見えないほど怒っているようだ。
ギギギギギと機械のようにゆっくりと俺から離れていく。
素直に離れたリーエはゆっくりと正座をしながら、タラタラ脂汗をかいている。
「全くリーエさんは油断も隙もない!次やったら、本当に追い出しますからね!」
「わ、わかりました・・・」
ユーリに怒られて素直にリーエは謝った。
「あ~、ところでお前らもちゃんと着替えてから来いよ。目の毒だ」
顔を横にフイッと向けながら現状を伝える。
ユーリは自分とタマモの姿を確認すると・・・
「きゃあ!私ってば!タマモちゃんもなんて格好を!」
ユーリはさすがに下着は着ているとはいえ、なぜかスケスケのネグリジェ姿で来ていた。
タマモは相変わらず裸だし。
なんてうれし・・・じゃなくて、男の前で無防備な姿を晒すんじゃない!
「リーエもいつまでそんな格好でいるんだ。早く着替えろよ・・・」
「ちょ、ちょっとキョウヤさん!私の着替えが見たいなんて、なんて大胆・・・イタッ!」
ずっと喋らせると変な事を言いそうだったので、デコピンをしておいた。
「俺は居間にいるからな」
そういって部屋を出て行く。
そして一人ソファーに座り昨日の夜に話した事を整理していく。
以前に聞いた事だが、ガブリエルはこの世界の情勢には大まかな事しかわからない。
他の平行世界も担っている上に信託が主な仕事な為、この世界の住人がどういう事をしようと関係ないからだ。
だから俺はこの世界の事を、この世界の住人に色々聞いて知っていかなければならない。
それも人間だけでなく様々な種族とだ。
そこでまずは人間の事から知らなければならないと、ユーリから話を聞いたのだ。
俺はイシュタール王から聞いた話を伝えると、人間側としては概ね間違ってはいないのだと。
ただそれはユーリも聞いた話であるために、本当のところはわからない。
というより、その話自体が疑わしいという。
それは俺が王から聞いた時に感じた違和感と同じようなものなのだろう。
ユーリとリーエが種族間の調和を望んでいるという話を聞いて、その違和感がなおさら強くなった。
というのも、どうにもある一定の方向に意図的に向かうように仕向けられているように感じるのだ。
もし本当に全ての種族でいさかいがあるのであれば、なぜ二人は調和を望む?
それに思っていたよりも住民に危機感が無く平和な気がする。
まあ、ずっと恐がりながら生きていくものではないのかもしれないが。
もちろん種族間が相容れないという事に関しては本当なのだろう。
リーエがその壁を取り払おうと活動をしているのだから。
人間側の情報は、もっと上の人間に聞かないとはっきりとした事はわからないのかもしれない。
リーエからも話は聞いた。
これは前にも聞いた事だが、リーエが住んでいる所は聖域の森。
そこには樹人種や樹精霊などが住んでおり、森の侵入者を防いでいる。
防いでいるといっても攻撃するのではなく、基本的には魔力で結界を造り方向を狂わせて元の場所へ戻すようにしている。
それでもさらに奥まで進入してきた場合には、やむを得ず攻撃をする事もあるらしいがそれは本当に最終手段としてらしい。
その聖域の森の真ん中に位置する、聖樹である大木の上に住んでいる。
聖樹はもちろん結界内にあり、結界には認識阻害効果がある為に外からは見えなくなっているそうだ。
それだけでなく、聖樹は世界を支え倒れれば世界が崩壊するとまで伝えられている為に、全ての種族において不可侵領域となっている。
それはドラゴンですら例外ではない。
ドラゴンも新竜だと知性が弱い為、進入をしようとする者もいるようだが、知性を持つドラゴンだと進入する事はまずないそうだ。
さすが異世界。ドラゴンまでいるんだなと感心した。そのうち会ってみたい、とも。
ちなみに、ハーフエルフは本当なら世界の監視者・聖樹の守護者として聖樹から出てはいけないそうなのだが、リーエは他種族同士でも仲良くしてほしいと森を出てしまったらしい。
世界の監視者といっても、森に害をなさないかどうかの監視が主らしいが。
それもあり、リーエは他の種族の事に関してはあまり知らないようだ。
それに巡演していたといっても、そこの住民とのコミュニケーションを取っていた訳ではなかったみたいだし。
ユーリとリーエからこの世界の事について聞いたのはそれくらいである。
後はこれからの事。
さすがに数日間とはいえ王女の直属の傭兵になるのだから、王に挨拶しないといけないという事でこれから王に会いに行く。
その後稽古をつけて欲しいといわれているから、ユーリに稽古をつける事になる。
稽古といっても俺は大したこと教える事出来ないといったのだが、とりあえず俺と手合わせをして欲しいとのことだった。
その後は王女としての業務もあるから、その間警護をしてほしい言われた。
とりあえず今日の予定はそんなところだ。
昨日話した事を考え区切りのいいところで、三人とも着替えを追え居間に出てきた。
俺も部屋に戻りすぐに着替える事にする。
・・・・・おい!
「・・・お前ら、よほど説教を食らいたいらしいな」
三人はドアの隙間から覗いていやがった。
ビクッ!
三人は蜘蛛の子を散らすようにサササッと即逃げる。
ったく!
・・・・・
「・・・お前はそこで何をやっている」
(ほへっ!?壁通り抜けの術~・・・なんちて~・・・)
ガブリエルが壁から顔を出していた。
俺が気づかないとでも思っているのか!?
「・・・今すぐ顔をひっこめないと・・・」
(ひえっ!ごめんなさい~!)
ガブリエルもいなくなった事だし、とりあえずすぐに着替えて俺も居間に戻る。
「で?何か言い訳はあるか?」
今に戻ると四人ともあさっての方を向きながら、そろって鳴らない口笛を吹いている所を問い詰める。
「え?な、何のことですか?」
「ねえ、わ、私たちは何もしてないですよ~」
(私はすぐにあやまったよ~)
「クゥ~ン」
ユーリとリーエは覗きをしていないと白を切り、ガブリエルは謝ったから許してほしいと言い、タマモは狐の姿に戻り俺の足元に擦り寄ってゴマをすっている。
「はあ、まあいい。さっさと行くぞ」
なんか全員最初の頃よりも垢抜けてきやがった。
まあ堅苦しいよりは全然いいんだけど。
俺が先に部屋を後にすると、皆すぐに後をついて部屋をでてきた。
「ユーリは特に王女なのに、そんなんでいいのか?」
「え?なんですか?キョウヤは王女差別をするんですか?およよっ・・・」
「いや、そういうことじゃないだろう・・・変な泣きまねをするな」
「冗談です。いいじゃないですか、キョウヤは誰といても対等に扱ってくれるから、キョウヤといると自分が王女である事を忘れられるんですから」
確かにユーリは俺の部屋に来てからは随分楽しそうにしている。
俺達と接するのも最初に比べると、大分フランクになってきた。
王宮の扉の前に着くと、門番がユーリの顔を確認してすぐに扉を開ける。
中に入りユーリがメイドなどに挨拶をしながら、俺達を連れて王の間へと向かう。
「はあ、さすがに気が重いな」
「まあまあ、すぐに終わると思いますから、そう気張らずに。まあ、キョウヤは緊張なんてしてないでしょうけど」
「俺をなんだと思ってんだか・・・確かに緊張はしてないけどな」
「ふふっ」
ユーリには俺がめんどくさいと言う意味で言った事に気がついているようだった。
王の間と思われる一際大きな扉の前に止まると、そこにいる衛兵が扉をノックし声を上げる。
「ユリエス第二王女様がお見えになりました!」
「通せ!」
中から低く渋い声が通すように命じる。
衛兵が扉を開け、ユーリに続いて中へと進んでいく。
ユーリが一人だけ前に立ち、その後ろに俺達三人が並ぶ。
真正面の玉座には間違いなくスレイン王だと思われる人物が座っている。
隣の椅子には見た目は30歳にもなっていないような若々しさがありかなり美しい女性、ユーリの母親・王妃だと思われる人物が座っている。
王の横に立っているのはユーリの兄である王子なのだろう。
イケメンと言う言葉よりも、ハンサムと言う言葉の方が似合いそうな美男子である。
そして王妃と思われる人物の横に立っているのは、おそらくユーリの姉・第一王女なのだろう。
ユーリによく似ていて美人なのだが、ユーリよりも大人っぽさが彼女にはある。
もちろん周りには護衛の為、騎士達も控えている。
ユーリは方膝をつき頭を垂れて挨拶をする。
申し訳ないが俺は、敬う心をどこかに置き忘れてしまったので、立ったまま様子を見ている。
タマモも俺と同じだ。
リーエだけがユーリと同じように方膝をついて頭を垂れている。
「スレイン王の娘が一人、第二王女ユリエスが参上いたしました。この者達は上下関係のない部族出身の為、王に対する礼儀を存じておりませんのでご容赦ください」
「よい、表を上げ」
俺とタマモはユーリが設定を作ってくれたようだ。
それにしてもいつもと違いすぎるユーリの態度に驚きを隠せない。
さすが王女・・・というか騎士っぽいな。
そしてユーリが俺達の名前と、ユーリ直属の傭兵になる経緯を簡単に説明した。
もちろん王に予め伝わっているのだろうから、形式上ということで説明しているのだろう。
王も俺達に王妃のユザベル、王子のスタンリー、第一王女のアリエルを紹介してくれた。
「しかし、まさか歌姫と呼ばれるそなたが、我が娘の護衛をしてくれるとはな」
「私の事をご存知でしたか。ただ、正確には私はキョウヤ様と共に行動をしている結果ではございますが」
「なるほどな。キョウヤ殿には歌姫をも引き込む何かがあるという事か・・・して、リューンエルス殿よ。そなたも護衛をするからには、それなりに戦えるということか?」
「はい、私も多少は魔法を嗜んでおりますゆえ」
「そうか、あいわかったぞ」
リーエも王の前では見たこともない態度で接している。
普段のリーエを知っている俺としては、これとあれがイコールだなんて考えたくもないな。
「してキョウヤ殿よ、ユリエスが見込んだのであれば間違いはないのだろうが、ユリエスを守るのであれば、まずはその力量を見せてもらいたい」
「・・・わかった。その前に、さっきユリエス王女が言っていたように、俺の住んでいた所は皆が対等だった為、こういう話し方しかできないんだが構わないか?」
俺のその発言には、騎士達が色めき立つ。
ユザベル王妃やスタンリー王子、アリエル王女もあまりいい顔はしていない。
まあそりゃそうだろう、と思いつつ自分を曲げるつもりもない。
「うむ、まあよかろう。その程度は大目にみよう」
「ありがとう。それで俺は何をすればいいんだ?」
「うむ、この場で構わない。そこにいる我が騎士と手合わせをしてもらおう」
「わかった」
ユーリは思ってもみなかった展開に驚いていたようだ。
まあ大事な娘を守るのに、それなりに力が無ければ認められないという事だろう。
そのくらいは想定内だし問題はない。
「では私に相手をさせてください!」
ジュリアンだった。
いやまあ彼の姿を見かけた時、そうなるんじゃないかとは思っていたけど。
特に、俺がユーリの直属の傭兵として護衛をするのであれば、必然的にジュリアンの役目を奪ってしまう事になるわけで。
さっきから俺をずっと睨んで見ていたからな。
「おお、ジュリアンか。キョウヤ殿の力を見るには調度いいだろう」
ジュリアンは王に認められるほどの実力者らしい。
完全に殺る気満々のご様子で前に進み出てくる。
この機会に俺を亡き者にしようとする魂胆が見え見えである。
まあ俺は誰が相手でも別に構わないし、殺す気も全くない。
「俺は武器を持ってきてないから、貸してくれないか?」
王に謁見するのに武器を持ってくるわけにもいかない。
本当はストレージから出せるのだが、大っぴらにするわけにもいかないので借りる事にする。
王が指示をだし、別の騎士から剣を受け取る。
ユーリとリーエ、タマモは下がり少し場所を開けジュリアンと向かい合う。
ユーリもリーエも全く心配はしていないようだ。
タマモに関してはあくびをしている。
こいつらはどこまで俺を信頼しているんだか。
「あの時から貴様の事は気に入らなかった。万が一の事があっても悪く思うな」
ジュリアンが剣を抜きながら、ボソッと俺にだけ聞こえるように囁いた。
俺は特に何も返さず剣を抜き対峙する。
別の騎士の「始め!」という声により開始された。
ジュリアンは剣先を俺の喉元に向けるように構え、見定めるように動く機会を狙っている。
どうも俺の出方を見計らっているようなので、このままでは埒が明かないので俺から動き出す。
俺自身もジュリアンの力を見定める為に、小手調べをする事にした。
剣を少し上に向け、そのまま突進する。
切ると言うよりは押し込むような形をとる。
敢えて隙を作るような攻め方だし、これなら簡単に避けられるだろうと思っていたのだが、ジュリアンはそのまま剣で受け鍔迫り合いに持ち込んだ。
力比べをするつもりか?
どう考えても悪手だよな、と思いつつ力で押し切ろうとするジュリアンに俺も力を込める。
ジュリアンは力で押し切れると思っていたのに、押し切れなかった事に舌打ちしそのまま一旦後ろに下がる。
今度はこっちからという感じで、ジュリアンが剣を大きく振りかぶる。
いや、振りかぶったら隙だらけなんだけど・・・
そりゃあ知恵のない魔物には効果的なのかもしれないけど、人間相手にそんな大振りが通用するとでも思っているのだろうか。
俺を殺す気満々であり、俺を見下しているせいなのだろう。
あまり頭が回っていないようだ。
振り下ろしてきた剣を受けはせずに、体を横にして避ける。
そのまま切り返しが来るかと待ち構えていたのだが、ジュリアンはまた舌打ちして後ろに下がり剣を構える。
・・・・・
え~と、これどうしようか・・・
実力を拮抗させた上で相手を制しようと思ったのだが、思っていた以上にある意味難しい。
ジュリアンの実力もある程度わかった事だし、めんどくさくなったので終りにする事にした。
腰につけていた鞘をジュリアンに向かって投げる。
ジュリアンはそれに一瞬驚き、剣で鞘をはじく。
ジュリアンが鞘に気をとられている隙に、すばやくジュリアンの後ろに回り剣先を首に軽く当てる。
ジュリアンは動く事が出来ず、一瞬の間があった後「それまで!」と声が上がる。
周りからは「お~」とか「何者なんだ?」とか声が聞こえるが、そんなに大した事はしてないんだが。
ユーリやリーエも俺が剣で戦う所は見てないはずなんだが、それが当たり前というような感じでニコニコしている。
タマモも大した試合にならなかった為に、つまらなさそうにしている。
ガブリエルは俺が勝つ事が当たり前という感じで、全く見ることなくフワフワ漂っているだけだ。
王達は目を見開き驚いていたようだ。
どうも、王達も俺の実力とジュリアンは同程度、もしくはジュリアンの方が上だと考えていたらしい。
負けて納得がいかないというジュリアンが口を開く。
「くっ!卑怯な!それに鞘を投げる等、騎士としてあるまじき行為!」
ぶっ!
それを聞いて少し噴出してしまった。
「何がおかしい!」
「いや、だってさ、卑怯ってなんだ?」
「何だと!」
「事前に何かを仕込んでいたのなら百歩譲ってそうだとしても、戦いが始まってからする事に関しては正当ではないのか?」
「戯言を!それに鞘を投げるのは騎士道に反する!」
「そうそう、それそれ。そもそも俺は騎士じゃないし、戦いが始まればあらゆる手段を用いて相手を倒し、あらゆる事を想定して対応しないと生きていけないんじゃないのか?それとも何か?お前は戦場に赴いたとき、自分が不利になったときに同じ事を言うのか?お前は何を考えて訓練をしているんだ?ただの競技か?それならその考えもありだろうな」
「くっ!言わせておけば!」
「最後に一言言っておく。魔物とも戦った事があるお前がそんな考え方をしていたら、生き残れないどころか味方まで危険に晒す事になるぞ」
「貴様あああああ!」
「やめえい!!」
俺とジュリアンのやり取りを黙って聞いていたスレイン王が、それを止めるべく叫んだ。
その声にジュリアンもビクッとして王の方へ向き直る。
「ジュリアンよ。キョウヤ殿の言うとおりだ。実践においてお主のような言い訳は通るまいて。聞いているこっちが恥ずかしくなってしまうわ」
「くっ!申し訳ございません、スレイン王」
スレイン王は思っていたよりも話がわかるようだな。
他の面々は腑に落ちないような感じではいるようだが。
「キョウヤ殿よ、そなたの実力は見させてもらった。ユリエスの事をよろしく頼む」
今回の件で王からも多少は信頼してもらったようで結果的にはよかったのだろう。
だからといって100%信頼はされていないようだが。
とりあえず王との謁見はそれで終り、王の間を後にする。
最後までジュリアンは俺のことを睨んでいた。
王の間から出てユーリが口を開く。
「キョウヤすみません。あのような事になるとは・・・」
「いや、気にすんな。ただ、一つだけ忠告しておく。ジュリアン、あれは危険だな」
「え?どういうことですか?私が見る限り信用できる人物ですよ?」
「いや、言い方が悪かったな。ユーリの魔眼は確かに正しいだろう。王やユーリに間違いなく忠誠を誓い、騎士に誇りを持っている」
「では、どうして・・・」
「それが故になんだろうな。自分が敵と決めた相手には容赦はしないだろう。そしてその考えがいずれ、ユーリが志す願いの邪魔をする事になる」
「・・・そう、ですか・・・」
「だから、俺はジュリアンに頭を柔らかくしろと言ったつもりだったんだが、伝わってはいないのだろうな。俺はどうにも言葉にするのは苦手だ」
「・・わかりました。その忠告ありがたく受け取っておきますね」
ユーリに忠告をしておきながら、もう少し何か上手く立ち回れたのではないかと考えたのだが、済んでしまった事は仕方がない。
俺がここにいる間に出来る事はしておこうと思った。
今回もあまり進まなかったのですが、次回はもう少し進ませようと思います。
響也の口が悪いのは相変わらずですが
心情としては、色々な人との出会いを経て少しずつ柔らかくなってきております。




