幕間 ずっと一人で・・・
今回は本編には直接関係のないSSです。
ある人物の過去を描いております。
第三者視点でお送りいたします。
彼は母方のクオーターであり、隔世遺伝により彼の髪は生まれつき金髪だった。
生まれた時は可愛らしい顔立ちで両親からは愛情を注がれてきた。
彼が保育園に通いだした頃。
顔はほぼ日本人で髪が金髪だったので、同じ保育園児から苛めというか、からかう対象になるまでにそう時間はかからなかった。
からかわれる事を懸念していた両親は、喧嘩する為ではなく心身ともに強くなって欲しいと空手道場に彼を通わせていた。
そんな両親の気持ちとは裏腹にからかわれては喧嘩をし、多対一だったにも関わらず彼が勝ち相手に怪我を負わせてしまった為に、彼一人が悪者になってしまい両親が相手の親に謝っていた。
それでも彼の両親は彼から事情を聞き、彼の言っている事を信頼し、叱る事なく慰めていた。
彼はその後、喧嘩に負けても彼が悪者になると学習した他の保育園児の苛めを受け続ける事になる。
しかし彼は、喧嘩後に自分のした事で両親に謝らせてしまった姿を見て、幼いながらも両親に迷惑をかけたくないと考え抵抗するのをやめてしまった。
彼は苛められるようになってから、人を見て考えるようにしていた。
人を見ると言っても外見をではなく、目の動き、目の奥、体の動き等、事細かに見る事で相手の考えている事を理解しようとした。
それは相手の為ではなく、自分や守るべき人の為にである。
彼が抵抗をやめると、ここぞとばかりに彼への苛めがエスカレートしていく。
毎日全身痣だらけになりながらも、彼は冷静だった。
痣を作れば両親は心配する。
だからと言って反撃すれば両親に迷惑をかけてしまう。
彼は毎日殴られながらも、どうすれば痣を作らずに済むのかを考える。
ずっとずっと殴られながら、相手の殴る姿から目を離さなかった。
そのうち彼は自然と殴られたり蹴られたりする瞬間に、上手く受け流す事が出来るようになってきた。
相手は殴っているようにしか感じないにも関わらず、当たる瞬間にその力に合わせて引き力を殺していた為、痣はどんどん減っていった。
すると苛めていた園児達は怪我をしない彼が面白くなくなってきて、すっかり構わなくなった。
そこからは彼はずっと一人で過ごしていた。
それでも家に帰れば両親の愛情を注がれるので、苦も無く我慢する事が出来た。
しかしそんな時間も長くは続かない・・・
それから数ヵ月後に、彼の両親が運転する車が事故に巻き込まれ、二人とも無くなってしまったのだ。
相手の車の飲酒運転によるハンドルミスであった。
彼は両親の帰りをいつまでも待っていた。ずっと帰ってこない・・・
もう誰に教えられたのかは覚えていないが、両親の死を知ってしまい絶望へと落ち込んでしまった。
彼の両親の死を切欠に、度々と人が訪れるようになった。
それは見たこともない親戚と名乗る者が多数を占めていた。
というのも彼の両親は、富豪というほどの資産家ではないにしろ、一般家庭からするとそれなりに裕福であったからだ。
彼は幼いながら、彼に挨拶をするその人達が嫌だった。
その人達の目の置くには、笑顔とは裏腹にどす黒い感情が見えたからだ。
その人達には彼を見ていても彼自身を見ていない。
彼は自分の事を考えてくれているわけではなく、両親の残した物が目的なのだと理解した。
それでもしばらくは保育園に通っていた。
保育料は先払いで支払いをしてあった為、保育園はそのまま受け入れていた。
その頃から彼に笑顔がなくなり、目つきが鋭くなってきた。
そして両親の死を他の保育園児は知っており、またからかい始めた。
しかし彼には守る者がいなくなってしまった。
我慢をする必要も無くなってしまった。
彼は今まで抑えてきた我慢を晴らすように、殴りかかってきた他の園児を返り討ちにした。
もう彼は手をつけられず、引き取り手もすぐに見つからなかった為に児童施設へ入れられた。
そこでは苛めはなかったのだが、彼はずっと一人で過ごしていた。
小学生に上がる年齢になった頃に、彼の祖父母が現れ引き取られ一緒に暮らす事になった。
しかしその祖父母は父方であり、彼の金髪にはあまり快くは思っていなかったようだ。
彼は祖父母のおかげで小学校に通う事が出来たのだが、祖父母は彼にあまり干渉をしなかった。
家で食べる食事は特に何も話すことがなく無言で食べる。
部屋にも特に何も無く、ただ寝るだけである。
小学校でも、やはり金髪はからかいの対象であり、苛めへと変わるまで時間はかからなかった。
もう守る必要のない彼は、返り討ちにする。
しかし保育園の時と違うのは、相手に必要以上の怪我を負わせないように加減をするようにした。
返り討ちにあった相手も保育園の時と違い、恐怖の目で見るようになり、それ以降は彼に構う事がなくなった。
彼はこれで静かに過ごす事が出来ると内心喜んでいた。
それらを知ってか知らずか、祖父母は彼を祖父母の知り合いが経営している剣道場に通わせる事にした。
以前通っていて、両親が亡くなってからは行っていなかった、空手の道場にもまた通う事になった。
どちらも実力主義なので、実力があれば誰も文句を言うやつがいないため、誰よりも強くなろうと頑張った。
文句を言わないからといって仲がいいとはならないので、彼はそこでも一人で黙々と稽古をしていたのだが。
他にも祖父母に頼み込んで合気道も習う事にした。
先の二つはどちらも攻撃を主とするものであるため、場合によっては相手の力を利用し受け流す事も出来た方がいいと考えたからだ。
それから2年が経ち、彼を苛める者がいなくなったとはいえ、苛めそのものがなくなるわけではない。
同じクラスの女子が男子数人にからかわれていた。
彼は見かねて「くだらない事はやめろ!」と言って殴りかかった。
その結果クラス中に怯えられ、殴られた連中はもちろんの事、かばった女子すら近寄ってくる事もなくなった。
彼は特に気にする事も無く毎日を過ごす。
そんなある日、学校が終りすぐに家に帰る気がしなかった彼は公園へ寄った。
ベンチに座ろうとしたときに、誰かが忘れていったマンガ雑誌が置いてあった。
特に興味のなかった彼だが、何気に手を取りパラパラとめくってみた。
すると、思っていた以上に面白かった。
初めて読んだマンガ。
こんな世界があるのかと初めて知ることとなった。
しかし彼は、お小遣いを貰っているわけではないので、新しく買うことは出来ない。
そうそうマンガが落ちているわけはないし、その時の感動をしばらくの内に忘れて行く。
そして中学生に上がった頃。
彼は早朝の新聞配達を始める。
中学生のバイトなんてそうそう出来るものではない。
しかしそこの配達屋の主人は人が良く、彼が手伝いをしてお小遣いをもらうという事で無理矢理頼み込んだ所、事情を察し快諾してくれた。
金髪を隠す事と誰かに見られる事を懸念し、深々と帽子を被りながら毎日配っていった。
そして小学生の時にマンガに感動した事を思い出し、そのお金でマンガやラノベを買って読んでいた。
学校では例の如く絡まれることが多々あり、その都度返り討ちにしていた。
上級生から複数人に囲まれる事もあった。
それでも彼は負けることがなかった。
ただ、中学生になると小学生の時とは少し周りの様子が違っていた。
小学生の時は男女で意識する事はあまりない。
意識をしていたとしても付き合うまで発展する事はそう多くはない。
しかし中学生に入ると、その意識が如実に表れる。
彼の通っていた中学校も、その例外ではない。
彼は生来の金髪で目つきが鋭いとはいえ、顔つきは比較的整っている。
ぱっと見、怖いという印象を覗けば、それなりにかっこいい部類に入る。
しかし女子からすると、やはり直接話す事は怖い、でも遠くから見ている分には目の保養になる。
そういう理由で遠巻きから彼は見られ、その彼を見ている女子同士でヒソヒソと話されるという事がしょっちゅうあった。
しかし彼にはそんな理由とは露知らず、いつものように怖がられ陰口を叩かれているのだろうとしか思っていなかった。
男子においても同じようなもので、中学生になればある程度は大人になってきている。
なので、彼と話したいと思っている人もいるのだが、しかしやはり他の人の目を気にする年頃。
誰も彼に話しかけない状況で、自分だけが彼に話しかけるということが中々出来ない。
度々彼に話しかけて仲良くなろうとする男子もいたのだが、思いとどまって話しかける事が出来ずにいた。
それも彼には自分が恐くて近寄れないのだろうと、勘違いする事に拍車をかけていく事になる。
彼はそれでもよかった。
今までずっと一人で生きてきた。
仲間が欲しいとは思わなかった。
しかし彼は公園で友達と楽しそうに遊んでいる子供を意識している事に気づかない。
街で楽しそうに遊んでいる同年代の人達を意識している事に気づかない。
学校の部活で一生懸命に汗を流し、楽しそうにしている人達を意識している事に気づかない。
いや、気づかないようにしてきただけなのだ。
自分は一人でいいと、自分に言い聞かせてきただけなのだ。
そんな彼は放課後には家でマンガやラノベを読んだり、外をぶらぶらしたりしながら時間を潰していった。
その都度絡まれたりすることもあったが、彼には特に問題はなかった。
ある日、彼が街をぶらぶらしていると陽気な奴が声をかけて来た。
その相手は、彼が度々街をフラフラしているところを見かけていたらしく、暇ならちょっと付き合わないかと言ってきた。
喧嘩を売られるのかと思い、それでも別に構わないとついて行った先がゲーセンであった。
特に興味もなかったのだが、気晴らしにはなるかと試しにやってみると、それがまた意外に面白かった。
彼とは別に仲良くはならなかったが、ゲームについて少し教えてくれた。
それからゲームにも少しずつ嵌っていった。
そしてまた別の日、ゲーセンに行こうかと街をふらついていた所、彼と同年代くらいの女性が3人の男に囲まれていた。
しかし彼は小学生のときの記憶により、どうせ助けたところでまた・・と考えていた。
そして彼はそのまま歩いていく。
ドンッ!
彼は、女性に絡んでいた男の内の一人にぶつかってしまった。
というより、彼はわざとぶつかった。
「いてぇな、こら!」
ぶつかられた男がそう言って振り返るが、彼は何事もなかったように通り過ぎようとしていた。
「おい!てめえ!ぶつかっておいて何素通りしようとしてやがんだ!」
その男が彼にターゲットを変更すると、他の二人も彼に近寄ってきた。
その間に女性が逃げるかと思ったら、怖くて震えて足が動かないようだった。
彼はめんどくさいと思い、何も言わずにその3人の男を叩きのめした。
道端に男達が転がっていると邪魔なので、隅っこにおいやる。
それが終わると、その光景を見て腰を抜かし尻餅をついていた女性が目に入った。
彼は手を差し出そうかと考え、一瞬手を前に出そうとした。
しかしその手が差し出される事はなかった。
なぜなら、その女性は彼を見て目に恐怖の色を映し出していたのだから。
彼はそりゃそうだろうな、と気にもかけずにそのまま立ち去って行った。
それ以降も彼は校内・校外関わらず、明らかに弱い者いじめと見て取れる事に関しては進んで割って入った。
割って入ったと言っても、止めに入ったわけではない。
女性を助けたときの様に、自分が狙われる何かしらの理由を付け悪役として喧嘩を売るという図式を成り立たせた。
その結果、相手を助けたのではなく、周りにはただ喧嘩っぱやいという意識付けをしていった。
彼はそれが自分の役割なのだと考えるようになっていった。
彼はその後も、空手と剣道、合気道は中学時代辞めずにずっと続けていた。
それらがない時には外で喧嘩やゲーセン、家ではゲームにマンガ・ラノベと誰かと一緒に遊ぶ事はなく、ほぼ一人で中学時代を過ごした。
彼は中学卒業までに人の闇ばかり見てきた、醜いところばかり見てきた。
いや、本当は手を差し伸べようとしてきた人もいたのだが、それらを見ないふりをしてきたのだ。
そして彼はこれまで、ずっと考えていた。
全ての人を救う事なんて出来るわけがない。
なぜなら、自分を救ってくれる人なんていなかったのだから。
それならば自分が助けようと。
自分がどうなろうとも、どう思われようともかまわない。
全ての人を助けるなんて傲慢な事は言わない。
目の前に助けを求めている人がいたのであれば助けるのだと。
それは目に見えて助ける事はしない。
なぜなら彼は感謝を求めていないのだから。
彼は、自分は裏方の人間なのだからと・・・
彼は一応、受験することを選び高校に合格する事が出来た。
だからといって何かが変わるわけではないだろうと彼は考えていた。
しかし、高校では変化が起きた。
彼の隣に座る男が怖がるでもなく、軽蔑するでもなく声をかけて来たのだ。
「ねえ君、俺は橘流星。よろしく!」
そこから彼の生活は少しずつ変わっていくのだが、その当時の彼はそれを知る由もなかった。
読んでお分かりの通り、もちろん響也の過去編でした。
前回少し響也の心情を載せたので、流れとして載せました。
次は本編に戻ります。
もう少し進めたら、またSSをはさんでいこうと思います。




