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第12話 王宮への召喚命令?


日も完全に落ち宿屋に戻り夕食をとる。

意外とこの世界は、どこに行っても飯は美味い。

陽気で変な店主だが、親父グッジョブ!


夕食を終えた後は部屋へと戻り少しゆっくりと寛ぐ。

ここにも共同の風呂があるらしいので、風呂に入って癒されようと思ったのだが、タマモも一緒に入るとダダをこね、終いにはガブリエルまで入ると言い出す始末。


いや、男女別だからタマモは一緒に入れないし、ガブリエルはそもそも風呂に入れないだろうが。

それはただの覗きだぞ?

仕方がないのでタマモを宥め、『クリーン』で俺もタマモも綺麗にしてそのまま寝ることにした。


はあ、たまには風呂に入りてえ・・・



翌朝、隣で寝ているタマモが狐の姿である事を確認して、タマモの毛を優しく撫でてやる。


(ふふっ、キョウヤは本当はこんなに優しいのにね~)


その様子を上から見ていたガブリエルに茶々を入れられる。


「ガブリエル君?ちょっとそこに直ろうか?」

(ひぃ~!キョウヤ怖いよ~。私にも優しくしてよ~!)


失礼な、こんなに優しく諭そうとしているのに。


そんなやり取りをしながらタマモを起こし、朝食を取りに下りる。

宿の食堂で他の宿泊客もまばらにいる中、空いている席に座り朝食を頼む。


まったりと朝食を食べ優雅な時間を過ごしていると、そこに・・・


バンッ!


宿の入り口が大きく開け放たれた。

食堂そして従業員が皆、何事かと入り口の方に振り返る。


「おい、ここにキョウヤという者はいるか?」


その入ってきた男たち4人で、全員騎士の格好をしていた。


はっ?俺か?騎士と面識はないはずだが・・・いや、名前だけ知ってて顔はわからないという感じだな。

・・・やっかいそうだな。

と考え、名乗り上げないでいると。


「というか、いるという事はわかっているのだ。名乗り出ないのであれば、一人一人身分を確認していくぞ」


はあ、顔はわからなくてもいる事自体はわかっているとか意味がわからんが、このままこうしていると他の客と店の人に迷惑がかかるか・・・


「・・・俺がそうだが」

「貴様、なぜすぐに名乗り出ないのだ!我々も暇ではない!貴様一人に構っている時間はないのだ!」


「・・・随分な物言いだな」

「口答えはするな!貴様には王宮への召喚命令が出ているのだ!すぐに王宮へと向かうぞ!」


「・・・意味がわからんし、嫌だといったら?」

「貴様!王族に逆らうという事か!?命令だと言っただろう!もし断るというのであれば、力ずくでも連れて行く!例え他の者に被害が出てもな!」


・・・はあ、思った通りやっかいな・・・

そう思ったが被害を出すわけにはいかないので素直に応じる事にした。

それにリーエのライブは夕方だし、全然間に合うだろう。


「・・・わかった」

「最初から素直にそう言え!では行くぞ!」


上から目線での強引な物言いに少しイライラしながらも、それを押さえて冷静に対応する。


「ああ、ちょっと待て、こいつも一緒に大丈夫か?」


さっきから俺には心配するような目で、騎士には威嚇するような目で見ていたタマモの頭を撫でて落ち着かせながら聞いた。


「それはダメだ!そんな命令は受けていない!」


こいつ!すべては言いなりでしかないのか!?

と、イラっとしたときに助け舟が出た。


「別に構わないだろう。確かにキョウヤという者を連れて来いとは言われたが、連れがいてはダメだとも言われていない」

「し、しかし隊長!」


「俺がいいと言ったんだ!責任は俺が持つ!」

「わ、わかりました」


後ろに控えて俺たちのやり取りを冷静に見つめ、口を挟んで来た男はこいつらの隊長のようだ。

見た感じ30歳前後の精悍な顔をしている。

話がわかる奴のようで少し安心した。


「部下がすまなかったな。許してやってくれ。仕事に忠実で熱心なだけなんだ」

「ああ、気にしていない」


さすがにこの中で一番位の高そうな人に頭を下げられては、そう言うしかない。


「では向かうとするか。外に馬車を待たせてある。・・朝食は大丈夫か?」

「ああ、食事はもう終わったから大丈夫だ」


隊長と呼ばれている男に対して、敬語を持ち合わせていない俺が普通に話している様子を、他の三人は睨むような目でみていたのだが、この隊長だけは「そうか、それは良かった」と笑顔を見せていた。


中々寛大で話のわかる相手でよかった。


そして外に出ると、彼が言っていたように宿の目の前に馬車が止めてある。

それも普通の人が乗るような馬車ではなく、豪華絢爛とでも言えばいいのだろうか・・・

明らかに他を圧倒するような馬車であった。


・・・馬車にこんなもの必要なのだろうか。上の者の考える事はよくわからん。


とにかくその隊長に促されて、馬車の中へと乗り込んだ。

馬車の中は前後にベンチシートがあり、俺が後ろの真ん中、左に隊長、右にタマモが座った。

その向かい、進行方向から逆向きに残りの騎士三人が座る事となった。


隊長はニコニコ笑顔でいたようなのだが、向かいの三人は常に俺を警戒し睨んでいる。

それに対抗するようにタマモも睨みを利かせている。


俺はそれを無視して隊長に問いかける。


「ところで、なんで俺が呼ばれることになったんだ?」

「さあなあ、俺達はただ連れてこいと命令されただけで、事情まではわからんのだよ」


それ以上は特に何も話す事はなく王宮へと進んでいった。

馬車も走っているわけではない事と、王宮までかなり距離があったようで30分以上かけてようやく王宮の門に到着した。


そのまま門が開かれ馬車は門の内側へ入る。

王宮というだけあって、入ると庭園が広がっている。

その中央には、ここにも噴水が設置されていた。


それを過ぎ、王宮の建物前の階段まで来ると下りるように促された。

隊長のすぐ後ろを歩きその隊長が門番をしている者に声をかけると、入り口の扉が開かれた。


中に入ると入り口近くは吹き抜けになっており、目の前に二階へと続く階段がある。

床にはレッドカーペットが敷き詰められている。


隊長は近くにいたメイドの格好をした女性に、「キョウヤ殿をお連れした」とだけ告げた。

そして俺のほうを振り返り、「後は彼女に着いて行ってくれ」と言われた。

俺は隊長に礼をいうと笑顔で手を上げ、そのまま外に出て行った。


「ようこそおいで下さいました、キョウヤ様。王女様がお待ちです。こちらへどうぞ」


とメイドは俺の言葉を聞かずに足を進めだす。

仕方なくその後に続く。

その間ずっとお互い無言である。

しばらく進むと一つの扉の前でメイドは止まった。


「こちらでございます」といいながらメイドは部屋をノックする。

中から「どうぞ」と声が聞こえる。


その声を聞き、・・・何かまた嫌な予感が・・・と脳裏をよぎった。


メイドが扉を開け中に通される。


かなり広い部屋でありながら、あまり物は置いておらず綺麗な部屋だった。

入って右側の奥に天蓋ベッドがあり、左の壁辺りには化粧台やタンス、そして入ってすぐ左側にはシンクではないが紅茶などお茶を用意する為の場所がある。


真ん中左側に少し大きな丸テーブルがあり、イスが4つおいてある。

その奥のイスに女性が一人座っていた。


「あまり部屋の中をじろじろと見られると恥ずかしいのですが・・・」

「あ、ああ、すまない。ついな」

「いえ。それでは、どうぞそちらにおかけください」


その女性はテーブルに備えてあるイスを示し勧めてきたので、言われた通りに座る事にする。


イスに座るとすぐに、メイドが俺達の飲み物を出してくれた。

飲み物を俺たちに出した頃を見計らって、女性はメイドに対し席を外すように告げる。


メイドは得体の知れない相手(俺達)を残す事に躊躇していたが、渋々ながら部屋から出て行った。

なので今は3人のみとなっている。


「紅茶でよろしかったでしょうか?お嫌であれば他のものをご用意いたしますが」

「いや、大丈夫だ」


そう声をかけてきた女性の顔をじっと見る。


はあ、やっぱりか・・・


リーエに見破られた事で、他にもこういうことがあるのではないかと思っていたのだが、それがまさか王女様だったとは・・・


「で、これはどういうことなんだ?ユリエス。・・・いや、ユリエス王女様と呼んだほうがいいのか?」

「・・・ヒビキ様、いえキョウヤ様。お構いなく、そのままユリエスとお呼び下さい」


「わかった、ユリエス」

「はい!それで先ほどの質問の前に、改めまして(ワタクシ)はユリエス=ヒューベル。ナルザビア王国第二王女でございます。数世代前に成り上がりでヒューベルを建国し、跡継ぎのいなかった当時の王の後を継いだ者の末裔なので、我が一族はヒューベルと名乗っております」


やはりこの世界にも世襲制とか色々と問題はありそうだな。


「どうやら俺の名前はばれているようだが、俺はキョウヤでこっちはタマモだ」

「キョウヤ様とタマモ様よろしくお願い致します」


俺はよろしくと返しておいたが、タマモは俺の隣のイスに座ってそっぽ向いている。


「それで質問に戻ります。結論から申しますと、私も弱いながらにして魔眼を持ち合わせております」

「え?まじか!?」


「はい、ですのでキョウヤ様が所々で嘘をおっしゃっていたのには気づいていました。ただ、それが何かまではわかりませんし、見る限り悪意のあるものでもなかったので、そこはあまり気にしていませんでした」


王女であるユリエスも魔眼を持っていることには驚いた。


しかし、魔眼に弱い強いなどあるのだろうか・・・


それに、私もという事は、俺が持っていることを知っているという事か?


「ただ、折角助けていただいたのに十分なお礼が出来ないのは王族に名を連ねる者としての恥!という事で調べさせてもらいました」


そう笑顔で言うユリエスを見ると、正直こわっ!と思った。

その俺の顔に察したのかすぐに言いなおす。


「ああ、調べると言っても簡単な事です。門の衛兵に、あなたの名前を聞き忘れてしまったので、カードで名前をチェックしておいてくださいと言っておいたのと、他の街から来た人は大体あの宿屋に泊まるから門で確認した名前と照らし合わせただけです」

「そ、そうなのか・・」


それでも若干、こわっ!と思ってしまった。


「もしかしてとは思いましたが、チェックさせておいて正解でした。その偽名を信じていたら、こうしてお呼びすることが出来ませんでしたから」

「その偽名を使うような奴を、よく王宮に招き入れるなんて無謀な事をしたもんだな」


「あははっ、確かにその通りですね。でも先ほども申し上げました通り、嘘に悪意は感じられませんでした。ですから事情があっての嘘であり、キョウヤ様自身が悪者であるとはどうしても思えなかったのです」

「ははっ、たまたま助けただけで、自分の魔眼を信頼し俺を信用してくれるとはな」


「はい!それにキョウヤ様の事情というのが、おそらくですが予想はついております」

「・・・」


「2週間ほど前に、イシュタール王国で勇者召喚に成功したとの報告を受けております。もちろんそんな情報を他国によこすわけがございませんので、我が国で調べた結果です。詳しいことまではわかりませんが、その召喚に成功はしたのだが不完全であったと、その報告時はよくわかりませんでした。その後、見たことのない服の人物が街を歩いていると聞き、勇者様以外の者を召喚してしまったという事なのでは?と考えました。そしてキョウヤ様と出会った事により、貴方がそうであると私は確信致しました」


・・・勇者召喚は人々を守る為にと言っていたが、人間の他の国にまで勇者の存在を隠すということは、やはり他種族と人間のいざこざというだけではなさそうだな。


「・・・なるほどな。そこまで考えているのであれば、俺が嘘をついても魔眼で見破れるか・・・」

「はい、それにそのお言葉だけで十分でございます」


「ふっ、確かにな。・・・さっき話に出ていたが、異世界召喚された者が勇者以外ということもありえるのか?」

「・・・はい、過去幾度となく様々な国で勇者召喚を行い、中には失敗により術者が命を落とすこともあり、さらには召喚そのものが成功したとしても、勇者の資格を持たない者、まあ勇者のパーティとして同等の力を持って召喚された者は別ですが・・・もしくは・・・召喚されても大きな力を持つ事ができず外に出されてしまった者などの事例も多々ございます」


俺に気を使っているのか、少し言葉を選んで話しているようだった。


「気にするな。ユリエスが悪いわけじゃないだろう?」


そう言うとユリエスは少し安堵の表情を浮かべた。


「はい、それにキョウヤ様は・・」

「ちょっと待った!その前に様付けは辞めてくれ。キョウヤでいい。君もさんもいらん」


「は、はい!キョウヤ・・さん?」

「さんもいらん!」


「わ、わかりました。キョウヤ」


俺が頷くと、少し照れたようにしていた。


「それでキョウヤは先程の事例とは全く異なると感じます。というのも、勇者もしくは同列の方ではないにも関わらず、キョウヤが使った魔法はありえない程の威力がございました。それも王宮魔術師筆頭と同レベル、もしくはそれ以上の・・・」

「・・・そうなのか、もう少し考えて使わないといけないな。じゃあ、他のやつにもばれてしまっているのか」


「いえ、キョウヤが異世界人だということは私の中で結論つけただけなので、他の誰もキョウヤが異世界人だとは知らないでしょう。キョウヤがここにいる事も直接頼んだ者以外は知らないはずです」

「そっか、黙っててくれてありがとな」


「っ!い、いえ、とんでもございません!」


・・・なぜ俺が微笑むと、皆驚いたような顔をするのだろう・・・


他にも色々と話をした。


そもそも王女であるユリエスが、なぜあんな所で魔物と戦っていたのかと言うと、第一王位継承権である兄のスタイナーと第二継承権を持つアリエルがいるため、ユリエスが跡を継ぐという事はほぼないのだそうだ。


それならば自分が皆の為に出来る事をと考えた末に、王族である自分が戦いの最前線に赴く事で皆の士気を高め鼓舞する役目を担えればと考えたそうだ。


そのため騎士団所属でありユリエス直属の護衛であるジュリアンと魔道士イザベル、そして回復役として元々仲の良かったミシェルを連れて順調に訓練をしていた所、不測の事態に巻き込まれてしまったということだ。


ちなみに補足として、俺を呼びに行く時ジュリアンに頼まなかったのは俺に敵対心を抱いていたかららしい。


さらに訓練と称して王宮から出る事で国民の暮らしぶりを直に見る事で、問題点や改善点を思案する事が出来ると考えているようだ。


そこで思い出したのだが、俺を迎えに来た騎士が無理矢理連れて行こうとした事、他の人に被害が及んでも構わないという姿勢だった事を告げる。


俺の事はいいが、他の人まで巻き添えにするような考え方なら、国民のまえに騎士を正さないといけないと感じたからだ。



するとユリエスは、丁重にもてなしなさいと告げたはずなのに・・・と落胆した様子だった。


騎士の在り方を考えなければなりませんと、少し怒っていた様だ。

余計な事を言ったかな?しかし騎士の意識改善してもらわないと困るからな。


他にユリエスの魔眼についても教えてくれた。


彼女の魔眼は俺のように精神操作をする事はできず、相手の嘘を見破ったり相手の魔力の質を目で見たりすることが出来る程度なのだそうだ。


なのでヒビキとキョウヤが同一人物だというのも、実際会うまでは半信半疑であったにも関わらず、ここで会って確認した事により魔力の質が同じだったために間違いなかったという事だ。


そもそも魔力を見なくても、俺がリーエを見破ったようにユリエスにも変化の効果はあまりなかったようだが。



ということは俺も訓練をすれば、魔力の質を見ることが出来るという事だな?


そして俺が魔眼の持ち主だという事も、なんとなくでわかったそうだ。


って事は、俺ももっと訓練すれば魔眼で色々とわかるようになるんだな?

・・・てか、昨日言ったばかりだが、そういうことはちゃんと教えろよな。


とガブリエルに文句を言うと、(聞かれなかったし~)とまたもや鳴らない口笛を吹くまねをして誤魔化していた。


すると、ユリエスもガブリエルを見ていた。

・・・魔眼の持ち主だし見えるのか・・


「恐れ入ります、先程からそちらに浮いている方は・・・?この前はいらっしゃいませんでしたよね?」


浮いている事にも驚いていたようだが、そこにいることにずっと気にはなっていたようだ。


見えるものは仕方ないのでガブリエルの事を紹介しておいた。

天使であるという事にかなり衝撃を受けたようだ。

さらに普通の人には見えないので、普段は話しかけないようにと注意をしておく。


ガブリエルについて色々と聞きたそうにはしていたが、深くは追求するのを止めてくれた。

というか、俺自身あまりよくわかっていないしな。


なんか、ガブリエルを見える人と出会う事が多すぎる気がする。

逆に見えていることが普通なのではないかと錯覚してしまうな。


色々と話し、一段落したところでユリエスが考え込むように少し俯き、意を決したように俺に向き直り声を発した。


「キョウヤ、私直属の騎士になりませんか!!」

「・・・それは、どういうことだ?」


「・・・私には目指している事があります。しかしそれを実現する為にはまだ力が足りないのです。それはもちろん戦闘という意味でもそうですし、発言力や立場なども含めてです。発言力や立場が高まれば、必ずそれに反発する者も表れます。もちろん刺客などにも狙われる事になるでしょう。それから守っていただきたいのです。いえそこまで図々しい事は望みません。ただ私の近くで見守っていてくれるだけで・・・貴方が近くにいるという安心感を与えて欲しいのです。それだけで、私は何事にも動じることなく邁進(マイシン)する事が出来る気がするのです」


・・・・・

前に乗り出し力のこもった目と声で訴えるユリエスに、正直かなり驚愕してしまい声が出なかった。


なんでこんな俺なんかに・・・

そこまで・・・


今まで生きてきた中で、こんなにも自分を必要としてくれる事なんてなかった。

どちらかといえばずっと・・・


畏怖され・・・


揶揄され・・・


敬遠され・・・


冷めた目でみられ・・・


腫れ物でも触るように扱われ・・・


空気のように扱われ・・・


高校で仲間が出来るまではずっとそんな感じだった。

いや、あいつらともどこか距離があった。


それは全て自分が招いてきた事だ。

それは全て自分で納得し諦めてきた事だ。


いや、諦めようとしていたのだ。


この世界に来て一人で生きていくと決めた時、ガブリエルがいてくれて正直心強かった。

ルチとロキに出会い、慕われていたかどうかはわからないが楽しかった。

タマモが懐いてくれて嬉しかった。


ははっ


俺は一人でいい、そう思っていたが人に飢えていたのだな、とわかった時ふいに笑いがこみ上げてきた。


でも・・・

だからこそ・・・


俺はその言葉を告げる。


「・・・すまない、それは出来ない」

「そう・・そうです・・よね・・」


ユリエスは俺の返事が最初からわかっていたかのように呟く。


「・・・理由だけでもお教えいただけませんか?」

「その前に、なぜ出会ったばかりの俺にそこまで・・・」


「・・そうですね。直感でしょうか・・」

「直感?」


「キョウヤが助けてくれた時、もちろんその力に憧れました。そのあと貴方の目を見たとき、ああ、この人は私と同じ種類の人間なのだ、と感じました」

「・・・俺と同じ種類?」


「ええ。仲間を持たない・・・いえ、本当の意味での仲間がいない。・・キョウヤ、失礼ですが貴方は今まで気の置ける友人、信頼出来る何でも話せる友人はいましたか?」

「・・・いや、いなかったな」


彼女はここまで見抜けるのか・・・

自分を見透かされているようだった。

これは魔眼ではなく彼女自身の力なのだろう。


「私もそうです・・・仲のいい人はいますが、全てを話せるほど信頼出来るような人はいません」

「・・・」


「そこに貴方と出会いました・・・そして私と同種の人間であり、異世界から来た貴方となら、私の望みを叶えられるかもしれないと思ったのです」


正直心を動かされそうになった。

でも・・・

しかし・・・


「・・・そうか、すまない・・・」

「いえ、私の我がままを聞いてもらったのですから」


「・・・さっきの質問だが、俺はこの世界に来て間もない。この世界の事を知らなさ過ぎる。それなのに、この世界に来て大きな力を手に入れた。その力は何の為なのかを見極めないといけないと思った。だから誰かに気軽に肩入れするわけにもいかない。そのためには、まず世界を見て回り世界を知り誰の為に力を(フル)うのかを考えなければならない」

「・・・」


説明している間、ユリエスは黙って聞いてくれている。


「これが一つ目。そして二つ目だが・・・」


俺はタマモを手招きして呼び、変化を解かせた。

タマモは最初、不安げにしていたが俺が「大丈夫だ」というと安心して狐の姿に戻った。

そのまま抱き上げて見せる。


「ユリエスを信用して明かすが、こいつは妖狐だ。獣人の扱いになるのかな?この世界の人間と他種族は相容れないと聞いている」

「・・・妖狐・・だったのですか・・妖狐の存在は数も少なくあまり明るみになっていないので、こうしてお目にかかれるとは思いませんでした。それも九尾だなんて」


獣人だったことに驚いたのかと思ったら、妖狐であった事に驚いていたようだ。

しかも、タマモの尻尾は今は3本だったものが4本になっているとは言え、9本ないにも関わらず九尾だと理解しているようだった。


「さ、触っても、よろしいですか?」


少しユリエスの目がキラキラしていて怖いが、膝に乗せたタマモが俺を不安げに見上げていたが、俺が頷くと渋々ながら了承してくれたので触らせてあげた。


「わぁ~、フワフワですね~!」


嬉しそうに撫で回しているユリエスに、タマモは困惑し助けを求めるような目を俺に投げかけている。

俺はその視線を見なかった事にした。


「はっ!・・・こほん!」


ユリエスは自分のしていた事に気づいたのか、咳払いをして俺にタマモを戻し姿勢を戻した。


「二つ目の理由は私には問題ありません。むしろタマモ様の存在は私の目的には都合がよいのです」

「どういうことだ?」


「ああ、タマモ様に何かするわけではないので、そう構えないでください。先ほどお話した私の目的とは、平等というのは正直夢見事だと思いますが、せめて種族間の差別を無くしたいのです」

「・・・」


「キョウヤも先ほど仰っておりましたが、人間と他種族が共存しておりません。私が目指すのは多種族共同国家です。というのも、私自身過去に獣人の方に助けられた事があり、他種族全てが悪いとは思っていないのです。むしろ他種族を嫌い遠のけようとする、人間の意識そのものが問題だと考えております」

「そうか・・・」


「なのでタマモ様と・・・」

「タマモ!」


「え?」

「あたしの事はタマモでいい。様はいらない」


ユリエスの話をタマモがふくれっ面をしながら遮り、タマモと呼べと言いだした。

タマモも少しはユリエスに心を開いたようだ。


「・・・ありがとう。ではタマモちゃんと呼びますね」

「・・・うん、それでいいよ」


タマモが少しだけ照れていたように見えた。


「それで、キョウヤとタマモちゃんが一緒にいる事が私に希望を持たせていただけます。なので本当なら・・・」

「すまないな・・」


「いえ、謝らないでください」

「わかった。・・・騎士にはなれないが、もう少しユリエスから情報を貰いたいから、その代わりの対価として数日間だけなら傭兵としてユリエスを守るというのはどうだろう?」


「!!・・・ユーリ、私の事はユーリと呼んでください」

「ユーリ・・・わかった、ユーリ!」


「はい!ありがとうございます!それで構いませんのでよろしくお願い致します!」


俺が少しの間だけでもユーリ専属の騎士まがいの事をするという提案に驚き、よほど嬉しかったのか目に少し涙を溜めながら満面の笑みを向けられた。

とりあえず今日はこの後、用事があるので明日また来ることを告げた。


その時・・・


コンコン!

ガチャ!


ノックと同時に、ユーリが声をかける前にドアが開けられた。


「ユリエス様、失礼しま・・・」


王女の部屋に、部屋の主の断りもなく入ってくるとは失礼な奴だなと振り返った。


「き、貴様!何者だ!ユリエス様に何をした!」


目に涙を浮かべているユーリを見て、勘違い全開スキル (?)を発揮したらしい。

はあ、面倒なやつが来たなと内心うんざりした。


「ジュリアン!おやめなさい!」


そう、ユーリを助けたときにいた騎士のジュリアンだった。


ジュリアンは俺の変化を見破る事はできないため、キョウヤで会うのは初めてとなる。


そして入って来るなり、即座に俺の襟元を掴み上げたのだ。

それをユーリが止める。


ちなみに、やはりタマモもジュリアンに食って掛かりそうだったのを止めたのは言うまでもない。


「し、しかし!」

「私の言う事が聞こえないのですか?おやめなさいと言ったのです!彼は明日から私が直接雇った傭兵です」


「こんな得体の知れないやつが・・・」とブツブツ言っていたが、ユーリの迫力に負けてそのまま引き下がる。


なんでジュリアンが来たのかというと、俺とユーリが長々と話し込んでいたせいで、中々出てこないユーリを心配したメイドがジュリアンに相談したのだそうだ。


返事もなく勝手に入ったのは、何かがあってからでは遅いと考えたからだそうだ。

それでも一応ノックする辺りは騎士のはしくれという所だろう。


ユーリは「あの子は全く・・・心配してくれるのは嬉しいけど・・」とメイドに対し、少しやりきれない感じでブツブツ言っていた。


とりあえず俺は一応名乗り、「明日からよろしく!」というと、ガッチリ睨まれた。

ユーリに「ジュリアン!」と言われると渋々握手を交わした。


明日の昼頃に来ることを伝えると、ユーリは迎えをよこすと言っていたが直接来るからと言ってそれは断った。


ユーリはメイドとジュリアンに止められながらも、王宮の門まで出てきて手を振って見送ってくれていた。




・・・まさかユリエスとの話だけでここまでかかるとは思いませんでした。


次回はSSをお送りしたいと思います。

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