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第11話 美と観光・娯楽の街、首都ヒューベル

門で身分証の確認を受けた後に建物の物陰で変化を解いて、今は宿屋を探し歩いている。

身分証には顔は載っていないので変化をしていた状態でも特に問題はない。

じゃあ、偽造だとか他の人が使ったりできるのではないかって?

イシュタール王に貰ったカードにしてもハンターカードも、本人の魔力により反応するのでそれも問題はない。

魔力は人によって若干違うらしく、いわば指紋と同じようなものらしい。


街の中に入ってまず思ったのは、さすがに美しい街並みをモットーというだけあって街全体が美しい。

それは建物が綺麗とかそういうことではなく景観の事だ。

というのも、街の至る所に幅がおよそ50cmの水路が流れており、その脇には花壇が作られている。

そして入り口よりも中央の方が少しずつ低くなっていき、その水路が街の中央の広場にある人工的作られた池へと向かっている。その池には噴水があった。


門をくぐった瞬間にそれらを見渡せるのは爽快だった。

水が綺麗で咲いている花も綺麗なのは言うまでもない。

タマモもこの光景に喜んでいるようだった。


門から正面のかなり遠くのほうにお城のような建物が見えるので、あそこにこの国の王族がいるのだろう。

そして向かって右奥の方には闘技場の湾曲した壁の様なものが見えるが、あれがコロシアムなのだろう。

ここでは演舞闘技場という名前らしいが。


宿屋を探していると、どの街も同じで門の近くにあるようですぐに見つかった。

出迎えてくれた店主は陽気な親父だった。

取り敢えずすぐにこの街を出るつもりもなかったので、名前を記帳して3日分1500Gを支払う。


部屋に案内してくれたのは10歳くらいの女の子。

親父には性格も外見も全く似ておらず、店の手伝いも笑顔でこなしているかなりしっかりした子だった。

本当にこの親父から生まれたのか?と親父に言ったら、誰がどう見ても父親似じゃねえか、とか訳のわからない事をいってやがった。

去り際に、娘は誰にもやらん!とか、もう意味がわからなさ過ぎてスルーした。


部屋に入ったところで荷物はストレージの中なのだから置くものもないので、部屋を確認した後はすぐに観光する事にした。


宿を出てからは、まず噴水広場 (と勝手に呼んだ)が気になっていたので向かう。

噴水の前は俺が広場と言ったように広い敷地があり、ベンチがいくつも設置されており、所々でスイーツ系の屋台や手で持って食べる事が出来る様な食べ物の屋台を出している。

そこで買った物をベンチで食べている人もいれば、噴水の縁に腰をかけて食べている人がいたりと各々が楽しそうにしている。

そして、その噴水広場は結構の広いにも関わらず、今はかなりの人で混雑していた。


「なあ、ここっていつもこんなに人がいるのか?」


俺は近くにいた男に聞いてみた。


「あん?ああ、いつもはこうじゃないんだけどな。歌姫が世界各地を巡業していて、明日はこの街で生歌を披露してくれるんだよ。ほら、あそこの演舞闘技場を使ってな」


この世界の男は口の悪い奴が多いな。-相変わらず自分の事は棚にあげる響也である-

しかし、その割には親切だ。


「へえ、そうなのか。てか、歌姫ってなんだ?」

「あ?歌姫を知らねえのか?」


「ああ、知らないな」

「お前ちゃんと生きてるのか?しゃあねえな、教えてやるよ。歌姫は絶世の美女で、各地で歌を歌う事で争いを無くす事を目的として頑張っている人だ。まあ本人の思惑とは別に、俺達はただただあの美貌と歌声に癒されたいだけなんだがな」


なぜ歌姫を知らなかったら生きてない事になるのだろうと腑に落ちなかったが、気にしない事にした。

しかし、この世界にも歌手の様な人がいるんだな。


「そうか、教えてくれてありがとよ!」

「なに気にすんな。お前も一度会場で聞いてみるといいぞ。ああ、でも入場券はすでに完売してるから、ここの会場では聞く事はできないだろうな」


色々と教えてくれた男に礼を言って別れた。

そして俺は人混みがあまり好きではないのだが、ついでだから屋台を覗こうと人混みを分けて進んでいった。

タマモも人混みは苦手みたいだが、なんとか俺に付いて来ている。


(キョウヤ~あれ食べたいな~)

(いや、お前は食べられないだろう・・・)


ガブリエルが食べたいと言った屋台の方を見る。

俺も気になりその屋台の近くまで行くと・・・


ドンッ!


誰かが俺の背中にぶつかった。


「あ、ごめんなさい」


振り返ると謝っている人がいて、俺とぶつかった拍子に幅広帽(キャペリンハット)が足元に落ちてしまったようだ。


「いや、大丈夫だ」


俺はそういいながら、その帽子を拾って渡してあげた。

胸元に帽子を当てぶつかってしまった事に申し訳なさそうに照れたその顔は、目鼻立ちが整っており誰が見ても美人だと思える白金髪の女性であった。

膝下まである白のワンピースもよく似合っていた。


その顔を見て、ん?この顔はどこかで・・・


と考えていると、目の前の女性も首をかしげて少し考える仕草をした。

その時・・・


「・・・あれ?あの人・・」

「あれって・・・」

「ああ!リューンエルスさんだ!」


最初は俺の目の前の女性を見た、周りの人がざわざわし始めたのだが、その中で一際大きい声が響きその場にいた全員が彼女に注目し確信したようだった。


ビクッ!


目の前にいた女性の名前 (だろう)を呼ばれてしまった事に、一瞬ビクッとして体を硬直させてしまった。

そして周りの人達が詰め掛けようとした時、目の前の女性に急に手を掴まれて走り出した。


「すみません、こっちです!」

「ちょっ、ちょっと待て・・なんで俺まで・・・」


がっちりと手を掴まれている為に、離す事ができずに引きずられるように走るはめになってしまった。

その光景を見ていた周りの人達からは、「なんだあいつは!」とか「あの人は誰?」とか「リューンエルス様のお手を!」「死ね!」などという言葉を投げかけられた。


・・・俺は関係ないのにな・・・

てか、死ねって酷くね?


と思いつつも引きずられていく。

ただ、この人混みの中を普通に走っていてもすぐに追いつかれそうになる。


はあ、仕方ない・・・

少しくらいなら大丈夫だろう。


そう考えた俺は実行に移す。


「ちょっとすまない」


そう言って、走りながら女性を抱き上げる。


「・・・え?えええええええええええ」


その女性は抱き上げた事に驚き、顔を真っ赤にしていたが構っている暇はない。


「タマモ、俺の首につかまれ」

「うん、わかったよ!」


タマモは俺が何をするのかすぐに理解したらしく、首に腕を回してしがみついてきた。

タマモがしっかり捕まっている事を確認し、その場で足に少し力を込め人混みを越えるように跳躍する。

そして人混みを飛び越えた後、さらに足に力を入れ走り出し追いかけてきた人達を一気に突き放した。


ある程度走ると後ろを魔力感知と目視でついてきていない事を確認し、通りからは死角になる場所の水路の縁に彼女を下ろし腰をかけさせた。

タマモは俺の横で少し膨れている。


「悪いな、俺みたいな奴に抱えられて嫌だっただろう?」

「あ、い、いえ、そんなことは・・・」


抱えられていた事に顔を真っ赤にしながら、壊れるのではないかというくらい手と首を横に振っていた。


「ふぅ、しかし何だったんだ今のは?」


少し落ち着いた頃に、周りを伺いつつ言葉を発した。


「・・・すみません、巻き込んでしまって。多分あの人達は私の追っかけだと思います」

「ん?どういう事だ?さっき周りの人から呼ばれていたのはあんたの名前か?」


「・・・はい、私はリューンエルスと申します。ご存知ないですか?」

「ああ、悪いが俺は世間に疎いから名前を聞いてもわからん」


俺が知らないと言った事に、なぜか安堵したような表情をした。


「で、あんたは一体何者なんだ?」

「・・・そうですね、巻き込んでしまったのですからお応えしないといけませんね。先ほど申し上げましたが私はリューンエルスと申しまして、各地に歌を届けています」


「ん?ってことは、明日ここの闘技場で歌うってのがあんたなのか?」

「はい、そうです。それはご存知だったんですね」


「ああ、あまりの人混みだったんで、そこにいた奴に理由を聞いたんだ」

「そうだったんですね。あ、よろしければお名前を伺ってもよろしいですか?あと、私の事はリーエと呼んでください」


「ああ、わかったよリーエ。俺はキョウヤだ。そしてこっちのなぜか(ムク)れているのがタマモだ」

「キョウヤさんとタマモさんね。先ほどはありがとうございます」


「いや、それはいいけど、なんでそんなに有名人であるリーエがあんな人混みの中にいたんだよ?」

「そ、それは、その・・・これがどうしても食べたくて・・・」


そう言って手に持っていた物を見せてきた。

何か見たことがあると思ったら、クレープだった。


「え?それはクレープか?」

「はい!これは過去に異世界から来た人が作って、人気が出た物なんですよ。今まで食べる事ができなくて、もう本当に食べたくて」


なんか地球の食べ物がそのままある事に感動して、後で俺も食べに行こうと心に誓った。


「そうか、あと食べながらでいいが、なんで俺を巻き込んで逃げたんだ?」

「その事ですが・・・キョウヤさん、本当に私の顔に見覚えはありませんか?」

「・・・そうは言われてもな、(この世界に来て間もないのに、歌姫の顔なんか)・・・あ!」


一つだけリーエの顔に心当たりがあった。


「もしかして、盗賊に教われていた時にいたエルフ!」


そう、あの時感じが違和感。

それはあの時の女性の耳が長かった事。

後から彼女はエルフだったのだろうと思っていた。

そして目の前にいる女性も耳が長く、あのときにあった白金色の綺麗な髪をしていたのだ。


「はい、そうです!やっぱりあの時助けてくれた・・・って、え?ええええええ?」

「あれ?ちょっと待て!あの時俺は・・・って、なにいいいいいい?」


俺もリーエもお互い驚いて叫んでしまった。

というのも驚いた理由は別なのだが、俺に関してはあの時は変化を使っていたはずなので、顔が違うからわからないはずだった。

そしてリーエは何に驚いていたのかというと、実は彼女も変化を使う事が出来るらしくずっと人へと姿を変えていたらしい。それなのに、俺には元の姿が見えていたことに驚いていたという事だ。


確かに言われてみるとあの時違和感をあったのも、長い耳の辺りで若干ノイズのような揺らぎを感じたからだ。

なぜ俺が隠していた姿を見破る事が出来たのかというと、それは魔眼のおかげだったようだ。

魔眼は嘘を見破る事が出来る、それは言葉はもちろんの事、姿を隠す=嘘という事になる訳で俺には相手の変化は効果なくなるのだ。


で、リーエは俺が変化していたのにも関わらず、同一人物だとわかったのかというのは、正直言うと俺の変化そのものを見破ったわけではないらしい。

どういうことかというと、リーエには魔力の波長がわかるらしく (それは正確にではなくなんとなく程度でらしいが)盗賊から助けてくれた人物と俺が同じだったのでもしかしてと思ったようだ。

ちなみに波長もそうだが、そもそも俺は膨大な魔力を外に向けて垂れ流しているため、わかりやすいとも言われた。


(うん、キョウヤは体から常に魔力が駄々漏れしているからね~。魔力操作で隠さないとダメだよ~)


(それを早く言え!)と言ったら、(聞かれなかったし~)、とか鳴らない口笛を吹く真似をしながら口答えをしやがった。


そのやり取りをリーエはじっと見ていた。

リーエにもガブリエルが見えているらしい。

盗賊を助けた時リーエは、ずっと幌の中にいたのでガブリエルの事は知らなかったようだが。

あの時急いでいたのも、この街のライブに間に合わせる為だったとの事。


「もうばれてるんだから」と、これも教えてくれたのだがリーエは正確に言うとエルフではないらしい。

ハイエルフというエルフの上位種にあたるそうだ。


「エルフとハイエルフは何が違うんだ?」と俺が聞いたところ、ハイエルフは1000年以上の時を生き異性と交わった事がないエルフが進化する資格を得る。ただ、資格を得たからと言って誰でもなれるというものでもなく、その資格を得たエルフが甚大な魔力を保有している場合に儀式を経て進化をする事が出来る。

なのでハイエルフはほとんどいないらしい。


それにハイエルフになると精霊体に近くなる為、寿命という概念がなくなり悠久の時を生きるのだそうだ。なので、進化する条件を全て満たしたとしても、寿命を全うしたいと考える者は拒否をして生を終える者もいるようだ。


例外としてハイエルフに寿命が生じるときがある。

それはハイエルフになった後に子を成した場合だ。

本来なら、後世の代わりに自分がずっと生き残るはずだったものが、新しい命を授かる事で自分の命を分け与えるかららしい。


それを聞いて、「じゃあリーエは何歳なん・・」と言いかけた瞬間食い気味に、笑顔であるリーエの後ろにどす黒いオーラを纏いながら、「女性に年齢を聞くものじゃないですよ?」と言われたときに命の危険を感じたのは言うまでもない。


話し終えた頃にはリーエが食べていたクレープも食べ終わっていた。


「ふっ、リーエ、口元にクリームが付いてるぞ」


美人な顔をしているリーエが口元にクリームをつけている様は、なんか可愛らしくて少し笑ってしまった。

それに食べている時も、はむっ、とか言いながら食べていて、何だこの可愛い生物は!と思ってしまった事は内緒である。


「え?え?ど、どこ?どこですか?」


見ようとしても見えないはずなのに、なぜか目で探している。

あまりに見るに見かねて、俺は人差し指を横にしてクリームが付いている口元を拭ってやった。

そのまま自分の口にクリームを入れる。

自分では全くの無意識で、自然に出た行動だった。


「え?え?え?ええええええええええええええええ」

「あああああああああああああ!!」

(あああああああああああああ!!)


え?と俺が何かと思った時に、リーエの顔が茹蛸のように真っ赤になり、頭からボシュッと音を立てるように煙が噴いたように見えた。

そしてなぜかタマモとガブリエルまで叫んでいる。


なんだなんだ?皆してどうしたんだ?


謎である。


「え、ちょ、い、いや、な、なに、が、ど、どう、し・・」


リーエは動きも言葉も、何か壊れたおもちゃの様になってしまっている。


「きょうや!ずるい!」


え?何が?タマモの言っている意味がわからない。


(そうだよ~、ずるいよ~、私にも~!)


さらにガブリエルも意味がわらかない。


「おい、皆落ち着け。どうしたってんだ」


「・・・・・・」

「・・・・・・」

(・・・・・・)

「「はあ、(はあ)」」


なぜだか三人に無言で見られ、同時にため息をついて呆れられてしまった。


「(もう、私を抱えた時もそうだけど、人がこんなにドキドキするような事をばっかりしておいて、何食わぬ顔をしてるなんて・・・)」


リーエが何かブツブツ言い始めた。


「きょうや、もう行こうよ!」


大分話し込んでしまった事と、俺とリーエのやり取りが気に入らなかったようでタマモが急かしてきた。

気がついたら日も大分傾いていた。


「ん?ああ、結構話し込んでしまったな。リーエは大丈夫なのか?明日の準備とかあるんだろう?」

「・・・ふぅ、はい、ある程度準備はもう終わっていますので、後は最終的な確認くらいです。試演は明日ですし」


「そっか、まあタマモも何か機嫌悪いし、俺はそろそろ行くわ」

「私のせいですかね?」


「いや、気にする事ないさ。きっと初対面だったからだろう?」

「・・・いや、でも、何か殺気が・・・」


「ん?殺気?そうか?」

「これは多分、(乙女の間だけで感じられるものだと・・・)」


最後の方が何言っているのか聞こえなかったが、気にしないほうがいいのだろう。


「とりあえず、俺達は行くな。またどこかで会えるといいな」

「・・・ちょっと待ってください!最後にこれを!」


そういって渡してきたのはチケットであった。

それもちゃんと二人分。

しかもよく見ると主賓席と書いてあった。


「これは明日のリーエが歌うチケットか?」

「チケット?よくわかりませんが、これがあれば明日入られますので、是非見に来てくださいね!こんなものがあの時のお礼になるかどうかはわかりませんが・・・むしろ私へのご褒美のような・・・ごにょごにょ」


どうもリーエは語尾の方が小さくなるくせでもあるのだろうか、最後の方が聞こえない。


「ああ、わかった。ありがとな!必ず見に行くよ!」

「はい!来てくれるのを楽しみにお待ちしています!」


追っかけの事もあるし途中まで送ろうかと思ったのだが、リーエから「大丈夫です」と言われた上にタマモが俺の腕を引っ張るのでここで別れる事にした。

リーエは笑顔で手を振って見送ってくれていた。



その後、リーエが言っていたクレープを二人分買って食べた。

ガブリエルは食べられないので、羨ましがってはいたが雰囲気だけ楽しんでもらった。


広場で俺のことを覚えている奴と一悶着あるかと思ったが、特に何事もなく買うことが出来た。

タマモが口にクリームを付けて口を突き出していたが、華麗にスルーしておいたのは余談である。




なぜこんな王道ラブコメな展開に・・・


首都の名前が国と同じだったり違ったりするのは、都道府県と県庁所在地が同じ所があったりするのと、同様だと考えてくださって結構です。

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