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第10話 国境越えて

「どうやら、仕向けた奴らは失敗したようです」


夜も深く皆が寝静まった後、ある一室での事。


「そうか、失敗したのか・・・あ奴は、もうそこまで力を手に入れてしまっているのか?」

「力もそうですが、どうも私共が既知としない能力を持っているのかと・・・」


「何!?どういうことだ?」

「仕向けた奴らは完全に無力化されていました」


その部屋には盗聴防止・感知阻害の魔法が施された万全の状態で、ある二人の男たちの密談が行なわれていた。


「・・・それは武器を奪われたとか、魔力を封印されたとかではなくか?」

「はい、別に武器は奪われていません。魔力も封印されている様子はなく、どちらかというと使えたはずの魔法そのものが無くなってしまったと言った方がいいのでしょうか。さらにスキルも無くなったようです」


「!!そんな能力聞いた事がないぞ!」

「ええ、ですので先ほど申し上げた通り未知の能力であるかと・・・」


「それは危険すぎる能力だな。もっと早くに手を打っておけば・・・」

「・・・そうですね。今では仲間が一人増えてしまった上、明日には国境を越えるものかと・・・」


「なんと・・その仲間を人質にするとかは出来ないものか?」

「・・・無理でしょうね。常に一緒に居るようだし、かなり強力な魔法を使うようですので」


「はあ・・・国境を越える前になんとかしたかったのだが・・・今からでは手配しても間に合わんな」

「そのようですね・・・今後はいかがいたしますか?」


「・・・取り敢えず今は様子見に徹するしかあるまい。かの国に攻める時に我らの弊害となるのであれば、その時は容赦する必要はない」

「かしこまりました」


「それまでにあ奴らが使えるようになれば・・・」






――――――――――――







翌朝、目が覚めると懸念していた事が・・・


俺の寝ている隣に女性がいる・・・


しかも服を着ていない・・・


「これこれ、起きなさい?タマモ君?」


ゆさゆさと揺すぶりながら裸の女性、タマモに声をかけて起こす。


「ん~?なにぃ~?きょうやぁ~」


目を擦りながら体を起こしかけていた布団が落ちる。そのまま半分しか開いていない目で俺を見て、裸のまま抱きついてきた。


「ちょっとタマモ君?お話がある」


俺は冷静にタマモにそう声をかけると、抱きついたまま体をビクンとさせ若干震えている。

タマモの首がグギギギギと機械音を出しそうな感じで首を回し俺を見る。

至近距離で見つめるタマモの目に若干涙が溜まっているように見えた。


「とりあえず服を着ようか?タマモ君?」

「は、はひっ!」


焦って噛んでしまったようだ。

ものすごいスピードで服を着て、言ってもいないのにベッドの上に正座で座った。


「昨日俺はなんて言ったんだったかな?」

「え、ええとぉ・・・一緒に・・寝ていいと・・・」


「あん!?」

「ひぃ!ごめんなさい!人化をとけば一緒に寝ていいと!」


「うん、そうだよねぇ?じゃあなぜ俺の横に狐ではなく裸の女性がいたのかな?」

「そ、それは、そのぉ、きょうやの温もりを感じたくて・・・」


「言いつけを守らないような悪い子とは、もう二度と一緒に寝ないよ?」

「ごめんなさい!ちゃんと守りますからぁ」

(ちょっと、キョウヤ~、なんかこわいよ~?許してあげなよ~)


昨日俺が寝てから二人に何があったのか、ガブリエルが擁護し始めた。

そんなガブリエルは、俺が寝ていた所のすぐ隣の辺りで横になっていた。


「で、ガブリエル君はそこで何をしているのかな?」

(ひぃ~!ごめんなさい~!好きにしていいって言ってたから~)


「・・はあ、冗談だ。そんなに怒ってはいないから二人とも泣くんじゃない」

「・・・ほ、ほんとに?きょうや怒ってないの?」

(・・ほんとに怒ってない~?)


「ああ、本当だ。別に怒ってはいないが、タマモ、俺に付いてくるのであれば、ちゃんと言いつけを守ってくれよ?」

「う、うん。わかったよ」


飴と鞭である。


正直に言うと、そりゃあ裸の女性がいたら嬉しくないと言ったら嘘になる。

ただ、これから一緒に旅をするのであれば、それなりに節度を守って欲しい。


いつまで一緒に居られるかはわからないが、それまでは大切な仲間なんだから・・・


「さてと、気を取り直して朝飯でも食いに行くぞ」

「うん!」


タマモの頭にポンポンと手を乗せて声をかけると、パァッと顔に笑顔が戻った。

一瞬でもこの笑顔を曇らせてしまった事に、少しだけ自己嫌悪したことは内緒である。


タマモを連れて宿の食堂へと向かう。

昨日の夜もそうだったのだが、俺と一緒の食事を取ることができるのが嬉しいのか終始ニコニコして食べていた。


さて、じゃあ街を出る前にギルドへ寄っていくか。

ギルド内はいつも通りにぎわっている。


そういえば昨日の4人は見かけないが、その後どうなったのだろうか?

と考えていた事が顔に出ていたのか、買取受付嬢が先に教えてくれた。


「おはようございます。昨日は災難でしたね。ワイルドキャッツの面々は当ギルドの副マスターに連れて行かれ、かなり絞られたようです」

「そっか。やっぱりああいう事は多いのか?」


「多いというほどではないのですが、初めて見る方の実力を試そうとする方はいらっしゃいますね。それでも、ただギルド立会いの下決闘をするだけなら何も問題はないのですけどね」

「なるほどな。しかしあいつ等もそれなりに強そうではあったが、それを一人で相手にするなんて副マスターもかなり実力があるんだな」


「ええ、マスターのフォローをしないといけませんから、実力がないとやっていけませんからね。というのもマスターも強いのですが、あのような事にはあまり首を突っ込みません。ただかなりの脳筋なので、むしろ下手をすれば自分も混じってしまいます。なので副マスターが仲裁に入る事が多いのです」

「そのうちその副マスターには会ってみたいな。マスターは別に会わなくていいな」


「あははっ、じゃあ副マスターにはそういっておきますね」

「ああ、宜しく頼む。またこの街に来るのはいつになるかわからないが」

「ええ、また来たときには顔を出してくださいね。それでは昨日の件ですが・・・」


サソリと蟻の素材は、外殻が固く武具素材として重宝されているために高値で取引されているとの事で、合わせて65000Gになった。

ちなみに内訳はサソリ5匹で25000Gと蟻20匹で40000Gだった。


今度は総合受付嬢の所へ向かい経験値の反映をさせる。

本当はタマモだけにあげたかったのだが、やはりそういうわけにはいかないらしく、二人に等分して経験値が入った。


それでもサソリと蟻の経験値は高かったようで、俺がレベル14になりタマモは7まで上がった。

タマモは☆3である。


受付嬢にそのうちまた来ると伝えギルドを後にする。


国境まで歩いて4日で馬車なら2日ほど、そして国境を越えてからは馬車なら3日くらいで、ナルザビア王国の首都ヒューベルに着くらしい。


国境を越えて最初の街が首都って、それはどうなんだろう・・とは思ったが気にしても仕方がないので、深く考えない事にする。


そうそうこの街に来てから聞いた事だが、この世界で街を行き来する人はお金がない人は歩いて、お金がある人は馬車で行くらしい。


というのも、馬車を買うのは持っての他、借りるにしても1万Gはかかってしまうからだそうだ。

ちなみに馬車は、世界中に店を構えるサルマン商会が貸し出ししているので、返すときはその街の商会の支部に返せばいいらしい。


今は金があるから馬車を借りる事も出来るのだが、走るほうが速いので今回も走っていく事にする。

そのうち馬車でゆっくり旅をするのもいいかもしれない。


街を出る前にヒューベルに行くまでの二人分の食料を少し多めに買っておく。


タマモに何か好きな物とか食べたい物を聞いてみたのだが、「きょうやが好きな物があたしも好き」とか「きょうやが食べたい物を食べる」など聞くだけ無駄だった。


なんでこんなに俺に懐いているのだろう?正直、謎すぎる。


マンガ肉は外せないので4つほど買っておいたのは言うまでもない。


イシュタールで買っておいた旅の道具もあるし、あとはタマモの外套を買って準備はOKだ。


早速フランブールを出てナルザビア王国を目指す。

別段急ぐ必要はないのだが、それでも今日中には国境を越えたいのである程度の速度で走る。


途中馬車がいた時は、見られないように大きく回って見えなくなってから街道に戻る。


野生動物が出ても放っておいたが、さすがに魔物が出た時は街道から少し離れた場所にいても倒す事にした。


ある程度走り昼頃になると、木陰で休憩がてら楽しみにしていたマンガ肉を頬張る。


はぁ~!うまい!幸せだ~!


タマモにも渡してやったのだが、なぜか俺のが食べたいと言い張るので仕方ないので交互に食べる事になった。


さてと、国境まで残りわずかだしちょっとスピード上げますか!


そこからは先ほどよりも早く走ったので1時間くらいで国境が見えてきた。


走るスピードを緩めて徐々に近づいていく。

国境を隔てている塀を見るとかなり壮大である。

イメージとするならば万里の長城で、それよりも高さがありそうだ。


門が見えるとそこに向かって歩いていく。

国境を越えるにはイシュタール側でのチェックと、門を超えた後のナルザビア側での2重チェックが行われるようだ。


まずはイシュタール側のチェックだ。


「ん?なんだ?二人だけか?しかも歩いて。まだ若いみたいだが護衛もつけずによくここまで来たな」

「ああ、こう見えて俺たちはハンターだし、護衛は必要ない」


「見かけにはよらないという事か?しかしハンターとは言え、二人だと危険だぞ?」

「ま、なんとかなるだろう」


俺とタマモのハンターカードを取り出して見せる。


「ほう、レベルはまだそんなに高くはないが☆4か。そっちの娘も☆3か。ならよほどの事がなければ大丈夫か。で、国境を越える目的は?」

「俺は世界を見て回りたいと思ってな」


「そうか、わかった。気をつけて行って来るんだぞ」

「ああ、ありがとう」


簡単な手荷物検査もすませ門をくぐる。20mほど進むと今度はナルザビアの兵がチェックを行なう。


先ほど同じような会話をして簡単な検査をすると、すんなり通してくれた。


国境を越えて見える景色はイシュタールとはそんなに変わらない。

ただ、気持ち的な問題でアウェー感がするのは、この世界に来てまだそんなに経ってないのにイシュタールに馴染んだということだろうか。


国境が見えなくなるまではゆっくり歩きながら、物思いにふけていた。


なんだかんだで濃い時間を過ごしていたようなきがする。


ルチはあれからどうしているのだろうか。

何もかも忘れて幸せに暮らしていてくれていればいいが・・・

いや、忘れていたとしても心にしこりが残っているかもしれないな・・・


ははっ。


俺は考えれば考えるほどエゴイストなんだな。


笑えてくる。


その後を見送る事もせずに旅に出てしまった俺がこんなことを考える資格もないだろう。


(・・・キョウヤ大丈夫~?)

「ほんと、どうしたのきょうや?」


いつの間にか周りを気に留めず感慨に浸っていたらしい。


俺らしくもない。


ガブリエルは事情を知っているから、その事を思い出していると気づいているらしい。

しらないタマモにまで心配させるくらいの顔をしてたんだな。


「いや、大丈夫だ。なんでもないさ」


その頃には国境が見えなくなってきていたので、走ってヒューベルに向かう。

このくらいのスピードなら明日には着くだろう。


特に何事もなく進んでいる。

おそらくヒューベルまでもう少しだと思うが、そろそろ暗くなってきたので開けた場所で野営の準備をする。


俺一人の時なら別によかったのだが今はタマモがいる事出し、折角イシュタールで買った野営道具も使ってないし調度いいと考えテントを張る。


マンガ肉ばかりもなんだから、他にも買っておいた食料を出して二人で食べる。

寝る時には例の如くタマモが一緒に寝ると言い出すので、念を押しておくのを忘れない。


では、お休みなさい・・・




翌朝、さすがに昨日あんな事があったので、タマモは狐のままだった。

軽くモフモフしてから、タマモを起こし出発する。


途中で昼飯を取りしばらく走っていくと、東側の遠くの方が荒野になっているようで、赤みがかった地面や岩肌が見えてくる。

さらに走っていくと・・・


!!


魔力感知に反応があった。

人らしき反応が4つと、周りには6つのこちらは魔物だと思われる反応だ。


(向こうの方で戦っている気配がするね~)


戦闘をしているようだが、特に問題なさそうだとは思いつつも様子を見に行く事にした。


「??行くのきょうや?」

「ああ、ついて来い」


走る方向を急に変えたタマモが聞いてきた。

タマモも気づいてはいたようだが、俺が行かないのだろうと思っていたようだ。


反応があった荒野に向かい、少し離れた丘の上で見ることにした。


反応にあったように4人と6体の魔物が戦っているようだ。


4人の風貌をみると、二人が騎士甲冑を見につけ、一人がローブ姿、もう一人が白の司祭服を着ていた事から、この国の騎士パーティなのだろうと予想する。


周りを囲んでいるのは大トカゲだ。


力量もあり連携もきちんと取れているだろうから、問題なく倒せそうだ。

あまり人の戦いを見てきていないので、そのまま戦い方をじっくりと見ていることにした。


司祭服の人が全員に魔法をかけると、体の回りに薄い白い膜が張っているような状態になる。


ローブ姿の人は、他の大トカゲを牽制する魔法を放つ。


ひるんでいる内に騎士甲冑を着ている二人が近くの大トカゲに切りかかり、あっという間に2体倒していく。


二人はそのまま他の大トカゲに切りかかる。


ローブを着た人が詠唱を始め、大きめな火の玉を残っている大トカゲに放つ。


騎士の一人が大トカゲ一体を倒していたが、もう一人が一体に梃子摺っている間に最後の一体が近づき尻尾でなぎ払っていた。


その騎士は吹っ飛ばされていたが、倒す事を最優先にしているのだろう。


飛ばされた騎士をかばうように、もう一人の騎士が前に出て手負いの大トカゲに切りかかる。

尻尾でなぎ払った大トカゲにはローブを来た人が魔法を使い、下から氷の山を出し串刺しにしていた。


全部の大トカゲを倒したことを確認し、飛ばされた騎士を司祭服の人が治療をしていた。


多少危ないところはあったが、難なく戦闘は終わったようだった。

それなりに参考にはなったな。


!!!


これはまずいな。


魔力感知に大量の反応があった。

わらわらと地面から蜘蛛が出来てきたのだ。


うわっ!きもっ!


気づかなかったのは地面の下に潜っていた為、感じにくくなっていたようだ。


一体一体が人より少し小さいくらいの大きさで、さらに最後に出てきたのは5mくらいはあるだろうか。

小さい蜘蛛が数体ならまだしも、10体以上はいるしさすがに多勢に無勢だろう。


それにあのでっかいのは、あそこにいる誰よりも魔力が大きい。


蜘蛛が口から出した糸で司祭服の人が巻かれ、ローブの人の魔法もあまり効いていない。

騎士も応戦しているが、数に押されているようだ。


仕方がない。

早く行かないと手遅れになるな。


「タマモ、行くぞ!」

「あそこに行くんだね!全部倒しちゃっていいの?」


「いや、人には攻撃するなよ?」

「あ、あ~うん。わかったよ!」


こいつ、人も纏めて一緒に倒すつもりだったな?


変化(ヘンゲ)を使って姿を変えて向かう。


先制攻撃だ!


彼らの周りを囲んでいる小さい蜘蛛に対し、タマモに狐火を使わせる。

タマモは一回に5個くらいの狐火を出せるので、一気に5体の蜘蛛を倒していた。


俺も火を槍状にしたものをイメージし、タマモに対抗するように5本作り出す。


火炎槍(フレイムジャベリン)』を小さい蜘蛛の急所だと思われる場所を目がけて打ち込む。

刺さった部分から炎を体全体に撒き散らし絶命させる。


残りは4体の小さい蜘蛛と、大きい蜘蛛一体のみ。


小さい蜘蛛はタマモに任せて、俺は大きい蜘蛛と対峙する。


さすがに武器を使うと、ねちょっとした液体が出そうで怖いため、魔法で倒す事にする。


何の魔法を使おうかと考えた一瞬の隙に、蜘蛛の口から何かが吐き出された。

糸かと思って避けたのだが、口から出されたのは液体でそれがかかった場所から煙がでていた。


毒かよ!


倒した後、飛び散らかすわけにはいかない。

ますます倒し方を考えないといけないな。


ちっ!こうなると見ている奴がいるってのがネックだな。


一つ閃いたものがあったのだが大っぴらに披露できる魔法ではなく、タマモやガブリエルに見られるならまだしも、他の奴に見せるわけにはいかないと諦め別の魔法にする。


その間にも蜘蛛は毒を吐いてきたり、避けた場所に向かって糸を吐き出したりしてきたのだが、他のやつが巻き添えにならないように避けていた。


さて、これもあまり見せたくはないが仕方がない。


蜘蛛を中心として竜巻を起こす。


あまりの風に蜘蛛は身動きできない。

毒や糸を吐こうとしていたようだが、竜巻に吸い込まれ巻き上げられてしまう。


そこに強烈な炎を打ち込む。


炎は竜巻に吸い込まれ、巨大な火柱となって蜘蛛に襲い掛かる。

火炎竜巻(フレイムトルネード)』竜巻の中心はおそらく摂氏数千℃。


魔力感知で蜘蛛の魔力が感じなくなったところで魔法を消す。


魔法が消えて蜘蛛がいたはずの場所には、塵一つすら残っていなかった。


しまったな、明らかにオーバーキルだ。


魔力感知を研ぎ澄まし、地中も含めて探ってみたがもういないようだ。


「こっちも終わったよ~!そっちは相変わらず規格外だね」


すでに蜘蛛を倒していたタマモがよってきた。

変化している時は名前を呼ばないように言ってある。


例によって上目づかいに撫でて撫でて攻撃を俺にしてくる。


俺はそんな攻撃に・・く、屈し・・・ないぞ!


タマモが喜んでいる姿が目に入る。


!?


もうすでに頭を撫でていたようだ。

タマモの攻撃に無意識で屈してしまっていた。


くっ!なんて事だ!


と一人で葛藤している内に、助けた4人が近寄ってきていた。

俺とタマモの魔法を見てしばらく呆然としていたようだったが、すでに我に返っていた様だ。


さっさと立ち去るつもりだったんだがな。


「・・あ、あの、助けてくださってありがとうございます」


騎士甲冑を着ていた一人が兜を取って礼を言って来た。


甲冑の中は男だと思っていたのだが、セミロングの綺麗な薄桃色の髪をした可愛らしさの中にきりっとした凛々しさも持ち合わせたような美人さんだった。


「ああ、気にしなくていい」

「!!助けてくれた事には礼を言うが、貴様は誰に向かってそのような口の聞き方をしている!」


もう一人の騎士甲冑を着ていた人 (こっちは男だった)がいきり立ってきた。


「は?初対面だしそんなものは知らん」

「貴様!ではしっかりと覚えておけ!こちらのお方は・・」

「ジュリアン!!今そのような事は関係ありません!」


俺に食いかかってきていた男の言葉を遮り、騎士の女性が口を挟む。


続きが気にはなるが、まあいいだろう。


後ろに控えている二人も、俺に何か言いたそうではあるが黙って見ている。

ちなみに残りの二人は女性である。


「大変失礼致しました、私はユリエスと申します。そのままユリエスとお呼びください。改めまして助けてくださりありがとうございます。あなた方のお名前を伺ってもよろしいですか?」

「ああ、わかったユリエス。俺はヒビキでこっちはクズノハだ。さっきも言ったが、別に気にする事はない」


変化しているし本名でもいいとは思ったのだが、面倒事はさけたかったので響也の響からヒビキと名乗る。

そしてタマモは伝説の白狐の名前にした。


タマモは何か言おうとしていたが、手で制しておいた。

ちなみにユリエスと呼び捨てで呼んだ事に、他の面々はピクッとしていたが気にしない。


「ヒビキ様とクズノハ様ですね。いえ、そうは参りません。ただ今はお渡し出来る物がございませんので、代わりにこれを・・」


そういって手渡してきた物は指輪であった。

さすがにこれ以上断っても堂々巡りになると思い、素直に受け取っておいた。


「ユリエス様!そ、それは、いけません!」

「ジュリアン!よいのです!」


話し方やこの男の態度からして、ユリエスは高貴な人間のようだな。


「何かお困りの際はそれを見せると良いでしょう」

「ああ、わかった。ありがたく受け取っておく」


指輪を受け取った俺に対して、騎士の男は睨んでいた。


「・・・ところで、あなたはどちらかのお国の宮廷魔術師なのですか?」

「いや、俺はハンターで旅をしているところだ」

「・・・そうですか・・・」


ユリエスはあごに手をやり考え込むような仕草をしていた。


「・・・差し出がましいようですが、先ほどの魔法は一体・・・」


やはりその事だったか。あの魔法を使ったのは失敗だったか?


「・・・風と魔法の複合魔法だ」

「!!やはり!しかも使った魔法はどちらも上級魔法なのですよね!?」


俺は魔法を使うときは、詠唱と魔法名により使っているのではなくイメージして使い名前は後付けなので、中級とか上級とかはよくわかっていなかった。


(キョウヤの使った魔法は、人間のレベルだと上級に位置すると思うよ~)

(ふーん、そうなのか)


「ああ、そうだな」

「・・・上級魔法を二つ掛け合わせるなんて・・・(それで王宮魔術師ではないなんて、普通じゃありえない)」


ユリエスだけでなく、後ろの二人も魔法に長けているせいだろう、かなり驚いているようだった。


「あ、あの・・」

「悪いが俺たちはそろそろヒューベルに向かいたいんだが」


これ以上色々聞かれても面倒な為、話を途中で遮り先に進む旨を伝える。


「!!」

「あ、そうですね。このような場所で長々と申し訳ございません」


騎士の男が俺に食って掛かろうとしたのをユリエスは手で制していた。


「ヒューベルに向かっているのですね?どちらかに馬車を?」

「いや、俺たちは歩いて向かっている」


「そうですか、では私共もそろそろ戻りますので、馬車でご一緒にお送りいたしましょう」

「い、いや、俺たちは・・・」


「お送りいたしますね!」

「あ、ああ・・・」


くい気味に言われ、笑顔なのに有無も言わさぬ迫力があったため、素直に頷くしかなかった。


「馬車に向かう前に、遅ればせながら紹介させていただきます。こちらはジュリアン、後ろに控えているこちらが魔道士のイザベル、そしてこちらが神聖協会所属の術士ミシェルです」

「・・・よろしくお願いします」

「よろしくお願い致しますわ」


ローブ姿の少し躊躇しながら頭を下げた女性がイザベル、はち切れんばかりの笑顔で頭を下げた司祭服の女性がミシェルらしい。


どうも治癒魔法を使うには、神聖協会で神の加護を受けて使えるようになるらしい。


え?じゃあ加護を受けていない俺はなぜ使えるのだろう?と疑問に思ったのだが、気にしても仕方ないので気にしないようにする事にした。


「さっきも名乗ったが俺はヒビキ、こっちはクズノハだ。よろしくな」


俺が差し出した手にジュリアンは拒否、イザベルは仕方なさそうに、ミシェルは両手で握手を返してきた。

タマモは俺がタマモを偽名で呼んでいる事に、仕方ないことだと理解はしているが、納得していないように少し頬を膨らませて黙っている。


お互いの紹介も終え馬車へと向かう。


馬車は荒野からでてすぐの所に止めてあった。

騎士が御者を勤め、俺達を含む5人は後ろの幌の中に入った。


俺とタマモが隣同士に座り、向かいにユリエスとローブを来た


馬車が動き出しユリウスが口を開く。


「重ね重ねジュリアンの非礼に深くお詫び申し上げます。彼も悪気があったわけではございませんので・・・」

「別に謝らなくていい。俺は気にしてはいない」


「そう言って頂けて助かります。あと強引にお送りする事になりご迷惑でしたか・・?」

「いや、初めて行く場所だから正直助かる」


変化を解くタイミングも見失い正直面倒だとは思ったのだが、ユリエスが落ち込むように頭を下げ無理矢理誘った事を上目遣いに恐る恐る尋ねてきたので、否定するのは可愛そうに思えて頷いておいた。


「そうですか!それは良かったです!」


パアッと笑顔が戻り、否定しなくて良かったと心から思った。


「初めてとおっしゃいましたが、イシュタール王国から来たのですか?」

「ああ、旅をする為に初めて国境を越えたんだ」

「そうでしたか、(イシュタールにあれだけの魔法を使える人がいるとは聞いた事がありませんでしたが・・)」


ユリエスは何やらブツブツ言っている。


「あ、ごめんなさい。助けていただいておきながら失礼ですが、なぜあのような場所にいらっしゃっていたのですか?」

「ああ、風景もそうだが地質にも興味があってな、あの荒野で色々見ていた所に調度あの戦闘が起こっていたんだ」


でたらめではあるが、どちらも興味がないわけではないので全くの嘘というわけでもない。


「私達にとってはタイミングが良かったのですね。では・・・」

「ユリエス様、お話の途中に口を挟むご無礼をお許しください。ヒビキ様とおっしゃいましたか、あの魔法はどのように習得されたのですか?あなたの師はどなたですか?」

「イザベラ!ここでは私にそのような口調は・・・」


何やら二人でヒソヒソ話し出した。


イザベラは魔道士として俺が使った魔法がずっと気になっていたようで、我慢しきれずに質問してきた。

二人が話し終わったところで俺は口を開く。


「すまない、正直に言うと俺は過去の記憶がないんだ。あの魔法も体が感覚的に覚えてたという方がいいんだろうな」

「・・・そうなんですか・・」


イザベラは俺が記憶喪失と言った事に対するというよりは、魔法の事を聞きだす事が出来ずにがっかりした様子だ。

俺自身、説明するわけにもいかない情報を誤魔化すには、記憶喪失としてしまう方が一番都合がいいだろうと考えた末のことだ。


「(彼の言う事には何かが引っかかる・・・そういえば確かイシュタールでは・・・)・・そのような大変な境遇に、イザベラが不躾な質問を申し訳ございませんでした」


ユリエスは少し考えるような仕草をした後、ふっと思いなおしたようにイザベラの質問に対し謝ってきた。

・・・何か気づかれたか?


俺の魔眼では4人とも信用に足る人物だと確認している。


ジュリアンの俺に対する態度も、ユリエスを思ってのことなのだし。


ただ、ユリエスはずっと俺を探るようにしている事には気づいていた。

それは俺が信用出来ないというよりは、不に堕ちないという感じではあるが。


そりゃそうだ、事実を織り交ぜた上で俺自身思いついたことを言っているだけだしな。

ま、ばれたらばれたでこいつらなら多分大事にはならないだろうとは思っている。


「気にすんな。それよりさっきから謝ったり畏まったりしすぎだ。もっと普通に接してくれて構わない」

「確かに謝ってばかりですね。申し訳ございません。あっ!」

「言ったそばからそれかよ」


俺は少し笑ってしまった。


「まあまあ、確かにユリエスさんは謝り過ぎですわ。それはこちらが質問ばかりしているからではないのですか?ヒビキ様、いえヒビキさんからは何か聞きたい事はございませんですの?」


俺達のやり取りを見かねてミシェルが助け舟を出したようだ。


「そうだな、ヒューベルはどんなところなんだ?」


俺の質問に答えたのはユリエス。



ヒューベルは美しい街並みをモットーとし他に観光や娯楽に力を入れているらしい。


娯楽と言っても、賭場など犯罪や堕落に繋がる様なものは禁じられている。


では何があるのかというと武舞台いわばコロシアムが設置されており、そこでは騎士の技や魔法士による魔法等を披露したり力を競い合う決闘を行なったり、他にも何かしらのイベントが行なわれているそうだ。


なぜ騎士や魔法士を見世物にしているのかというと、観光や娯楽に力を入れるという事はそれだけ集客も増える。

そうなると治安が悪くなってしまう。


そこで彼らの力を見せることによる抑止圧、競い合う事で自国の底力を上げる事、力を上げる事により見回りを強化できる事にある。


もちろん彼らもバカではないので、全ての力を見せる事はせず観客に圧倒的な力を誇示する。

それによって、まだ隠している力があるとなると、逆らうものが減るという事になる。


たまに頭の悪い奴が、その事に気が付かず名乗り出て返り討ちにされているそうだが。


国民も収入の差はあれど、本人の働き度によってきちんとした収入があるそうなので、基本的には平等を心がけているとの事だ。


何を持って平等といっているのやら・・・


説明を受けているうちに首都ヒューベルの門が見えてきた。


門の手前には川が流れており、そこに橋が門に向かって架けられている。

さすがに一緒に乗って入るわけにはいかないとの事なので、俺達は橋の手前で降ろしてもらった。


「ここからは申し訳ございません。助けていただいた恩人とは言え、形式上さすがにご一緒に通る事ができません。ただ必ずご恩はお返しいたしますので」

「ああ、そんな事はしなくていい。ここまで送ってくれて助かった。ありがとう」


俺がそういうとユリエスは少し困った顔をしたが、これ以上言っても俺も曲げない事を理解して最後に笑顔を見せて去っていった。


馬車は門兵が一度停止させたが、ユリウスを確認して会話を交わすと門を抜けていった。


身分の確認をしないところを見ると、やはり位の高い人なのだろう。


さて、いつまでもここにいても仕方がない。

俺達も中に入るとするか!


新しい街に心をウキウキしながら門へと向かって歩きだした。




・・・またあまり先に進まなかった・・・

会話が長すぎる?

でもでも、会話を入れたいのです。


ちなみに今回の話では、敢えて変化(ヘンゲ)後の姿を書いておりません。


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