第8話 第二都市フランブールへ
イシュタールを出て4日が経った。
身体能力に物を言わせて所々走っていた為、通常よりは大分距離を進んでいると思う。
前に買っておいた地図(正確ではないが)と照らし合わせても残りわずかだろう。
ただ走ってみて気が付いたのだが、思っていたよりも体が重かった。
ガブリエルに聞いてみたところ『業を背負いし者』の称号を得てしまったせいで枷をかけた状態、いわゆる身体能力20%ダウンというマイナス補正がかかってしまっていたようだ。
さらには『堕ちかけた者』によって、一部スキル制限のマイナス補正があるらしい。
しかし、異世界転移してチートになるどころかマイナス補正されるとはな・・・
守るべきものを守ると決めた俺が、すでにそれをなし得なかった事への罰なのだから素直に受け入れるしかないが・・・
いつまでも落ち込んでいてもしかたないしこの気持ちを晴らす為にも、ここまで来る途中で出会った魔物は全て狩ってきた。
一応道なりに走っていたのだが、それでも結構な数の魔物と遭遇したのだ。
ジャイアントスネークやブルータルワイルドボアーなど☆4の魔物も出会ったのには驚いたが。
そして能力のマイナス補正されてしまった分を取り戻す意味もあり、狩った全ての魔物から『吸収』するのも忘れない。
もちろん野生動物も出てきたので、全部ではないが狩って食糧とした。
街で買ってきた食料もあるが、ストレージは時間の概念がないようなのでいくら合っても困る事はないだろうと考えていた。
食肉にする為に血抜きしないといけないかと思っていたのだが、特別しなくても臭みはなかったのは良かった。
それにしても魔物や野生動物が出るのはわかる。
しかし、それだけじゃなく野盗に4回ほど出会うのは解せなかった。
というのも俺がこれだけ魔物や動物に出会った事でわかるように、街の外はかなり危険が伴うために外に出る人があまりいない上、自分たちも危険なはずである。
なのに一集団だけならまだしも、4回も会うことはさすがに不自然だ。
俺が行商人のような荷物を持っているのであればまだしも。
最初に襲ってきた野盗は返り討ちにした上、魔眼でアジトを聞きだし金品を回収しておいた。これは後から持ち主に返すためである。
2回目も同じようにした。
さすがに3回目はおかしいと感じ、同じ目に合わせた上で魔眼による催眠で情報を聞きだそうとした。
しかし、知らないやつに俺を殺せば金をやると言われただけだったようだ。
そして4回目に関して、それは少し違った。初めて寝込みを襲われた。
いくら魔力感知や危険感知の能力があるとは言え、寝ていては起きられるはずもない。
しかしそれは魔力感知・危険感知を魔法と合わせて使う事により解消させる事に成功した。
どういうものかというと、感知に反応があった時に魔法が自動で発動するようにする。
その魔法は睡眠魔法等の精神干渉魔法の応用で、自分自身に向けて脳を覚醒させるように発動させるというものだ。
そのためにぐっすりと寝ていたとしてもすぐ起きられる事が可能となったので、寝込みを襲われても大した脅威にはならない。
ちなみにガブリエルには万が一の時だけ起してもらうように言ってある。
そして魔眼で聞きだしていると、こいつらは野盗ではなく暗殺者であることがわかった。
しかし今回も誰の差し金であるのかは知る事ができなかった。
まあこの世界に来て俺の事を知っているやつなんて限られているのだから、誰が差し向けたのかなんて予想はついているのだが。
俺が狙われているだけなら、しばらく放置して泳がせておいても構わないだろう。
なので警戒だけは怠らないようにしながら今日も走っている。
ちなみに襲ってきた相手は全部で20人近かったが、全員殺さずに生かしておいた。
ただ、ほぼ全ての能力を奪い無力化した上で放置しておいたので、その後どうなるのかまでは知ったことではない。
暗殺者から『隠密』『潜伏』を手に入れられたのは良かった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・ん?
魔力感知に何か反応があった。
それだけなら別に無視してもよかったのだが、今魔力感知に反応したのは何か助けを呼んでいるように感じられた。
-魔力感知に反応したときに、敵意がある、戦闘しているなど普通の行動や感情とは違う事もわかるようになっていたのだ-
無視してもいいのだが、さすがに気になるな。
(行くのキョウヤ~?)
(ああ!)
ガブリエルにも感じていたようだ。
走りながら魔力感知に反応があった場所へと進路を変更する。
そこは街道を離れて西にある林の中へ入ってから10分くらいの場所だった。
ただ、徐々に弱々しくなってきているため正確な位置まで把握する事ができない。
急がないとやばいかもしれない、魔力感知では大体この辺りのはずだよな、と思いつつ歩を急がせながら辺りを見渡す。
・・・-ン
!!
わずかに何か聞こえた。
聞こえた方に向かい足を速める。
・・クゥーン
!!!
何かの鳴き声のようだ。
しかしかなり声が小さい。かなり弱ってきているようだ。
(キョウヤ、こっち~!)
ガブリエルの指差している方を見る。
・・・お!
見つけた!
そこで見つけたのは狐だった。
その狐は、顔は白く綺麗な金色の毛並みでかなり太い尻尾を持っていた。
全く動く事が出来ずに弱々しく鳴いていた。
というのもトラバサミの罠にかかってしまったようだ。
足からは結構血が出ている上にかなり弱っている事から、大分もがいて暴れたのだろうという事がわかる。
魔力感知によると、この辺りは魔物と思われる魔力はわずかで野生動物の方が圧倒的に多いようなので、街の人が食肉の為に野生動物を捕らえているのだろうと考えられる。
しかし痛々しい姿を見ていると可愛そうに思えてくる。
この旅の途中で、自分でも野生動物を狩って食べていたくせに何言ってんだと感じなくもないし、街の人が生きる為に野生動物を捕らえないといけないのもわかる・・・
わかるのではあるが・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・ああダメだ!
すまない!
もちろんそれは、この罠を仕掛けた人に謝った言葉である。
狐に近づいていくと俺の存在に気づいたらしく、弱りながらも威嚇するように食いしばった歯を見せながら唸っている。
ゆっくり近づくとそれに合わせ後ずさりをしようとするが、罠のせいで下がる事ができない。
狐のすぐそばまで来ると、相変わらず俺を見上げながら威嚇している。
それに構わずトラバサミをはずそうと手を近づけると・・・
ガブッ!!
痛い!
思いっきり噛まれてしまった。
それも仕方ないことだろう。襲われると思っているか、罠を仕掛けたのが人間であると理解し憎んでいるのか。
ま、どちらもだろうなと考えつつ腕を噛まれたまま罠に手を近づける。
何かされると思っているか、噛んでいる力が強まり腕から血が滴り落ちて来た。
そのまま何とかトラバサミを力任せに開け、ようやく狐の挟まれていた足は自由になった。
狐は噛んでいた口を放し逃げようとしたのだが
キャイン!
足が痛くて動けなくなってしまった。
疲労もあるだろう。
俺は逃げられないように、狐を後ろからお腹に手を回し抱きかかえ木にもたれかかる様に座った。
狐は一瞬驚いたような顔をした後、暴れるように俺の腕の中でもがき始めた。
それでも構わずに、俺は抱えている腕とは逆の手を怪我をしている狐の足に近づけた。
すると手からホワッと白く暖かい光が狐の足を包み込む。するとあっという間に傷が治った。
回復魔法をいつ習得したのかというと、ルチと狩りをしていた時に痣を作ったルチでさりげなく実験済みである。
俺はヒールと呼んでいたのだのが、ガブリエルによると最上級の回復魔法に匹敵すると驚いていた。
しかしそんなのは俺の知るところではない。
狐も足が治ったことで驚いていたように見えたのだが、治してもらった事がよほど嬉しかったのか、先ほど噛んだことを申し訳ないとでもいうように血が出ている部分をペロペロとなめ始めた。
その状態のまま空いている手で頭をなでてやると、嬉しそうに今度は顔をペロペロと舐め始めた。
やばい!
かわいすぎるな。
(かわいいね~)
(ああ、かわいいな)
(そして、狐ちゃんを可愛がっているキョウヤもかわいいね~。そして私の事も可愛いってほめてくれてもいいんだよ~?)
(ぶっ!ばか野郎!何言ってんだ!)
(ふふっ)
少しの間そうしている内に、狐が弱っていたのは怪我だけじゃなくて腹も減っての事だろうと気づき、少し開けた場所に移り火を炊きストレージから出した肉を焼いて腕から降ろした狐の前に置いた。
確か狐は雑食のはずだし、油揚げが好きだというのは迷信だったはずだからこれでいいだろう。
ん?雑食だから油揚げも食うのか?
ま、どうでもいいか。
いきなり出された物に警戒しているのか、狐は何回も肉と俺を交互に見ていた。
食べろと声をかけ手でジェスチャーをして食べていい事を伝えようとする。
わかるだろうか?と思ったのだが、ちゃんと伝わったらしく一心不乱に肉にかじりついていた。
俺のヒールで怪我と体力が回復したようだし、肉を食べて飢えも解消しただろうと考え、食べ終わった頃を見計らって立ち上がった。
「じゃあ元気でな。もう罠にかかるなよ」
と声をかけて行こうとしたのだが・・・
狐が足に体をこすり付けて離れない・・・
・・・・はっ!
そういえば地球では、野生の狐にエサをあげてはいけなかったんだ!
なぜって?
一度エサをあげてしまうと、人から貰えると思い自分でエサを取らなくなってしまうからだ。
まいったな・・・
置いていこうとして歩いても、ずっと足から離れない・・・
はあ・・・
自分で巻いた種だとは言え、連れて行くしかないか・・・
歩いている俺の足に嬉しそうに体をこすりつけ、たまに俺の顔を見上げる姿を見ると・・・
かわいいな・・・
いや、確かにかわいい、かわいいのだが・・・
別にかわいいから連れて行きたいとかそういうことではないからな?
仕方なく・・・
仕方なくだ!
誰に対する言い訳なのかもよくわからないが言い聞かせる。
とりあえず街道に戻る為に軽く走りだす。
狐も俺の速度に合わせて駆け出す。
それなりのスピードで走っているのだが、結構速く走れるみたいだな。
俺も狐を気にしつつ走っているので、狐も置いてかれるという心配はしていないようだ。
それよりも俺と一緒に走っているというより遊んでいると考えているみたいだ。
先ほどの街道に戻り取り合えず走るのを辞めて歩き始める。
この調子だとフランブールに着くのは明日になってしまうな・・・
狐のほうをチラッと見て、抱きかかえる事にする。
嬉しそうにして俺の顔を舐める狐に
「少し本気で走るから、我慢してくれな」
と声をかけた後に一気に駆け出す。
今までは身体能力で走っていたのだが今は違う。
少し急ぎたかったのと、まだ俺を襲ってくるやつがいないとも限らない為、追いつかれることがないようにと考え魔法も使っている。
身体強化の魔法により脚力アップ、風の魔法で前方から受ける風圧を遮るように風の膜を貼る事で抵抗を感じずに走る事が出来る。
人の目に留まらぬ速さとまではいかないが、体感ではおよそ秒速50m位と言う所だろう。
この速さならさすがに後をつけられる事もないだろうし、万が一つけられていたとしてもすぐわかるだろう。
それから休憩も挟みつつ、大体2時間ほどでフランブールの街にたどり着いた。
やはりこの世界は魔物の侵入を考えているのであろう、高い塀に囲まれていて入り口の門には兵士らしき人物が立っている。
門まで歩いて近づくと門兵が身分の確認を求めてきたのでハンターカードを提示した。
「イシュタールから来たのかい?」
「ああ、そうだ」
「一人でか?それに随分荷物がすくないな」
「一人のほうが何かと動きやすいからな。簡易アイテムバッグに必要最低限を入れてきたからな。食料はその場で調達した。」
ストレージの事は言わない方がいいだろうと適当に言っておいた。
「それにしても護衛も無しにここまで来られるとは、それなりに腕が立つようだな」
「まあな。ああ、それよりもこいつも一緒に中に入っても大丈夫か?」
イシュタールでも動物を連れて歩いている人がいたから大丈夫だとは思うが、一応連れてきた狐を指差して確認をする。
「ああ、魔物や獰猛な動物じゃなければ大丈夫だ」
「そうか。あとすまないが宿とギルドの場所を教えてほしい」
「宿は門を通って真っ直ぐ行くと左側にある赤い屋根がそうだ。ハンターギルドはそのまま通りを真っ直ぐ行き広場を右手に進んでいくとでかい建物があるからすぐわかるだろう」
「わかった、ありがとう」
門を抜けてすぐ足を止めた。
この街も思っていた以上に大きく、かなりにぎわっていた。
狐も俺の横をトコトコついて来ていたが、さすがに蹴られたりしてもかわいそうだと思い抱きかかえる。
門兵の教えてくれた場所を目指して進む。
あの赤い屋根だな。目立つからすぐわかる。
まあ、宿は門から近いほうがいいだろうし目立たせればそれだけ集客が見込めるのだろう。
宿の中に入ると宿の女将さんらしき人が出迎えてくれる。
「いらっしゃい、お一人かい?」
「ああ一人なんだが、こいつも一緒でも大丈夫か?もちろん料金は払う」
「ん?かわいらしい狐だねぇ。ん~、あまりよろしくはないけど、毛や排泄なんかをしっかりしてくれるのであれば構わないよ。料金もお兄ちゃん一人分で構わないさね」
「ありがとう、助かるよ」
「いいってことさ。一泊2食付で500G、素泊まりで300Gだけどいいかい?」
「イシュタールより高いんだな?」
「ん?イシュタールから来たのかい?あそこは首都で人も多いからね。それに比べると来る人が少ない分どうしてもね」
「そっか、わかった。取り敢えず食事つきで一泊で頼む」
「あいよ!これが鍵だよ。部屋は二階の205号室ね」
料金を支払い鍵を受け取って部屋に向かう。
荷物はストレージに入れているので特に部屋においておく物はないのだが、一休憩することにしてベッドに仰向けに倒れる。
その俺のお腹に狐が乗っかってきた。
「毛が落ちるのは仕方ないが、ここで粗相だけはしないでくれよ?したいときは教えてくれ」
言葉がわかっているのかどうかはわからないが、狐に向かって一応注意をしておく。
「キューン」
俺の言葉に頷いている。
どうやらわかっているようだ・・・?
(狐ちゃんもかわいいけど、狐ちゃんに話しかけているキョウヤもかわいい~)
(おまっ!くだらない事言ってんじゃない!)
俺に話しかけて来たガブリエルに狐はじっと見つめているようだった。
動物は霊感強いって聞くし、ガブリエルの事見えているのか?
それはいいとして、やはり先にギルドに行って野盗から回収してきた金品を渡してくる事にするか。
そう思い部屋を出て宿屋を後にする。
狐は俺から離れない為、そのまま連れて行くことにする。
宿を出て広場へと向かった。
そこは出店やらフリマの様に商品を並べている者やらでごった返していた。
・・・・・!!
そ、そんな・・・
ま、ま、まさか・・・!!
そんな中に一際目を引く出店があった。
というか俺の見間違いではないのかと二度見、三度見をしてしまった。
いや、間違いない!
あれは・・・あれは!
誰もが一度は夢見る・・・
マンガ肉じゃないかああああああああああ!!
なんて事だ!
俺はなんて幸運なんだ!
TVで見た事のある、挽肉を使ってとか薄切りの肉を何重にも巻いてとかではなく、まさにマンガに出てくるような骨に肉が丸々とついている、あの憧れの。
速攻屋台の親父のところに向かう。
「親父!これはいくらだ!?」
「おいおい兄ちゃん、落ち着けよ。そんなに珍しい物じゃないだろう」
「な、なに!?これは珍しくないのか!?」
「あ、ああ。何に興奮してるのかわからんが、普通に売っているぞ」
「そ、そうなのか・・・まあそれはいいとして、いくらなんだ?」
「一つ100Gだ」
「よし買った!一つくれ!」
「お、おお。毎度あり!」
興奮している俺を醒めた目で屋台の親父は見ていたが、そんなことはどうでもいい。
速攻買って食う事にする。
広場の空いているベンチを見つけそこに座る。
はあ、はあ・・・
ごくっ!
マンガ肉を目の前に興奮により息が荒く生唾を飲む。
(ちょ、ちょっとキョウヤ~!怪しい人にしか見えないよ~)
(うるさい!俺はそれどころじゃないんだ)
マンガ肉に引き寄せられるように一口かじる。
肉は引き伸ばされバチンと音を立ててちぎれる。
引っ張ると伸びるくせに、噛むと普通に柔らかくかなり美味い。
おお、幸せだ!
こんなに幸せを感じたことが今までで一度でもあっただろうか。
大げさに感じながらさらに食べる。
気持ちの問題かもしれないが、それでも美味すぎる。
そんな俺を狐が欲しそうに見上げてくる。
「おお、お前もほしいのか?」
俺の問いに狐は首をこくんと頷く。
一口サイズにちぎって手のひらに乗せて狐の前に出してやった。
狐もそれをおいしそうに食べていた。
狐にもわけながらあっという間になくなってしまった。
また食べにこようと心に誓ったのは言うまでもない。
ちなみに牛豚という動物の肉を使っているらしい。
さて、マンガ肉を堪能し本来の目的を思い出す。
ギルドを目指し広場を抜けると、やはり大きな建物でギルドはすぐにわかった。
ギルドの中に入ると、ギルドはどこも同じような物らしく酒場がありその奥に受付があるようだ。
そして(ギルドの受付は美人しか雇わないのだろうか?)美人の受付嬢が真ん中に座っている。
今回は買取をしてもらうわけじゃないし、受付でいいのだろうと思いその女性のところへ向かう。
「ハンターギルド・フランブール支部へようこそ。本日はどうされましたか?」
俺はハンターカードを見せ野盗から回収した金品の事をたずねた。
「そうですか、それはありがとうございます。盗賊を退治した際に何か証明する物を回収はしていませんか?」
「いや、必要ないと思ってそれはしていない」
「そうですか。何か確認できる物を持ってきていれば、盗賊退治の報奨金が出るのですが」
「そうなのか、まあそれは別にいい」
「わかりました。では回収した金品を確認させていただきます」
回収した金品をストレージから全部取り出した。
もちろんアイテムバッグから取り出したように見せかけることも忘れない。
「え?こんなにあるんですか?」
「まあ、3回も野盗に襲われたからな。全部回収しておいた」
かなりの量の金品に受付嬢は驚いていたが、それでもテキパキと作業を進めていく。
「持ち主がわかる物は持ち主に返す事になりますが、普通はわからない物の方が多いのでそちらに関してはキョウヤ様の物として処理されます」
「ふーん、そうなのか」
「はい、ただ確認にお時間をいただきますので、早くても明日の引渡しとなりますがよろしいですか?」
「ああ、それで構わない。ちなみに別に金品はいらないから換金してもらうこともできるのか?」
「はい、構いません。こちらで鑑定させていただく事も可能です」
「じゃあ、そうしてもらえると助かる」
「かしこまりました。ではそのように手配をさせていただきます」
「ああ、頼む。じゃあ明日来ればいいんだな?」
「ええ、昼過ぎにはお渡しする事が出来ると思います」
宜しく頼むと挨拶をしてギルドを後にする。
魔物の素材買取と経験値の反映をするのを忘れていたが、明日の受け取りのときでもいいだろう。
夜になるまでもう少し時間がありそうだから、ついでに観光がてら散歩をする事にした。
それなりに大きい街ではあるものの、イシュタールのように王族がいるわけではないらしくお城などは見受けられない。
というのもここを収めているのは領主らしく、王様に任命されて任されているようだ。その領主の家は広さと言う意味でかなり大きい家だった。
この領主の家を中心として街が広がっている為、反対側に行くのは遠回りしないといけないので時間がかかりめんどくさそうなので行くのをやめることにした。
武具も見ておこうと思い覗いてみたのだが、首都であるイシュタールよりもいい物は見当たらなかったので買うことはしなかった。
まだ時間もあるしフラフラしていたら、書籍を扱っている店があったので中に入ってみる。
さまざまなジャンルが置いてあり、気になるものに手をかけていく。
ブリューエンガルドの歴史・魔導書・武具製作・・・
どれも初歩的なものばかりではあるが一応買っておく。
イシュタールで買って置けばよかったと後悔したが、色々やる事があったし仕方ないかと割り切った。
宿に戻ると食事を出せるという事だったので、さすがに食堂に狐を連れて行くわけにはいかないので部屋においてきた。
戸を閉めるときの寂しそうに訴えかける目で見られたのにはさすがに参った。
食事は思っていた以上に美味しく、マンガ肉を食べた後でも残さずに食べる事ができた。
シーザーサラダ、シチュー、パン、ウリボーのステーキ等だ。ただ付け加えると、のような物であり実際には少しだけ違い料理の名前を聞こうと思ったのだが、女将さんは忙しそうで聞くことはできなかった。
ちなみにウリボーと言っても猪の子供の事ではなく猪の種類らしい。
食事を終え部屋に戻ると狐が俺に飛び込んできた。
たった数十分しか離れてないのに可愛いやつだ。
ベッドに座りさっき買っておいた本を取り出した。
ブリューエンガルドの歴史を読む事にする。
その間狐は俺の膝に乗り丸くなっている。
ブリューエンガルド、世界には様々な種族がいる。
人間はしかり魔人、獣人、魚人、天上人、竜人、そして人とのくくりとは別に種として妖精種 (エルフ、ドワーフ、樹妖精等)、ドラゴン等の種族も存在する。
それらの種族はそれぞれ相容れることはできず、お互いの領土を決める事により秩序を保ってきた。
しかし、過去に幾度となく種族間による争いが起こっている。
全ての種族を巻き込んだ大戦が起こっているのは記録に残っているのは過去3度。約50年前と120年前、200年前だ。
それよりも前から起こっている事ではあるのだが、記録には残っていないというだけだ。
その大戦争の際、被害は甚大だったらしく各種族の半分近くが犠牲になってしまっている。
そして種族間大戦以外に、人間と魔族は常に争いが絶える事はなかったようだ。
特に魔族が人間を毛嫌いし、人間を蹂躙し領土を奪うことを目的としている。
どの戦いにおいても人間の領土を多種族に脅かされた為、自分たちを守る為に仕方がなく戦った。
人間は多種族と比べ、身体能力や魔力など突出した物がない。
大戦、そして魔族との戦いにおいて活躍したのが勇者である。
どの戦いにおいても勇者が現れる事によって人間が勝利を収めてきたのだと。
そのため人間の国は勇者召喚に躍起になっている。
そのための犠牲がいくらでようとも。
それだけ勇者の存在がどれほど重要なのであるかということ。
人間の平和を保つ為に・・・
という事が書かれていた。
・・・・・・・
なんだこの本。
人間に都合のいいようにしか書いていないな。
まあ、人間が書いた本だからそれも仕方がないのだろう。
地球にいた時もそうだったが、どうでもいい本を読むと眠くなってくるな。
他の本はまた時間のあるときにでも読むとして、今日はもう寝ることにしよう。
狐を降ろしてベッドに横になりタオルケットらしき物をかけると、狐はその中に入ってきた。
仕方ないので抱きかかえるようにしてモフモフしながら眠る事にした。
(キョウヤお休み~)
(ああ、お休み)
そのまま眠りに落ちていった。
書いていると思っている以上に長くなってしまっています。
今回のに入れようと思っていた部分は次回にいたします。
今回載せた内容も変な所があれば変更するかもしれませんのでご了承ください。




