プロローグ
雲ひとつない晴天。
休憩がてら、日向を避けて大きな木に背をもたれさせながら少年は目を閉じ寛いでいた。
ぽかぽかした陽気に心地よい風を受け少年は夢見心地でいたのだが、その気配に無理やり起される事になった。
「キョウヤ、起きろ!」
黒髪のショートボブくらいの髪の長さで、整った顔立ちをしている美しい少女(見た目は18歳前後)が、彼・星野響也に声をかけた。
「起きてるぞ・・・」
「向こうで戦いの気配がするぞ」
「ああ、わかってる」
そう、響也の魔力感知に戦闘の反応を捉えていた。
「どうするんだ?」
「はあ・・・」
響也はため息をついた。
正直めんどうだとは思ったのだが、確認しないわけにはいかないだろうと思ったのだ。
「もちろん行くさ」
「それでこそキョウヤさんですよね!」
そう相槌をうったのは、白金のロングヘアーでこれまた誰が見ても美人な少女(こちらも19歳前後)だった。少し普通の人間と違うのは髪の間から長い耳がでていることであった。
「それでこそってなんだよ・・・」
「だってキョウヤさんは、見て見ぬふりはできないですもんね」
「うむ、そこは私も同感だ」
「二人とも俺を買いかぶりすぎだ・・・」
「え~?そんなことはないですよ?」
「私も買いかぶってなどいないぞ?」
金髪の少女と黒髪の少女が交互に応える。
(ふふっ、キョウヤ照れてる~!かわいい~)
(うるさい!)
ふわふわと響也の周りをまとわりつくように漂う少女が頭の中に語りかけてくる。
セミロングくらいの髪の長さに、透き通るような肌、綺麗というよりは可愛らしい感じの少女。背中には3対6枚の翼がある。
「はあ…、まあいい。とにかく行くぞ!」
若干投げやりに響也は言った。そして、響矢の膝を枕にして完全に熟睡している少女を起す。
「ほら起きろ!行くぞ!」
「んん~・・・きょうやぁ~?」
「寝ぼけてんな!置いていくぞ!」
「はっ!ちょ、ちょっと待って!」
少女はあわてて起きた。茶髪のロングヘアーに、少しあどけなさが残るが可愛らしい顔立ちの少女。ただ、頭には獣のような耳がありお尻には九つに分かれた尻尾があった。
そこに今まで木の上から静観していた少女がふわっと降りてきて、だまって響也について行く。銀髪のロングヘアーでこれまた整った顔立ちをした落ち着いた感じの女性だ。やはり人間と違うところがある。背中に生えた純白の羽だった。
「ふははははっ!ここはワシの出番だな!」
身長は約2mくらいの筋肉質で青い長髪の18歳くらいの見た目とは裏腹に、年寄り臭い言葉でその男は言った。
「ばかやろう!お前はおとなしくしてろ!」
「なぜだ!ワシなら直ぐ終わらせれるぞ」
「お前が戦ったら、被害の方が甚大だろうが!」
そう言われて男はいじけた。
「クククククッ。では、ここは私の出番ですね」
「いや、お前もいいから」
執事のような服を着た黒髪で赤い目の男もやる気まんまんであったが、響也に諭された。
そうして、響也は彼女らを促して戦闘の起こっている場所を目指していった。
ここブリューエンガルドは武器や魔法が蔓延る世界。
地球上に存在する場所ではなく、完全な異世界である。
人間同士の争いはもちろんの事、魔族、精霊族、獣人族、天人族、竜人族など多種多様な種族が存在し、お互いを牽制し緊張状態がつづいていた。
そこに終止符を打ち勝利に導こうと、人間側が今まで何度も勇者召還をしようと試みていたのである。
なぜ人間側が召喚を行うのか、それは人間は肉体・魔力において他の種族よりも劣るからである。
だが召喚が必ずしも成功するとは限らず、どちらかというと失敗するリスクの方が高い。
それでも過去には何度か成功例があり、異世界を跨いでくる人間には必ず人を超える能力を保持していると伝わっている。
人間の強さは集団であり個ではない。
集団での戦闘では団結や連携により他の種族を圧倒する事もできるが、個で打開されたときに対抗する事が困難とされてきたのである。
そのため個の強さを求めて勇者召喚に踏み切っている。
これまで成功した時には、勇者として人間側に勝利をもたらせてきたとされている。
しかしこれは表向きに伝わる話である。
そこに響也も召還されることになってしまったのだが・・・