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短編集

僕の言葉が伝わりますか

作者: 枝鳥

 僕たちがこの世界、ナールゥーに来たのは丁度3年前だった。

 前兆も何もなしに、ただ気が付けば港先島高校2年2組の全員が、ナールゥーのセツカ王国の庭園にいたんだ。

 男子18人、女子17人の35人で。


 すぐに騎士の姿をした人たちに囲まれて、その剣を向けられた。

「XXXXXXXXXX!?」

 何だかわからない言葉で責められて、女子の半分は泣いてたし、男子も何人かは泣いていた。

 何とか話しかけて、ここはどこで何が起きたのか聞こうと何人かは努力したんだけど、結局僕らは男子と女子に分けられて牢屋みたいな所に入れられた。

 牢屋も、僕は男子の牢屋しかわからないけれど、5人で一部屋だった。

 そこから、順番に一人ずつ引っ張られてどこかへ連れて行かれて、しばらくしたら帰ってきた。

 僕もそうして呼ばれる順番が回ってきた。

 先に引っ張られて帰ってきた男子が言うには、ずーっとわけがわからない言葉で話しかけられて、どうしたらいいかわからないから見ていたら部屋に帰されたから、何もしない方がいいって話だった。

 何人か帰ってこないのは、もしかしたら殺されたかもしれないって。


 僕は小さめの部屋に入れられた。

 疲れた顔をしたおじさんが、僕に何か話しかけてきた。

 何となく黙っているのが申し訳なくて、僕は思わず

「ごめんなさい、何を言っているのかわからないです」

 って謝った。

 僕が喋ったことにびっくりして、おじさんは更に話しかけてきた。

 僕は自分を指差して言った。

「ユウキ」

 おじさんがキョトンとした顔をする。

 何度か繰り返し名前を言うと、おじさんは理解したのかおじさん自身を指差して

「ショーセ」

 と言った。


 僕が繰り返すと、すぐに色々な物を指差して声に出す。

 それを繰り返すとショーセは笑った。

 僕は、教えてもらった言葉を忘れるのが嫌で、何度もジェスチャーで書く仕草をした。

 何度かするとショーセにも伝わった様で、木を尖らせた物とゴワゴワした紙、それにインクみたいな液体が入った壺を渡された。

 ショーセが教えてくれた言葉をカタカナで書いて、横に平仮名で意味を書く。

 カタカナを指して発音して確認していくと、ショーセにも僕が何をしているのか意味がわかったらしい。

 カタカナの隣に文字を書いてくれた。


 僕は牢屋じゃなく、小さな部屋に移動させられた。


 それから3ヶ月。

 必死になって勉強したからか、カタコトなら喋れるし、早口じゃなければ何となく意味が伝わるようになった。

 英語もこんだけ必死になれば話せるようになったのかな。

 これだけかかってわかったことは、ナールゥーというのがこの世界の名前で、ここはセツカ王国。その王宮の庭園に、急に見た目もこの世界の人と違う集団が現れたから、ショーセ達も驚いたらしい。

 取調べをしようにも、庭園では確かに何かを話していた様子なのに、一人ずつ呼んだらみんな黙ってしまう。

 パニックを起こした人を医務室に連れて行ったら、ますますみんな泣きも笑いもせずに黙ってしまって困っていたらしい。

 そこで僕が喋ったから驚いて、そうこうしているうちに少しずつコミュニケーションが取れ出したから、ショーセも必死になって言葉を教えてくれたって。

 僕は今、クラスメイトに言葉を教えている。

 ショーセも、僕に言葉を教えたから少し日本語がわかるので一緒に教えている。

 たまにショーセの日本語がおかしくて、みんなが大笑いしたりもするけど、基本的にはみんな必死に言葉を覚えてる。



 6ヶ月たった。

 もうみんな、ほとんどがナールゥーの言葉に慣れた。

 でも、慣れたせいで何人かはいなくなってしまった。

 ナールゥーはいわゆる剣と魔法の世界ってやつだった。

 僕らにも魔法の適性があって、冒険者になりたいって、こんなところに閉じ込められて生きるのは嫌だってショーセに訴えて、3ヶ月分のお金を貰って飛び出してしまった。


 ううん。正直に言うと、何人かじゃなくって殆どだ。

 僕以外の男子は、全員。

 女子も残ったのは6人だけだった。

 残った6人は、多分、もうすぐ出て行く。

 街に住んで、料理屋をやるって言ってお店と一ヶ月分の資金を出してもらうみたいだ。

 美味しいものをこの世界に広めるって張り切ってる。



 本当は、みんなが出て行った理由もあるんだ。

 言葉に慣れて、みんな部屋をもらえたんだけど、1人が貴族の前を横切って斬られて死んじゃった。それに文句を言ったもう1人も斬られて、しばらくは生きてたけど死んじゃった。

 それで、斬られた子と仲が良かった1人が自殺した。

 みんな泣いたけど、ここにはここのルールがあるから仕方のないことだってみんなわかってた。

 ここは特に王宮の一角だから、ものすごくルールに厳しい。

 貴族に逆らって斬られても、当たり前なんだ。


 だから、みんな出て行くって決めたんだと思う。

 僕は、最初に言葉を覚えてからずっとこの世界についてお城の人に教わっていた。

 この世界は僕が思っていたよりも危険で、お城の中の庭師やお洗濯のおばさんですら、僕らの世界でいう国家公務員みたいなもので、超エリートコースだって。

 僕はショーセに一所懸命お願いして、小間使いとして雇ってもらった。



 3ヶ月たった。

 街に出した女の子達のお店は、うまくいかずに潰れたってショーセが教えてくれた。

 女の子達はお城まで助けてって来たけど追い返されて、借金の返済に奴隷になったって。

 僕は何も言わずに黙ってた。

 女の子達のお店がうまくいかなかった理由は、塩辛過ぎたんだと思う。

 彼女達は、自分達の美味しいが、ここでも美味しいって思い込んでたから。

 塩は貴重だから、ここの人たちはとても大切に扱う。

 出してもらう料理に味がないって文句ばかり言ってたから、そう言ったけど聞いてもらえなかった。

 多分、彼女達が気に入ったスープを飲んで美味しいって日本語で騒いでいた時に食堂のおばちゃんが言った、香辛料がふんだんで贅沢なスープ、贅沢なスープが好きって言葉で勘違いをしたんだと思う。

 だから、彼女達のスープを飲んだ人たちは、マズイってはっきり言えない時に、贅沢な味だって言ったんだと思う。



 6ヶ月過ぎた頃、冒険者になったはずのクラスメイトが王宮の門の所で騒いでた。

 叫んでいるうちに、兵士達に連れ去られて行った。

 多分、もうすぐ戦争があるからだ。

 この世界の冒険者には、所属している国の戦争に出る義務がある。だから、定住しなくても税金を納めなくても許されてる。

 言葉を覚える時に、普段魔物を狩ってそれを売って暮らす人を何て言うのか聞いて、それを聞いたクラスメイトが冒険者もあるのかって叫んだから冒険者って言ってるけど、あの頃よりもっと言葉に詳しくなった今ならわかる。

 冒険者じゃなくて、自由兵士だ。


 僕は話せば話すほど、ちゃんと言葉が伝わっているのか、今も不安でたまらない。

 ショーセの教えようとしている言葉が、僕の予想する意味なのか確信が持てない。



 僕の言葉が伝わりますか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 怖くて面白かったです。
[一言] ホラー風味ですね。ゾッとしました
[一言] 転移物を現実的描写でやるとここまで怖くなるのかと感心しました。 人権とかって近代的な概念ですからね。
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