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最寄の駅は歩いて10分程の街中にある。
俺達の家は街と住宅街の、丁度境目。
二人並んで駅を目指した。
駅に着くと、俺達と同じく大き目の荷物を持った人達が並んでいる。
丁度帰省ラッシュだからな。
あの観光列車に乗り換えるまでは、結構混んでいるかもしれない。
乗り換える駅までの切符を買って、俺達は改札口を抜けると駅のホームで電車を待つことにした。
しばらくして電車がやってくる。
案の定電車内は混んでいて、乗車率150%といった感じだ。
「わー、すごい人…」
「この時期だからなー」
乗り換えるまでの辛抱だと思い、人で溢れ返った電車内に乗り込んだ。
中はクーラーが効いているはずなのに、この熱気はどういうことだ…。
後から後から人が入ってきて、俺と美紅はぎゅうぎゅう詰めにされていた。
さっきから美紅の胸が俺の腹のあたりに押し付けられている。
…痴漢の気持ちが少しだけわかった。
乗り換えの駅は1時間程で着いた。
その頃には電車内も大分空いていたように見える。
俺達は冷え冷えの電車内から熱気に溢れている駅のホームに躍り出た。
「うぼあ」
あまりの温度差に変な声が出る。
「何か飲み物買って?」
言いながら美紅は俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
「なんだよ、ジュースごときで色仕掛けか?」
「うん、だってお金持ってきてないもん」
「は!?嘘だろ?」
「本当ー」
この愚妹がー!絶対確信犯だ!
「だから向こうにいる間はよろしくねー」
「マジかよ…でもまあ、あのド田舎じゃそんなに金使うことはないし、別にいいか」
「うん。お祭りの時もお願いね」
ん?お祭り…?
「何だよお祭りって」
「あれ?お兄ちゃん知らないの?」
「知らん」
「お盆祭りがあるっておばあちゃんから聞いたよ」
「お、おい、出店とかないよな?な?」
「あるから楽しみなさいって言ってたー」
キャッキャッとはしゃぎ出す美紅。
とりあえず殴った。
「いったぁーい!何するの!」
「俺はおまえのサイフじゃねえんだよ!」
こいつは祭りになると飲むわ食うわでそれはもう大変だ。
それに田舎のお祭りだから、ここぞとばかりにぼったくるに決まってる…。
「いいじゃん、バイトしてお金持ってるんだから」
「俺が汗水垂らして働いたってところは無視か!」
「うん、無視!」
な、なんて…なんて我が儘で、それでいて自分の非を省みない女に育ってしまったんだ…。
「泣きたい…」
「おーよしよし、元気出して」
頭を撫でられた。
なんかもうどうでもいい…。
「元気出ねえよボケ…」
観光列車の乗車ホームに向かうと、こちらは老年夫婦や家族連れといったカテゴリーの人々が多く見受けられる。
独特の雰囲気で、この電車に乗ると昭和にタイムスリップしてしまうんじゃないかという不思議な感覚に陥る。
っつーか、
「あちーって!いつまで腕絡ませてんだ!」
「嬉しくない?」
「あのな、俺にそんなこと聞いてどうすんだよ」
「んー、どうもしないよ」
じゃあやめればいいのに…。
自販機でジュースを2つ買って、俺達は電車内に乗り込んだ。
全席指定席で、前日に買っておいた切符の番号の席を見つけて腰を下ろす。
俺は美紅にジュースを渡して、自分もタブを開けてそれを喉に流し込んだ。
それから約5分後、電車がゆっくりと動き出す。
次第に窓から見える景色が電車の早さに合わせて流れ出した。