004
「・・・の」
「・・・の・・・し・・・の」
寒くはありません。かと言って熱くはありません。心地よい冷たさです。
「紫乃」
誰かに呼ばれて私は突然パチリと目を覚ましました。
「よかった、起きたね」
「え、あ」
眼前には爽やかな笑みを浮かべる男の子が居ます。しかも目と鼻の先です。
「うわあああっ」
私は吃驚して後退りすると、何処からか落ちて再び悲鳴を上げ、後ろ回りを三回した後に固い何かにぶつかって動きを止めました。
「いった、い・・・」
おもいっきりぶつけた頭と背中が痛くて唸りながら私は立ち上がります。
すると男の子が駆け寄ってきて私の顔を見ながら、とても心配そうに言いました。
「大丈夫?ごめんね、驚かせた?」
「あ、いや」
私は改めてまじまじと男の子の顔を見ることになったのですが、これまた吃驚仰天で目を見開きました。あまり良くないことではありますが、男の子の顔を凝視するなり私はその浮世離れした美しさに恐怖すら覚えました。
透き通るような白い肌に翡翠の如く綺麗な緑をした瞳、何とも眉目秀麗で女の自分より数億倍綺麗で、美しくて、最早、麗しいとも言えるでしょう。
そんな男の子に私は顔を見つめられ、溜まらず恥ずかしくなって、顔を反らし距離をとったところで―――やっと。やっと自我を取り戻し気づきました。
浮世離れしているのは男の子だけではないのだと。
自分も含めて全てが全て浮世離れしていました。
「紫乃?」
私はイサク山とかなんとかという山で家族全員タクシーに乗ったまま転げ落ちた。
その時親と運転手は死に、私は辛うじて平気だったんだけど混乱して錯乱していたせいでよく覚えていないが、走って走って走り続けた。
でもどっかでスッ転んで地面に倒れたら気力も体力も無くて―――最後に目を開けたら変な鳥居を見た。真っ赤の真髄を極めたかのような圧倒的赤だったはず。それが自分の血だったのかはさておき、凄く脳に焼きついている。
それで私は意識を飛ばした。
気づけば此処に居た。
私は死んでいるはずなのです。あの山で今頃倒れていなければならないのです。しかし今はこの謎の世界に立っているではありませんか。
けれども、浮世離れはそれだけではありません。
鮮やかな程に真っ青な空に私は立っていて、驚き、退こうとしますが地面そのものが全体空で踏む度に波紋が広がるだけです。逆に上を見上げれば満点の星空が渦を巻くみたいにあるのです。
辺りを見渡せばオレンジの鈴蘭っぽい形をしたランプがぶら下がって、それが道の奥までずっと続いています。その道というのもまた奇妙で私が居る謎の噴水を中心に四方八方へと細い道があります。その間には隙間無く、また煤で出来たかと思うほど黒い建物が樹立していました。