002
飛行機から降りて病院へ行く為のタクシー乗り場までの道中。
「こんな吹雪だとは思わなかったわ」
「2月だからな、やっぱり東京とは違うな」
両親が話しますがその後ろで私は雪がベチベチと顔に当たるのを嫌がってファー付きのフードを深く被り、ホッカイロを高速で擦っているので聞く耳を持ちません。
兎に角その日は寒くて寒くてたまらなかったのです。手袋をしているにも関わらず指先はどんどん冷えて痛くなるし、鼻頭は馴鹿の様に赤くなっていきます。それと同時に私の帰りたいという気持ちは強くなっていくばかり。
停留所で30分くらい待つとやっとタクシーが来て温かい車内に入ります。
ドアの窓の所に肘をついて私はお母さんから顔を反らし、再びヘッドホンを耳に当てて外の景色を眺めました。と、言ってもやはり吹雪が酷いせいであまり景色は見えませんでしたが。
すると山らへんに入ってガタゴトの坂を上がって、十分程経ったあたりで突然ふっと雪が止みました。
どうやら高い木に囲まれているので雪が遮られているようです。しかし、どうも可笑しくはないか?と私は疑問に思い首を傾げました。何故なら、普通冬は葉が落ちて木は枝となるだけのはず。それにも関わらず、この山の葉は未だ青々しく付いているのですから。
別にその木は針葉樹というわけでもなさそうですし、益々不審です。
私は堪らずお母さんに尋ねました。
「何で冬なのに葉が落ちてないの?」
すると答えたのはタクシーの運転手でした。
「この山はイサク山と呼ばれていてね、対の山とも呼ばれてるんだよ。その名の通り全てが反対といわれてて―――」
運転手の言葉は遮られました。お母さんの悲鳴によって。
甲高い悲鳴が車内ひ響きわたり、何だと思って彼女のいる方を振り向いた瞬間、車は私の方に傾き、挙げ句にはひっくり返って流れてきた大量の土砂に押し流され急な山の斜面を転がり落ちていきました。
突然だったので悲鳴も上げられなかった私は情況を呑み込めないまま、ただ必死に頭を守り時々唸って落ち着くのを待ちます。
本当に晴天の霹靂としか言いようがあいません。
飛行機に乗って都会から田舎の北海道に行ってタクシーで病院へ行こうとしたら山から急転直下。最も悪で最も底辺です。最悪最低としか表現の仕様がありませんが、落ちている私はまさかそんな余裕綽々としてはいるはずもなく、目を瞑ってなるがまま。
暫くしてガタン、ガシャン、と音がして車は止まりました。
でも変わらず車は傾いていて天井は100kgの人間が跳び跳ねたみたいにボコボコと凹んでおり、窓ガラスなど跡形もなく消え去っています。
一体どのくらい落ちたのでしょうか。
そんなこと知るよちも有りませんが潰れた車内でモゾモゾと何かが動きました。
「いた・・・いぃ、ぁああぁあっ血っ血がぁあっ!!!」
叫んで暴れたので声の主は割れた窓から飛び出し、地面を転がります。私は生きていましたが頭から流血し、更に全身を打撲していていました。
そのままパニック状態となった私は過呼吸に陥りゴロゴロと土の上で寝転がり、心を落ち着かせます。
意識を取り戻して我に帰るうちに、そうすると私は情況を理解したのか地面を這って再び壊れた車へ戻るやいなや三人の人間を見つけ、逃げ出しました。