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広大な自然がある私の住む場所は、毎年雪が降り、高く積もっています。
今では少ない若草色の草原があって山も沢山あります。有名な湖では希少な生物、藻葛で作られた毬藻というものが生息するんです。
そして此処はとても寒く、函館みたいに然程、夏が暑くなることもありません。一年中、東京などと比べれば気温が低いです。なのでこの地域で野菜や米を栽培するのは難しい為に酪農をしていまして、私の両親も酪農をしています。
私の住む場所はそのような所です。
しかし別段、最初から其処に住んでいた訳ではありません。引っ越したのです。
あれは私が東京の進学校に入学して舞い上がっていた12歳のこと。未だ誕生日は来ていないので中学生になっても12歳なのですが、そのときにいきなり話は出てきました。
「お父さんのお母さんが病気で危篤状態なの。だから明日には北海道に行くわ、学校は暫くの間だけ向こうの学校に行くことになるの。だから鞄や制服は持って行ってね。今のうちに準備しなさい。良いわね?」
勿論私は机を叩き、立ち上がって言いました。
「良いわけないでしょ!!」
折角良い中学に受かって入学一週間程で違う学校に行かねばならない?一番大切な時期にどうして北海道に行かなきゃいけないのだ。自分だけ地元に残り、お母さんのお母さん、お婆ちゃんに預けてもらうことだって出来るだろうに。
言い争っていると突然、お父さんが扉から入って来て言ったのだ。
「お前、お婆ちゃんにお世話になっただろ。なのによ・・・そんなヤツだとは思わなかった。どっちが大事なのか考えろよ」
空気が一瞬のうちに冷え上がりました。お父さんの言葉は正に窒素で、私は凍らされたみたいに息が出来なくなって茫然自失としました。
確かにお父さんのお母さん、つまり、まぁ、お婆ちゃんなのですが世話になったとは言え私の未来を潰して良いのか。
このとき私は酷く残酷な思いが浮かび上がりました。
未来がある私と、どうせ未来など無いも同じ老人、優先順位があるのではないかと。
幼い時はあんなに大好きだった人が私の未来を潰すことになるとは。
「分かったよ」
こうして無理矢理、都会から離れ北海道に行くことになった私。
つまりは、北海道には行きたくて行ったわけじゃないんです。勝手に連れて行かれたんです。その思いが強過ぎて、ずっと不機嫌だった私は家族三人並んで座った飛行機内でも嫌な雰囲気を纏っていて其処だけ空気が最悪でした。
ずっと耳にはヘッドホンを装着し、親の話しなんてロクに聞いちゃいない。
好きな人が家族の仲さえも壊した―――そう思い、余計に腹が立ったものです。
「紫乃、起きなさい、紫乃!」
ふてくされて寝ているところを、どうやら北海道に着いたようなので起こされ、心のなかにはドロドロとしたマグマが溜まっていきます。
髪の毛もモミクチャでコートを着て、一気に温かいよく暖房の効いた機内から出ると其処は猛吹雪の北海道でした。