厨二病とカツラ
2050年。東京に流星群が夜空一体に降り注いだ。東京と言っても、今、日本は坂東正義のせいで地図さえも変えられて、県の区切が五つしかなく上から北海道地方。東京地方。四国地方。九州地方。沖縄地方の五つ。俺はその五つの地方で一番大きい東京地方の最懐区という区域に住んでいて、東京地方にある4つの高校の一つ地立最懐学園に一年間通って現在二年生となった。
生徒の人数は桁外れで2000人も通っている。こんなに大勢いるのだから一人や二人ぐらいは異能力者が存在するとも思える。いないだろうが。
校舎は、明らかに大きく昔あった東京ドーム並の大きさを誇る。正面からは頂上に大きな校章が伺える。
クラスは1学年17クラス40人で全員と仲良くなろうと考える輩はそういない。クラスの人全員と仲良く成りたいとも俺は思わない。
そもそも俺という人間には友達と呼べる人間が一人としていない。厨二病のせいか、皆俺から離れていく。俺を蔑み、嫌い、拒絶する。
俺という人間はクラスからも、また社会からも見離されている。
ーーーーーーー
「唯一信じられるのはミューンだけだ」
教室の窓際一番前で俺は机に突っ伏してそう呟いていた。春になりたての冷たくも暖かくもないさして温くもないなんとも言えない風が開いている窓から吹きすさぶ。俺の青くサラサラな髪が靡いたように感じられた。このまま風にのって帰りたい気分だ。
俺のクラス2-3組は通常通り五月蝿く平常運転だ。
俺の声はその五月蝿い騒音に飲み込まれたと思いきやすぐ近くにいたビッチとかDQNと呼ばれるどちらかといえば社会不適合者の女子が5人ほど群れて俺の声をキャッチしていた。
「うぇ~。まぁたキョドラーがキンモイこと言ってるよぉ」
「まじありえないんですけど~」
そのビッチ五人は発狂しているのか何やら騒がしい。
何?虎にでもなるの?理性をしっかりと保とうね?
ついでだがキョドラーってのは人と話すときに俺は収支目を泳がせていることからつけられたあだ名だ。
チャイムが鳴ると俺は体を起こし、机の中を漁りなにやら立方体の図形や数字が乱雑に印刷された教科書を取り出す。数学の教師が少し息を切らして教室に入ってくると生徒たちは各々の席にへと座る。
起立し日直が挨拶し、皆が繰り返し席につくと直ぐに授業が開始された。
数学の教師は淡々と黒板に数式を書いていき俺はロボットのように無感情にノートに書き写す。
出された問題も早めに終わらせ、ボーッと開いてる窓から外を見ていた。問題が解けない生徒がいないかクラスを巡回する数学教師をチラチラと俺は垣間見たりもする。
そう言えば、この人カツラか……結構老けがおなのにカツラなんて被ったら普通にばれるでしょ。本人は気づいかれてないと思ってるだろうけど。
あのヅラ、落ちないかなぁ。
ヅラじゃなくてカツラか。
「お前ら!授業中に携帯なんて弄くってるんじゃない!没収だ!」
数学教師は女子の集団五人に対し軽い怒号をあげた。よく見れば怒られてる女子は俺に恐れて発狂して虎になった奴らだ。
「ちょ!マジ触んなよ!くせぇ」
「そうだぁ!弁償しろよぉ!」
数学教師に対して悪びれるもなく虎達は嘲笑する。
困り果てた教師はやはり決まった言葉を発する。当てて見せよう。
お前ら。昼休みに職員室に来い。
「お前ら!昼休みに職員室に来い!」
惜しい。ビックリマークだったか。
数学教師もとっとと携帯なんて没収すれば良いものの何故自分の休憩時間を削ってまで説教したがるのか。あれか?周りの先生に「自分は正しく指導してますよ」アピールでもしてるのか?そんなことより今ここで怒る方が周りの生徒に対しての見せしめになるんだから頭を使うべきだ。数学の教師だ、そのぐらいの計算ぐらい出来るでしょう。頭に血が上りすぎです。
勢いでカツラがとれますよ。
と思った。刹那。強烈な風が吹きすさぶ。その強風はクラス全員の教科書やらノートまでも吹き飛ばし荒ぶる。
そしてもう一つ。驚くべき物体までもがその強風の餌食となっていた。
言うまでもなく。カツラだった。
ポロリだ~~!
生徒唖然。
先生愕然。
俺呆然。
空気がはりつめた。
俺はクスクスと忍び笑いを浮かべて数学教師を垣間見るとプルプルと何やら震えて顔を赤らめていた。
地面に転がったカツラを取り颯爽と頭に装着する数学教師を黙って皆は見届ける。
「見た?」
赤面した数学教師は頭部を押さえ可愛いげな声音をあげて虎たちに問う。
中年のおっさんに可愛いげをと使うのも間違っているが。
虎たちは少々照れながら顔を見合わせる。チラチラと数学教師を見るが数学教師は黙ったまま目で答えを促そうとしているのが分かった。さあ。どうでる?
「み、見てない」
おぉぉぉっとぉぉ!ここで虎たちの代表の誰かが切り出す!
目を反らしながら放った言葉は印象がでかい!
「うそ…見たでしょ?」
カウンター!!事実を吐かせようと畳み掛けるぅ!だが二度目の攻撃は効力を弱めかねない!これは虎たちに有効なのか!
「だから見てないってば!あんたのすごくテカテカしてた頭なんて見てないんだから!!」
何故知ってる~!見なければ分からない情報だぞ~!これは強い!
もう後が無いぞ数学教師ぃ!
後が無いのは虎たちか。自滅じゃん!
「何で知ってるの?やっぱり見たんだ…」
これはきつい。もう言い逃れは出来ないぞ。数字教師は涙を浮かべてるぞ。
「ごめん。嘘ついた。でも信じてほしい!不可抗力だってことを!」
自分の膨らみかけている胸の上の服をガシッと掴み訴えかける。
「信じていいの?」
「当然でしょ?私たちの仲なんだから」
生徒と教師の仲ってこと?うまく立場を利用した攻めですな。
「うん。ありがと」
逆転んんんん!!決まりました!虎たちの勝利です!
良い話でしたね。余談だが。これ以来この数学教師と虎たち五人はそれはそれは仲良くなりましたとさ。良かったね。これで昼休みに説教は無いね。
クラス中には拍手が巻き起こり拍手が止まると同時にチャイムがなり無事に数学の時間は終了しました。
まさか思ったことが実現するとは俺マジ預言者。もしかしてこのまま世界の確信まで迫れるんじゃね?迫れません。
その後の授業は通常通り終了し放課後になるとチラホラと帰り支度を始める人が目につく。一部は教室に残り駄弁っている。だが俺には共に帰る相手も駄弁る相手もいないので一人寂しくお家に帰る。別に寂しいとは思っていないな。訂正しよう。一人楽しくお家に帰る。でも楽しくもないな。どうしよう。どうでも良いな。
へっと口元を歪め微笑を浮かべていた俺は他人から見れば気持ち悪い凛だな。何で名前知ってるんだよ。
家に行く前に途中にコンビニへと足を進めた。自動ドアが開くと見知った顔が俺の視界に映る。
愛想がよく笑顔がよく似合った凛とした顔立ちの女の子が会計を済ましていた。彼女はこちらに気づくと長い青い髪を鬱陶しそうに払い歩み寄ってくる。
俺は歩み寄ってくる彼女に何てはなそうか頭のなかで言葉を探る。
だが、考える必要はなかった。何故なら彼女はただ単に俺を通りすぎるだけだった。無視ですか。
兄弟なんてまあそんなものだ。お兄ちゃん好きの妹や、世話焼きの妹などリアルでは存在しない。
二次元にしか存在しないみたいな感じだな。
そう、俺は二次元に憧れている。夢を見て夢を追ってそして夢が敵わなく自分や世界に失望する。失望して、でも願って、やはり叶わない。夢なんて叶わないことの方が多いんだ。
叶わない夢が有れば必ず叶えたい夢が存在する。ならば俺は日々夢を追い続ける。
異能という世界に存在する力に憧れて欲する。叶わないから夢を見て妥協して厨二病へとなった。
俺の厨二病は叶えたい夢を妥協して別の形で実現させた産物だ。だがこれは決して本当に欲しかったものじゃない。偽物だ。
俺はこんな偽物にうんざりしている。だけど、仕方がない。これが現実。夢の叶わない人はほとんどが妥協して別の事に励む。世界にはやりたくないことばかりが溢れている。偽物がありふれている。
偽物があるから本物が存在する。偽物のお陰で世界は動いている。
偽物のお陰と言っても偽物は陰。
つまりは裏。だけどおかしい。世界のほとんどは表面上は偽られているはずだ。人の顔も言葉も性格も全ては人前で変わる偽りの表面。
表が偽物で裏が本物だ。
ならば偽物が表で、本物が裏。
つまりは、俺の妥協した夢は本物ということになる。
え?やだ。自分を論破しちゃった。
だけど今はこの解に満足しよう。そしていつかこの回答に反論しよう。新たな解が導き出された時に。