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怪物騒動

 ジョンを見つけ出すまでは驚くほど速かったが、そこから先は努力の甲斐なく、ほとんど進展がなかった。情報収集を行う中で、森やさらにその向こうから怪物が来ることが多いという話を聞くことはあったが、未だストレッサーの目星が付かないまま、二週間が過ぎて行った。

 ストレッサーはクックーランド・シンドロームの患者を狙う。その外見は患者個人のトラウマや恐怖を反映した姿になる。カレトが王国に来て以来、倒したのはワームという虫竜だけで、他の怪物はまだ一匹たりとも見つけていないし、倒したという報告も受けていない。


『仮に倒していたとしても、それだけじゃ何の意味もないからね』


 カレトの懸念にドアマンはそう答えた。

 ストレッサーは力さえあれば、誰にでも倒すことができる。しかし真に倒すには条件があり、倒すだけでは不十分である。患者の内的な問題が解決されない限り、ストレッサーは何度でも復活し、患者に襲いかかる。


「モーヴは右側が甘い!ソノイ、全て避けようとして隙が出来ている!攻撃を見極める癖を付けろ!」


 すっかり指導官が板に付いたカレトの声が、新兵たちの雄叫びの中にこだました。新兵同士で一対一の打ち合いをさせ、個々の欠点を指摘している最中だった。

 個々人により実力にばらつきがあるものの、カレトの熱心かつ適切な指導により、騎士団の水準は高くなっていた。最近では新兵たちの訓練だけではなく、彼らの上官たちの指導も行うようになっていた。

 見回りながら歩いている途中、ヤーンの姿が目に入ると、カレトの胸中で不甲斐なさが首をもたげた。未だにストレッサーの手がかりが掴めていないことを、誰が責めるというわけでもない。誰にも頼れないまま、心を壊してしまった少年を救う唯一の手段を知りながら、何もしてやれない自分自身が情けなかった。


「今日はこれまでッ!!一同、カレト殿に礼ッ!!」


 マサードの号令が、また一日が終わりに近づいていることを知らせた。燃えるような茜色が頭上を覆い、既に遠くの空には一番星が暗闇を飾っていた。

 恒例となったマサードとの夕飯を終えると、許可を取って城下町に降りることにした。町へ行く際は鎧を脱いで質素な服に着替えてから行くことにしている。騎士の、それも王宮のものとは異なる、目立つ白銀の鎧を纏ったまま城下町に降りた場合に、ワームを退治した騎士だと一目にばれて騒ぎになってしまうのを避けるためだ。

 町へ降りるという話をしたところ、マサードが町で一番賑わっているという酒場に連れて行ってくれると言った。情報収集にはちょうどいいと思い、カレトは提案を受けることにした。


 怪物騒動の直後は、町もいつもより静まっていたというが、今ではもう日暮れの繁華街は活気に満ちていた。日用品店や食料品店の店主たちは早々と店を閉めて、入れ替わるようにして開いた酒場へと駆け込んで行く。ワームのことなど忘れてしまったかのように、皆一様に笑顔だ。


「この酒場が、城下町で一番活気があり、何より酒がうまい店です。さ、入りましょう、カレト殿!」


 マサードの話を聞いたところ、この店にはよく来るようで、酒と料理のことなら何でも聞いてくれと豪語していた。

 夕飯の後だったため、料理はつまむ程度で十分だと思い、何か気の利いたものをとマサードに頼むと、乾燥した豆のようなものが出てきた。黒く丸い豆で、味はピーナッツのようだったが、独特のピリッとした辛味があった。

 二人分の酒がジョッキで出てくると、マサードは「乾杯!!」と言ったかと思うと、あっという間に飲み干して、二杯目を注文していた。カレトは豆をつまみながら、自分のペースでゆっくりと飲んだ。酒場の喧騒を聞きながら、やはりどこの国でもあまりこういった場所の雰囲気は変わらないのだな、とカレトは思った。


「…でですねぇ、やはり最後は根性がモノを言う!!それなのに若い連中ときたら、やれ技術だ、武器が悪いだとまあ責任転嫁を…」


「…ええ、ええ。そうですね…」


 真っ赤な顔で、カレトに向かい若者への文句をこぼすマサードに苦笑しつつ、適当に相槌を打っていた。絡み酒の相手をするのは面倒だな、と思っていた、その時だった。飛び交う数々の言葉の中から、ある一つの言葉が引っ掛かった。


「…地下牢の影男だって?」


 噂をしているのは、どうやら城の衛兵のようだ。なんとなく見覚えのある顔だった。

 カレトは二人の会話がどうにも気になって仕方がないため、滑らかに口を動かすマサードには悪いが、聞き耳を立てて集中した。


「どうもここ最近、そんなのを見たと囚人どもがうるさいらしい。あり得ると思うか?」


「…そういえば、何か月か前に似たような話を聞いたな。…ああ、でもあれはメイドの話だったし違うか…」


「なんだよそれ。どんな話だ?」


「いや、夜中に物音がして目が覚めて、ドアの方を見たら、部屋を誰かが覗き込んでたっていう話。何人か見たらしいけど、もうすっかり聞かないな」


「真夜中の徘徊者様はメイドに飽きて、今度は囚人たちにご挨拶ってか?…もし泥棒か何かだったら、俺たちの責任問題になるかもな」


「とりあえず、被害があったとかは聞いてないけどな。メイド相手だったら、情欲を持て余した新兵あたりが夜這いの品定め…ってこともあるかもしれん」


「城内で事件起こすような命知らずが居るかねぇ?」


「若いっていうのは、ただそれだけで命とりなもんだよ。さっき言ってた囚人たちの方は、何かされたりしたのか?」


「いや、何にも。格子の向こうから覗いてきただけで、そのままどこかに行っちまったらしい。メイドの方はともかく、囚人どもは退屈しのぎに俺らをからかってるのか、煙の吸いすぎで頭をやられちまってるのか、どっちかだろう」


 二人は影男の話題にはすぐに飽きたようで、今度はメイドの誰が可愛いといったものに変わってしまった。

 カレトはヤーンの見た悪夢の話を思い出していた。


「細い蝋燭が照らすだけの真っ暗な部屋で、俺の足は鎖に縛られてるんです。格子の嵌った小さな覗き窓の向こうには、姿はよくわからないけど、黒く大きな体を揺らす化け物が居るんです。それで、そいつが部屋に入ってきて、俺を殺そうとするところで…いつも目が覚めるんです」


 間違いなく、ヤーンはそう言っていた。


『ドアマン、さっきの話、聞いていたか?』


 頭の中に言葉を浮かべてすぐ、ドアマンの返事があった。


『うん、聞いてた。彼らの話が本当だとしたら、かなり怪しいと思う。明日にでもメイドさんに話を聞いてみてよ』


『わかった。…あとはヤーン…いや、ジョンをどうするかだな』


 トットッ、という音が二回。考えごとをしているドアマンが、受話器を指で叩く音だった。


『何かきっかけが欲しいところだけど…。彼が自分に自信を持って、恐怖に立ち向かって行くだけのきっかけがね…』


 まだ二週間という短い付き合いでしかないが、毎日剣を交える中で、カレトはヤーンの強さを知っていた。クックーランドでは、願いの強さが能力に反映されるが、ただ漠然とした願いでは効果が弱い。恐らくジョンは自らの境遇を、愛読するファンタジー小説になぞらえて、強大な怪物に果敢に立ち向かい、最後には打ち勝つ小説の中の騎士のようになりたいと願った。自分を変えたいという切なる思いが、蹲って助けを待つしか出来なかったジョンを、どんな脅威も自らの力で乗り越えて行けるヤーンへと変えたのだ。

 ジョンとヤーンは一見すると別人のように見える。しかし、ジョンの中には憧れていた強い自分”ヤーン”が居て、ヤーンの中には失くした記憶と悪夢に怯える”ジョン”が居る。互いに無意識の領域化で影響を与え合い、今の人格が作られている。問題解決に必要なのは、内側に居る弱いジョンに気づかせて、自覚させた上で恐怖を乗り越えて行けるだけの決意をさせることだ。


『きっかけ、か…』


 何をすれば、ヤーンは恐怖へ立ち向かう勇気が持てるだろうと、カレトは悩んだ。今のままストレッサーと対峙したところで、恐怖がフラッシュバックしてしまい、無残にやられるだけだろう。まずは揺るぎのない自分の強さを自覚させるべきだ。弱さを克服するのは、その後でいい。そうカレトは思った。

 カレトはふと、ジョンが読んでいた小説のことが気になった。


『なあドアマン。ジョンが読んでいたという物語は、どういう内容だったんだ?』 


『僕も読んだことがないから詳しいことはわからないけど、有名なシリーズだからなんとなく聞いたことはあるよ。確かものすごく腕の立つ騎士デュランが、世界中を旅しながら怪物と戦ってゆくっていう、まあ僕らの世界じゃ読み物としてはありふれたお話さ。火を噴くオオトカゲのドラゴンや、人を石に変えてしまう瞳を持つメデューサ、岩石で出来た怪力の巨人ゴーレム…とまあ、こんな感じの怪物と戦うみたい。ほら、君の世界には居ただろう、ドラゴン』


『なるほど。…ならばジョンにとって、怪物退治はきっかけとして十分じゃないか?』


 しばしの沈黙が流れた。


『…いいかもしれない。が、かなりリスキーだね。上手くいけば万々歳だけどさ、万が一にもジョンが死んでしまったら、元も子もないよ?』


『もちろん、そうならないように、私が全力でカバーする。…もし私だけではどうしようもなくなったら、鉄男や…頼るのは癪だが、ダロクならば守り抜けるだろう』


『おや、殊勝な発言。前だったら、意地でも自分一人でやってみせる!って言ってたんじゃない?』


 カレトの口から、フッと笑いがこぼれる。


『…適材適所だ。頼れる奴が居る今なら、みすみす失敗させることはないからな』


『君がそこまで言うなら、やってみるといい。ああでも、無茶はしすぎないように。こっちが代われって言ったら代わってもらうから』


『ああ、約束する』


 それっきり、ドアマンの言葉は聞こえなくなった。またカレトの状況を見守るだけに戻ったようだ。

 頭がようやく周囲の騒ぎを認識し始める。同時に思い出したようにマサードの方を見ると、すっかり酔いが回っている様子だった。一体、もう何杯飲んだのだろうと思うくらいのハイペースで、ジョッキが空になってゆく。


「…やはり黒!男なら黒を選ぶべきだ!…まあ白なんかもね、悪くはないんですが…やはり自分が買うなら馬は黒に限りますよ!!」


 まるで聞いていなかったため、一体何がどうして若者の話から馬の話に変わったのかがわからなかった。もう夜も深まり、何よりもマサードの酔いがひどいため、肩を貸して帰ることにした。王宮までの道中も、しきりにマサードはしゃべり続けていた。


 翌日のことだった。身支度を整え、朝食のため食堂へ向かおうかと思っていたところ、女中が部屋のドアを叩いた。どうやら招集がかかったようで、顧問ではあるもののカレトも呼び出されたようだった。

 案内されて集会場に集まると、普段食堂で顔を合わせる団長格ばかりが集められていた。人ごみの中にマサードを見つけたカレトは、何事かと尋ねた。


「ああ、定期の討伐遠征の志願兵募集ですよ。カレト殿がいらしてからは、初めてになりますな」


 ここに来た直後にカレトが倒したワームのような、国や旅人に被害を与えるような怪物が近隣には生息している。最近は活発な動きを見せており、またいつ襲撃があるかわからないので、生息が確認されている怪物の討伐を事前に行うということだった。怪物の種類によって脅威の度合いはまちまちで、非常に強力な怪物相手では討伐隊の被害も甚大になるが、産業や備蓄、なにより国民に被害を出すわけにはいかないため、定期的に行う必要があるという。

 壇上の男が最近の状況や活発な怪物の名を挙げて行くが、カレトにはどれがどういったものなのか、いまいちピンと来なかった。


「…最後に最悪の情報だ。数日前にティホの村で、アラニアの幼虫が確認された」


 アラニアという言葉を聞いた途端、その場に居る、カレトを除いた全ての者が声を漏らした。一様にざわめいて困惑し、中には血の気が引いたように青ざめてしまう者さえ居た。

 隣のマサードも、普段は見せないような嫌悪と恐怖の入り混じった表情をしていた。カレトは声を潜め、マサードに尋ねた。


「マサード殿、アラニアとは一体…?」


「…そうか、カレト殿はご存じないか。エルドミアの民のみならず、このイーシュトール地方では、その名を聞いた者は、皆、震えあがります。毛むくじゃらの八つ脚で床も壁も区別なく這い回り、あらゆる生き物の骨まで貪り、強靭な糸で獲物を絡め取る。大人三人分ほどもある身の丈でありながら素早く動き、傷付ければ毒の血を大地に浴びせ土地を百年腐らせ、しかも無数の子を産む。唯一の弱点は炎で、毒や巣も焼く以外に駆逐する術はないそうです。あの忌々しい化け物の所為で、今まで二つの都市と多くの村が滅ぼされました。エルドミアも数百年前、増えすぎたアラニアによって半壊し、戦争以上の深手を負ったことがあります。以来、アラニアは見つけ次第刺し違えてでも殺さなければならないようになったのです。…てっきりもう駆逐されたものかと思っていたのですが…」


 真剣に語る口ぶりからして、誇張して言っているわけではなさそうだった。

 その後は、後日個別に志願者を募ること、アラニアに警戒し常に油を携帯すること、警備強化のため衛兵を増やすことなどが告げられ、解散となった。

 アラニア出現の知らせはすぐに王国中に広まり、外出は控えるようにとのお触れがあった。城内の様子もどこか普段より落ち着きがなく、国中に陰りがさしていた。仮にどこか別の場所で暮らすにしても、道中で襲われないとも限らない。逃げ場のない恐怖がじわじわとにじり寄り、不安を肥大化させていった。


 訓練の時間のことだった。新兵たちが集められ、カレトとマサードへの礼が終わった後、マサードが沈痛な面持ちで口を開いた。


「本来であれば、今回の討伐遠征にはお前たちも同行する予定だったが、事情が変わった。知っての通り、アラニアが出現したためだ。代わりと言ってはなんだが、警備を強化することとなり、夜間の王国内警備に交代で当たってもらうこととなった。詳しい時間と担当箇所は、決まり次第通知する」


 新兵の誰もがいつもより深刻な顔をしていた。ただヤーンだけが、燃えるような感情を抑えきれず、瞳から熱意を溢れさせていた。

 しかし訓練はいつも以上に激しく、やり場のない憤りを払拭するかのように行われた。感情を剣に乗せて、言葉の変わりにぶつけ合う時も過ぎて行き、夜が訪れた。

 夜になると、再び集会場に集められた。アラニア討伐には誰を選出するか、という話題だった。


「イーリャはどうだ?あいつは矢の扱いに長けている。援護には持って来いだ」


「いや、もう王の直々の護衛の任に当たることが決まったはずだ。それよりもフレイドなら、剣術の腕が立つぞ」


「お前知らないのか?フレイドはこないだ落馬して、今は怪我で身動き取れなくてベッドの上だ」


 名前が順に挙がって行くが、これという決め手に欠けていた。現状ではアラニアの数も正確な生息場所もわかっていないため、大勢の手練れを派遣して、そのまま全滅するというパターンは避けたいという思惑もあった。なるだけ少人数、それでいて腕が立つ者でないといけない状況だった。

 喧々諤々の話し合いの中、カレトは意を決し、つかつかと壇上へ上がって行った。誰もが議論を止めて、カレトに注目した。


「私が行こう」


 カレトの言葉を聞き、集会場はどよめいた。

 慌ててマサードが駆け寄って来て、カレトに向かって言った。


「お待ちくださいカレト殿!!お気持ちは嬉しいし、あなたの実力は誰もが知るところにある!!ですが、客人をみすみす危険にさらすわけには…」


「もともと私は旅人で、この国の人間ではない。元より居ないものの命が失われたとして、あなた方に損はない。それに、私はもっと高みを目指したいのです。噂に違わぬ怪物ならば、倒すことこそ騎士としての誉れ。もしも敗れて死んだなら、私が弱かったという、ただそれだけのことです。何も気に病む必要はない」


「…本当に、本当に行かれると申されるのですか」


「叶うならば、ぜひにでも。無論、一人でとは申しません。死地を共に歩んでくれる者を募ろうと思っております」


 二人の会話を聞き、壇上の討伐団長が言った。


「カレト殿。あなたがそう申されるならば、私からもお願い申し上げる。同行する人員は、有志の中からカレト殿にお選び頂きたい」


「そのことで、マサード殿にご相談が」


 マサードが意外そうな顔を向け、カレトに答えた。


「私に出来ることであれば、何なりと」


「これは本人が了解したらの話ですが…。ヤーンをお借りしたいと思っております」


 カレトの申し出に、マサードは思わず耳を疑った。


「本気ですか?確かに見込みがあるとは申しましたが、あやつはまだ実戦経験のない新兵ですぞ?」


「無論、それは承知の上です。でもね、私はあいつならば、この戦いに於いても生きて帰れると信じております」


 マサードはしばし黙り込んで考えた。指導官として、どうするのが一番正しいのか。本来ならば、こんなみすみす死なせるような提案は断るべきだ。しかし、カレトにはカレトなりの考えがあることを、短い付き合いながらもマサードは理解していた。

 悩んだ挙句、マサードは答えた。


「…当人が行くと言ったならば、私は何も言いますまい。カレト殿を信頼し、託しましょう」


「…ありがとうございます、マサード殿」


 善は急げとなり、国王の許可を取り付けたカレトは、一時顧問としての仕事に暇を貰い、代わりにアラニア討伐団団長に着任した。

 次のカレトの仕事は、人員の選定だった。最低でもあと二人か三人は欲しいと思い、団長たちに声をかけたところ、騎士団からは弓の名手が一人、仲間に加わった。さらに王宮所属の魔術師が二人同行することとなった。

 そして最後に、カレトはヤーンに声をかけた。するとヤーンは、待ち侘びていたかのように、すぐさま答えた。


「行きます。俺、助けてもらったこの国の人たちに恩返ししたいと思っていたんです。それに…」


「それに?」


 ヤーンはニッと笑いながら、何の臆面もなく答えた。


「カレト様と一緒に戦えることが、正直、たまらなく嬉しいんです!」


 カレトは笑いを返しながら「気を抜くなよ」と注意した。こうして、アラニア討伐団のメンバーは決まった。


 雲の切れ間から太陽が顔を覗かせ、いよいよ明けようとしていた早朝、城門には五人と五頭の馬の影があった。


「どうか御無事で」


 マサードと新兵たち、そしていくらかの団員が、見送りに来ていた。表情は照らす朝日とは対照的に、暗く物憂げだった。


「…行って参ります」


 森へと続く道へ、五つの影が駆けて行く。先頭を行くカレトの白銀の鎧が光を反射し輝いていた。その輝きも、見る間に小さくなり、あっという間に暗い森に覆われて見えなくなってしまった。

 五人の無事と、国中の平和。誰もがただそのことだけを祈り続けていた。


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