剣術指南
結局、カレトの不安は杞憂に終わり、王宮では手厚い歓迎を受けることになった。
怪物退治のその夜、エルドミア国の王は自らの晩餐にカレトを招き、勇猛さを称え感謝の意を告げた。
素性を尋ねられた際、ドアマンと相談し、自らを遍歴の騎士とした上で、今は修行の旅をしていることにした。王宮の護衛軍団長という破格の待遇で誘われたが、例え演技であっても自らの王以外に仕えることはできないカレトは、申し出を断った。ただし、情報収集のためにある程度の立場があった方が動きやすいとドアマンに言われたため、条件付きで王国騎士団の顧問として勤めることになった。
宴を終え、王宮の一室を貸し与えられたカレトは、鎧を脱ぎ椅子に座っていた。来賓用の寝室を飾るのは、シンプルながらも質の高い調度品だった。石造りの壁と、木材と金による装飾は、様式こそ違えどおよその雰囲気はカレトの国と変わらないものだった。見慣れない家具と部屋にも関わらず、あまり違和感を覚えないことが、かえって不思議だった。
『ドアマン、起きてるか?』
少しのラグがあってから、ドアマンの返事があった。
『起きてるよ。まあ今日のことは結果オーライでよかったけど、あんまりその世界のことを知らずに行動するのはよくないかな』
『…申し訳なかった。完全に私の勇み足だった。それでだが、できればこの先のことについて直接話したい。少し鉄男と代わってもらえるか?』
『ちょっと待ってて』
カレトが席を立つ。すぐにドアマンの待つ部屋への入口が開き、鉄男と入れ替わりにカレトは部屋へと消えた。
古風な客間に立つロボットという状況は、余りにも不釣り合いで、実に奇妙な光景だった。
『念のため、変装しといて』
ドアマンに言われて、鉄男は肩にある極小サイズのレンズから光を放つ。たちまち鉄男の全身はカレトの見た目に変わり、どの角度から見ても破綻することのない立体映像で覆われた。空間にリアルタイムでレンダリングされた映像は、体の動きに合わせて変化するため、偽装を見破るのは非常に困難だ。
見たことのない世界は、鉄男にとって非常に興味深かった。とりあえずドアマンからの帰還命令が出るまでは、部屋を物色しようと思う鉄男だった。
◇ ◇ ◇
「ひとまず、お疲れ様」
行く時と変わらず、ドアマンはソファに座っていた。しかし既にえんらとスティングレイはおらず、代わりに朱色の肌を持つ、王冠をかぶった大男が座っていた。朱色の大男は黒い顎鬚を撫でながら、口の端を持ち上げて言った。
「よう。お前、何やら大立ち回りをやらかしたそうじゃないか」
「…ダロク、来ていたのか」
真紅の瞳が意地悪そうに輝き、カレトを見据えていた。この瞳に見つめられるたび、カレトはうんざりとした気分になる。
「僕も最初に慎重にって頼んだんだけどねー」
「見ず知らずの人のため、居ても立っても居られずか…若いねぇ。いや、立派なもんじゃないか。俺も見たかったんだがなぁ、お前の大活躍」
小言とからかいに、沸点の低いカレトは思わず怒りが沸きそうになるが、冷静になって感情を抑え込む。
「…私はこの先の行動指針を話すために来たんだ。私を馬鹿にしに来たなら、とっとと帰ったらどうだ、ダロク」
赤の魔王ダロクは、カレトの答えに「お、堪えた」と茶化し、続けて言った。
「今はどこぞの王国に居るのだろう?ならば現役の王である、俺の知恵を授けてやれるかもしれんぞ?」
「貴様の悪知恵など、一生一切必要ないッ!!それよりも作戦会議だ!」
カレトは見るからに不機嫌そうにして腕を組み、ソファにどかっと乱暴に座った。ドアマンとダロクは笑いつつも、今後の方針について話すことにした。
「カレトを通じて様子は見てたけど、今のところ、おおよそは君が居た世界と変わらないみたいだね。人々の生活スタイルとか、文化的な感じも大きくは変わらなそうだ」
「そうだな、私も同じ意見だ。細かな違いはあれど、あまり極端な違いは感じなかった」
「一応、まだ風習とかタブーとかわからないから、くれぐれも、今度こそは慎重に頼むよ」
「…努力する」
ばつが悪そうにカレトは答えた。続けてダロクが言った。
「それで今回は、ジョンとか言うガキを探すんだろ。何かしら当てはあるのか?」
「カルテによると、ジョンはファンタジー小説、中でも騎士が主役の物語にご執心だったらしい。そしてドアから一番近い国が、今居るここエルドミア王国だ。ドアは多少は場所が変わっても、生み出した本人から極端に離れることはない。ジョンがここで騎士になっている可能性は高いだろうね」
「それで、私は何をすればいい」
「クックーランドでは、患者は自分の望む姿に変質する。と言ってもまあ完璧に理想通りってわけにはいかないけど。ジョンの読んでた本に出てくる騎士は、確か比較的若い年齢だったはずだ。だから二十代半ばから三十代前半くらいの可能性は高いね。それでなおかつ、突然騎士団に入った、そこそこ腕の立つやつだ。あんまりピンポイントで聞き込みしても不思議がられるだろうから、聞くときは適当にぼかして聞いた方がいい。例えば「自分みたいに余所の国から来たやつは?」とか「騎士団の中でも腕の立つやつは誰か?」って感じで、怪しまれないようにね」
ドアマンの答えに「わかった」と頷くカレト。
「ふーむ、今回は俺の出番はなさそうだな。見た限りお前らみたいな連中ばかりのようだし、俺が居たら確実に浮いちまうな」
少しつまらなそうにしながら、テレビに視線を移すダロクだった。テレビには鉄男の視界が映し出されていて、何やら窓の外や調度品を次から次に眺めているようだった。
「あいつの外見変化も便利だが、便利って意味じゃあお前の能力にゃかなわんな、ドアマンよ」
「そりゃどーも。ま、必殺のパワーもなければ、誰よりも速く動けるわけでもない、ましてや魔法も強力な武器も、僕には何にもないからね。ちょっとだけ人様のお役に立つので精いっぱいだ」
特に他人の力を羨む様子もなく、かといって誇らしげに自慢するでもなく、どこか自嘲気味に答えた。
「確かに圧倒するような力はないが、どこでも言葉が通じるというのは、他に代えようのないくらいに助かるな。それに、どこへ行っても変質せずに済むというのも、その力によるものなんだろう?」
「そうみたいだね。ほら、スティングレイなんかはさ、能力の”キネティック・ドライブ”使うときに体が光るけどさ。僕のはそういう目に見える変化がないから、イマイチ実感がないんだよねー。物事を当たり前のようにできるのは便利だけど、僕も光ったりしてみたかったなぁ」
「常に光っていたら、目立って仕方がないだろう…」
カレトの呆れたような答えに対して笑いながら、ドアマンもテレビに視線を向けた。
「カレト、今日はこっちとあっち、どっちの部屋で休む?」
夜の間だけでも鉄男と代わってもらうことも考えたが、万が一正体がばれたら面倒だと思い、王国にある寝室へと戻ることにした。
再びドアが開き、鉄男と入れ替わる際に一言「おやすみ」とドアマンに声をかけられたが、手を挙げて無言で返し、その後はすぐに柔らかいベッドで眠りについた。
◇ ◇ ◇
祖国と変わらぬように、夜の終わりを告げる太陽が昇り、朝が来た。この世界の太陽もどこまでも眩しく、女中が部屋の扉を叩くよりも早くカレトの目を覚ました。
着替えを済ませると、女中に食堂へ連れて行かれた。天井は高く、大きな窓には空と街並みのコントラストが描かれている。およそ二百人ほどが食事をしているが、女中によるとここは王国騎士団の団長・隊長クラスが食事を行う場所らしく、広大な城内には規模の異なる複数の食堂があるという話だ。
食堂の入口に到着したところで、一人の騎士が近づいてきた。もみあげから口、顎まで繋ぎ目なくマロンブラウンの髭が覆う、精悍な中年の男だった。女中は男が来ると深々と頭を下げたので、彼が騎士団の中でも地位の高い人物であることが予想できた。
「やあ、初めまして、客人よ!先日の戦いのお噂は、城下はおろか城内でも皆口々に話すほどです!いやぁ、あなたのような方にご教授いただけるとは、光栄の極みですな!」
精悍な肉体に違わぬ低い声で、男は豪快に笑いながら、節くれ立つ傷の絶えない手でがっしりと握手をした。強い握手をしながらカレトは、自分の騎士団に居た数人の友人を思い出していた。
「おお、自己紹介が遅れましたな、失礼失礼。私、王国騎士団訓練官長のマサードと申します。以後、お見知りおきを!」
「私はカレト。以前はある国で騎士団長を務めていました。今は修行のため、世界を旅しています」
「団長を務めていらしたのですか!これは益々、ご指導いただくのが楽しみになりましたな!」
マサードへの挨拶を終えると女中は去ってゆき、代わりにマサードに連れられて賑わう食堂の窓辺に連れられた。席に着いている多くの騎士は、カレトとマサードを見ながら何か話をしているが、騒がしい食堂内では言葉を聞き取ることができない。窓辺の真ん中に到着するや否や、マサードは喧騒を突き破るほどの大声で「ご静粛にッ!!」と叫んだ。台風の目に入ったかのように、人々の声がピタリと止むと、続けてマサードが大声で言った。
「ここに御座すは、昨日、我が王国を蹂躙せんとしたワームを一撃の下に沈め、数え切れぬほどの民の命をお救いになった英雄カレト・ヴルッフ殿であるッ!!本日より、カレト殿には王国騎士団にて武術をご指導いただくことに相成ったッ!!一同、この光栄を余さず賜り、騎士として更なる飛躍を目指すべく、尽力されたしッ!!」
食堂はおろか、城中に響き渡る勢いだった。マサードの挨拶が終わると同時に、席に着いていた騎士たちが立ち上がり、声と拳を上げて歓迎の意を表した。
『どうやらこの国では、ポッと出の人物であっても、力さえ示せば尊敬されるみたいだね。地位や体面を気にする人々じゃなくてよかったじゃないか』
『…そのようだな。面倒な上下関係に悩まされずに済みそうで、ひとまず安心した』
ドアマンが言うように、血気盛んな騎士団では、それがどのような者であっても、強ければ受け入れられるようだった。逆に言えば、力がなければ受け入れられることがないということも示していた。だが、騎士としてはそれくらいの方が望ましいと思うカレトは、この連中に出来うる限りのことは教えようと思った。同時に、「ジョンを見つける」という本来の目的を忘れないようにしなければ、と気を引き締めるのであった。
好奇の視線を一身に集めながらマサードとの朝食が終わると、早速訓練場へと案内された。
訓練場は王宮の中庭に位置していた。既に多くの兵が訓練をしており、模造刀で打ち合ったり、数十メートル離れた位置にある的目掛けて矢を放ったりしていた。しかし、一見集中しているようにも思えた兵たちであったが、カレトが到着したことに気が付くと、誰が合図するでもなく浮足立って集まってきた。顔ぶれを見る限り、まだ若い新兵のようだった。
「あの、昨日見てました!ぜひ一度、直々にお手合わせをお願いします!!」
「俺、昔からあなたのような騎士に憧れてたんです!!」
「立派な騎士になるべく研鑽を重ねる所存です!!ぜひ、ぜひ私を弟子に!!」
銘々にカレトへの熱烈なラブコールを始めるが、一斉に思い思いの言葉を大声で言うものだから、聞き取ることができなかった。あまりの勢いにカレトは思わずたじろぐが、隣のマサードは顔を赤くして、食堂の時と同じように、どこまでも突き抜けるような怒号を叫んだ。
「誰が手を休めろなどと言った、馬鹿どもがッ!!」
怒号を浴びた新兵たちは蜘蛛の子を散らすようにして逃げてしまい、各々所定の位置に戻って行った。しかしその視線はカレトから外れることはなく、練習をする素振りを見せながらも、ちらちらと横目で見ているのが一目瞭然だった。
「…あー…何と言うか、熱心な若者たちですな」
「大変お見苦しいところをお見せしました。どうも昨日から城中の兵たちが浮足立っておりまして」
この国において自分がどの程度の強さなのかはわからなかったが、彼らの反応を見る限りでは、かなりの位置にあると考えるべきだろう。カレトはそう思うと同時に、慢心で足を掬われないよう、再び気を引き締めた。
「カレト殿には、一度こやつらと剣を交えていただきたいのです。こちらの模造刀と盾をお使いください。その上でクセや改善すべき点を指摘してやってほしいのです」
模造刀は思っていたよりも重量がある木剣だった。長年使い込まれているようで、普段使っている剣とは長さも重さも違うが、すぐに手に馴染んだ。同時に盾も渡されたが、普段使わず勝手がわからないため、模造刀だけを受け取った。
何度か素振りをした後、マサードに「いつでも構いません」とだけ言うと、マサードは再び大声で「傾注!!」と叫ぶと、皆手を止めて集まってきた。
「これから実際に、カレト殿と一戦交えてもらう。我こそはという者があれば手を挙げよ」
場に居た全員が、一斉に「ハイッ!!」と手を挙げた。兵たちの自主性に任せていては、纏まるものも纏まらないだろうと思ったマサードは、適当に目についた一人を指名した。
「まずはザック、貴様だッ!!」
「ウォオッスッ!!やらせていただきます!!」
指名されたザックという青年は、息巻きながら人ごみを抜け、カレトと対峙した。黒に近い茶髪の青年だった。
「始めッ!!」
マサードが、開幕の声を上げた。
兜の中で瞳を光らせるザックは、左手に持った盾を胸の位置に構えながら、右手で剣を構えてジリジリと間合いを詰めてくる。一方でカレトは剣を両手で構え、じっと相手を観察した。
徐々に近寄ってくるザック。明らかにこちらの出方を伺いつつ、何かあればすぐに対応できるよう、防御に重点を置いた態勢だった。
「先に断っておくが、こちらでの戦いの作法は知らぬ。反則や無礼があれば、後で聞く」
そう言い残すと、目にも止まらぬ水流のような動きで、しゃがみ、そのまま一足で間合いへ飛び込んだ。ザックは盾の死角に潜り込んだカレトが、まるで煙の様に消えてしまったような錯覚に陥った。
無防備な右足目掛けて模造刀を振り抜くと、ザックの目に映る世界が反転した。地面に倒れたのを自覚するよりも早く、眼前には木剣の切先が付きつけられており、一体何が起こっているのかを理解できぬままに、第一戦が終わってしまっていた。
「慎重なのは構わない。だが勝機を見出そうとして、守りに入りすぎている。盾を過信するあまり、周囲への意識が薄れているな。もっと全体を見て動いた方がいい」
まるでお話にならない、とばかりにあっという間の戦いを目の当たりにして、周囲は言葉を失っていた。誰よりも早くマサードだけが気を取り直し、「つ…次ッ!!ルウザ!!」と言うと、指名された兵は弾かれたようにカレトの前へと飛び出した。呆けたままのザックは、マサードの言葉を受けて正気に戻った兵によって引きずられてどかされた。
先ほどのザックとは違い、既に女兵士ルウザの額には緊張の汗が浮かび、黒い前髪が肌に張り付いていた。ザックとの一戦を目の当たりにし、臆病風に吹き飛ばされそうになる気持ちを必死に押し留めるように、強く足を地面に着けた。気を抜けば、即座に地面に転がることが、痛いほどに理解できていた。
恐れのあまり、盾を構えたまま詰め寄ろうとしたが、このままではザックの二の舞になることを思い出すと、視界から逃すまいとカレトを注視した。
すると、カレトが動いた。右か、左か。はたまた再び下から来るのか、それとも奇を衒い頭上からか。如何なる方向から来たところで対処できるよう、剣と盾を強く握った。
だがその行動は予想外のものだった。カレトは正面から一気に突っ込むと、反射的にルウザが構えた盾目掛けて飛び蹴りをかました。
「ぐぅ…ぅうッ!!」
剣の一撃を遥かに上回る蹴りを受けた左腕には衝撃が走り、思い切り腰を打ちつけて後ろへと崩れこんだ。急いで立ち上がろうとするが、後ろから首筋に当てられた木剣の温い感触が、ルウザに敗北を知らせた。
「相手の行動を見極めようとしたのは、いい心がけだ。しかし剣を持っている相手だからといって、必ず剣で攻撃してくるとは限らない。その細腕では、今の様に全体重をかけた攻撃を受けるのは難しいだろう。受けるべきか避けるべきか、適切な判断が出来るようにならねば、反撃の機会が回ってくる前に死ぬだけだ」
カレトが伸ばした手につかまりルウザが立ち上がると、ふらふらとした足取りで人だかりへと戻って行った。
「次ッ!!…よし、マケインッ!!」
「はっ…はい!!」
新兵の中では比較的大柄な男が慌てて返事をした。他の連中同様に、最初の戦意はどこへやら、すっかり萎縮しているようだ。それでも必死に自らを奮い立たせ、目を細めてカレトを睨み付けた。燃える視線を一身に受けながらも、涼しい表情のまま、カレトは剣を構えた。
「でぃやぁーーーーーーーぁっ!!」
マケインが剣を掲げると、まるで斧でも扱うかのようにして、カレトの脳天目掛けて振り下ろした。地面を抉るような一撃をひらりと横にかわし、すかさず盾を持つ左側へと回り込み、顔目掛けて木剣を突いた。マケインは避けられないことを察したため、すかさず盾で顔を覆い、攻撃を受け止めようとした。しかし、盾に攻撃が来ることはなかった。来ると思った瞬間、盾ではなく、後頭部をコツコツと軽く木剣でノックされた。
「攻撃の筋はいい、威力も大したものだ。だけど闇雲に剣を振り下ろしても、余計な隙を生むだけだ。それに、そうして視界を覆い隠してしまうと、こうして後ろに回るのも格段に容易になってしまう。今身を持って理解してもらったように、ブラフも重要な戦術の一つだ。予想とは裏切られるものだと肝に銘じておけ」
「あっ…ありがとう、ございましたっ!!」
大柄な体に似合わず、ぺこぺことお辞儀をしながらその場を後にするマケイン。
マサードが次の対戦相手を選ぼうと品定めをし、名前を告げようとした時、カレトはマサードに手を差し出して制止した。
「出来れば次は、この新兵の中で一番の手練れと手合せ願いたい。自らが最も相応しいと思うものは、前へ!」
カレトの提案に、場に居た新兵たちはどよめいた。カレトの強さの前には、誰であっても五十歩百歩の実力しかない。そう思っていたからだ。
だがしかし、そんな中で一人だけ、四角く切り取られた青空へ手を伸ばす者が居た。
「あのっ…!俺、ぜひあなたと戦ってみたいです!」
「…彼は?」
「ヤーンか…。確かにあいつは見込みがあります。よしッ、許可するッ!!」
この国で一番多く見かける、淡い金髪の青年だった。眼には闘志が爛々と灯り、若さゆえの獣のような力強さを燻らせていた。
ヤーンが木剣を構える。カレトも木剣を構える。二人の戦いが今、始まろうとしていた。