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Dropbehind  作者: ziure
第三章 魔法大会編
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第九十八話 感謝

開いてくださりありがとうございます。


誤字脱字あったら報告お願いします。

 芸術の競技が終わったあと、優勝が決まったということで生徒会長である優姉を中心として、第六学園のみで集まってのパーティーが行われた。とは言っても食べ物やら飲み物やらは後夜祭で食べられるので、パーティーってほど大袈裟なものではなく、そういったものは無しで、とにかくみんなでみんなのことを祝福しあったり、みんなで喜びあったりとそんな感じのものだ。

 俺も想像以上に褒められ、終始「ありがとうございます」と言ってた気がする。

 てな感じで盛り上がりもそこそこに、もう少しで行われる後夜祭に向けての準備をするために、解散となった。

 



 そして今。俺とトシはホテルの一室にいた。

 トシは隣のベットに腰をおろしながらそわそわと落ちつきがなく、さっきから何回もちらちらと時計を確認している。

 こいつは早く行きたそうだな……とその姿を羨ましく思いつつ俺はため息を一つ。

 懇親会の時のようにあいさつ回りをするのが正直言って嫌なのだ。再びあれをするかと思うと気が重くて仕方がない。慣れだと言われそれまでだが、あれは本当に疲れる。まぁ、始まる前の時のような腹の探り合いとかはないと思うので、そこあたりはまだ楽かもしれない。そうそうだと信じたい。


「そろそろ行くか……」

「おう!」


 俺がのろのろとベットから腰を上げると、トシはワンテンポ遅れてバッと立ち上がる。

 そのあまりに速い動きに苦笑を浮かべるしかない。

 俺はそのままトシと一緒に部屋の外に出て、後夜祭が行われる会場に足を進めた。

 



 会場となるところの扉を開けると、そこにはすでにたくさんの人がいた。八日間もいたこともあって、制服でどれがどの学園か解るようにはなっていたので、懇親会の時とは違って変な親近感があった。

 それに大会が終わった後というおかげなのか、ピリピリした空気はなく、そういったことも親近感の要因となっているのかもしれない。『昨日の敵は今日の友』的な感じで。まぁまだ終わって一日も経ってないから『今日の敵は今日の友』状態だけど。


「遅いわよ」


 そんな思いを抱きながら、辺りを見回しながら歩き出すとすぐに、後ろの方からそんな場には似合わない冷たい声がかけられた。

 声がかけられた方に顔を向ければ、扉のすぐ横に美佳が立っていて、そのまま俺たちの方に向かって一直線に歩み寄ってくる。


「それじゃあ行くわよ」

「行くって……」

「もちろん、あいさつ回りよ」


 そう言いって、美佳はほほ笑みながら、一切無駄のない動きでガシリと俺の腕を掴んでくる。パーティーに出た時点で逃げることなど諦めてるからわざわざ掴まなくてもいいのに。

 

「ってことでトシくん、哲也借りてくから」

「はい、どうぞ」


 美佳からの言葉にトシは一も二もなく頷く。

 その返事に満足した美佳は、そのまま俺を引っ張るようにして歩きだした。

 というかこれはいろいろと恥ずかしいのでやめてほしい。実際ジロジロと見られてるし。

 

「哲也、連れてきました」

「美佳ちゃんお疲れ~。哲也くん、遅い!」

「すいません」


 生徒会の面々が集まるところに連れて来られると、美月さんから美佳には労いの、俺には咎めの言葉が掛かけられたので、反射的に謝罪を入れる。


「時間に遅れているわけではないので問題はないですが、もう少し早く来るようにしてほしかったですね」

「はい、すいませんでした」


 夏目さんからも咎められたのでこれまた素直に頭を下げる。

 素直に謝ったことが功を奏したのか、これ以上のお咎めはなく、夏目さんも微笑んで「解ってくれればいいです」と返してくれた。


「まさか引っ張る形とはいえ、手を繋ぐとはねぇ。もしかして美佳ちゃん狙ってる?」

「そんなことないです」

「でも強制しなくても哲也くんは来たと思うから、引っ張る必要はなかったと思うけどなー」

「で、でも急いだ方がよかったですし……」

「けどさ――」


 そんな感じで美佳をからかって楽しんでいるのは良いが、みんなにも聞こえてきてるからもう少し声を抑えてほしい。優姉がぴくぴく反応していてちょっと怖いから。


「それじゃ、行きましょうか」


 意外なことに特に首を突っ込むことなく、優姉はみんなに声をかけて身を翻し、先頭を歩き始めた。




――――――――




「つ、疲れた……」


 終わった後の感想はやっぱりこれになるな……

 でも少しだけ慣れが出てきたのか懇親会よりは疲労度は少ない気がする。というよりは、入った時にも思った事でもあるが、ピリピリしたような空気もなければ、会話に腹の探り合いとかもなかったし、結構和やかに会話が進められたからだろう。ちゃんと会話を楽しんでいる感じもあったし。

 好奇的な視線と会話が振られてきたことが疲れた一番の原因になったと思ってる。

 堂々と俺の対人のことを聞いてくる人もいれば、対人の事に関する会話中に聞きたいなーというオーラを出しながらさりげなく視線を送ってくるとか。 

 姉さんからは力を見せつけろと言われたが、どういう風にやっているのかの説明に関しては何も言われなかったので、それらの質問や視線は全部適当に流しておいた。上手くやったかどうかに関しては別だが。


 そんな感じであいさつ回りも終わり解散となったので、見知った顔を探してフラフラしていると、横から声をかけられた。


「お疲れ様」


 声の主は愛美さんだった。

 一瞬あいさつ回りのお疲れなのかとも思ったが、この人は学園の生徒会に入っているわけではないので、大会を通してお疲れ、ということなのだろう。

 

「ありがとうございます。愛美さんもお疲れ様です」

「ああ。ありがとう」


 愛美さんは手に持っていたグラスを口元にもっていき一口飲みこんだ後、思わずたじろぎそうになるほどの眼力で見つめてきた。


「君には感謝しているよ、哲也くん」


 あんな目で見てきて何を言われるかと思ったら、感謝の言葉がその口から飛んできたので、唖然となってしまう。


「どういうことですか? 別に俺は何かしたわけはないはずですが……」

「天狗の鼻を折ってくれただろう?」


 なんとか持ち直して、感謝の意図を尋ねてみると、ニッと笑いながらそんな答えが返ってきた。一瞬何を言ってるか分からなかったが、すぐに大体の意味を理解した。


「うちの弟は見た目の通りの天狗で、なかなかに教育に困ってたのだよ。教えたことは基本的にそつがなくこなすし、何事も上手くやれる。だが気付いた時には、教えたことしかやらなくなっていたし、いつしかサボることも増えてきてたんだよ。成長できるのに成長しないのはもったいないから、どうにかしようとしていたんだ。力尽くで私と勝負してもらって、負かしてやれば、悔しがってやってくれると思ったんだが、年上ということを盾に数年後だったら魔力量も増えて勝てるとか言い訳してきて、結局だめだったんだよ。実際伸び盛りだし言い訳としては成り立ってるだけにたちが悪くてね。もう手詰まりだと諦めかけてた時に――」

「――同い年の俺に負けて鼻を折られたと」

「そういうことさ。それも二回も、ね」


 言葉を引き継い答えると、正解とばかりに愛美さんは強く頷いて見せた。

 てかあんな感じの弟のために頑張る姉さんってすごいな……


「それに君が美佳ちゃんの近くにいたのも大きい」

「……嫉妬心か」

「そういうことだね。君が美佳ちゃんのことをどう思っているか私には分からないが、あいつの目にはそういう風に映っているだろうからね。『あいつに勝って俺の方がふさわしいって証明してやる』って珍しく燃えてた」


 その状態で俺と美佳が一緒にいたのを発見されたら、かなり面倒くさそうだな……


「安心してくれて良いよ。『お前には負けないからな』っていう伝言頼まれたから絡んでくることはないはずだよ」


 今回は明らかに顔に出ていた自覚があるので心を読まれたとは思っていない。

 

「そういうわけで、君には感謝しているよ」

「どうも」


 愛美さんはニッコリした笑顔で再びお礼を言ってきたので、今度は素直にそれを受け取った。さすがに感謝の意を示してくる相手に対して受け取らないのも変だろう。


「それじゃあ、また縁があったら会おう」

 

 それだけ言い残すと、踵を返して愛美さんは去っていった。

 ポツンと一人残された俺は少しの間彼女の背中を追っていた。


「哲也」


 そうしていると、後ろから美佳の声が聞こえてきた。

 振り返れば手を振ってくれる葵や「早く来いよ」と急かしてくるトシなど見知った顔が多く見られた。

 俺は笑ってそっちの方に歩み寄りその輪に混じってこのパーティーを楽しんだ。




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